湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第十二節(1998年10月21日)

レッズ対アントラーズ(2-3)

レビュー

 ホントにエキサイティングで面白い試合でした。両チームとも積極的に攻め合ったのですから、それも道理といったところです。

 ただ、ゲームの内容自体は、アントラーズに軍配が上がります。たしかにレッズも危険な攻撃は仕掛けるのですが、それも単発といった印象をぬぐえないのに対し、アントラーズの攻めは、ロジックな組立をベースに危険そのものだったのです。

 そのベースになっていたのが、両チームの中盤守備の差でした。

 彼らの中盤守備における一番の相違点は、アントラーズが「マン・オリエンテッド」な守備を展開するのに対し、レッズのそれは、どちらかといえば「バランス・オリエンテッド」なものだったことです。

 分かりにくいので詳しくご説明しましょう。

 アントラーズの中盤から最終守備ラインにかけての守り方は、相手のマークを受け渡しながら、「ある時点」で(自然に)決まってくる「最終局面でのマーク相手」を、「その攻撃の一ラウンド」が終了するまでしっかりとマークし続けるというものです。その忠実な「ボールがないところでの」守備プレーを、レッズからボールを奪い返すまで続けるのです。

 とにかくアントラーズの、ボールがないところでの忠実な「マーキングプレー」は秀逸でした。

 ある時などは、本田が、ボールを持つレッズの石井のそばを通ったにもかかわらず(もちろん石井は、他のアントラーズ選手がマークしている)、石井にアタックすることなく、「その時点」で自分がマークしなければならない相手選手に、最後までついていったシーンがあったほどです。アントラーズの選手たちは、それほど「守備のチーム戦術」を忠実にこなしていたのです。

 対するレッズの中盤守備は、まず自分とチームメートとのポジショニングバランスを考えます。互いのポジション(選手間の位置と距離)をうまくバランスさせ(そのことで「外見的」にはスペースは少なくなる)、近くの敵にパスが回る瞬間にアタックするのです。ただこの守備方法は、瞬間的な判断力が要求される、比較的難しいやり方です。

 もちろん、百戦錬磨の世界トップチームの趨勢は、レッズが目指す「バランス・オリエンテッド守備戦術」なのですが、まだ日本サッカーでは、アントラーズのように、まず人を見るという守備方法が、より確実に守ることができるということでしょう。

 ということで、逆に、アントラーズの中盤には、多くの「スペース」ができてしまいます(常に動く相手をマークし続けるのですから当然)。ただそれは、単なる「人がいないゾーン」。そこを、レッズの選手に使わせなければいいわけです。スペースを使うとは、相手にマークされていない状態で、フリーでパスを受けることをいうのですが、最終守備ラインの選手も含め、攻撃が佳境に入った頃には、レッズの選手たちすべてがしっかりとマークされているのですから、そうは簡単にスペースを活用できるはずがないというわけです。

 対するレッズの中盤守備はファジー。どうしても、瞬間的にフリーでパスを受ける(つまりスペースをうまく利用してしまう)アントラーズの選手が、いたるところに出てきてしまいます。そして、そんな「攻撃の起点」から、クリエイティブな攻撃を仕掛けられてしまうのです。これでは・・

 相手が使えるスペースを作らないように、またうまくポジションをバランスさせることで、相手の「次のパス」を狙うようなクリエイティブな守備戦術を志向するレッズでしたが、皮肉なことに、その彼らの意図が、アントラーズにうまく逆利用されてしまったといった試合内容。

 アントラーズが、忠実で確実な中盤守備をベースに、ビスマルク、柳沢、長谷川、阿部、はたまた両サイドの相馬、名良橋という才能たちが、自由奔放にクリエイティブな攻撃を展開してレッズを圧倒したという試合でした。

 レッズも、福田やベギリスタイン、はたまた岡野、福永などを中心に、素早い、どちらかといえば「直線的」な攻撃を仕掛け、何本かの決定的なチャンスを創り出してはいました。ただそれも本当に単発。大波が押し寄せてくるような、力強く、反復するしつこい攻撃を仕掛けられることは希でした。

 この基本的なチーム力の差は、レッズに一点を返された直後のアントラーズの怒濤の攻勢に、もっとも顕著に感じられたものです。そこでのアントラーズの厚い攻撃には、レベルを超えた迫力がありました。

 レッズには、小野とペトロヴィッチがいません。対するアントラーズにも、ジョルジーニョ、マジーニョという主力がいません。両チームともに「飛車角落ち」といった状態で対戦したわけですが、そこで、チーム全体のコンセプトがどの程度浸透しているかということを再確認することができました。その意味では、明らかにアントラーズに一日の長があるのです。

 93年当時から、何年もかけて作り上げてきた彼らのサッカー。それには、「年輪」とまで表現できるような「継続性」を感じます。マジーニョ、ジョルジーニョといった主力が抜けても、ある程度のレベルまでは、「自分たちのサッカー」が出来る・・それも真の優勝候補であることの証明といったところです。

 さて、マリノスが破れ、レッズが破れました。逆に、ジュビロ、アントラーズ、エスパルスといった、私が「試合内容をベースにすれば優勝候補筆頭」だと言い続けていたチームが上位に並んできました。とはいっても、まだまだ他のチームにもチャンスはあります。ここからが血わき肉おどる勝負。今年は、降格という「ドラマ」もありますし、最後の一ヶ月間は、サッカーから目が離せませんネ。



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