湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第5節(1998年4月11日)

レイソルvsアントラーズ(2-3)

レビュー

 イヤ〜〜、面白い試合でした。

 試合序盤は、案の定、アントラーズが押し気味にゲームを進めます。ただ全体的には互角だった試合展開を考えた場合、レイソルの滑り出しは、「注意深い」モノだったと表現するのが妥当のようです。しっかりとした守備をベースに、注意深く試合を運び、チャンスを見ての必殺のカウンター。それがモノの見事に決まったのが、前半はじまってスグの、大野から、右サイドのバジーリオとわたり、最後は、逆サイドを突進した酒井へサイドチェンジのパスが通ったカウンターでした。

 酒井は、アントラーズゴールキーパーと一対一。結局シュートミスになってしまいましたが、背中にも目があるといったバジーリオの素晴らしいラスト・サイドチェンジパス、脇目もふらずに全力で突進した酒井の決定的フリーランニングなど、素晴らしい速攻でした。

 それにしても酒井。このチャンスを含め、前半には2度、3度と、決定的なシュート場面でミスを繰り返します。私は、「決定力」などといったファジー(不確か)な表現は使いたくありません。私にとってそれは、トレーニングにおいて「ホンモノのゴール」を体感していない証明なのです。ホンモノのゴールを体感できる状況は、トレーニングでもつくり出すことができるものです。サッカーネーションのプロたちは、トレーニングにおいて、何度も何度も繰り返し「ホンモノを体感」することでしか、本番ゴールを、確実に、そして冷徹に決められるようにならないことをよく知っています。酒井には、彼等の血のにじむようなシュートトレーニングを一度「体感」してみることを勧めたいですね。

 さて試合です。それにしてもレイソルの攻守のバランスは素晴らしいの一言につきます。相手にボールを支配された場合、どうしても「次の攻め」に消極的になってしまう傾向が強くなってしまうモノなのですが、彼等の、明らかに「次の攻撃」を意識した積極的な守備がまったく崩れないどころか、次の攻めもアクティブそのものなのです。たしかに、攻め上がるタイミングの「途中」でボールを奪い返され、危ない場面になったことも何度かありました。それでも彼等の「守備をベースにした積極攻撃」の姿勢に陰りはまったく見えなかったのは立派です。よくトレーニングされている・・。西野監督は、良い仕事をしているようです。

 対するアントラーズ。確かに攻守に安定してはいますが、特に攻めにおける「モビリゼーション(動き)」が見えてきません。それも、レイソルの徹底したアクティブ守備が効果的なモノだった証拠です。確かにボールは動きますが、決定的なフリーランニングが出てこないし、それがあってもタイミングの良いパスが出てこないから、結局は、足元パスの繰り返しに終始してしまうのです。それでは、危険な攻めを繰り出すことなどできません。これでは、ジョルジーニョ、マジーニョのコンビが欠けているから・・、といわれても仕方がない?!

 前半は、見た目には互角。それでも「内容的」には、確実にレイソルのペースでした。

 後半。試合は、完全に「互角」の展開になります。そしてその3分。沢田からのセンタリングを、「やっと」酒井が決めて先制ゴール。その後27分に、アントラーズ相馬の「ワールドカップ予選でジャンプアップした自信」を証明する「勝負ドリブル」からのシュートが飛び出します。そのシュートは、ポストに当たってしまいますが、その跳ね返ったボールを、ビスマルクが「鬼神の反応」でゴールに結びつけます。同点ゴール。そのすぐ後、30分に、アントラーズの真中が追加点。これで勝負合った?!・・と思いきや、今度は36分、レイソルのバジーリオの、相手ディフェンダーに当たってゴールに飛び込むラッキーな得点で再び同点。そんな緊迫した雰囲気のなか、交代出場した、レイソルのシルバが、「ファーストタッチ」でゴールを決めてしまいます。素晴らしい個人技からの決勝ゴールでした。これなんですヨ。「ホンモノ」を何度も体感した者だけがトライできるシュートチャレンジは・・。

 このゲームで私がもっとも注目した選手は、レイソル3バックのスイーパー、森川でした。彼はまだ21歳という若手です。それが、日本代表にもなったことがある渡辺、もう一人の若手、入江を従えて、鉄壁の最終守備ラインを演出してしまったのです。身体能力は抜群ですし、読みもいい。また、スイーパーとはいいましたが、後半には、「まさに、リベロ」といった「自由な」攻め上がりも見せました。彼のクリエイティブな攻守にわたるプレーだけで、この試合を見に行った甲斐があった・・そう感じさせられてしまいました。彼の今後に大期待です。

 「J」も6年目に突入です。ということで、「前段階のノイズ」も含めれば、既に7-8年以上も「プロ環境」があったことになります。そして、そんな「雰囲気」に育てられた「若い才能」が、どんどんと「J」にデビューしています。彼等は、最初から「明確な目標」をもってサッカーに取り組めた幸せな世代というわけです。正確な統計数字は出ていませんが、以前は野球にしか目を向けていなかった「運動能力にすぐたれ子供」たちの多くが、今度はサッカーにのめり込み始めているということを聞きますし、これからもどんどんとそんな若い才能が出てくるに違いありません。やっと日本にも、サッカーネーションの仲間入りを果たせるだけの環境が整ってきたということなのでしょうか。あとは、子供からプロまで「シェア」できる、確固たる「サッカー・コンセプト(良いサッカーに対するイメージ)」の整備だけということですかネ、長沼会長?



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]