この試合は、その表現がピッタリとあてはまる内容になってしまいました。マジーニョが退場になってしまった後、まずしっかりと、そしてジックリと守り、そしてチャンスとなったら「リスクチャレンジの攻撃」を「自信をもって」仕掛けていく・・そんなアントラーズが、(試合が経過する中で感じた=つまりこの試合に限っての)私の予想通り、勝利をおさめたのです。
実のことをいうと、この試合はスタジアムで観戦することができませんでした。ワールドカップ後に出版する二冊目の本(タイトルは『五秒間のドラマ』・・11月のアタマには書店に並びます)の最終校正段階に差し掛かっていたため、鹿島まで観戦に出かける時間がなかったのです。ということで、この試合はテレビ観戦ということになってしまったわけですが、それでも試合の全体的な「流れ」はつかめます。そこでまず私が感じたことが、僅差だが、総合的な実力では確実にアントラーズの方が上だナ・・ということだったのです。
アントラーズは、攻撃における勝負のツボをよく心得ています。試合の流れの中では、「ここだ!」という勝負の瞬間が、出ては消え、消えては、また突如として出現してきます。そんなチャンスでの「ボールがないところでのプレー(決定的なフリーランニング)」に対する集中力とその質に明らかな差が見えるのです。
決定的なシュートチャンスまで、何度も到達してしまうアントラーズ。対するマリノスは、たしかにダイナミックに押し込む場面はありますが、ハッとさせられるようなチャンスを作り出すまでには至りません。そこに、アントラーズの堅実な守備が立ちはだかっていたわけですが、「攻撃と守備は表裏一体」というセオリーからすれば、そんな彼らの強い守備は当然かもしれません。攻撃のツボを心得ているチームは、守備でも、相手の「ツボ」を効果的に抑えてしまうことができるものですからね。
またそこには、両チームのボランチのチカラの差も見え隠れしていました。たしかにマリノスのボランチ、上野は大きく伸びました。それでもまだ、アントラーズ中盤の王様、ジョルジーニョの域に達しているというわけではないのです。
彼らの差は、「読みベース」の守備だけではなく、攻撃にも現れてきます。ボランチは、本当の意味でのゲームメーカー。後方からの彼らのイマジネーションあふれる組立が「次の勝負の展開」のベースになるというわけですが、そこに、ジョルジーニョと上野の差が出ていたのです。
ジョルジーニョが繰り出す正確なタテへのロングパス、そしてタイミングを心得た大きなサイドチェンジ。それはもう秀逸。もっとも重要なことは、チームメート全員が、その彼の能力に全幅の信頼をおき、それをベースに「次の勝負の展開イメージ」をアタマに描いているということです(だから次のプレーイメージが確実にシンクロする?!)。
一方のマリノス、上野の場合、たしかにクリエイティブなパスで「後方からの効果的な組立」には貢献するのですが、ゲームメーキング段階でのボールの動きの「広さと素早さ」のレベルでは、ジョルジーニョの方に明らかに一日の長があります。たしかにジョルジーニョは、世界一の・・と呼ばれた選手ですから比べるのは酷かもしれませんが、才能に恵まれた上野には、明確に「世界」を意識して欲しいですから、敢えて比べることにしたというわけです。
ジョルジーニョの能力の高さは、マジーニョが退場になった後、より顕著になっていきます。中盤守備において素晴らしいリーダーシップを発揮し、マリノスの攻めから「危険な臭い」をはぎ取ってしまうだけではなく、ワンチャンスの攻撃でもしっかりと起点になります。そんなジョルジーニョに、モダンサッカーにおける理想的なボランチのイメージが重なります。
もう一人、この勝利のカゲのヒーロー、柳沢について。先日行われた「JOMO Cup」でもハットトリックと大活躍だったのですが、とにかく彼の、ボールのないところでのダイナミックなプレーは特筆モノ。今後の日本サッカーにとっても、頼もしい・・といえる存在にまで成長しています。
決勝点は、ジョルジーニョの豪快なヘディングだったのですが、それをカゲで演出したのが柳沢でした。彼の「スペースを作る」フリーランニングによって、ジョルジーニョが使えるスペースが出来たというわけです。それにしても、最後の最後で集中を切らせてしまったマリノスにとっては悔やんでも悔やみ切れないマーキングミスになってしまいました。
さて首位に立ったアントラーズ。次の対戦相手は、三位のレッズです。今週の水曜日は、国立競技場が「赤」で埋め尽くされます。ただアントラーズには不安材料があります。それは、最前線と中盤の主役、マジーニョとジョルジーニョが出場停止になること。このチャンスをレッズが生かせるかどうか・・注目しましょう。