湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2015年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第29節(2015年9月26日、土曜日)
- レッズに、幸運の女神が微笑んだ!?・・(アントラーズvsレッズ、1-2)
- レビュー
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- ・・もちろん日本に限ったことじゃないけれど、どうも報道は、結果に「合わせて」記事を書く傾向が強いと思う・・でも、それじゃフェアじゃないし、(その国全体の!)サッカーの質だって発展していかないと思うんだ・・
・・そのニュアンスも込めて、敢えて言おう・・この試合では、アントラーズの方が、勝つにふさわしいサッカーをやったというコトをね・・
・・彼らは、とても強いチームだ・・もちろん私は、最後の最後まで全身全霊を尽くして闘ったウチの選手たちを心から誇りに思い、賞賛するけれどネ・・
ミハイロ・ペトロヴィッチが、試合後の記者会見で、そんなニュアンスの内容をコメントしていた。
そう、「内容と結果の相克・・」という普遍的なテーマ。
ミハイロにとっては、内容で凌駕し、チャンスの量と質でも寄せつけなかった、セカンドステージでのサンフレッチェ戦とグランパス戦(両ゲームともにワンチャンスで沈められた!)に対して、まだかなり心残りがあるんだろうね。
まあ確かに、なかには、結果「だけ」を受けて、レッズが展開したサッカーに対するネガティブ論評を強弁したメディアもあったよね。
そりゃ、ミハイロは(もちろん選手たちも!)納得できないでしょ。
でも、まあ、そんな「理不尽なゴシップ記事」もまた、プロビジネスには欠くことのできないプロモーション機能を備えているわけだから・・。
とにかく、「そんな次元の低いコト」に気を取られたり、変に反応するのではなく、クールに、このまま良い仕事を積み重ねていくのがイチバンなんだよ。
そうすれば、必ず、日本サッカーに多大な貢献を為した、優れた(外国人)プロコーチとして歴史に刻み込まれるサ(いや・・もう既に!?)。
あっと・・試合。
冒頭でミハイロが言っていたように、この試合は、前後半の最初の10分間以外、アントラーズがイニシアチブを握ったんだ。
その絶対的なベースは、言うまでもなく、守備。
こちらも優秀なストロングハンドである「アントラーズの石井正忠監督」も、そのコトについて言及していたよね。曰く・・
・・浦和に対しては、引いて守る(リトリートして守備ブロックを組織する!?)のではなく、積極的にボール奪取勝負を仕掛けていくという意識でチームを統一した・・
・・私は、トレーニングのときから、選手たちの意識を、より積極的なモノへと進化させることにチャレンジしているつもりだ・・
・・(その成果として!?)彼らは、自分の基本ポジションとは関係なく、全員が、ボール奪取プロセスでの仕事を積極的に探せるようになっている・・また、そんなプレー姿勢があるからこそ、球際での闘いに「も」負けなくなっていると思う・・
・・そのトレーニングだが・・
・・そこでは、強要するのではなく、考えさせることに(主体的なプレー姿勢に!)重点を置いている・・私は、選手たちがチカラを出し切れていないと指摘しつづけているんだ・・そしていま彼らは、自分たちのチカラを信じ、様々な意味で進化しつづけている・・
フムフム、いいね。
彼らが展開したのは、まさに「意志の闘い」と呼べるような立派なディフェンスだった。
特に、球際での競り合い。
そこでは、50対50のシチュエーションの多くでアントラーズ選手が勝利し、ボールを奪ってしまったんだよ。そのことに、チト驚かされてしまった・・。
またアントラーズは、素早い攻守の切り替えから、瞬間的にチェイス&チェックに入ったり、状況が許せば、もちろん協力プレスもブチかます。
そんなだからレッズは、余裕をもってボールをキープできない。
そのことにも、チト驚かされたわけだけれど、レッズは、そんな「前からの協力プレッシング守備」にビックリさせられ、余裕を失ってしまったのかもしれない。
もちろん・・、相手が(前から)ガンガンとプレッシングを仕掛けてくるのだから、いつものように、素早いダイレクトパス(コンビネーション)で、そんな「前からプレッシング」の輪を「かいくぐって」しまえば、すぐにでもウラの決定的スペースを突いていけるハズだよね。
でも、この試合でアントラーズがブチかました組織ディフェンスは、ものすごく統率が執れていただけじゃなく、最高の意志パワーも備わっていたんだ。プレッシングを外されても、外されても、何重ものカバーリングの輪をベースに襲いかかってくるんだよ。
ことほど左様に、ボール奪取プロセスの量と質だけじゃなく、その後の決定的チャンスの量と質でも、明らかにアントラーズに軍配が挙がっていた。
特に、セットプレーの危険度。まあ、アントラーズの伝統だけれど、セットプレーのたびに、こぼれ球をブッたたかれたり、ヘディングシュートがバーを直撃したりと冷や汗をかかされた。
また彼らは、流れのなかからでも、何度か決定的チャンスを作り出した。
先制ゴールと同じようなクロス攻撃から、後半にも、再び遠藤康が決定的なダイレクトシュートを放ったんだよ。でも、惜しくも右ポストを「かすめて」いった。
もちろんレッズも、押し返す「流れ」のなかで、何度かチャンスを作り出した。
また押し込まれる時間帯では、何度か、効果的なカウンターチャンスも作り出した(後半のズラタンのダイレクトシュート場面はホントに惜しかった!!)。
でも、そんな、レッズが作り出したチャンスの印象が雲散霧消してしまうほど、アントラーズの勢いがすごかったことだけは確かな事実だったというわけさ。
ところが・・
そう、相手GKのミスから、唐突にレッズが決勝ゴールを叩き込んでしまうんだ。
後半27分、興梠慎三が右足を振り抜いたシュートが、アントラーズゴールの天井に突き刺さったんだよ。
さて・・
そう、ここから、レッズの「守備ドラマ」が佳境に入っていくっちゅうわけだ。
そこでのレッズは、ギリギリまで追い詰められた・・と思う。
その最後の時間帯については、「レッズが質実剛健に守り切った・・」というのではなく、「アントラーズが攻めきれなかった(ツキに見放された)・・」という表現の方がフェアなんだろうね。
もちろんレッズにとっては、「逃げ切った」という事実は、様々な意味を内包する「自信」の心理ベースを拡充すること「も」確かなコトだけれど・・サ。
ここでは、細かなグラウンド上の現象については入っていかないけれど、一人の選手の評価だけは、主張させて欲しい。
その選手は、「唐突に」覚醒し、中盤の重心としてブレイクスルーを果たしつつある、青木拓矢。
前節も素晴らしかったけれど、彼には、これまでも(前節コラムで書いたように!)何度も、期待と落胆を繰り返しブチかまされていたから、前節のグッドパフォーマンスにも、まだまだ信頼を置けなかった。
でも・・
そう、この試合での青木拓矢は、前節のグッドパフォーマンスがフロックではなかったことを、如実に証明してくれたんだよ。
この試合で「も」青木拓矢は、アンカーとして、攻守にわたる仕事を「探しまくって」いたんだ。
これまでの青木拓矢は、「パッシブ姿勢」の典型だった。そう、「トンコ・・トンコ・・」っちゅうリズムの、鈍重な動きと、「遅ればせながら・・」のチェイス&チェック・・等など。
でも、前節とこの試合では、攻守にわたって、全力ダッシュのオンパレードだった。
もちろん全力ダッシュは、彼が、自分自身で「達成したいプレー」を、明確に脳裏にイメージしつづけていたからに他ならない。
それが、爆発スタート&全力スプリントを生み出すっちゅうわけだ。
この試合での青木拓矢は、「まず自分が!!」っちゅうプレー姿勢(強い意志!)で、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)を探しまくり、全力スプリントで追いかけまくっていた。
そして、チームメイトに、「次」でボールを奪い返させたり、自分自身でボールを奪い返したり。
そんな「実効プレー」が、次の攻撃プレーに良い影響を与えないはずがないでしょ。
もともと彼は、攻撃のセンス(まあパスセンス!)には、抜群のモノを持っていた。そんな才能「も」、花開いているっちゅうわけだ。
それも、これも、守備でのハードワークがあればこそなんだよ。
この相関関係(機能相関)を、具体的に表現するのは難しい。
簡単にいってしまえば、自信と確信を絶対的なベースにした「自己主張能力の発展」とでも言えるかな。
これまで青木拓矢は、まさに「パッシブの極み」ってな、だらしのない攻守パフォーマンスに終始していた。
そんな彼が、一人の個人事業主としての「意識」に芽生え(!?)、柏木陽介や武藤雄樹、両サイドバックにサイドハーフたちが、攻守わたって積み重ねる(主体的な!)ハードワークの流れに、本当の意味で「乗り」はじめたんだ。
その現象は、感動的でさえあった。
あっと・・
そのパフォーマンスにしても、アントラーズがゲームの流れのイニシアチブを握って攻め込んできたからこそ目立っていた・・という面も否めないわけだけれど・・サ。
でもいまの私は、青木拓矢の「覚醒とブレイクスルー」を信じて疑わないトコロまで来てしまった。
もしこの後、青木拓矢が、「元の無様なパフォーマンス」に沈んでしまうのだったら、そのときは、わたしの「目と感覚」に対する自信も、地に落ちちゃうだろうね。
お願いだから、今回だけは、私の期待を裏切らないでくださいネ。青木拓矢さん・・
あっと・・かなり脱線してしまった。
ということで、このコラムのタイトルは、様々な意味で「レッズに、幸運の女神が微笑んだ・・」とするしかないでしょ。
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ・・という「興行」について。
メディアは、「1.ステージ優勝」なんていうテーマで盛り上がっている。
でも・・ね・・
皆さんもご存じのように、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
以前の「2ステージ制」とは違い、今シーズンからの「それ」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになるはずだからね。
その後のトーナメントは、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうからね。
だから、「J」に関わっているサッカー人は、そして読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむっちゅうわけだ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。そこじゃ、いかに2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
実は、ソフトバンクではじめた「連載」だけれど、事情があって、半年で休止ということになってしまったんですよ。
でも、久しぶりの「ちゃんとした連載」だったから、とてもリキを入れて書いていた。そして、そのプロセスを、とても楽しんでいた。自分の学習機会としても、とても有意義だったしね。
そして思ったんですよ、この「モティベーション機会」を失ってしまうのは、とても残念だな〜・・ってね。
だから、どこかで連載をはじようかな・・と、可能性を探りはじめた。そこでは、いくつか良さそうなハナシもあったし、メルマガでもいいかな・・なんてコトも考えた。
でも・・サ、やっぱり、書くからには、できるかぎり多くの方々に読んでもらいたいわけですよ。でも、可能性がありそうな(メルマガも含めた)連載プラットフォームとしては、やはり私のホームページにかなうモノはなかった。
ということで、どうなるか分からないけれど、とにかく、私のホームページで、新規に、連載をはじめることにしたのです。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書こうかな。もし、うまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れてから立ち上げた新ビジネス」、そして「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、一週間ごとにアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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