湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十二節(1999年5月8日)

ベルマーレvsヴェルディー(0-1)

レビュー

 私がまだ読売クラブのコーチをしていた当時、この対戦はいつも大注目のカードでした。ヨミウリ対フジタ・・懐かしいですよネ・・

 時は過ぎて1999年。その注目カードが、大リストラを敢行したチーム同士の対戦ということになりました。またそれは、「再生」がうまく機能しはじめているチーム対、「リストラ後」がまだ結果に結びついていないチームの対戦ともいえます。

 ベルマーレを観るのは久しぶりなのですが、最初に見た当時の、リスクにチャレンジし過ぎるあまり「前後の」バランスを崩してしまうという傾向が、かなり落ち着いてきていることをまず感じました。

 最初の頃は、全員が「前へ」重心が掛かり過ぎていたことで、どうしても、選手の「前後」の人数的、ポジション的なバランスが崩れがちだったのです。それが、このゲームでは、「ファイブバック」とも呼べるくらいに慎重、そしてボランチもあまり上がらない。ということもあって、ヴェルディーも、まったくといっていいほどベルマーレの最終守備ラインを崩すことができません。逆に、時たま繰り出すベルマーレのカウンターの危険度もあまり高くありませんがネ・・

 前半のゲーム展開には、目立った動きが出てくることはありませんでした。動きがないというのは、ボールの動きもそうなのですが、守備ラインの乱れなど、可能性を感じさせる何らかのゲーム展開的な「動き」もないのです。

 たしかにヴェルディーの攻撃からは、比較的(あくまでも比較的ですヨ・・)「動き」の可能性は感じます。ただそれは、組織的な崩しではなく、どちらかといえば単独ドリブルからがほとんど。それも、周りの味方の動きがないから「仕方なく」ドリブルするというシロモノ。とても「選択肢の多い」攻撃という雰囲気はありません。

 対するベルマーレですが、ヴェルディーの、中澤、山田で組む最終守備ライン中央だけではなく、杉山、中村のサイドも強く、彼らを崩せるようなシーンは、まったくといっていいほどありません。特に、日本代表候補に選ばれた中澤と、米山が出場停止ということで急遽「中央」へコンバートされた山田がいいですネ〜〜。彼らの「次のパスを読んだマーキングポジション」は秀逸です。ということで、ベルマーレトップの、高田と坂井は、ほとんどノーチャンス・・ってな具合。

 総合力では確実にヴェルディーの方が上。ただ、そのことを良く知っているベルマーレも、まず守備を安定させ、数少ないチャンスを生かす・・という「イメージ的なゲーム運び」について、チーム内の意志が統一されていることを感じます。

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 後半も、前半同様、ヴェルディーがイニシアチブを握り、ベルマーレがカウンターのチャンスを狙う・・という展開。それでも全体的な試合内容はカッタルイ、カッタルイ・・

 特にヴェルディーの攻撃に、ここ数試合で見せていた鋭さがありません。ゆっくりとした展開から、急にテンポアップするなどの変化がほとんど見られないのです。ベルマーレが守備を強化したゲーム戦術で臨んでいることもあるのでしょうが、とにかくボールの動きがカッタル過ぎるのです。これじゃ〜〜

 ベルマーレ守備陣にはまだ綻びがありませんから、ヴェルディーの攻めは、どうしても「個人勝負」主体になってしまっています。ある程度までは、鋭いボールの動きを主体にした「組織プレー」で「攻撃の起点(攻撃ゾーンでのフリーでボールを持つ選手)」を演出しなければ、ココゾッの「個人勝負」も生きてこない(効果的な個人勝負シーンを作り出すこともできない)・・

 フリーキックからの、ヴェルディー、山田の先制ゴールの後ですが、そこでもベルマーレの基本的なゲーム運びに変化はありません。もちろん少しは攻撃的になりましたが、それでも、「前後」の人数とポジションが崩れないのです。ここら辺りにも、ベルマーレがチームとしてまとまってきていると感じます。

 それには、レッズから移籍してきた堀が大きく貢献しています。ボランチの彼が、常に「前後のバランス」をイメージした仕事をしているから(決定的なチャンス以外、基本的にはあまり上がらずに中盤の「穴埋め役」に徹している!)、以前のように、互いの(ポジション的)バランスがバラバラになってチームが崩壊するようなこともなくなったと思うのです。

 とはいっても、基本的な技術的、戦術的、身体的な能力では、明らかにヴェルディーの方が上。それに対抗して、ある程度は「互角の」サッカーが展開できるようになったベルマーレ。全体的には、進歩の後がうかがえる・・というのが、この試合でのポジティブな発見でした。

 今回は、これ以上書くことはないのですが、最後に、ヴェルディーのボランチ、「リンリン・コンビ」の一人、小林について。

 彼は、非常に才能に恵まれた選手です。ちょっと身体的に華奢な印象は受けますが、ボールの持ち方、パス&スペース感覚など、本当にほれぼれさせられるシーンを連続的に演出します。

 ボランチになったことで、基本的には「受け身」の守備が「戦術的な義務」になったことも、彼の創造性が伸び続けていることの大きな要因だと思います(コーチングスタッフの英断に拍手!)。サッカーネーションでもよく言われることなのですが、サッカーでは「守備から入る」という意識が、「才能のある選手」を育てるのです。

 ただ全体的な「活動量」については、まだまだ不満が残ります。守備では、効率的プレーのベースになる「読み」を基本にすることはいいのですが、ボールがないところでマークし続けるプレーなどの、目立たない「縁の下・・」の守備プレーに問題があります。また攻撃でも、もっともっと多くボールに触ろうとする姿勢に重要な課題が見え隠れします。

 彼ほどの才能なのですから、(目立たないプレーも含め)攻守にわたって、もっともっと積極的にプレーすることで、確実に、世界でも通用する選手に育つに違いありません。逆にいえば、そんな原則を怠れば「ハイ、それまでヨ」ってな具合に「才能の墓場」へ一直線・・ってなことにになってしまうに違いありません。

 ここいらでもう一度「良い選手」の意味を深く考え、日本全国のサッカーコーチたちが共有できる「育成イメージ」を再確認してみようではありませんか・・



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