湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十節(1999年5月1日)

ヴェルディーvsサンフレッチェ(2-0)

レビュー

 三人でライン気味に最終守備ラインを組織するサンフレッチェ。対するヴェルディーは、従来型のフォーバック。「ライン維持」に(あまり)こだわらず、米山を中心に、臨機応変にポジションを変えながら、複合的にカバーリングをうまく機能させます(そこでは、ボランチの林も非常にうまく機能)。

 サンフレッチェですが、私は、開幕当初に三連敗した以降は見ていません。その最後のコラムで、「三連敗したとはいえ、彼らのサッカーの内容は一流。このままの調子を維持すれば、必ず復活する・・」と書き、そのとおりになったわけですが、その意味でも、「再生中」とはいえ、どんどんと調子を上げ、自信がよみがえってきたヴェルディーとの対戦は、楽しみで仕方ありません。

 試合は、両チームともに中盤でのアクティブな守備をベースに、互角の展開。ただ、最初の時間帯で、何度かサンフレッチェがチャンスを作りだし、実際にそれをシュートまで結びつけてしまいます。

 攻撃の目的は、シュートを打つこと。その目的を、最初に何度か達成してしまったサンフレッチェ。立ち上がりの時間帯では、彼らに「感覚的な勢い」を感じるじゃありませんか・・、とはいってもそこはヴェルディー、堅実な最終守備ラインと、中盤の底(ボランチ)のコンビ、小林、林(これから「リンリン・コンビ」って呼びましょうかネ)を軸にした強固な守備をベースに、「ボールの動きのペース」をコントロールしながら、勝負所で爆発的なペースアップを狙うという「高度でクレバー」な攻撃を展開します。

 このヴェルディーの「ペースチェンジ」は、スパッという鋭い音がするような何本かのダイレクトパス交換や「クサビ」のタテパスが通ったとき、はたまた爆発的なドリブル突破トライなどがキッカケになります。その瞬間における、ボールがないところでの周りの選手たち(特に二列目からの北澤)の、ウラスペースを狙った動き(フリーランニング)。それはもう大迫力です。

 ただサンフレッチェも、かなりヴェルディーの「ペースチェンジ」を研究し、チーム内でも、(対抗する守備に関する)イメージ的な合意があるに違いありません。「アッ、来る!!」という瞬間での、「ボールがないところでのマーキング」には、レベルを超えた集中力を感じます。

 これは面白い試合になるナ・・・

 何本かのロングシュート、ヘディングシュートなど、「見ている方のイメージ的」には決定的なシーンを作り出すサンフレッチェ。それに対し、負けじとペースアップするヴェルディー。前半は、総体的には互角といった展開でした。さて後半は・・

 後半立ち上がりは、前半同様、サンフレッチェがペースを握ります。そして、7分、中盤でパスをもらったフリーの山口から、最前線で「ちょっとしたタイミングのズレ(時間差攻撃?!)」から抜け出した久保へ、ギリギリのスルーパスが通ります(ここら辺りのヴェルディーのオフサイドラインコントロールには一貫性が感じられない?!)。そして素晴らしいトラップからのフリーシュート。ゴールを越えてしまいましたが(こんなチャンスでの確実な決定力が久保の課題?!)、それはそれは、エキサイティングなシーンではありました。

 サンフレッチェの久保ですが、私は、「典型的なセンターフォワードタイプ」としては、今の日本には彼以上の存在はいないと思っています。もちろん「ポストプレー」だけではなく、決定的なチャンスの芽が見える瞬間的タイミングでの「スペースへの走り抜け(スペース感覚)」にもレベルを超えた(忠実さとリスクチャレンジ感覚などの)才能を感じます・・などと考えていたら、またまた22分、左からの服部のドリブルに合わせて、中央で大迫力のフリーランニング。そしてマーカーに競り勝ち、ヴェルディーGK本並の「前」でボールに触ってしまいます。惜しい!!

 確かに、呂比須、柳沢、中山、城、はたまた今回の世界ユース選手権で大活躍した高原などなど、候補目白押しではありますが、ちょっとタイプが違う久保をセンターフォワードに据えることで、日本代表の「攻め手」は確実に増えると思うのですがネ・・トルシエさん・・

 試合は、両チームともに何度もチャンスを作り出すなど、激しく動き続けています・・というか「アクティブな膠着状態」といった方が妥当な表現だったりして・・。そして徐々にヴェルディーが試合を押し気味に進めるようになっていきます。この時点で、ヴェルディーは山田隆裕(最後の時間帯には栗原)、サンフレッチェは藤本とヴィドマーが登場しています。

 比較的ゆっくりとしたボールの動きから、チャンスを見計らっての爆発的なペースアップで「決定的スペース」を突こうとするヴェルディー。激しいボールの動きから、素早く相手ゴールへ迫ろうとするサンフレッチェ(ただ、後方からの押し上げがカッタルくなっていることで、前半にはあった前後のボールの動きが少なくなってきている・・ボールの動きが単調・・)。試合は、予断を許さない展開になってきています。ちっちゃなミスでも・・ってな展開というわけです。

 それにしても、ヴェルディーの「先を読んだ守備の集中(タイミングを見計らったプレス)」には、ほれぼれさせられるものがあります。サンフレッチェのボールの動きが(特に後半では)「早いけれども単調」になっていたから、先を読みやすいことは確かなのですが、それにしても、守備に入ったときのヴェルディーには、昨シーズンに感じられなかった「執念」とでも呼べるほどの高い(ねばり強い)意識を感じます。

 ヴェルディー全盛時代の彼らの強さを支えていたのは「守備」。現在の好調を支えているのも、最終守備ライン、リンリン・コンビ、はたまた北沢、ジェフェルソン(山田)などの攻撃主体選手たちまでも積極的に参加する、(しっかりとした協力守備プレーイメージに支えられた)忠実でクリエイティブな守備です。そんな「チーム力の原動力」に十二分なエネルギーを傾注させている(意識改革?!)コーチングスタッフ。良い仕事をしているようです。

 そして36分、決勝ゴールが入ります。それは、杉山のロングシュート。ウラ、ウラを狙い続け、失敗を繰り返したヴェルディーでしたが、彼らはその中でも、(スルーパスを警戒する)相手守備のイメージのウラを突くようなロングシュートにトライしていました。ですからこのゴールも、コーチングスタッフの意識付けの成果だとすることができそうです。

 44分の、栗原の追加ゴールはオマケとして、全体としてはどちらに転んでもおかしくない試合を制した今のヴェルディーには「勢い」があります。サッカーは心理ゲーム。彼らの「心理的な勢い(自信と確信)」が、このまま加速を続けていったとしたら・・



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