湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十節(1998年5月2日)

アントラーズvsベルマーレ(1-0)

レビュー

 アントラーズは、まだジョルジーニョが復帰できていません。その不在はことのほか大きいようです。守備的ハーフの彼は、アントラーズ中盤の指揮官。圧倒的にアクティブ、そして効果的な中盤の守備だけではなく、ボールを奪い返した後の、中距離の正確なパスなどを駆使した「最初のゲームメーク」でも才能を発揮します。そんなアントラーズの自信の支えでもあるジョルジーニョがいないアントラーズ。中盤の選手たちが、徐々に、心理的に不安定になっていったように感じるのですが・・。

 対するベルマーレも、リーグ開幕当初の勢いが少し失速してきたように感じます。そんな、最高潮ではない両チームの対戦。この試合に勝った方が、上昇気流のキッカケをつかむに違いない・・そんな期待をもって観戦していたのですが、案の定、試合内容は非常にエキサイティングなものになりました。

 ゲームは序盤からベルマーレのペース。そのベースはアクティブな中盤守備にあります。アントラーズのキーマン、ビスマルクをしっかりとマンマークする田坂。左サイドではリカルジーニョ、右サイドは中田が、攻守にわたって非常に効果的なプレーです。

 アントラーズの攻めは、まったく単発。いつもの組織的な攻撃がカゲをひそめてしまいます。その一番の要因は、ビスマルクが田坂にピッタリとマークされ、動きがとれなかったことです。その後方には、「前気味のリベロ」として、攻守にわたって鬼神の活躍をするホン・ミョンボが効果的なプレーを繰り返します。前半のアントラーズベンチは、失点ゼロで本当によかった・・、と胸をなで下ろしていたに違いありません。

 ベルマーレの攻撃では、調子を取り戻してきたロペスのポストプレーや、決定的なフリーランニングを繰り返す関。また、(このことは、チーム戦術として、全体の合意があるに違いありませんが)守備ラインのクラオジオ、名塚、ホン・ミョンボだけではなく、両サイドバックの岩元、公文が、田坂、リカルジーニョ、はたまた中田などとの「タテのポジションチェンジ」をベースに、どんどんと押し上げます。もちろん無謀な押し上げではありません。人数のバランスを考え、それでも「前方にスペース」がある場合や、自分がボールを奪い返した場合は、必ず押し上げるという指示があるに違いありません。前半のベルマーレの攻めは、危険きわまりないものでした。

 さて「勝負」の後半がはじまりました。内容は、前半と見違えるようなエキサイティングなものに豹変します。両チームともに、積極的な守備から、全員がどんどんと押し上げるようなアクティブな攻撃を展開し、チカラとチカラがぶつかり合うといった様相。ただ、全体としては、アントラーズがゲームを「6-4」で支配し、ベルマーレがカウンターを仕掛けるといったことが繰り返されます。

 それにしてもベルマーレのロペスは良くなってきました。ベストフォームに限りなく近づいているように感じます。そのポストプレーは秀逸。彼がボールを持ったら、キープ能力を信頼するチームメートがどんどんと押し上げ、有効なカウンター攻撃を展開します。ロペスの復調は、ベルマーレにとってだけではなく日本代表にとってもたのもしい限りです。

 ただ、後半25分を過ぎた頃から、アントラーズ攻勢の勢いが増幅してきます。その要因もまた、本田を中心とした「中盤のアクティブ守備」でした。

 たしかに30分には、(ベルマーレ)リカルジーニョの、ボールが破裂せんばかりの勢いでポストにぶつかったスーパーロングシュートはありましたが、それも、ベルマーレ反抗のキッカケにはなりません。普通そんなシュートがあれば、チームに勇気を与え、プレーが積極的になってくるものなのですが、今回は違っていました。それほどアントラーズのアクティブサッカーがレベルを超えていたのです。彼らの繰り返し訪れる決定的チャンスによって、ベルマーレは押し込まれる一方。後半のアントラーズの勢いには、もう誰にも止められない・・といった雰囲気がありました。

 アントラーズ、カルロス監督の、真中、長谷川投入のタイミングは素晴らしいの一言。それに対し、森山を交替出場させた植木監督は、まったくカヤの外という消極的なプレーを繰り返す森山の代わりに、西山を投入します。交替出場した選手が、再び引っ込められるという珍しいシーンだったのですが、これで森山が「立ち直れなくなって」しまうことが心配です。まあ彼もプロですから、そこから立ち直れないようでは・・、ということも現実ですがネ・・。とにかくその交替がベルマーレのペースを狂わせたことだけは確かなことでした。

 そんな大攻勢のアントラーズに対し、最後の時間帯までベルマーレが失点しなかったのは、クラウジオ、名塚、公文、岩元で構成する最終守備ライン、ボランチの田坂、はたまたゴールキーパー、小島の捨て身の守備があったからです。

 ただ、そんなベルマーレ守備陣のガンバリも、ロスタイムに入ってチカラ尽きてしまいます。中盤で確実にボールをキープし、右サイドの名良橋の上がりを待つビスマルク。ピッタシのタイミング、コースにパスを出します。名良橋は、ボールを持ち余裕を持ってルックアップです。ここまできて集中力が限界にきてしまったのでしょうか、彼をまったくフリーにしてしまったベルマーレの中盤守備には課題が残りました。

 そんな状況ですから、ベルマーレのゴール前で待つ長谷川、真中には、決定的なフリーランニングの大チャンスということになってしまいます。案の定、二人とも、ニアポストめがけて爆発的なダッシュです。長谷川はクラウジオに、真中は名塚にマークされています。

 そして、名良橋から、これまたタイミング、コースがピッタリのグラウンダー・ラストパスが長谷川へ送り込まれます。ただ長谷川は、打てばクラウジオに防がれてしまうことを「カラダ」で感じ、後ろの真中へスルーします。真中がチョンと触ったボールは、ゴールへ吸い込まれていきました。名塚のマークは、「鼻の差」で追いつかなかったわけですが、それで名塚を責めたモノか・・。彼のスタートは、真中が、ホンの少し背後からスタートしたことで、一瞬おくれてしまったのです。それは、サイドからの攻撃がいかに有効かの証明ではありました。サイドから責められた場合、自分のマークとボールを同時に見ることが難しくなりますからね(角度の関係)。

 さて、エキサイティングなゲームを制したアントラーズ。優勝戦線に踏みとどまりました。また首位のジュビロが敗れ、試合内容が決して良くないヴェルディーがトップです。ということで、今後リークがよりエキサイティングに盛り上がる予感。楽しみにしましょうかネ・・。




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