湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第十六節(1998年11月7日)

ヴェルディーvsアントラーズ(1-2)

レビュー

 いや〜〜、面白い試合でした。

 私は、たぶんこの試合は、シーズン中でもベスト(エキサイティング)ゲームの一つになると予想していたのですが、それが的中したといったところでした。

 両チームともに、中盤でのアクティブ守備をベースに、積極的に攻め合い、何度も決定的なチャンスを作り出したのですから、それも道理といったところ。

 ところで、調子が最悪といわれているヴェルディーと首位アントラーズとの試合が、どうしてグッドゲームになると予測したのか・・。それは、基本的にヴェルディーの個人的なキャパシティーが高いということ、そしてサッカーが心理ゲームだからです。

 ヴェルディーの個人的な、技術、戦術能力が高いことは衆目の一致するところですが、チーム力の源泉はそれだけではありません。フィジカル能力、精神的な充実度(考え続けるチカラという意味での集中力など)、コーチの能力、そしてアンロジカルな「ツキ」。それらも、チームの総合力を支える要素なのです。

 その意味でヴェルディーの現在の総合力は、たしかに高くはありません。それでも、彼らの「意地」が、足りないところを補ってしまうに違いないと確信していたというわけです。

 「意地」・・。そうです。このゲームは、ヴェルディーにとって特別な意味合いもあったのです。「自分たちの目の前で、長年のライバルであるアントラーズが「胴上げ」するところを見たくない」。それです。いくらシーズン目標を失ってしまったヴェルディーとはいっても、絶対に無様な内容を見せるわけにはいかないというゲームだったのです。

 ヴェルディーは、フォーバックの前に、中村、モアシール、北沢がトリプルボランチとしてポジショニングします。また二列目のラモスも積極的に守備に参加してきます。

 41歳になるラモス。フィジカル的に大きく落ち込んでいることは傍目にも明らかなのですが、この試合に限っては、中盤でのアクティブ守備、攻撃の起点プレーなど、まるで全盛期を彷彿させるパフォーマンスを魅せます。彼は稀代の天才ですから、私にしてみれば、いくら歳をとったとはいえアタリマエのパフォーマンスではありました。まあそれも、アントラーズに対するライバル意識、そして来期も選手で・・というモティベーションの為せるワザだったのでは・・。オジサン、がんばれヨ!!

 対するアントラーズは、例によって、確実な「マン・オリエンテッド中盤守備」と、疑似フォーバック(ケースバイケースで、ファイブバック)がうまく機能します。ただ、最初はちょっと堅くなっていたのでしょうか、積極的な「リスクチャレンジ」が出てこないということで、ヴェルディーにペースを奪われます。

 これは本当に面白い試合になる・・最初の2分を見ただけでそう確信したものでした。

 ただ気になったことがあります。それは、積極的に行き過ぎ(つまり状況をしっかりと把握する余裕がなかったことで)、両サイドバックの米山と菅原が上がり過ぎていたことです。まだ序盤ですから、モアシール、北沢、中村との「タテのポジションチェンジ」が感覚的にうまく機能していないのに・・。

 そして案の定、空き気味のサイドスペースをうまく使われ始めてしまいます。そして、何度かアントラーズのサイド攻撃で危ない場面を迎えた後、最後は左サイドを完璧に崩され、柳沢に先制ゴールを決められてしまいます。前半6分のことでした。

 その立て役者は、左サイドのスーパーコンビ、相馬と阿部。ゴールは、阿部の、守備ブロックを飛び越してしまう「ファーポスト」へのセンタリングから、柳沢がダイレクトで叩いたことで生まれました。

 相馬と阿部の左サイドコンビネーションは、日本代表の、相馬・名波コンビにも匹敵する・・というのは言い過ぎでしょうか。もちろん、彼らの抜けた左サイドのスペースは、本田とジョルジーニョがうまくカバーしていました。

 その後は、アントラーズが、お決まりの「しっかり守ってカウンター」という戦術に切り替えたことで、ヴェルディーが完全にペースを握ってしまいます。

 いや、これは意図したものではなかったので、「そうなってしまった・・」というニュアンスに書き換えることにします。先制したチームは「落ち着いて」しまうもの。アントラーズの選手たちは、そんなゲーム運びに慣れていますから、「さて、今度は得意のカウンターだ・・」という意識で統一され、中盤での守備のアクティビティーレベルがちょっと「落ち着いた」結果だとするほうが妥当な評価のようです。

 ただ、そこからのゲーム展開は、アントラーズの「おはこ」ではありませんでした。ヴェルディーが、何度も決定的なチャンスを作り出してしまったのです。

 相手に「攻めさせる」けれど、それでも決定的なチャンスを作らせない。そして、相手の重心が前へかかり過ぎたスキを突いてカウンター攻撃を決めてしまう。それがアントラーズの「おはこ」なのですが、この試合では、ヴェルディーに何度も「決定的なチャンス」を作り出されてしまっただけではなく、全体的なペースも、相手をコントロールしているというよりは、逆に「押し込まれている」という表現がピッタリのもの。このままでは、心理的な悪魔のサイクルに入ってしまう・・。

 ただそこは王者アントラーズ。そんな「不測の事態」を敏感に察したジョルジーニョ、本田、ビスマルク、相馬などの主力勢が、悪魔のサイクルの原因になるチームメートの「消極性」を断ち切ってしまうような「ダイナミックプレー」で彼らを大いに「刺激」してしまったのです。

 さてゲームは、20分過ぎから完全に拮抗した内容になります。エキサイティング、エキサイティング!!

 そこで気付いたことを二つ。

 一つは、ヴェルディーの攻撃が、徐々に「中央より」になってしまったこと。これは彼らの悪い癖です。それまでのチャンスは、すべて「サイドからの崩し」。それが、アントラーズが盛り返してきたことで、より直接的に相手ゴールに迫るような短絡的な攻撃に終始しはじめてしまいます。それもアントラーズのプレッシャーによるのかもしれません。

 効果的な攻撃のベースは「変化」。単調な「中央突破」ばかりを繰り返すようになってしまったヴェルディーの攻めから、急速に「驚き」がかき消えていってしまいます。

 またヴェルディーの攻めでは、決定的なフリーランニングが少なすぎる、そのタイミングが悪すぎる・・という悪循環が見え隠れしています。昔のヴェルディーは、決定的なフリーランニング(つまりボールがないところでのクリエイティブプレー!)の王様だったのに(だからファンタスティックなスルーパスが面白いように通る!!)。今では見る影もありません。それには、チームメート同士の「イメージ(ピクチャー)シンクロ(調和)」がベースになります。それは、トレーニングで、その「シンクロ(イメージの調和)」がうまく調整されていないことの証明だということなのでしょうかネ。

 対するアントラーズの攻撃は危険そのもの。素早く、大きなボールの動き(サイドチェンジなど)から、最後は、中央突破あり、サイド突破あり。そんな変化が、ヴェルディー守備の対応(つまり予測・・読みのことです)を遅らせてしまいます。

 もう一つの目立ったポイントですが、それは、アントラーズサイドバックの王様、相馬のパフォーマンスが大きく進展していることです。特に彼のセンタリング能力。それはもう「世界レベル」といっても過言ではありません。

 彼のセンタリングは、相対する相手を「ちょっと」サイドに外し、「タイミング的な間隙」をぬって、正確なボールをゴール前に上げてきます。私たち(ヨーロッパベースの)コーチたちは、そのことを「マラドーナ・タイミング」と呼ぶことがあります。

 相手のマークを、軽いフェイントで、ちょっとだけ「横にずらす」。そして、ほとんどバックスイングなし(つまりものすごく素早いタイミング)で正確なセンタリングを上げてしまうのです。リズムとしては、「ト〜ン、ト〜ン」という単調なものではなく、「トッ(相手のマークを横に外す動きのことだヨ)、ト〜ン(センタリングを蹴る音ですヨ)」というものです。言葉では表現しにくいのですが、それも、ジョルジーニョ効果なのかも。彼は、マラドーナ・タイミングを完璧にマスターしていますからネ。

 アッともう一つ。それは、ヴェルディーの高木が、マークする秋田とのヘディングでの競り合いに、まったく勝てないということも目立っていましたネ。高木のパフォーマンスが落ちたのか、秋田のそれが大きく伸びたのか・・??私は、後者だと感じています。それもこれもワールドカップ効果といったところではありました。

 後半0分に、交通事故のようなゴールを決められたアントラーズが、その後は、また強烈なプレッシャーでゲームを掌握しはじめます。

 それでもヴェルディー守備陣の「集中力(考え続けるチカラ)」は落ちません。面白いゲームだな・・ホント。

 こんな拮抗した内容になってきたら、セットプレーが重要な意味をもってくる・・それは世界の常識なのですが、この試合でも、そのセオリーが証明されます。徐々にアントラーズのセットプレーの危険度が増してきたのです。

 そこでのキーワードも「ピクチャー(イメージ)シンクロ度」。トレーニングの成果ではあります。たしかにビスマルクのフリーキック精度は高いのですが、受け手とのイメージが調和しなければ何も始まりませんからネ。

 というわけで、延長前半に長谷川が挙げた決勝ゴールの「伏線」は、後半の試合内容からも既に見えていたというわけです。

 私は、ジュビロとアントラーズのチャンピオンシップが行われるのは確実だと思っているのですが、守備がしっかりしている両チームのこと(確実性ではアントラーズに軍配?!・・それについては、今週号のオンラインマガジン『Yahoo Sport 2002 Club』を参照してください)、そこでもセットプレーが重要な意味をもってくるに違いありません。

 アントラーズではビスマルクとジョルジーニョ、ジュビロではドゥンガ。面白い対決ではありませんか・・(日本人がキープレーヤーでないことは少し寂しいですけれどネ)。

 とにかく、「サッカーは心理ゲーム」であることが如実に照明された試合ではありました。

 注釈:『心理ゲーム』だといったのは、不確実性テンコ盛りのサッカーが、基本的に「自由に判断し、自由な決断に基づいてプレーせざるを得ないボールゲーム」だからです。それ故に、心理ゲーム的な側面が強くなるというわけです。選手個々の心理状態(積極性・・リスクチャレンジの姿勢など)で、その時点でのチーム力が格段に変化する・・それがサッカーなのです。これについては、『Yahoo Sport 2002 Club』でもとりあげようと思っています。ご期待アレ・・



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