湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2016年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第20節(2016年7月13日、水曜日)
- フロンターレ・・厳しい気候条件だからこその「勝負勘」・・レッズ・・「粘りのチャンスメイク」こそが勝者メンタリティーの絶対基盤・・(フロンターレvsアルビレックス、3-2)、(ベガルタvsレッズ、0-1)
- レビュー
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- いや、ホント、とても面白い勝負マッチだった。
立ち上がりの時間帯は、例によって(牛若丸が不在にもかかわらず!?)フロンターレの、人とボールの「動きのリズム」がアルビレックス守備を凌駕し、彼らがイニシアチブを掌握した。
でも・・
そう、徐々にアルビレックスが、攻守にわたる「リスクチャレンジ意志」の充実にともなって押し返していったんだよ。
だからゲームが、お互いに攻め合う(≒積極的にボールを奪い合う!)とてもエキサイティングな勝負マッチへと進化していったというわけだ。
そんななかで、まずアルビレックスが、広くスムーズなダイレクト(パス)コンビネーションから、野津田岳人が、見事な先制ゴールをブチ込む。
でも、その3分後には、笑顔がキュートな(!?)フロンターレの大島僚太が、見事な、ホントに見事なミドルシュートを、アルビレックスゴール右上角にブチ込んじゃう。
そして、ゲームが白熱していったというわけだ。
互いに死力を尽くした仕掛け合い。でも最後は、フロンターレが、エキサイティングな大逆転ドラマを完遂させたっちゅうわけだ。
そこには、もちろん多くの戦術テーマはあるけれど、ここでは、「それ」ではなく、とても厳しかった気候条件という視点でテーマをピックアップしようと思う。
そう、極限の「蒸し暑さ」のなかでのギリギリの闘い。
前述したように、立ち上がりのフロンターレは、例によっての活発な「人とボールの動きのリズム」をベースにゲームの流れを掌握していった。
でも、そんな活発なリズムを維持するには、この気候条件は、あまりにも厳しすぎる。
だから、ワンツー(&スリー&フォー)といった、フロンターレ得意のダイレクト(パス)コンビネーションや、後方からのスペース狙いフリーランニングに代表される、ボールがないところでの動きの量と質が、徐々に減退していくんだよ。
もちろん「イーブンのゲーム展開」になったのには、アルビレックスの攻撃に、とてもクリエイティブな勢いが乗りはじめた・・というバックボーンもあった。
だからフロンターレも、全体的に下がらざるを得なくなり、そこから前へ押し上げていく勢いが、徐々に殺がれていったということだ。
これは、とても微妙なディスカッションだけれど・・
こんな気候条件では、もちろん、互いの「絶対的な運動量」はダウンする。
だからこそ選手たちは、攻守にわたる「勝負所」に対して、鋭い「感性」を、高みで維持しつづけなきゃいけないんだ。
そして「ここぞっ!」の瞬間に、意を決した爆発アクションをブチかます。
こんな気候条件では、そんな、実効ある爆発アクションの量と質が問われるというわけだ。
このゲームでは、フロンターレ左サイドからの、アルビレックスGKの(猫の額ほどの!)眼前スペースへ向けた、グラウンダーの「トラバース・クロス」によって勝負決まった。
同点ゴール、逆転ゴールは、アルビレックス右サイドが完璧に攻略されたことで生まれたんだ(・・というか、アルビレックス右サイドバックが機能していなかった!?)。
このコラムで言いたかったことは、風間八宏さんも示唆していたように、攻守の「勝負所」で、しっかりと、粘り強く、決定的なアクションを起こしつづけた(それに対する意志を高みで維持できていた!?)フロンターレに、勝利の女神が微笑んだ・・というポイントだった。
もちろん、「ストロングハンド」吉田達磨監督に率いられ、とても高質なサッカーを展開するアルビレックスも、最後の最後まで、強烈な「闘う意志」を魅せつづけてはいたけれど・・。
でも、雌雄を分けた究極の勝負所で、一瞬、気が抜けたのかもしれない。
それに対してフロンターレは、「タテのスペース」に忠実に走り込んでタテパスを受けたり、「勝負所のゴール前ゾーン」に、しっかりと入り込んでクロスを狙ったり・・と、勝負勘に、一日の長があったということか。
だから、勝負師(・・そんなプロコーチのイメージも拡充してきている!?)風間八宏にも、心からの拍手をおくりたい。
後半ロスタイムの決勝ゴールシーンだけれど、その決定的なラスト(グラウンダー)クロスを入れたのは、フロンターレ左サイドバックの車屋紳太郎だった。
その直前に、車屋紳太郎に対し、「これで最後だから、もう一度だけオーバーラップしろ・・」と指示したのは、他でもない、「あの」風間八宏。
まさに、実の詰まったホンモノの勝負勘ではあった。
いいね・・
とにかく、美しく勝つことを標榜するチームが、「勝負」にも強くなってくれたら、観ているコチラも、大いにモティベートされるっちゅうわけさ。
この、「美しく勝つ」というテーマについては、新連載「The Core Column」において、レッズをモデルに「こんなコラム」を書いたから、そちらもご参照アレ。
この「コラム」だけれど、レッズを「フロンターレ」に置き換えても、完璧にストーリーの意味が「通る」はずですからね。
またフロンターレについては、同じ連載シリーズで、以前に「こんなコラム」も書いたっけね。そちらも、ご参照アレ。
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さて、ということで、(こちらも!?)粘り強く、「勝利」をもぎとった浦和レッズ。
守備ブロックをしっかりと組織することを優先するベガルタが相手だったにもかかわらず、この試合でのレッズも、しっかりとチャンスを創りだしていた。
たしかに、以前と比べれば、チャンスの流れを創りだす頻度は、そう高くはない。
ベガルタだけじゃなく、対戦相手は、レッズが繰り出す、ダイレクト(パス)コンビネーションを、ビデオなどを使ってしっかりとイメージ描写できるように準備しているはず。
だから、ワンツーも含めて、ボールがないところでの人の動きに対するマーキングが、殊の外タイトになっているんだよ。
それでもレッズの強者たちは、決して諦めることなく、そう、粘り強く、ボールがないところで、しっかりと勝負の動きをつづけるんだ。
そう、ダイレクト(パス)コンビネーションの、ワンツー、2人目や3人目のフリーランナーとして。
そんな目立たないところ(ボールがないところ!)での、粘りのフリーランニングこそが、チャンスメイクの、もっとも効果的な「拠り所」っちゅうわけだ。
だからこそ、数は少ないけれど、前半では、関根貴大、武藤雄樹、興梠慎三が、決定的チャンスシーンの主役を演じたし、ゲームの流れが少しイーブン傾向になった後半でも、李忠成、興梠慎三、柏木陽介が、しっかりとシュートまで行けていた。
最後のシュート決定力というテーマについては、新連載「The Core Column」でかなり前に発表した「このコラム」を参照してください。何か発見があるかもしれませんよ・・。
あっと、決して諦めることのない粘りのチャレンジ。
それこそが、「勝者メンタリティーの絶対的バックボーン・・」という視点もありそうだね。
そして・・
そう、後半ロスタイムの決勝ゴールシーン。
それは、柏木陽介と興梠慎三の、仕掛けコンビネーションへの「勝負イメージ」がピタリとシンクロしたことによって生まれた。
前半にも、一発ロングで武藤雄樹(!?)がシュートまでいったシーンがあったよね。
とにかく、今のレッズは、ダイレクト(パス)コンビネーションだけじゃなく、そんな一発ロングタテパス勝負とか、アーリークロス(放り込み)とか、ドリブルシュートとか、ミドルシュート等など、とにかく仕掛けに「変化」をつけられるようにもなっている。
たしかにチャンスメイクの「頻度」は、少し落ち着き気味にはなっているけれど、それとは別の次元で、そんな仕掛けの変化とか、(ボールがないところでの!)動きによる「粘りのチャンスメイク」が、しっかりと「結果につなげられるバックボーン」になっているというワケだね。
そう言えば、スタジアム観戦したフロンターレについても、サイドからのクロスとかミドルシュート、一発ロングパス等など、より柔軟に仕掛けていく傾向が強くなっているとも感じたっけ。
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。
- 昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。
- 何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。
- まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。
皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。
ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。
だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。
- そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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