湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2017年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第12節(2017年5月20日、土曜日)
- レッズの2点リードからはじまった極限の変容ドラマ・・(レッズvsエスパルス、3-3)
- レビュー
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- ・・60分あたりまでは、うまくコントロールされたサッカーを展開して二点をリードしたけれど・・そこから急に足が止まり気味になってしまった・・
・・あのようなゲーム展開で引き分けてしまったことは、とても残念だ・・
ミハイロが、ホントに無念そうに、そう語っていた。
そう、まさにおっしゃるとおり。
私も、自分の観ているグラウンド上の現象が信じられなかった。いや、ホントに、ある意味で、「これぞサッカー・・!」ってなゲームでもあったわけだ。
ゲームの立ち上がり・・
エスパルスの小林伸二監督も言っていたように、レッズは、立ち上がりから完璧にゲームを牛耳っていた。
小林伸二監督は、「自分たちも、前から行くという強い意志でグラウンドに立ったけれど、実際は、レッズの勢いに呑み込まれてしまった・・」とフェアな本音を吐露していた。
そう、(ミハイロが言っていたように!)後半12分の追加ゴールが決まるまでは、完璧にレッズが、ゲームのイニシアチブを握っていたんだよ。
でも、その追加ゴールのあたりから、徐々にレッズ選手たちの心の奥底に、「イージーな(余裕の)マインド」が芽生えていったということなのかもしれない。
そして、足が止まり気味になっていく。その意味は、もちろん、攻守ハードワークの量と質の「減退」ということだよね。
攻撃では、人とボールの動きのリズムがダウンし(人の動きの減退が誘因!?)、守備では、チェイス&チェックや「必死にマークへ戻る・・」ための意志のダイナミズムが、勢いを失っていくっちゅうわけだ。
実際、追加ゴール直後のエスパルスには、素早いリスタートから、右サイドでフリーだった枝村匠馬にボールがわたり、そこからのダイレクトクロスによってピンチシーンを創られた。
それだけじゃなく、その2分後には、中盤でボールを奪われ、右サイドのチアゴ・アウベスにシュートを打たれた。
最後は、こぼれ球を拾った松原后にフリーシュートを打たれたわけだけれど、その1分後には、ぶ厚いサポートによって数的に優位な状況をつくられ、最後はチョン・テセに、爆弾シュートを打たれてしまった。
もちろん、そんなゲーム展開の「変容」は、エスパルス選手たちが、完全に「フッ切れた」からに他ならない。
彼らの攻守ハードワークが、大幅にアップしたんだよ。
もちろん「それ」は、中盤でのボール奪取デュエルの内実だけじゃなく、ボール奪取後のショートカウンターに参加してくる「選手の数」にも如実に現れてくる。
観ている方々は、繰り返し陥る「数的に不利な状況」に、違和感を覚えたはず。
「あの」強いレッズ守備ブロックが、繰り返し、エスパルスの鋭い仕掛けに振り回されたんだから。
その現象は、ペース(ゲームコントロール)を失いかけている状況では、サイドバックや攻撃的ハーフも含め、いかに中盤プレイヤーの忠実でダイナミックな守備参加が重要なのかという命題を突きつけているとも言える。
あっと・・蛇足。
そして後半19分。コトが起きてしまうんだ。そう、エスパルスの「追いかけゴール」。
それは、チョン・テセの、世界標準の「キャノンシュート」だったけれど、そこに至るまでのプロセスに「も」、ペースを失っているレッズの状態が如実に投影されていた。
このゲームで、素晴らしいハットトリックを完遂した興梠慎三だったけれど、このチョン・テセの「追いかけゴール」の場面は、彼の不用意なパスと、ボールロストが、そのキッカケになった。
また、追い打ちをかけるように、エスパルス中盤のパスをカットしようと上がった遠藤航が、チアゴ・アウベスの上手いトラップで置き去りにされちゃうんだ。
これでレッズ守備は、完全に、数的に不利な状態に落ち込んだ。
ドリブルで持ち上がるチアゴ・アウベス。
もちろん宇賀神友弥が対応しようとする。
でも、その背後では、チョン・テセが、タテのスペースへ走り抜けていたっちゅうわけだ。
そしてパスを受け、槙野智章と駒井善成のチェックをかいくぐるように、左足でのキャノンシュートを決めたっちゅうわけだ。
その後も、素早いフリーキックから「フリー」でパスを受けたチアゴ・アウベスが、その左にポジショニングしたミッチェル・デュークにラストパスを回し、そのダイレクトシュートがポストに当たって跳ね返ったところを、これまたチョン・テセが、同点ゴールをブチ込んだ。
それだけじゃなく、その2分後には、シンプルにタテへつないだパス受けた(フリーの!)チアゴ・アウベスが、これまた「世界標準」のミドルシュートを、ゴール左上角に決めた。
これで、信じられない大逆転。
でも、もちろんレッズも、そこから再び(急速に!?)ペースアップし、同点ゴールをブチ込むんだ。
「動き」が出てきたことで再び機能しはじめた関根貴大と興梠慎三によるダイレクトパス・コンビネーションによる、スーパーな同点ゴール。
私は、真夏日という厳しい気候条件の中でも(逆転を喰らった落胆と極限の疲労に打ち勝って!?)、ペースアップし、そして同点ゴールまでブチ込んだことは、ものすごく貴重なポジティブ体感(収穫)だと思っていた。
そう、脅威と機会は表裏一体・・
そういえば・・
その後のロスタイムには、コーナーキックから、エスパルスが勝ち越しゴールを奪いそうになったけれど、そこは、西川周作のファインセーブで事なきを得たっけ。
さて〜・・
とにかく、ミハイロも言っていたように、このゲームは、レッズが追加ゴールを決める「まで」と、その後の展開では、まったくの「別ものマッチ」になってしまったんだ。
そんな、めくるめく歓喜と奈落の失望が交錯する、まさにサッカー的なドラマにつながった(私が考える!?)大きな三つの要因は・・
・・急に「真夏日」になった真っ昼間のデイゲームということで、レッズは、プレー(サッカー)のペースをうまくコントロール出来なかった(!?)・・
・・もちろん、そこには、完璧なゲーム運びで二点のリードまでも奪ったレッズの「気の緩み」があったかもしれない(それが、勢いを倍増させたエスパルスに対する守備に、十分に戻り切れないという現象につながった!?)・・
・・そして、二つのゴールをブチ込まれたことで完璧に「フッ切れた」エスパルスが、戦術サッカーから解放サッカーへと大きく変容したという心理的バックボーン因子もある・・
もちろん、理不尽なサッカーとはいえ、「二点リード」の時点で、守備ブロックをしっかりと再構築することで、勢いを増したエスパルス攻撃の芽を「組み立て
段階」から摘み取ってしまうような、臨機応変で効果的な「落ち着いた守備イメージ」をチームに徹底させられなかった・・という反省点もあるよね。
前からのアグレッシブな守備「だけ」じゃなく、一度、ディフェンスブロックに戻って「落ち着き」、それをベースにゲームをコントロールしようという「ゲーム展開のイメチェン」だよね。
そう、だからこそ必要な創造的なリーダーシップ・・ってなテーマもありそうだね。
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。
一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。
もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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