湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第九節(1998年4月29日)

レッズvsレイソル(3-1)

レビュー

 この試合、レイソルの拙攻だけが目立った試合でした。拙攻の原因は、攻撃における「モビリゼーション(単にダイナミックな動きのことです)」がほとんど見られなかったこと。美しく危険な攻めは、「クリエイティブなムダ走り」の積み重ねでしか演出できないことは世界の常識ですからね。その意味で、ベンチワークが攻められても仕方のない、レイソルの試合内容ではありました。

 レッズには、最終守備ラインの大黒柱、ネイハイスがいません。イエロー累積で出場停止だということだったのですが、「これはレッズにとっては大きな痛手だナ・・」試合前は、そう思っていました。

 今シーズンのネイハイスは、日本のサッカーに慣れたこと、またギド・ブッフバルトがドイツへ帰ってしまったことで、意識が何100%も向上したに違いありません。ダイナミックで効果的な守備だけではなく、攻撃にも積極的にからむなど、攻守にわたって大活躍を続けています。

 その彼がいない。これは大変なことだな・・と思っていたのです。ただフタを開けてみれば、彼の代役、渡辺が安定したプレーです。レッズの最終守備ラインは「ライン・フォー」ですから、受け渡しマンマークや微妙なポジション取りなど、確実な守備を展開するのはそんなに簡単ではありません。それを無難にこなした渡辺には大拍手です。

 最初は拮抗した内容のゲームでしたが、その均衡を破ったのはレッズでした。前半29分。まず西野から福永にパスがまわります。福永は、いくぶん「タメ」気味のドリブルから、瞬間的に「決定的スペース」へ走り抜けた(これが決定的フリーランニング)レッズの雑草、大柴へスーパースルーパスを通してしまいます。それをキッチリと右足でゴールした大柴にも大拍手ですが、このゴールでは、福永にも「0.5点」はあげなければなりません。今の彼の、緩急織りまぜたクリエイティブなチャンスメーカーぶりは、以前の「猪突猛進」的なプレーが多かった頃と比べたら雲泥の差です。素晴らしい。福永の攻守にわたる大活躍も、レッズ躍進の原動力であることを証明したプレーではありました。

 福永は、ペトロヴィッチが退場になり、10人で戦う羽目に陥った後半でも、守備的ミッドフィールダーの位置から効果的なカウンターアタックをコンダクトします。

 後半8分。相手からボールを奪い返し、そのまま超速の直進ドリブルで突進する福永。その右には、中盤守備で鬼神の活躍をする(彼は、レイソルの加藤をオールコートでマンマーク)若手の石井がキッチリとサポートしています(その押し上げも見事!)。そこからが、福永の真骨頂といったプレーでした。彼は、簡単には右サイドでフリーになっている石井にパスを出さず、相手の最終ディフェンダーを引きつけられるだけ引きつけます。それは「スーパーなタメプレー」。そしてそんな状況から、コース、タイミングともにピッタシカンカンのパスを、石井の「前方」へ「置くように」出します。石井はすかさずゴール前の大柴へ。ゴール!!

 カウンターアタックのベースは「才能」です。福永のプレーで、そのことを再認識させられてしまったわけですが、彼だけではなく、前半で退場になってしまったペトロヴィッチ、前半だけで交代したベギリスタイン、そして日本の将来を担う「天才」、小野など、今年のレッズは、それぞれに特徴のある才能がうまくバランスしているように感じます。

 この試合の小野ですが、前節のアントラーズ戦同様に、かなり切れのいいプレーを披露していました。それでも、10人になり、本格的に守備参加しなければならなくなった後半では、何度か、マーキングミスもありました。彼については、明日(5月1日の金曜日)アップデートされるインターネット・オンラインマガジン「2002 Japan」でも書きますので是非ご覧アレ。

 ペトロヴィッチを、石井とのコンビで、彼がもっとも得意とするボランチに置き、前線で「タテの」ポジションチェンジをくり返すコンビとして小野と福永を組ませる。またベギリスタインにも、攻守両面でダイナミックに動きまわる左サイドミッドフィールダーとしての意識づけをする。そしてチームには、「全員守備」をベースに「リスクチャレンジ攻撃」を要求する。レッズの原監督は、良い仕事をしていると感じます。

 ヨーロッパ出張から帰国した日に見た第八節の対アントラーズ戦から、彼らのサッカーが一皮むけたように感じている湯浅でした。



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