湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2016年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第12節(2016年5月14日、土曜日)
- アルビレックスは、ゲームを通してダイナミックに成長していった!・・(レッズvsアルビレックス、0-0)
- レビュー
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- たしかに、ノーゴールの引き分けマッチではあったけれど、色々な「戦術コンテンツとその変遷」が満載の、とても面白いゲームだった。
ということで、テーマは沢山あるけれど・・
まあ、取り敢えず、レッズの立ち上がり(そのサッカー内容)からいきましょうか。
皆さんもご覧になったとおり、そこでのレッズは、いつものように、良いサッカーで、何度もアルビレックス守備のスペースを攻略する「最終勝負の流れ」を演出した。
大きなサイドチェンジ展開でも、一発ロングフィードでも、サイドゾーンからの勝負ドリブルでも、そしてもちろん、「ダイレクト(パス)コンビネーション」でも。
レッズは、前半19分の「PK」シーンまでは、完璧にゲームの主導権を握っていたんだよ。
あっと・・そのPKシーンだけれど・・
それは、武藤雄樹と興梠慎三の「最終勝負イメージ」がピタリとシンクロした最終勝負だった。
横方向へドリブルしていた武藤雄樹が、中央ゾーンで決定的スペースへ抜け出す興梠慎三へ、角度のあるラスト縦パスを通したんだけれど、とにかく美しいイメージシンクロシーンだった。
ことほど左様に、「そこ」までのゲーム内容では、誰もがレッズの勝利を確信していたと思うんだよ。もちろん私も含めて・・ネ。
でも・・
そう、そのPKから、アルビレックスの「ダイナミズム」が徐々にアップしていったんだ。
ここで言うダイナミズムだけれど、その指標は、言わずもがなの「攻守ハードワーク」です。
例えば、レッズのボールホルダー(次のパスレシーバー)への勢いのある寄せ。そして、そのチェイス&チェックアクションに呼応した、サポートの守備アクション(まあ・・協力プレス・・)。
アルビレックス選手たちは、次、その次のボール奪取ポイントを積極的に「考え」、「イメージしながら」、実効アクションを積み重ねていくんだ。
ということで、ここでの「ダイナミズム高揚」の第一義的なバックボーンは、何といっても、選手たちのインテリジェンスと意志の強さということになるわけだ。
このポイントについて、アルビレックスの「ストロングハンド」、吉田達磨監督は、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・
・・我々は、レッズをしっかりと分析した・・そして、やるべきコトの焦点を絞り込みました・・
・・そしてゲーム前には、こんな言葉を、選手たちに投げかけたんですよ・・
・・最初は「ビンタ」を喰らうことを覚悟していなければならない・・でも、そこでアタフタすると、レッズにつけ込まれ、もっと「やられて」しまう・・
・・だから、ピンチに陥ったときにこそ、互いに声を掛け合い、励まし合わなければならない・・全員がしっかりと考え、勇気をもってチャレンジすれば、必ず活路は開ける・・
・・そんな檄だったわけですが、その言葉どおり、徐々に攻め上がれるようになり、選手たちの自信と確信のレベルも高揚していったと思うんです・・
・・ハーフタイムには、自らの感性でしっかりとゲームの流れを読み、積極的なアクションをつづけることを意識させました・・
・・たしかに「読み」が得意ではない選手もいるのですが、それでも、時間の経過とともに、厳しいゲームの中で成長し、しっかりと「考え」られるようになった・・
・・そう、彼らは、ゲームの中で、しっかりと成長したと思うんですよ・・
いいね〜・・、吉田達磨。だから、聞いた。
・・ということは、この試合は、これからの「アルビレックス逆襲」のキッカケになるということですよね?・・
そんな私の質問に、吉田達磨さんは、例によって真摯に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・
・・相手は、レッズという、破壊力のある、とても強いチームです・・
・・だからこそ、チャレンジしていく甲斐がある・・そして実際に選手たちは、積極的に挑戦し、ある程度の成功を体感したと思う・・
・・だからこそ、後半に掛けて、どんどんペースをアップさせられた・・彼らは、どんなにキツイ状況でも、しっかりと足を動かして守備へ戻れていた・・
・・また、互いのコミュニケーションも、よく取れていた・・とにかくこの試合は、様々な視点で、とても良い学習機会になったと思う・・
・・そしてもちろん、この試合内容を、これからの逆襲のキッカケにしなければいけません・・
いいね〜、吉田達磨。
その他にも、局面勝負では劣勢に立たされるだろうから、常にサポートをイメージしなければならない・・とか、サイドゾーンにおける(両チームの)サイドバックバトルでの戦術的な視点とか・・、なかなか示唆に富んだ会見ではありました。
とにかく、そんな吉田達磨さんのコメントに、これからのアルビレックスの逆襲を、具体的にイメージさせられていた筆者だったのでした。
ということで、レッズ。
この試合では、前述したように、アルビレックス守備が、尻上がりに調子を上げてきたことで、上手くダイレクト(パス)コンビネーションが、はまらなかったね。
まあ、ミハイロも言っていたけれど、その背景要因には、ボールがないところでの「全力スプリントの量と質」が高揚していかなかったコトもあったよね。
そう、アルビレックス守備が、主体的に考え、判断しながら、とても忠実に、勇気をもって、強烈な意志をブチかまし続けたっちゅうことだ。
そうそう、レオ・シルバ。何というスーパーボランチなんだ。
ブラジルには、「あのレベルの選手」がゴマンといる・・ということなのか?
恐ろしや、サッカー王国・・ってか〜〜っ!?
あっと、脱線。
そう、コンビネーションが、うまくはまらなかったレッズ・・という視点だった。
そんな、ちょっと「寸詰まり」の展開に陥ってしまった状況だったからこそ、アバウトなアーリークロスとか、ロング&ミドルシュートとか、そんな、相手が予想もしていない「仕掛けの変化」をブチかますべきだったよね。
もちろんレッズは、PKの後も(後半に掛けても!)何度もチャンスの流れは創りだしたよ。でもそこには、いつもの、「アッ・・来るっ!!」ってな手に汗握るエキサイティングな感覚が、十分に充填されなかった。
まあ、今日のゲームについては、優秀なプロコーチ吉田達磨に率いられたアルビレックスが魅せつづけた(特に守備での!)ダイナミックサッカーを賞賛するのがフェアだろうね。
ということで、次のレッズは、超強豪の「FCソウル」とのACL。
私は、攻め上がってくるFCソウルだからこそ、レッズが、よりスムーズに、持てるチカラを120%発揮できると確信しているんですよ。
とにかく、いまから楽しみで仕方ありません。
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。
- 昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。
- 何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。
- まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。
皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。
ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。
だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。
- そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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