湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第四節(1998年9月12日)

ベルマーレvsジュビロ(1-2)

レビュー

 この試合は、後半からしか見ることができませんでした。自宅をオートバイで出発し、途中で忘れ物に気づいて引き返し、再び出発したのが既に1330時。そして、東名高速に乗ったのはよかったものの、そこが大渋滞という泣きっ面に蜂だったというわけです。

 オートバイだから、クルマの間をぬっていけるだろう・・って・・。イヤイヤ、たしかにクルマの間を走りますが、それでも、車線変更するクルマなどに気を遣い、それは鈍足なんですよ。ということで、私がベルマーレの平塚競技場についたときは既に前半が終了したあとだったというわけです。

 「だって単車なんだから、関係ないじゃん・・」。競技場で会った奥寺康彦(テレビなどのメディアでお馴染みですよネ)は私にそういうのですが、そんなに簡単じゃネ〜〜ンだヨ。

 彼とは、ドイツ時代からの旧友(というか、互いに闘っていたので戦友と言ったほうがいいかも)。日本人最初のプロサッカー選手として活躍した彼ですが、特にブレーメンでは、ボランチ役として、チームの中心になって頑張っていました。

 「とにかくオクが(ドイツでは今でも彼のことを、親しみを込めてそう呼びます)、外国人選手として、それもアジア人プロとして、あんなに長くブンデスリーガで活躍できたことは奇跡に近いよな。監督が変わったり、狙われやすいから怪我をしたりなど、とにかく外国人選手が長くブンデスリーガでプレーできることの方が希だからナ。それも彼のフォアザチームというプレー姿勢のたまものだよ・・」。

 これも私の旧友である、現レーバークーゼン(ブンデスリーガのトップチーム)監督、クリストフ・ダウムの言葉です。彼は、オクが1.FCケルンで活躍していた当時、ケルンのユースチームの監督をしていました。

 さて、ベルマーレ対ジュビロの後半です。まず目についたのが、両チームの「パッシプ(消極的な)プレー」です。とにかく、それぞれのプレーに、あまり意図が感じられないのです。できなくてもいいから、ハイレベルの「意図」だけは見せろよナ・・。それが私の第一印象でした。

 両チームともに、意図があるサッカーをやり、それをある程度は達成できるだけの『実力』があります。ですから私の不満も天井知らずといったところだったのです。もちろん、意図は見せていても、それができない チームもいるわけで、そんなチームに対しては、よく頑張ったと評価はしますがネ・・。

 その意図がもっともはっきり見えるのは、いわずと知れた「ボールのないところでのプレー」。これは攻撃だけではなく、守備にもいえます。

 たしかにジュビロには、少しは意図を感じますし、両チームの守備については、インターセプトが少なかったとはいえ、ある程度オーケーです。ただ、特にベルマーレの攻撃がいけない。各ステーション(個々の選手)でのボールの停滞状況は、「レベルを超えた」ものだったのです。そして、そんな「低モティベーション状態」に食らってしまったのが、「例の」PKです。

 これは明らかにレフェリーのミス。彼(レフェリー)の、その時のポジショニングでは、ファールを明確に確認することすらできなかったに違いありません。

 そこからベルマーレのプレーがより散漫になったと感じたのは、私だけではないに違いありません。それでも、レフェリーのミスジャッジもドラマのうち・・なのですから、ベルマーレの集中力がそれで切れてしまったのだとしたら、プロとしていただけません。

 この試合は、NHKの地上波で全国中継したのですが、それにしては、そのことを選手たちが意識しているとはまったく感じられない、散漫プレーの応酬でした。

 選手諸君には、「あなた方は、たしかに自分たちのためにサッカーをやっているのだろうけれど、プロなのだから、自分たちの『ビジネスドメイン』であるプロ産業のこともしっかりと意識してプレーをしなければいけない・・。それがなければ、あなた方が今カネを稼いでいる産業自体が衰退してしまいますヨ・・と言いたいですネ。

 この試合については、あまりにも見所が少なかったから、これまでにします。

マリノス対ジェフ(3-2)

レビュー

 ところかわって、三ツ沢球技場(この日は連チャンでした)。

 この試合は、本当にプロエンターテイメントのエッセンスを感じさせる、非常にエキサイティングな内容でした。サッカーは心理ゲーム・・、悪魔のサイクルは、両チームに交互におそってくる・・、などのサッカーのエッセンスも含めて・・。

 ベルマーレの試合では、前日にあまり寝ていなかったこともあって何度も睡魔におそわれてしまったのですが、この試合では、時間のたつのが早いこと・・。それは、私の眠気をブッ飛ばすような、素晴らしい試合だったのです。本当に久しぶり「チャンとしたサッカー」を見た・・そんな印象でした(NHKは、この試合を中継すべきだった?!)。

 前半、完全に試合のペースを握ったのは、アウェーを戦うジェフユナイテッド。攻守ともに、チャンピオンになってもおかしくない・・というプレーを展開します。そのあまりに素晴らしい内容に、三連勝中のマリノスがまったくまともなサッカーができません。

 このチームの試合を見るのは久しぶり。「いったいどうしてこのチームが連敗を続けているんですか??」。私の前に座る、ジェフに詳しいライター仲間に聞いてみました。

 「そうなんですヨ。このチームは、出来がいいときは本当に素晴らしいサッカーをやるんですが、それも長続きせずに、後半にはガタッとペースが落っこちてしまうんです。特に、マスロバルのプレーのペースが落ちてしまうと、チーム全体がガタガタになってしまうんです・・」

 イヤ、でも今日は、絶対に90分を通じて・・、そんなことを思わせるほどの素晴らしいサッカー内容です。そしてジェフが「順当」に先制点、そして追加点を奪ってしまいます。

 両ゴールともに、お膳立てをしたのは広山。彼の自信に溢れたプレーは、以前にはあった「アナタまかせ」的な雰囲気を完全に払拭しました。

 特に追加点。それは、右サイドでの攻防で、井原との勝負に勝ち、しっかりと江尻のフリーランニングの方向とスピードを考慮したラストパスをゴール前へ送り込んだことで生まれたゴールでした。

 このゴールは、広山にも「0.8点」あげなければいけません。とにかく彼の、自分の判断、決断に基づいたリスクチャレンジのプレーは、見ていて鳥肌が立つくらい素晴らしいものだったのです。

 この日のジェフで特に目立った選手ですは、まず広山、そしてボランチに入った酒井友之でした(もちろん前半に限ってですが・・)。マスロバル、江尻、そして最終守備ラインの山口、茶野、中西、武藤などのパフォーマンスははよく知っていますし、ある程度安定していますから、この試合では、この二人に注目していたというわけです。

 広山の、最前線でのボールのないところでのプレー(パスに絡んだチームプレー)と、勝負どころでの単独勝負チャレンジ。そのバランス感覚に溢れたプレーは、本当に見応え十分。また、酒井の、忠実で、しかも責任感を意識した、クリエイティブな中盤守備も素晴らしい。

 彼ら若武者たちのプレーを見ていて、本当に、「やっぱり、(ここは日本だから)ホンモノのプロ意識って若い世代からの方が出てき易いのかな・・。年長のプレーヤーは、ドップリと日本の古い体質につかっているだろうからナ・・」などと思ったものです。

 さて試合ですが、二点を奪ったジェフですから、後半も切れずに、このままのペースを維持するに違いないと思っていたのですが、フタを開けてみたら、まったく違った展開になってしまいしまた。今度は彼らが、完全に悪魔のサイクルに落ち込んでしまったのです。

 たしかにサッカーは、心理的な相対ゲーム。前半は、ジェフの勢いに、マリノスが疑似「悪魔のサイクル」に入っていたのが、後半は完全に逆転してしまったのです。それでも「二点もリードしているんだゼ・・」と思っていたのですが・・。

 たしかに仲間のライターが言っていたとおり、まずマスロバルのパフォーマンスが地に落ちたこともあって、チーム全員のプレーが、前半とは見違えるほど「消極的」になってしまったのです。守備での「読みベースのクリエイティブプレー」がない。攻撃でのリスクチャレンジもない。これでは・・

 もちろんそれには、マリノスのプレーが格段にアクティブになってきたことも挙げられます。

 それは、マリノスのプレーがアクティブになってきたから??それとも、ジェフのプレーが消極的になってしまったから??

 このペースの逆転は、そんな両方の要素が、複雑に絡み合ったものです。このペースを、再び逆転するには、ジェフは、特に中盤での守備を、前半のように格段にアクティブなものにする必要があります。守備が、すべての出発点ですからネ。それでも、この時点でのジェフには、そのチカラは全く残っていないように見受けられました。この「パフォーマンスの落ち込み」は、一体何が原因なのか。基本的なフィジカルコンディションの悪さ?!チームの、フィジカル、サイコロジカルなリーダー、マスロバルのパフォーマンス低下?!・・・判然としません・・だから納得もいきません。面白いテーマだから、チョット考えてみようかな・・と思っている湯浅でした。

 その「悪魔のサイクル逆転劇」を演出したのは(その中心になったのは)、マリノスの安永でした。スペイン留学の成果を思う存分・・といったところ。とにかく前半はジェフの広山、後半はマリノス安永。この若手選手たちに、ホンモノの期待感が盛り上がった湯浅でした。

 特にマリノスの決勝点は素晴らしいの一言。安永が、自分でボールを奪い返し、そのまま(周りにフリーな味方がいたにもかかわらず)自分で単独勝負にいき(行かざるを得なかったという見方もできますが・・)、最後は、ジェフGK、下川の動きをしっかりと確かめるように「ゴールへのパス」を決めました。素晴らしい・・

 こんなゲームが続くのなら「J」は安泰です。今日の試合を観戦した方々の「グランド観戦リピート率」は天井知らずといったところだったに違いありません。

 さて「J」の優勝争いと降格あらそい(これからは、『降格リーグとよぶこにしましょう』)は、俄然、白熱の様相を呈してきました。

 尚、「降格リーグ」については、マイクロソフト・ネットワークの「スポーツページ」でも書きましたので、是非ご覧アレ・・(私はここでも、隔週でコラムを書いています)



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