湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十一節(1999年5月5日)

アントラーズvsジュビロ(1-2)

レビュー

 アジアクラブチャンピオンのジュビロ(相手のホーム、テヘランでの勝利は賞賛に値する)。彼らの疲労度はピークに達しているに違いありません。対するは、昨シーズンチャンピオン・・でも最近は大きく調子を崩しているアントラーズ。この試合では、マジーニョも出られないということで、不安だけが・・

 久しぶりに満員の(五万一千人ですが満員に見える?!)国立競技場。ムードは最高潮といったところ。久しぶりの「コレがプロサッカー」という雰囲気・・いいですネ〜〜。そしてそのムードにふさわしい、素晴らしくハイクオリティーのゲームが展開されました。来られた観客の皆さんには(こんな素晴らしいゲームを実際にスタジアムで見られて)「オメデトイゴザイマス・・」と言いたいですネ。

 試合は、ホームのアントラーズがまず主導権を握ります。彼らの、目に見える危機意識の為せるワザ・・?!ただそこはジュビロ、時折、超危険なカウンターを仕掛けてきます。

 カウンターが危険なのは、相手の守備が戻りきれない短い時間で(守備組織ができあがらないうちに)ゴールへ迫ってしまうからです。そこでは、正確で、アグレッシブな瞬間的状況判断能力、直線的な超速ドリブルや正確なロングパスなど、選手たちの才能がモノを言います。奥、名波、藤田、中山、高原などの才能は、たしかに十分・・などと思っていたら、今度はジュビロが主導権を握り、逆にアントラーズが、彼らの「才能カウンター」を披露する番になってしまいます。

 爆発的なカウンターから、ビスマルクを経由して小笠原へ。ナイジェリアでハイレベルな自信を手に入れた彼は、そのまま直線的なハイスピードドリブルです。そして、最後は、スッと前へ(決定的なスペースへ)抜け出た柳沢へ見事なスルーパスを通してしまいます(とはいっても、これはジュビロ最終守備ラインの連係ミスでしたがネ・・)。

 素晴らしい試合になる・・勝負がどちらに転ぼうと、お客さんは大満足で家路につくに違いない・・、最初の時間帯でそう確信したモノです。数字的な結果ではなく、「ゲームの内容」、それが本来的なサッカーの醍醐味ですからネ。歓喜のドラマ、悲劇のドラマ・・。サッカーは、必然と偶然が交錯する先の見えないドラマなのです。

 そして37分、中盤の右サイドでボールを持った阿部から、反対側左サイド後方から、斜めの爆発的なフリーランニングで、ジュビロ最終守備ラインを「追い越し」て抜け出た小笠原のアタマに「ピッタシカンカン」のクロスボールがでます。先制ゴ〜〜〜〜ル!!

 何と見事なゴール。これこそ、『サッカーはボールのないところで勝負が決まる!』という普遍的なセオリーを見事に具現化したスーパーゴールではありませんか・・

 そこでのジュビロ守備陣は、ボールに気を取られ過ぎて(ボールウォッチャー)、小笠原のフリーランニングをケアーする選手はまったくといっていいほどいませんでした。

 アントラーズの「新人」、小笠原ですが、全体的な出来は良かったとは思いますが、それでもまだ「中盤での自己主張」に物足りなさを感じます。彼ほどの才能の持ち主なのですから、もっともっと「自分中心」にプレーしなければ・・。一度パスをして、すぐに次のスペースへ動いて「オレにパスを戻せ!!」ってな具合に、ボールを「自分中心に動かしてやる」・・くらいの気概を持って欲しいモノです。

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 後半、両チームに選手交代なし。

 ダイナミックな展開は、前半同様です。もちろん一点リードされているジュビロが、少しは「前ヘ」重心がかかり気味なのですが、アントラーズの危険なカウンターを二〜三発浴びた後は、再びゲームが落ち着いてきます(とはいっても、両チームともに仕掛け合っていますから、『ダイナミックな膠着状態』といった方が適切かとは思いますがネ・・)。

 ゲームは、20分過ぎから徐々にアントラーズ主体になっていきます。最終守備ラインを上げ、攻撃的に・・という姿勢を前面に押し出すアントラーズ。彼らのサッカーには、一点をリードしたことによる(心理的に)受け身になる兆候は見えません。  それにしても中盤にビスマルクが戻ったアントラーズの自信レベルは格段に上がったと感じます。「ビスマルク効果」とでもいいますか、(ビスマルクではなかったとしても)中盤の誰かがボールをもった時の、最前線、はたまた二列目の選手たちの「決定的スペース」を狙う動きの活発なこと。それも「自信」の一部なのですが、期待と確信をベースにしたアクティブなフリーランニングにも、アントラーズの調子が戻りつつあることを感じます。

 とはいっても、まだまだジョルジーニョの抜けた穴は大きい?! 彼からの、「決定的なロングラストパス」とでも表現できるような、中盤の底からのダイナミックな一発。それがあったから、ボールの位置に関係なく、アントラーズの選手たちの「触覚」は、常に決定的なスペースへ向けられていたのですからね。

 30分過ぎ、本山が登場。期待が高まります。小笠原と本山の若武者コンビがグラウンド上にいるのですからね。ただそんな期待とはウラハラに、ジュビロの名波が、ゴール正面のフリーキックから、見事な同点ゴールを決めてしまいます。それは、名波の執念が乗り移ったような、まったく解説の必要のないスーパーゴールではありました。

 そして延長がはじまって早々の2分。アントラーズの決定的なチャンスの後。今度はジュビロが、カウンターから決定的なチャンスを作り出します。

 右に振られたサイドチェンジパス。藤田がボールを持ちます。その瞬間、アントラーズゴール前になだれ込むジュビロの中山。ただ彼は、その走るコースを、「キュッ」と音がするくらい急激に変化させ、マークを振り切ってしまったのです(というよりは、マークの視野から『消えて』しまったといった方がカッコイイ表現かも・・)。

 そして、フリーになった中山のアタマ目がけ、藤田から、至極アタリマエのようにピンポイントのセンタリングが送られます(アントラーズGK、高桑がスーパーセーブ!)。この(ボールがないところの)プレーに、(強力な守備とは別の)もう一つのジュビロの強さの秘密が隠されています。

 それはそれは見事な、中山の、爆発的、クリエイティブなフリーランニングではありました。

 その後は一進一退。それにしてもアントラーズのリカルド。彼のプレーには一貫性がありません。一度などは、タテへ抜け出ようとする中山を「絶対に」マークしなければならない状況で、簡単に「行かせて」しまった場面がありました。奥野がカバーに入ったから事なきを得たとはいうものの、それは、チームプレー的にいえば完璧な「ルール違反」。そんなプレーを一人でも犯したら、(ゲームが緊迫しているからこその)最高潮に張られた緊張の糸が、プツッと音を立てて切れてしまう・・。

 ゲームは、鳥肌がた立つくらいのテンション(緊張)とエキサイトメント(興奮)が支配する雰囲気の中、両チームが、それこそ交互に決定的チャンスを作り出します。それでもゴールは決まらず、時間だけが経過していく・・フ〜〜

 ただ最後は、ジュビロが、悪戯好きの神様に微笑まれてしまいます。

 ジュビロの決勝ゴールは、延長後半6分。それは、藤田からはじまり、藤田で終わります。

 まず、アントラーズ守備に跳ね返されたボールを拾った藤田が、左の服部に展開します。この瞬間的な状況で藤田は、服部の意図を計っています。そして、服部が逆サイドの中山へ大きなサイドチェンジのパスを出すことを確信した瞬間、スタートを切ったのです。そう・・ゴール前の(ジュビロGKと最終守備ラインの間にある)決定的スペースへ向けて・・

 ジュビロ守備陣は、服部のプレーとボール、そして逆サイドで待ち受ける中山に釘付けでした。蹴られたボールは、正確に中山のアタマへ。そして、藤田の「イメージ通り」に競り勝った中山は、シンプルにゴール前のスペースへ折り返したのです。そこに走り込んでいたのは藤田だけ。そして勝負が決着しました。

 寝転がり、ガッツボーズの藤田は「(色々な想いが込められた?!)ヨシッ、やった・・」という表情。

 それは、服部、中山、そして藤田という三人の「次のプレーに対するイメージ」が完璧にシンクロ(同期・同調)した、絵に描いたようなゴールでした。

 第十一節でもヴェルディーが勝ったため、彼らが(暫定的な)トップに立ちました。たしかに、ジュビロの試合数は、彼らよりも二試合少ないわけで、ジュビロの優位は動かないわけですが、「改造中」のヴェルディーの安定したゲーム運びは特筆モノ。これからの優勝争いが面白くなってきたではありませんか・・。



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