湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2016年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第6節(2016年4月10日、日曜日)
- 今日は、「半」連チャン・・(マリノスvsレッズ、0-0)(フロンターレvs鳥栖、1-0)
- レビュー
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- 何から書きはじめようか。
そうそう、横浜での監督会見。
ちゃんと待っていたんだよ、タイムアップ後30分までは・・。でも、ミハイロは、影もカタチもみせなかった。だから、待ちきれなくなって等々力へ向かうことにした。
そしてそれは、大正解だった。何せ、ちゃんと、余裕をもって後半に間に合ったんだからね。
そして、素晴らしいエキサイティングマッチに舌鼓を打てたっちゅうわけさ。
もちろん横浜でのマリノス対レッズ戦が面白くなかったわけじゃない。
でも、やっぱり、互いにダイナミックに仕掛け合う(もちろん第一義的にはボール奪取のことだよ!)ような勝負マッチには、より強く引き込まれるよな。
何せ、横浜でのゲームは、まさにワンサイドゲームってな雰囲気になってしまったわけだから。そう、強い「意志」が感じられない消極プレーに終始したマリノス。
要は、マリノスが、攻撃に人数を割かない等、まったくといっていいほどリスクへチャレンジして行かなかったということ。
それじゃ、前戦の外国人コンビと中村俊輔の「個のチカラ」に頼りきる体たらくサッカーになってしまうのも道理だった。
レッズについては、後から書きます。
その前に、創作意欲の活性化という視点でも、素晴らしくエキサイティングな仕掛け合いになった、フロンターレ対鳥栖戦から書きはじめるのが正解だよね。
まず、マッシモ・フィッカデンティというイタリア人プロコーチから。
彼は、「あの」イタリアサッカーの負のイメージを背負わざるを得ないという厳しい状況からスタートしなきゃいけなかった。
チマタには、「イタリアのリアクションサッカーが・・」なんていうふうに、(当時の!)FC東京や鳥栖に対して偏見をもっている人も多い。
でも実際は、まったく違うと思う。
たしかに本家のイタリア代表チームは、以前のイメージから脱却するのに苦労しているけれど、そんな彼らも、徐々に、アクティブな(リスクチャレンジ豊富な)攻撃的サッカーというポジティブイメージのベクトルに乗りはじめているよね。
それに対してマッシモ・フィッカデンティというイタリア人プロコーチは、最初から、「昔のイタリア」とは一線を画する、積極的な攻撃サッカーを志向していたと思うんだよ。
もちろん守備は基本だけれど、マッシモ自身が言うように、「ボール奪取プロセス」は、チーム全体の連動性こそがキーポイントであり、彼らは、その連動性を絶対的なイメージベースにする(出来るだけ前からの!!)プレッシングを標榜しているんだよ。
だから、次の攻撃についても、推して知るべし・・だよね。
とにかく私は、その事実についても、しっかりと確認させてもらった。
また、私の目には、プレスの輪をかわされた後の「組織的な連動ディフェンス」もまた、とてもインプレッシブに映っていた。
そう、彼らが魅せた組織ディフェンスからは、「イタリアン・テイスト」を感じたんだよ。
ものすごく忠実な、ボールがないところでのディフェンスプレーの量と質。
相手ボールホルダーには、決して無理せずに、落ち着いたウェイティングで対処し、そして「次」の相手フリーランニング(パス&ムーブ等など)を、ピタリとマークしちゃう。
だから、私の目には、フロンターレが、普段のような「人とボールの軽快な動きのリズム」を奏(かな)でられていなかったと映っていたんだ。
まあ、そんなテーマの(私が投げた!)質問に対して、風間八宏さんは、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれたけれど・・サ。曰く・・
・・いや、そんなことはありません・・肝心なトコロでは、しっかりと人とボールは動かせていたと思うんですよ・・だからこそ創り出せた、多くの決定的なチャンスだったと思うわけです・・
・・たしかに、今日はじめて(ベストな!?)メンバーが揃ったことで、少し時間が必要だとは思ったけれど、肝心なトコロでは、しっかりと相手守備ブロックを崩せていたと思うのですよ・・
フムフム・・。まあ、そういうことなんだろうね。ということは、メンバーの組み合わせが「高みで安定する!?」今後は、もっと・・!?
期待が高まるじゃありませんか。
そうそう、期待といったら、鳥栖もまたしかりだよね。
とにかく、彼らがブチかました、立派な、忠実&強烈意志のサッカーは、特筆モノでしたよ。
積極的なボール奪取勝負(協力プレッシング守備)から、素早く相手ゴールへ突っ掛けていくような迫力の仕掛け。
また落ち着いた組み立ての状況では、とてもクレバーに、そして正確に、組織オフェンスのイメージがシンクロしつづける。
たしかに攻撃における最終勝負プロセスの「質」については、やはり、個のチカラに長けるフロンターレに軍配が挙がる。
とはいっても、とてもシンプルに人とボールを動かしながら、クロスやスルーパスを駆使してブチかます最終勝負の仕掛けには、ものすごい迫力があった。
もちろん、前からのプレッシングが「はまったら」、さあ大変。
高い位置でボールを奪い返した次の瞬間には、何人もの選手がオーバーラップするような大迫力のショートカウンターをブチかましちゃう鳥栖なんだよ。
そこには、後ろ髪を引かれるような雰囲気は、微塵も感じない。大したモノだ。
鳥栖も、ホントに良いよ。だからこそ「期待値」が高まりつづけるってわけさ。
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さて、最後に、レッズ。
強いね〜、ホントに。
皆さんも、よくご存じの、日本で活躍するイングランド人ジャーナリスト仲間が、こんな風に、レッズを褒め称えていた。
・・レッズは、本当に良いサッカーで、強くなっていますよね・・この間のACLで魅せたパフォーマンスは格別でした・・そんな強いサッカーが、今日のゲームにも明確に反映されている・・素晴らしい・・
彼と話したのはハーフタイムのことだから、それは、前半のレッズのサッカーを観た後の、素直な感想だったんだろうね。
私も、まさに同感だった。
そして、このレッズの強さについて反芻してみるのですよ。そのバックボーンは、何だ・・ってね。
もちろんそこには、ミハイロ・ペトロヴィッチの哲学が、長い時間をかけて、本当の意味でチームに浸透しているという事実がある。
最も重要なコンセプト。それは、言わずもがなだけれど、攻守リスクチャレンジに対する強烈な「意識と意志」だよ。
個人事業主でもあるプロ選手たちの意識と意志が、ものすごく充実してきているということだ。
だからこそ、その積極的なリスクチャレンジを効果的にバックアップできるだけの、リスクヘッジに対する意識と意志も、大きく成長しているっちゅうわけだ。
何度も書いているように、優れたサッカーの攻撃では、選手たちは、積極的に、様々な意味合いの「バランス」を崩していくモンなんだよ。
そして次の守備では、素早い攻守の切り替えから、相手攻撃を送らせることも含めて、素早く、組織バランスを「再構築」してしまう。
そんな、素早い「対応能力」こそが、本物の「バランス感覚」と呼ばれるべきモノなんだ。でも日本じゃ、チト違うニュアンスで使われているかもしれないけれどね。
とにかく、石橋を叩いても渡らないような(アリバイプレーにご執心の)選手は、決して進化ベクトルに乗れないんだよ。
それは、ディベートの余地のない、確かな事実なんだ。
あっと・・脱線。
とにかく、レッズ進化のバックボーンを、もっとも強く感じるのが、攻守ハードワークの量と質にあるっちゅうわけさ。もちろん、守備がスタートラインだよ、守備が。
そんな強烈な「意識と意志」に支えられているからこそ、真の意味で、美しく勝つための攻守バランスの理想型を追い求められているのかもしれない。
このテーマについては、しつこいけれど、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」をご参照アレ。
繰り返しになるけれど、やっぱり、リスクチャレンジ姿勢こそが、選手たちの意識と意志を、極限まで高めるための(心理・精神的な!)唯一のリソースなんだと思うわけだ。
もちろん多くのプロコーチは、「結果」という壁にブチ当たってめげちゃうんだろうけれど、それでも彼らは、「美しく勝つ」という絶対的コンセプトを諦めちゃいけないんだ。
だからこそ我々サッカー人は、常に、理不尽なプロサッカーという環境メカニズムに対する社会的な理解をプロモート(促進)する努力をつづけているというわけだ。
ドイツサッカー史を彩るスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、常日頃、こんなコトを言っていた。
・・オマエたちは、才能あるプレイヤーにこそ、攻守ハードワークをやらせなきゃいけないんだよ・・だから、才能あるプレイヤーがチームに入ってきたら、それは、オマエたちに対する挑戦状だと思って気を引き締めなきゃいけない・・
いいでしょ。
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最後に、レッズについて、もう一言。
まず、何といっても。3人目、4人目のフリーランニングが満載のダイレクトパス・コンビネーション。
そう、ボールを止めずに「ダイレクト」で回すパスに、3人目、4人目のフリーランナーが効果的に絡みつづけるという、とてもハイレベルな「ダイレクトパス・コンビネーション」。
この、ボールを止めない「ダイレクト」のパスやシュートというテーマについては、新連載「The Core Column」において、「こんな主張」を展開しておいたから、そちらもご参照アレ。
へへっ・・
ということで、ホントに最後の一言。それは・・
これから、強豪と呼ばれるクラブとの対戦がつづくけれど、それこそ、いまのレッズにとって、ものすごく「心地よい心理環境」だと思っている筆者なのですよ。
広州恒大とのACL戦でも、我々に感じさせてくれたように、いまのレッズは、相手が強くなればなるほど、サッカーの質がアップし、より美しく、勝負強くなるんだよ。
何せ・・
相手が強くなればなるほど、より、彼らの「忠実ハードワーク基盤の強さ」が光り輝くからね。そして彼らは、そのことを再体感して、自信をもって、より高みを目指していくっちゅうわけさ。
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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。
- 昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。
- 何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。
- まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。
皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。
まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。
ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。
そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。
だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。
この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。
- そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。
一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。
もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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