湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第一節(1998年8月22日)

フリューゲルスvsエスパルス(2-4)

レビュー

 この試合は、ファーストステージ、同勝ち点で二位になったエスパルスが、その成績がフロックではなかったことを証明した試合でした。

 立ち上がりは互角といった展開でしたが、徐々にエスパルスがペースを握りはじめます。

 ペースを握り始めた・・といったのは、けっしてボールの支配率のことだけではありません。効果的なボール奪取、そしてそこからのダイナミックでクリエイティブな(効果的で危険な)攻め。彼らの攻撃は、ほとんどといっていいくらいフリューゲルスの守備陣を翻弄するところまでいってしまうのです。

 そのベースは、もちろんボールの活発な動きであり、それを支えるフリーランニングと、素早く広い展開です。それが、フリューゲルスよりも明らかに一つレベルが上なのです。

 これはもしかすると大差でエスパルスが・・と感じさせられるくらい、サッカーの質の差が見えた試合でした。

 オリバからのサイドチェンジ・スルーパスを、左サイドから持ち込んで決めた澤登の先制ゴール。また今度は逆に、澤登からのスルーパスを、落ちついて決めたオリバの二点目。それはそれは、素晴らしい攻撃でした。

 前半は、フリューゲルスも、山口からスーパースルーパスを「右ウイング」の佐藤が正確にセンタリングし、それをレディアコフが決めて、一時は同点としましたが、決定的なチャンスの数では、完全にエスパルスに軍配が上がります。

 伊東からのピンポイントセンタリングをヘディングしたオリバのチャンス。サントスからのスーパースルーパスから、GKと一対一になったアレックスのチャンスなどなど。とにかく、どれもゴールに結びついてもおかしくない決定機ではありました。

 素晴らしいサッカーを展開した「優勝候補」のエスパルスについて、また「心理的」に大きく伸びた伊東については、次の「2002 Japan」のコラムで採り上げようと思っています。ご期待アレ。

 ということで、ここでは、フリューゲルスの「純粋スリーバック」について、もう少し触れようと思います。

 今年のシーズンが始まった頃、彼らは、ヴェルディー同様、最終守備ラインを純粋なスリーバックにして試合に臨んでいました。両サイドバックを、基本的にウイングとするシステムです。ですから、守備に入った場合は「ファイブバック」になる(エスパルスはそうです)スリーバックが、彼らの場合は、本当に三人で守るケースが多いシステムなのです。

 ファーストステージでは、それが裏目に出て敗戦を重ねましたが、ステージ終盤では、何とか盛り返したと聞きました。ということで、今回は、彼らの「純粋スリーバック」がどのくらい進歩したのかを確かめるための観戦でもあったわけです。それがフタを開けてみたら・・

 とにかく、彼らの最終守備ラインは、まるで「ザル」。それはそうです。相手の「決定的なフリーランニング」に最後まで付いていくことの方が希なのですからネ。サッカーはボールがないところで勝負が決まってしまうゲーム。二列目からの、タテのフリーランニング(決定的なスペース入り込む、パスを受ける動き)をする相手選手を、「タテの受け渡し」でマークすることなど、世界の超一流ディフェンダーでも至難のワザだというのに・・。

 またフリューゲルスの場合、どうしても両サイドに大きなスペースができてしまいます。

 ファーストステージでは、両サイドバックが「純粋なウイング」としてプレーするように指示されていたのですから仕方がなかったのでしょうが、「限りなく本来のサイドバック」的な役割を与えられている(そうに違いない)セカンドステージでも、頻繁に両サイドにスペースができてしまうのです。

 それはとりもなおさず、両サイドのプレーヤー(三浦と佐藤)の意識が、限りなく「曖昧」だったことの証明です。つまり、彼らの「基本的な役割」に対する指示(イメージづくり)が、明確ではなかったということです。

 何度フリューゲルスが、そのスペースから崩されたことでしょう。専門のサイドバックがいないのですから(つまり基本的な役割がサイドの守備であると意識している選手がいないということ)、それも当然といったところです。もちろん、当の両サイド、三浦、佐藤は、危ない場面ではサイドのケアーに戻りますが、それも中途半端。これでは、運動量の多いエスパルスが、やりたい放題のサッカーを展開するのも当然といったところでした。

 また、リーグでも随一クラスのダブルボランチ、山口とサンパイオも、中央と、両サイドのどちらかのカバーリングにまわるだけで手一杯といったところです。

 後半、フリューゲルスのレシャック監督は、サンパイオを最終守備ラインに入れ、フォーバックに近い最終守備ラインにしました。それで一時は安定したように見えたのですが・・。

 とにかくフリューゲルスは、本来の「スリーバック」か「フォーバック」にもどすべきだというのが私の結論です。

 選手たちの能力に合わせてシステムを組むというのが、チーム戦術の基本です。レシャック監督のチーム戦術イメージを実現するための「才能」が足りないかもしれないのに(フリューゲルスの選手たちには申し訳ありませんが・・)、理想ばかりを追いかけるのでは、逆に選手たちが動揺してしまいます。たぶん彼らも、フラストレーションを感じながらプレーしているに違いありません。

 要は、選手たちの「意識付け」です。彼らに対して、「アナタは、基本的にサイドバックだよ・・」というのと「ウイングだよ・・」というのでは、「スタートライン・イメージ」に雲泥の差があるということなのです。理想とする(目標とする)サッカーは、確かに次元は高いのですが・・。




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