湯浅健二の「J」ワンポイント


2017年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2017年4月7日、金曜日)

 

レッズは、失敗にめげなくなっている・・だからこそサッカーの質が、高みへ一直線なのだ・・(レッズvsベガルタ、7-0)

 

レビュー
 
レッズが、例によって、攻守にわたる素晴らしい組織サッカーで(臨機応変の個のドリブル勝負も!)、完勝を収めたことについては、改めてコメントする必要なんかないでしょ。

でも、ゲームの実質的な内容には、とても興味深い「揺動」もあったんだよ。

まず・・

そう、優秀なプロコーチ、渡邉晋が率いるベガルタが、レッズの危険な仕掛けを受け止めながら、効果的なカウンターを繰り出していった立ち上がりの(先制ゴールが入るまでの!)時間帯。

そこでのベガルタは、ゲーム戦術にのっとった、とても効果的なプレーを展開していたんだ。

自我の抑制が、ほどよく効いた、効果的な戦術プレーに徹するベガルタ・・ってな感じ!?

まあ、とはいっても、近頃のレッズは、そんな、カチッと決まった戦術(組織)サッカーに対しても、ダイレクトパスを織り交ぜた組織コンビネーションで、守備ブロックの穴(スペース)を、「より」効果的に突いていくんだよ(守備ブロックを攻略できてていた!)。

もしかしたら、このポイントを掘り下げることには、とても重要なコノテーション(言外に含蓄される意味)が内包されているのかも・・。

ということで、チト脱線・・

以前のレッズだったら、カチッと守備ブロックを整えられ、レッズの良さを封じ込められたら、決まって、ボールがないところでの動きの量と質が「減退」していた。

要は、ボールがないところでの選手たちの動きが緩慢になり(足が止まり気味になり)、コンビネーションをスタートさせるために必要な、「イメージ・シンクロ・意志パワー」を充填できなくなってしまう・・ということですかね。

だから、仕掛けの「ワンの縦パス」を、鋭く出し、そのリターンパスを、よいカタチで受けても、(3人目、4人目のフリーランナーが出てこないから!)その次の、3本目のダイレクトパスを送り込めずにボールを失ってしまうんだよ。

でも、この試合でのレッズは、先制ゴールが入るまでの(ベガルタの戦術サッカーに、チト苦労していた!?)20分間でも、何度かは、可能性を感じさせてくれた。

要は、レッズ選手たちが、これまで、脳内イメージタンクに蓄えてきた「失敗の体感」が、徐々に、ポジティブなアクションとして、グラウンド上で表現されはじめたっちゅうことでしょ。

だから、うまく攻めきれなくても、まったく動じなくなった(ディモティベートされなくなった!?)・・ということだね。

だから、いくら失敗しても、まったくメゲることなく、次、その次の、ダイレクトパス・コンビネーションをブチかましつづけるんだよ。

もちろん、そこでは、3人目、4人目のフリーランナーが、常に参加する。

それも、ボールが動いているゾーンの「後方」から、最前線に走り抜けたりするんだ。

それは、とても素敵な「進化&深化」だと思うわけさ。

ミハイロが、この「ボールがないとこでの動き」の重要性について、強烈に主張していた。

そう、レッズ選手たちが、簡単に「メゲ」なくなった背景には、優れた心理マネージャーとしての、ミハイロ・ペトロヴィッチの「ストロング・ハンド」もあったということだね。

それにしても、先制ゴール、追加ゴールシーンでの、興梠慎三の、相手マーカーの背後から爆発スタートを切り、そのまま決定的スペースへ走り抜けるフリーランニングは秀逸だった。

それが、この二つのゴールを生み出したといっても過言じゃない。

あっと・・ベガルタのゲーム戦術サッカーという、このコラムの「入りのテーマ」だった。

その、レッズがブチ込んだスーパーな先制ゴールの後、私は、何となく、ベガルタの「徹底サッカー」に、ほころびが生じ始めた・・と感じていた。

そう、選手たちの心理的な動揺。

だから、渡邉晋監督に聞いた。

・・あの先制ゴールは、もうどんな世界の強力ディフェンスだって防げないスーパーなモノだった・・だから落胆する必要などなかった・・

・・私は、もしベガルタが、その後も、それまでの徹底サッカーをつづけていれば、勝負としては、とても拮抗したモノになると思っていたのですが・・

そんな質問に対して、インテリジェンス溢れる渡邉晋監督は、例によって真摯に、こんなニュアンスの内容をコメントしてくれた。曰く・・

・・そうですね〜・・たしかに私も、先制ゴールの後、チーム内での戦術的な(心理的な!?)秩序が減退しはじめたと感じていたんですよ・・

・・例えば、無理してボールを奪いに行きすぎたりだとか・・攻撃でも、リスクを冒しすぎて(レッズにボールを奪われた後の攻撃で!)ウラを取られたり・・また、われわれの仕掛けのパスにしても、どちらかといったら無理筋のモノも増えていったりとか・・

フムフム・・

まあ、そういう風に、様々な意味合いを内包する「チーム&ゲーム戦術的なバランス」が、徐々に崩れていったということなんだろうね。

そして後半は・・

ベガルタが、いつもの「彼らの攻撃サッカー」を展開しはじめたことで、レッズが、どんどんと危険なカウンターをブチかます・・という風に、ゲームの流れが変容していったんだ。

レッズにとって、そんなゲーム展開は希だけれど、そのカウンターを観ていて、もしかしたらヤツらは、リーグのなかでも、カウンターの巧さではトップレベルなのかもしれない・・なんてコトを思っていた。

また、レッズのカウンターからのチャンスメイクシーンを観ながら、こんなコトも考えていたっけ。

それは・・

・・もちろんベガルタは、積極的に(人数を掛けて)攻め上がりながらも、レッズにボールを奪われたら、必死にディフェンスへ戻っていた・・

・・だから、見かけのディフェンスの人数は「足りている」ように見えていた・・

・・でも実際は、ディフェンスの組織は、とても流動的・・だから、チェイス&チェックと、次のカバーリングやインターセプトの「ポジショニングバランス」がままならない・・

・・そして、レッズは、そんな組織が整っていないベガルタ守備ブロックの「穴」を突くように、スパッと縦パスを決めちゃったりするんだよ・・

・・そして、ハッと気付いたときには、ベガルタGKと李忠成が「1対1」になっていたして・・

そう、連動ディフェンスをうまく機能させるためには、とにかく組織的なポジショニングとタスクイメージを「共有できていること」が、死活的に大事なんだ。

そのイメージが確実にシェアできていないと、選手たちは、その場しのぎの「ブツ切り勝負アクション」をすることになっちゃう。

そして、結局は、どこで、どのように、ボールを奪い返すのかという、組織的な連動イメージを共有できずに、決定的スルーパスを通されたり、ウラの決定的スペースを攻略されちゃったりする。

とにかく、カウンターをブチかまされそうなときは、まず何といっても、相手の攻撃スピードをダウンさせることが(チェイス&チェックが!)、死活的に大事になってくるっちゅうわけさ。

この試合でのベガルタは、その「リスク・マネージメント」が十分ではなかった・・と思う。

それにしても、レッズが繰り出す、ダイレクトパスを織り交ぜた組織コンビネーションは、冴えわたっていた。

前述したければ、失敗しても、以前のように簡単に「メゲ」ることがなくなった。だからボールがないところでの動きの量と質が落ちない。それが素晴らしい。

まあ、ミハイロ・ペトロヴィッチの心理マネージメントに拍手だね。

そういえばミハイロは、ボールがないところでの動きについて、量ではなく「質」が問われるケースも多い・・と主張していた。

そう、まさに、その通り。

でも、もし「量ではなく質」だということで、選手たちが「考えすぎて」しまったら、もちろん足が止まり気味になっちゃう。そして、心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでしまう。

だからこそ私は(もちろんミハイロも!?)、ボールがないところでの、バランスの取れた動きの「量と質」こそが大事だって言いつづけているわけさ。

人間は、「弱い」から・・サ。

だから、どうしても、「楽して金儲けしよう・・」という誘惑に負けちゃったりするんだよ。

でも現実は・・

究極的には、「質」を突き詰めるにしても、まず何といっても「量」を、高みで維持しなきゃいけないんだよ。

ホントだよ・・

そうじゃなかったら、選手たちは、確実に「詩を忘れたカナリヤ・・」ってな最悪のワナにはまっちゃうでしょ。そして、栄光から、階段を転げ落ちていく。

私は、そんなプロ選手たちを、世界中で、何百となく観察し、体感してきた。

それは、とても悲しい体感なワケさ。

ということで最後に、レッズの、組織プレーと個の勝負プレーのバランスについても、簡単に。

前述したように、彼らの、ボールがないところでの動きの量と質が、とても高いレベルで安定しているからこそ、ダイレクトパス・コンビネーションも、うまく機能するという主張。

だからこそ、スペースも、うまく活用できる。そして、だからこそ、個のドリブル勝負も、「より」有利なカタチでブチかましていけるっちゅうわけだ。

いまのレッズは、本当に、とても強くなっている。

これからの彼らの進化と深化が楽しみで仕方ないじゃありませんか。

ということで、来週火曜日に埼玉スタジアムで行われる、ACL、上海戦が、いまから、とても楽しみです。

ところで・・

レッズが志向する、「美しく勝つサッカー」というテーマについては、しつこいけれど、「The Core Column」シリーズで発表した、「このコラム」や、「あのコラム」もご参照ください。

では今日は、こんなところで・・

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、まだ、連載をつづけています。

一つは、選択したテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝、「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・と思っている次第。

もちろん、トピックスのトップページに「タイトル」をレイアウトしましたので、そちらからも入っていけます。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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