湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第一節(1999年3月6日)

アントラーズvsジェフ(4-0)

レビュー

 前年シーズンのチャンピオン、アントラーズが圧勝という内容でリーグ初戦を制しました。

 「圧勝」という表現ですが、この試合は、アントラーズが良かったというよりは、ジェフがひどすぎた・・といった方が正しい分析のように思います。それほど、ジェフのプレーは攻守にわたって積極性に欠けていたというか、首尾一貫性に欠けていたのです。ジェフのベンチでは、エンゲルス監督のイライラが極限に達していた?!。

 開始早々の先制点は、アントラーズ、長谷川の「ゴッツァン・ゴール」。その「7割」はマジーニョが演出しました。まず、このゴールの「起点」になったマジーニョが、オーバーラップする左サイドの相馬へパスを回します。すかさずマジーニョは、そのままジェフのゴール前へ。その動きが秀逸。ただ、ジェフ中盤選手の誰も、そのマジーニョの動きに付いて戻りません。そして、そのようにフリーで上がっていったマジーニョへ、マークする相手を振り回した相馬からパスが回ります。そこはペナルティーエリア内。当然マジーニョは勝負し、最後は、GKが触るギリギリのタイミングでボールがこぼれます。そしてそこにいたのが長谷川だったというわけです。

 このゴールは、「その日」のジェフの「出来」を象徴していました。ジェフの中盤守備が、あまりにも甘いのです。アントラーズは、本田が出場できないということで、阿部が、内藤とボランチコンビを組み、マジーニョは「二列目」に下がりました。そして、アントラーズ最前線のツートップ、柳沢、長谷川の後方から、ビスマルク、マジーニョというキープレーヤーがどんどんと上がってくるのです。

 ただジェフの、この二人に対するマークの甘いこと。この試合でのアントラーズ攻撃の「核弾頭」がこの二人だったことは誰の目にも明らかだったのに・・。この二人が「タテに奔り抜け」ても、最初のスタート地点から「マークし続ける」ディフェンダーがいないのです。ジェフの選手たちは、この「レベルを超えたプレーヤー」を、「タテの」マークの受け渡しで、簡単に抑えることができるとでも考えていたのでしょうか。なんとイージーな・・。

 対するアントラーズの高い守備意識についてですが、攻撃的なハーフであるマジーニョの、こんな守備参加プレーを目撃しました。

 それは後半4分のこと。ジェフの攻撃に、最終守備ラインの中西がオーバーラップしてきたシーンです。タイミングは完璧。右サイドでボールを持つ広山からパスを受け、そのまま突破か・・と誰もが思うような素晴らしいオーバーラップタイミングでした。ただそれを阻止したのは、最前線にいたマジーニョだったのです。彼は、オーバーラップした中西を『最後まで』マークし続けたのです。それは、アントラーズの強さの秘密を象徴するシーンではありました。

 彼らは、「タテのマークの受け渡し」の難しさをよく理解しているのです。それに対し、ジェフ守備陣のイージーなこと。『タテへ走り抜ける』マジーニョやビスマルク、はたまた阿部などを、「オイ、行ったゾ・・」ってなもんで、彼らのマークを放り出してしまうのです。これじゃ・・。

 結局、ジェフの守備陣は、マジーニョ、ビスマルク、柳沢、長谷川などが繰り返す「タテのポジションチェンジ」にかき回され続けてしまいます。

 もちろんいつもマークに付いていくのでは、古典的で非効率な「マンマーク」になってしまいます。通常は「マークを受け渡し」、自分自身の判断で、「ここが勝負!!」という状況になったら、必ず最後までマークし続ける・・そんな判断が重要なのです。ジェフの守備プレーから、その「自由&自主判断の発想」自体が感じられなかったことは寂しい限りでしたネ。

 全体的な運動量でも、ジェフはアントラーズに及びません。アントラーズ選手たちは、サッカーが「クリエイティブな無駄走りの積み重ね」であることを心底理解しているようです。それもこれも、ジーコの影響が徹底しているということでしょう。

 私が、ジーコの影響力の大きさを一番感じているのが、柳沢です。彼の「ボールがないところのプレー」の素晴らしいこと。

 若い才能が伸び続けることができるための最も重要な要素は、優秀な指導者です。豊富な知識。優れたインテリジェンス。そして強烈なパーソナリティー。そんな「ストロング・ハンド」に巡り会えるかどうかで「若い才能」の将来が決まってしまうことは、残念ながら事実なのです。

 柳沢は、本当にどんどんとステップアップしています。一言でいうと、「シンプルプレーと勝負プレーの絶妙なバランス」ということなのですが(後半13分や後半28分の単独ドリブル勝負・・後半16分の、1対2と詰まった状況でのシンプルパス!!など)、このままいけば、必ずや日本を代表するストライカーとして歴史に名を残すに違いありません。

 とはいっても、私はまだまだ、アントラーズの全体的な出来に納得しているわけではありません。先日のゼロックスサッカー(対エスパルス)と同様に、今日の試合でも、ジョルジーニョの穴を大いに感じてしまった湯浅でした。

 この試合では特に彼らの守備に「ジョルジ穴」が・・。要は、中盤の「攻撃の起点のつぶし」がうまく機能していなかったことで(中盤での、ボールが回される先を読んだ効果的なアタック)、最終守備ラインのマークもかなり甘くなっていたのですが、何度も、フリーでパスを受けるジェフのアタッカーを目撃しました。その頻度は、安定守備がトレードマークのアントラーズにしては「異常事態」だったのでは・・。

 まあ彼らのことだから、シーズンが進む中で調整していくのでしょうがネ。

 さて岐路の1999年シーズンが始まりました。そして結果は、案の定というか、私が「Yahoo Sports 2002 Club」で書いた(というか、ほとんどのメディアが予想した)上位候補チームが、サンフレッチェを除いて勝利を飾りました。このまま、上位チームと下位チームがグループ分けされてしまうことだけはノーサンキューなんですがネ・・。



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