湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第四節(1998年4月4日)

フリューゲルスvsベルマーレ(1-3)

レビュー

 ホントウカイ?? という疑問符がたくさんついてしまうフリューゲルスの「スリートップ」戦術。それが見たくて、今節は、横浜国際競技場へいってきました。とはいっても、時間的に、横浜にしか行くことができなかった、というのがホントウのところなのですが・・。

 フリューゲルスの最終守備ラインは、サンパイオを「リベロ」に、前田、奥野がストッパーに入る典型的なスリーバック。その前に、山口と瀬戸が「ダブルボランチ」に入ります。そしてその前に、「ダブルの攻撃的ハーフ」とでもいえるようなポジションに、服部と永井が入っています。そして例のスリートップです。

 たしかにフリューゲルスは「スリートップ」で試合に臨んでいました。とはいっても、左の三浦、右の波戸は、限りなく「ウイングバック」に近く、ベルマーレの両サイドバック、岩元と公文が上がった場合には、確実にマークするという「約束事」があるようです。またセンターフォワードのレディアコフは、どんどんと下がってパスを受け(素晴らしいポストプレー)、その空いたスペースに、二列目の永井、服部がどんどんと飛び出すという戦い方をしていました。

 いってみれば、フリューゲルスのシステムは「3-2-2-3」ともいえるもののようです。断っておきますが、湯浅健二は、数字でシステムをあらわして悦に入るのは、とんでもない誤解を招くということで、基本的にはやりたくないと思っているのです。ここでの「数字システム」は、選手たちの「基本的なポジション・役割に関する理解」とお考えください。そのシステムイメージに基づいて、選手たちが「自由」にプレーするというのがサッカーなのです。そこでは「クリエイティブな約束破り」が横行しなければなりません。それがなければ、ロボットサッカー(それをサッカーの本場では『ステレオタイプサッカー』といいます)になってしまいますからね。

 さてゲームです。最初の頃、ベルマーレの両サイドバックがまったくオーバーラップしなかったこともあったのでしょう(つまり、両ウイングの三浦と波戸はほとんど上がりっぱなし)。「空いた」両サイドには、中田、松川が上がっていったり、呂比須、関がどんどんと開いてきます。呂比須、関のツートップが開けば、フリューゲルスの両ストッパーがついていき、二列目の中田、松川などが「スペースを埋めようと」上がった場合には、山口、瀬戸のボランチがついていくといった具合です。もちろん、フリューゲルス両ウイングの、三浦、波戸も、ベルマーレの両サイドバックのオーバーラップだけではなく、それ以外の守備選手たちの「両サイド」へのオーバーラップもケアーするという約束だったハズです。

 ということで、このフリューゲルスのチーム戦術は、最初の頃は「ある程度」うまく機能していましたが、それも時間とともに雑になっていきます。そしてそのことで、山口と瀬戸の負担が大きくなっていきます。それはそうです。中田、瀬戸ばかりをマークしていては、ベルマーレのスーパーボランチ、ホン・ミョンボが上がってきてしまいますし、たまには、田坂、クラウジオといった「純粋守備要員」も上がってきてしまうのですからね。要は、両ウイングの、三浦、波戸の「クリエイティブな守備参加」があまり見られなくなってきた時間帯から、ベルマーレの攻めが危険なものになっていったということです。

 それでも先制点はフリューゲルスが挙げました。

 エイヤッ、と押し上げ、ワンツーからのルーズボールを自分のものにした山口が、コレゾ日本代表という思い切りのいいシュートを、ゴール右端に決めたのです。素晴らしいシュートでした。それでも試合の流れは、完全にベルマーレに傾いたままです。

 その傾向は、後半になってもっと顕著になっていきます。フリューゲルス両サイドの「太平洋スペース」がどんどんと使われはじめてしまったのです。アララッ、ベルマーレの両サイドバック、岩元や公文にも、簡単にフリーでのオーバーラップを許してしまってる。なんだコリャ〜〜。そして後半17分。右サイド、岩元のアーリークロスから、呂比須がスーパーヘッドを見舞います。同点ゴ〜〜ル!!

 呂比須ですが、素晴らしい「ポストプレー」、タメ、シュートテクニックなど、やはり日本代表に欠くことのできない存在です。欲を言えば、もっとドリブル突破にもトライして欲しいネ。スピード、テクニックは申し分ないのですから、もっともっと「リスク・チャレンジ」プレーを見せて欲しいものです。

 ここからは、完全にベルマーレペース。彼等は、一度外に開き、相手センターバックを引き出しておいてから、ディフェンダーの人数が薄くなった中央へ、というクレバーで効果的な攻撃を繰り広げます。対するフリューゲルスは、まったく攻め手なし、といったところ。もちろんベルマーレの「中盤の王様」は中田です。この試合でも素晴らしいプレーを披露したのですが、まあ、彼のことはまた別の機会に・・。それでも一言だけ。21歳にして、これだけ「フィジカル・テクニカル・タクティカル」そして「サイコロジカル」にも安定してしまうなんて・・。日本の常識(=世界の非常識)にマニュプレートされているメディアを翻弄するパーソナリティーも素晴らしい。彼に残されているのは「世界デビュー」しかないネ。・・ということで試合に戻りましょう。

 そして24分、ヘディングの競り合いからこぼれたボールを、中央でひろった中田が、一度タメてから、シュート。逆転ゴール!!こうなったら勢いは止まりません。27分、今度は呂比須が、右サイドで、私が願ったとおりの素晴らしいドリブル突破から、スーパーセンタリングを上げます。松川のヘッドゴールで三点目。このゴールは、呂比須にも「0.7点」あげましょう。

 これで勝負あったというわけですが、それにしてもフリューゲルスはいったいどうなってしまうのでしょう。このままでは、ホントウに悪魔のサイクルに入ってしまいます。チカラはあっても、負け続けることによって選手たちの心理的な状態が悪化の一途をたどってしまいますからね。ここは一度、選手たちが慣れ親しんだシステムに戻してみるのも一考です。レシャック監督がどうするか興味はつきません。

 個人的には、サンパイオと山口の「ダブルボランチ・コンビ」をもう一度見たいのですが。さて・・。



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