湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十五節(1998年8月1日)

ヴェルディーvsマリノス(2-4)

レビュー

 ご無沙汰してしまいました。

 ファーストステージのクライマックスの一つであるこの試合、前節はテレビでの観戦だったもので、ワールドカップ後では最初の「J」スタジアム観戦ということになりました。

 まず気になったのが、30度近い気温と湿度の高さ。こんな気候じゃ、運動量の多いダイナミックなサッカーは期待できないな・・。

 案の定、試合はモビリティー(動き)がなく、足元へのパスが目立ってしまう展開。もちろん勝負の場面では、両チームともに「ある程度」はリスクにチャレンジするわけですが、いかんせん、「周りのフリーランニング(つまりボールのないところでのプレー)」がパッシブでは、厚みのある攻撃を展開できるはずがありません。

 試合の最初の時間帯は、マリノスが中盤の守備と攻めの組立でペースを握り、ヴェルディーが(浅いマリノス最終守備ラインを突くような)カウンター気味で「直線的」な攻撃を仕掛けるという、両チームの試合のやり方の傾向がはっきりした立ち上がりになりました。

 そのヴェルディーの攻め方が、うまくツボにはまります。前半4分。ラモスのタテパス一本と、エウレルのタイミングの良い「飛び出し」が先制ゴールに結びついてしまうのです。

 センターサークル後方でボールを持ったラモス。ちょっとルックアップし、最前線のエウレルと「目線の意思疎通」です。その瞬間コトが起こります。エウレルのタテへのフリーランニングスタートと、ラモスの、タテへの決定的なロングパスのタイミングが、ピタリと一致してしまったのです。

 マークする野田は、オフサイドとでも思ったのでしょうか、マークのスタートが遅れています(それとも、マークには間に合わないということで諦めてしまったのでしょうか・・)。ラモスのパスが届いたときには、エウレルはまったくのノーマーク。そこに、案の定、GKの川口が飛び出してきます。タイミングは、もしエウレルが足でボールを扱おうとしたら完全にカバーできるものでした。その意味では、タイミングの良い飛び出しだったとすることもできそうですが、結果は、川口の読みとは違ったものになります。

 パスが大きくバウンドしたから、その間に前へ飛び出した川口。ただエウレルは、その川口の動きの逆を突くように、ヘディングで、無人のゴールへ「パス」を決めてしまったのです。

 これも才能。ヴェルディーの数少ないチャンスでは、そのほとんどにおいてエウレルが主役でした。

 変則のスリーバックで試合に臨んだヴェルディー。そのシステムは、わたしがワールドカップ取材に出発する前と変わりません。このシステムを支えるのは、中盤から最終守備ラインまで広くカバーする、ラモス、モアシール、そして北沢です。もちろん最終守備ラインの柱谷、エンリケもクリエイティブな守備プレーは展開しますが(土屋は、基本的に城をオールコートでマンマーク)、彼ら三人の「タイミング良い守備参加」がなければ、このシステムは、すぐにでも崩壊してしまうに違いないのです。

 とはいっても、ヴェルディーの「最終局面」でのマークの甘さは以前と同じ。よくここまで首位戦線に居残っていたな・・というのが、わたしの正直な感想です。とにかく、タテへの「決定的スペース」への走り抜け(決定的なフリーランニング)に最後までついていくケースの方が希なのですからネ。

 これでは・・と感じていたのですが、案の定、何度もマリノスが決定的なチャンスを「作りかけ」てしまいます。それでも、タテへのフリーランニングで、ヴェルディー守備陣のマークからフリーになった選手がいるにもかかわらず、ボールを持ったマリノスプレーヤーからその選手への決定的なパスが出ません。

 (少なくとも前半は)そんな、マリノスの拙攻に助けられたヴェルディー守備陣?!

 イメージが「まだ」ワールドカップをベースにしているため、そんな「差」を実感させられたシーンではありました。

 逆にマリノスの守備。それは、「ラインフォー」を志向しています。志向している・・といったのは、まだまだ、機能的に不完全だからです。

 ラインフォーの場合、中盤守備が、なるべく最前線へタテパスを出させない、というのが基本になります。そして最終守備ラインは、その中盤守備をベースに(プレッシャーの状態、ボールを持つ相手の状態)、次にボールがプレーされるゾーン(相手選手)を「読み」ながらポジショニングし(自分のマークを受けわたし)、勝負の瞬間に備えるというわけです。

 ただマリノスの中盤守備は、その原則からはほど遠いレベル。確かに上野のパフォーマンスは上がってきましたが、それでも、彼が中盤守備のリーダーとして、他の中盤選手たちに指示を与えるというわけではありませんし、彼自身の「中盤守備での読み」もアマク、結局は、中盤でのプレスがうまくかからないのです。気候的な問題はあるにせよ、それでは、マリノス最終守備ラインが上がり気味なこともあり(中盤スペースを狭めるため=中盤守備でのプレッシャーをかけやすくするため・・なのにもかかわらず)、どんどんと危険なタテパスを通されるのも道理といったところでした。

 また、最終守備ラインでの「マークの受けわたし」もスムーズではありません。決定的な場面での、タイトマークへの移行が中途半端なのです。このように、まだまだ課題をかかえている、マリノスの「ライン・フォー」ですが、それでもこの守備システムが、よりレベルの高いものであることは確かなこと。マリノスには、今後もチャレンジを続け、そのシステムを完成の域にまで高めて欲しいと思う湯浅なのです。

 試合は、ヴェルディーの攻守にわたる中盤のキーマン、ラモスが怪我で抜けてしまったこと、またゴール前でのマークの甘さが響き、結局マリノスが後半に三点追加して試合に決着を着けます。

 ところで、ラモスに代わり、「2-2」の同点の場面で登場した石塚ですが、彼が伸びていないことに驚愕の思いだったことをつけ加えないわけにはいきません。

 あの場面で登場したのですから、とにかくまず走り回り、攻守にわたって多くボールに触らなければならないのに。出てくるプレーは、例の「ボールのないところ」でのパッシブプレーや、無駄なドリブルからの横パスなどなど。もちろん積極的な守備参加などは皆無。

 前園にも同じコトが言えますが、彼らには、(今回のワールドカップで)多くの「天才」と呼ばれる若手プレーヤーたちが、グランド狭しと走り回って展開した「ダイナミックでアクティブ」なプレーを、心底見習って欲しいと思います。

 前園、石塚などなど・・。そんな「天賦の才」に恵まれた若い選手たちが、「才能の墓場」へ落ち込んでいってしまう。それでは「2002」に夢も希望もないではありませんか。



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