湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2017年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第22節(2017年8月13日、日曜日)
- やっぱり「このサッカー」が日本の主流にならなきゃダメだよ!!・・(フロンターレvsアントラーズ、3-1)
- レビュー
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- ・・相手の良さを出させてしまった(抑え切れなかった)・・
それは、アントラーズ大岩剛監督の会見コメントで、もっとも重要なバートではありました。
そう、どちらかといったら、カウンター主体のリアクションサッカーが、アントラーズが志向するチーム戦術ということだから・・サ。
それが、彼らの勝負強さのバックボーンであり、だからこそ、「相手の良さを消す」とい表現がゲーム戦術イメージの前面に押し出てくるというわけだ。
でもね・・
「徹底して勝つことだけを志向する忍耐サッカー・・」というチーム戦術が、日本サッカーの発展にとって、どちらかといったらネガティブに作用することは、皆さんもアグリーされるでしょ。
別な表現をすれば、「誰も、そんなサッカーを目標にはしない・・」ということだね。
目標にされないサッカーが、その国のトップリーグのチャンピオンであることは、特にユース世代の選手にとって、良いことじゃない。
わたしは、1970年代から、ヨーロッパ各国のプロコーチ連中と、美しさ(組織と個が高みでバランスするリスクチャレンジ豊富な攻撃サッカー)と、勝負強さ(勝ち点だけを追い求める守備重視カウンターサッカー)の相克というテーマでディベートを重ねてきた。
そんなディスカッションは、本当に、フットボールネーションでは、常に、至るところで、活発に行われていたんだ。
そんなプロセスがあったからこそ、今の世界トップサッカーの主流が、「美しく勝つサッカー」で収斂されるようになったんだよ。
もちろん、たまには、そんな進化&深化トレンドに逆行するようなリアクションサッカーが勝利を収めるようなコトだって起きるさ。
でも、サッカー界全体の志向マインドをリードするのは、あくまでも、リスクチャレンジ豊富な攻撃的サッカーで「美しく」頂点に立つチームなんだ。
わたしは、フットボールネーションにおける発展プロセスで、「美しさ」が先行できるようになるまでの紆余曲折を体感したと思っているんだよ。
「あの」フィジカルだけのパワー(ロボット)サッカーと揶揄されたドイツにおいても・・ネ。
要は、私のドイツ留学で学習したコトの骨子は、「反面教師」っちゅう性格も、多分に帯びていたというわけだね。
このテーマについては、「The Core Column」で、かなり前に発表した「このコラム」も参照してください。
でもネ・・
・・オマエさ〜・・そんなきれい事ばかり言ったって、負けたら誰も評価してくれないし、オマエ、クビなんだぜ・・
それが、「逆行サッカー」を指揮していた、ドイツのプロコーチ仲間の代表的アーギュメントというわけだ。
でも・・
そう、美しさと「勝負命」という、互いに逆行するチーム戦術ベクトルが激突するなかで、徐々に、勇気をもってチャレンジし、美しく勝とうとしたクラブに対する評価がアップしていったんだよ。
前述したコラムでは、その経緯についても、ある程度は触れているけれど、とにかく、美しく勝とうとするベクトルの重要性が、より深く認識されるようになっていったということが言いたかった。
そして、そのサッカー内容(勇気!?)が評価され、たとえ負けたとしても、「内容こそが価値の本質・・」という風潮が確立していったっちゅうわけだ。
あっとゲーム・・
とても高質な人とボールの「動きのリズム」をベースに、ゲームのイニシアチブを握りながら美しく勝とうとするフロンターレ。前半から、ゲームを支配しつづけた。
対するアントラーズは、守備ブロックを整備し、フロンターレがタテへ仕掛けてくるのを(ボール奪取チャンスを!)虎視眈々と狙いつづける。
その、アントラーズの忍耐強さが、特筆に値するモノであるコトだけは確かな事実だ。
そして・・
そう、前半の39分。その忍耐が、報われそうになるんだよ。
まさに必殺のカウンター。
ボールを奪ったレオ・シルバから、金崎夢生へ。そして、ドリブルする金崎夢生を追い越していくレアンドロやレオ・シルバ。
それは、誰もが、「あっ・・アントラーズの先制ゴールだ・・」と確信した瞬間だった。
でも、その、ものすごい勢いのカウンターは、フロンターレ守備陣の必死のタックルで、最後の瞬間にブロックされた。
私は、この一連の(両チームによる)フルスプリントの攻防の内実に舌鼓を打っていた。
アントラーズがブチかました必殺カウンターの素晴らしさ。
彼らは、ボールを奪い返せると確信したヤツらが、(ボール奪取前のタイミングも含めて!!)フルスプリントでスペースへ抜け出していくんだ。
それに対する、フロンターレの、素早い攻守の切り替えからのフルスプリントでの「戻り」と、最後の瞬間での必殺タックル。それも、「ダブル」で・・
鳥肌が立った。
素晴らしい・・、本当に素晴らしい攻防だった。
でも私は・・
そのシーンを観ながら、チャンスの流れは創りだすけれど、うまくシュートまでいけないフロンターレという事実を再認識させられ、チト暗〜い気持ちにさせられたモノさ。
そう、最後は、一敗地にまみれるフロンターレが、一瞬アタマをよぎったんだよ。
・・こんなに素晴らしいサッカーを展開しているのに・・これじゃ、日本サッカーも、お先真っ暗じゃありませんか・・
昨シーズンの、金儲けだけの「でっち上げチャンピオンシップ」のときのように・・ネ。へへっ・・
ところで・・
私は、いまの上位クラブでは、フロンターレ、レイソル、ガンバ、そしてレッズが、「美しく勝つチャレンジングサッカー」を前面に押し出していると思っている。
そう、人とボールが動きつづける、人数を掛けたリスクチャレンジ豊富な組織コンビネーションと、そこにスムーズに組み込まれる勇気あふれるドリブル勝負が、美しくコラボする高質サッカー。
でも、リーグのトップ2チームは、アントラーズとセレッソだからね・・
あっと、ゲーム・・
前半39分の、アントラーズ必殺カウンターシーンでは、そんな風に、チト暗い気持ちにさせられていたんだけれど、それが、前半ロスタイムの先制ゴールと後半早々の追加ゴールで、急に晴れわたったっちゅうわけだ。
これでフロンターレが「2-0」のリード。
そして、日本が誇る大天才、家長昭博が、様々な意味を内包する「ブレイクスルー」を象徴するような(まさに天才的な!)ドリブルシュートを決めちゃうんだよ。
それで勝負は(フロンターレの守備の出来からすれば!?)決まった!?
・・と、安易に考えた私だったけれど・・(そのことについては後述)
とにかく・・
ゲームの内容と結果が、ロジカルに一致したことで、またリスクチャレンジ豊富な美しいサッカーを前面に押し出す「鬼木フロンターレ」が、着実に進化していることで、あまりにもハッピーに浮かれている筆者だったのであ〜る。
ということで、最後に、二つだけポジティブなテーマを・・
一つは、言わずもがなの、家長昭博。
今日の彼は、「フロンターレの動きのリズム」に、とても素敵に「乗れて」いた。
もちろん基本は、ダイレクトパスを織り交ぜるハイレベル組織コンビネーション。
彼は、その流れに、しっかりと乗れていたからこそ、3点目のドリブル勝負や、前半のドリブル突破に象徴されるような、天才的な個人プレーも光り輝やかせることが出来た・・っちゅうわけだ。
もちろん、攻守ハードワークという視点では、まだまだ足りないトコロも多い。
でも、今日のプレー内容を観れば、「発展をつづける今のフロンターレ」にとっての完璧な戦力として仲間からも信頼され、頼りにされる存在になること請け合いだね。
よかった・・
また、アントラーズについても、一つだけ(これが後述テーマ)・・
彼らが、最後の20分間で魅せつづけた、自分たち主体の「攻撃サッカー」は、ホントに素晴らしかった・・というポイント。
何度も、決定的なチャンスを創りだしただけじゃなく、ニアポスト勝負で、鈴木優磨が「追いかけゴール」をブチ込んだ。
要は、アントラーズが秘める「真のチーム力」は、まさにリーグトップクラスだということが言いたいわけさ。
だからこそ、リアクションサッカーなんかじゃなく、しっかりと自分たちでイニシアチブを握るような、リスクチャレンジあふれる(攻守にわたる!)攻撃サッカーを展開して欲しいんだよ。
えっ!? アントラーズの伝統!?
何いってんだよ。
「あの」イタリアだって、世界の主流になっている積極サッカートレンドに、追い付き追い越せ・・ってな感じで、どんどん(人数を掛けた)攻撃サッカーへ方向転換を図っているでしょ。
とにかく、攻守にわたって、できるだけ多く、数的に優位な状況を作り出すことこそが、攻守イメージングの目標でなけりゃ、いけないのサ。
嬉しすぎて、チト、書きなぐり過ぎてしまった筆者でした。へへっ・・
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最後に「告知」です。
どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。
一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」。
- そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」。
自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。
ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。
もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。
- まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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