湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十一節(1998年5月5日)

ヴェルディーvsエスパルス(2-0)

レビュー

 この試合はヴェルディーの老獪さが存分に発揮された試合でした。試合の流れでは、負けに近い雰囲気があったのですが、終わってみれば「2-0」。とにかくヴェルディーの場合、ゲーム内容自体があまり良くないにもかかわらず、ランキングではトップということに何か特別な意味がありそうです。それは、ギリギリの場面になることの「予想能力」、そしてそこでの勝負強さなど、選手たちの「老練な個人事業主」としての意識の高さの証明といったところでした。

 ヴェルディーは、例によって、柱谷をスイーパーに、エンリケと中村が組んだ純粋スリーバックで試合に臨みました。フリューゲルスと同様の、カバーリングすることが大変ということで、うまく機能させることが非常に難しい最終守備ラインシステムなのですが、この試合では、ある程度うまく機能します。

 それは、ラモス、北沢、モアシールなどの優秀なミッドフィールダーがいるというだけではなく、逆に、エスパルスの攻めが、ヴェルディーの両サイドをしつこく突くような「ずるさ」がなかったからともすることができそうです。ヴェルディーの左サイドには中村がいますから、どちらかというと右サイドが問題です。そこには、エスパルスの左サイドバック、戸田が何度もフリーでポジショニングしていたのですが、そこにうまいタイミングでパスが回ることがあまりにも少なかったのです。つまり、うまいタイミングでのサイドチェンジが出来ていなかったということです。これでは、ヴェルディーの守備ラインを崩すまでにいたらないのも道理といったところでした。

 また、北沢、モアシール、そしてラモスも、エンリケがサイドのカバーに入れば中央守備へ、また彼らは、最初からサイドの守備に入ることもあります。このスリーバックシステムは、そんな「意識の高い」連中があつまらなければ確実に崩壊してしまうに違いない難しいシステムなのです。

 それに対してエスパルス。私は彼らがフォーバックで臨んでくるモノとばかり思っていましたが、フタを開けてみたら、大榎がスイーパーに入る「ファイブバック」の最終守備ラインを組んでいました。その前には、サントス、左がアレックス、右が伊東、そして澤登も積極的に守備にからんできます。つまり彼らは、五人プラス四人で組織する「九人の守備ブロック」で試合に臨んでいたということです。そこから、時折繰り出すカウンターは危険そのものでした。

 そんな堅固な守備ブロックですから、何か攻撃に変化をつけなければ崩せるはずがありません。それでもヴェルディーは、「足元」へのパスをつなぐような単調な攻撃を繰り返します。爆発的なフリーランニングもほとんど出てきませんし、ロングパスや、中盤での「スペースをつなぐ勝負のドリブル」なども皆無。それではエスパルスの守備陣を崩せるはずがありません。案の定、足元へのパスを「高い位置」でカットされて危険なカウンターを食らってしまうという失敗を何度も繰り返していました。

 そして31分。中盤のサントスがヴェルディーの「ミエミエ」の「足元パス」をカットし、そのまま、最前線で爆発的なフリーランニングで決定的スペース走り抜けた澤登へスルーパスが通ります。サントスのスーパーインターセプトからのスーパースルーパス。そして澤登のスーパーフリーランニング。それはもう、素晴らしいプレーでした。そんなプレーこそメディアが取り上げるべきです。その一連のプレーにはサッカーのエッセンスが凝縮しているのですからね。さてボールを受けた澤登です。彼はゴールキーパーと一対一。そのピンチは、ヴェルディーのゴールキーパー、菊池がスーパーセーブで防ぎましたが、そこまでのヴェルディーのサッカーは、流れからすると完全に負けパターンに陥っていたとすることができます。

 後半に入っても、そんな単調なヴェルディーの攻めは変わりません。対するエスパルスのカウンターは危険度を増しています。これは、エスパルスがゴールするのも時間の問題だな・・そんなふうに思いはじめた後半九分。コトが起きてしまったのです。

 それは左サイドでの、カズの、勝負ドリブルからのサイドチェンジパスからはじまりました。この試合のカズのプレーには、徐々にキレが戻っていることを感じました。ただ中盤上がり目は彼の本来のポジションではありません。最前線で「常に」シュートシーンに絡む・・そんな絶頂期のプレーとはほど遠い内容であることだけは確かなことです。とはいってもそこは勝負師。ココゾ、という状況での勝負には鋭いモノがありました。

 そのサイドチェンジのパスを受けた、モアシールにかわって入ったヤスが、そのまま折り返しのセンタリングを上げます。それを、ファーポストに入り込んだ高木がヘッドで折り返し、そこにいた北沢がキッチリとヘッドで先制点をたたき込みました。

 モアシールにかわってヤスは、そのまま右サイドバックのポジションに入り、ヴェルディーの最終守備ラインが落ちつきます。ニカノール監督自身も、最終守備ラインの不安定さは認識していたようです。それは、一点先取した後、とにかく守備ラインを安定させようとした交替だったのかもしれません。

 その後、後半20分すぎからは完全にエスパルスペース。両チームのサッカーがやっとダイナミックでエキサイティングなものになってきます。エスパルスは、どんどんと押し込んできます。そして堅固だった守備ラインを「開いて」しまいます。今度はヴェルディーのカウンターチャンスです。こうなったらもうヴェルディーのモノ。後半30分のヴェルディーの追加点は、そんな流れのなかで入りました。

 ボールを奪い返した北沢から、高い位置にあるエスパルスの最終守備ラインとゴールキーパーとの間の「決定的スペース」へ超速フリーランニングで抜け出るエウレルへ、素晴らしいスルーパスが通ったのです。これで勝負あり。この試合の北沢は、ワンゴール、ワンアシストと大活躍。また攻めだけではなく、右サイドのサイドバック役もこなします。日本代表にとっても彼は非常に重要な存在・・そのことを再確認させられたゲームでもありました。

 もう一度繰り返しますが、ヴェルディーのサッカーは、強かった頃のものと比べれば内容はあまり良くありません。それでも現在トップ。それは、勝負の勘所を心得た老練な選手たちだからこそ「まだ」維持できている、勝負に対する高い意識によって達成されている結果なのです。どこまで、そんな意識を維持できるのか・・興味の尽きないところではあります。

レッズvsマリノス(0-1)

レビュー

 この試合、両チームともほぼベストメンバーで試合に臨みました。守備のシステムは両チームともラインフォー。守備におけるクリエイティブな能力を要求される守備システムです。

 全体的には、両チームが積極的に攻め合う、エキサイティングな内容。それも、単調な攻めではなく、爆発的なフリーランニング、中盤でのタメ、勝負ドリブル、はたまた勝負の「ロングパス」など、非常に変化に富んだ内容です。

 ただゴールは、両チームを通じてたった一つだけ。それは前半の10分に、マリノスが挙げたものでした。まず中村が、中盤左サイドで素晴らしいタメのドリブルを披露します。そこに引き寄せられるレッズの中盤選手たち。その瞬間、レッズのペナルティーエリア右スミで、フリーで待つ城へ素晴らしいサイドチェンジパスが通ります。中村の才能を証明するパスでした。城はそのままゴール前の三浦へパス。レッズGK土田がはじいたこぼれ球を再び城が左足でダイレクトシュートです。素晴らしいゴールでした。このゴールには、中村にも「0.5点」あげましょう。

 中村ですが、一時期の「ひ弱」なイメージを一新したように感じます。それは彼の守備プレーに如実にあららわれています。マリノス左サイドでのペトロヴィッチ、山田などとの競り合いに迫力を感じます。

 ゲームは、マリノスがペースを握ったかと思えば、今度はレッズが盛り返すなど、非常に面白い内容なのです。マリノスの先制点の後、27分の、ペトロヴィッチから小野へのスルーパスからのチャンス、小野のドリブル勝負など、レッズもゴールチャンスを迎えますが結局は不発・・その直後にはマリノスが怒涛のカウンター攻撃・・というプレーが続きます。

 後半、太股の痛みのため交代してしまった小野ですが、この試合でも、アントラーズ戦をキッカケにした好調なアクティブプレーを攻守にわたってくり返します。もう少しで、本当の意味での「才能の開花」までいく・・そんな期待を抱かせるプレー内容でした。

 それにしてもマリノス。わたしは今シーズン彼らを初めて見たのですが、特にクリエイティブな守備を中心にしたチームプレーが格段に進歩していることを感じました。井原、小村を中心にしたラインフォーの最終守備ラインは堅実。格段の進歩を見せる上野、野田のボランチコンビ、また攻守にわたって素晴らしくアクティブなプレーを展開するバルディビエソ、中村も好調です。そして、これぞモダンサッカーのツートップというプレーを攻守にわたって展開する最前線の城と三浦。二年目のアスカルゴルタ監督は良い仕事をしています。

 上野ですが、ガマンしてボランチで使い続けたアスカルゴルタ監督に脱帽といったところ。才能のある選手を開花させる方法として、守備に対する責任を「主体的に」負わせることの効用を再発見した湯浅でした。とはいっても、そのベースは、上野の高い「インテリジェント・レベル」です。彼の今後に大きな興味がわいた試合でもありました。

 わたしは、監督の仕事の内容は、グランド上のプレーだけで評価します。その意味で、この両チームの監督が良い仕事をしていることを感じます。特に、「傑出した才能」たちが「チームプレー」に徹したプレーをしていることは特筆ものだと感じるのです。

 今シーズンは、ワールドカップという「またとない刺激」がリーグを大幅に活性化しています。ただ、ここからが重要なステップ。活性化し、自分たちのプレーレベルがワンランクアップしたことを体感している選手たち。彼らには、「もっとレベルの高いプレーを・・」という、止まることを知らない「向上心」を要求したいのです。

 そんな選手たちにとっての最も大きなモティベーションは、周辺環境の「メリハリの効いた評価」です。その意味でも、その「周辺環境」でもっとも重要な役割を担うメディアには、絶えることのない向上心を期待します。そして、メディアを評価する最前線にいるサッカーファンの皆さんにも・・。



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