湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十五節(1999年5月29日)

ヴェルディーvsマリノス(1-0)

レビュー

 伝統の一戦はもう過去のもの?! 消化試合とはいえ、わたしは、当時の「ゴールデンカード」の当事者の一人として大いなる期待をもって競技場へ足を運びました。入場者数は、17846人・・この試合の性格からすれば、まあまあの入り?!

 「J元年」から1998年までの戦績では、マリノスが「13勝9敗」とリードしています。自分のデータベースを拾い、そんな結果になっていることを話したら、わたしの横に座る後藤健生に「それで、この試合はどうなるんですかネ・・」なんて質問されてしまったりして。

 そんなこと分かんないヨ。アタリマエじゃネ〜〜か! データベースで予測できるくらいサッカーが単純なボールゲームだったら、トトカルチョの本を書くよ。データベースは、データを基にした現象的な「サッカー分析」のためにあるんだから。それでも、本当に「過去のデータ分析」で「現在の勝負」についてある程度の予測ができてしまったりして・・チョット考えてみようかな・・などと、スケベ心を出している湯浅でした。

 ヴェルディーではディフェンスの山田と林、そして今シーズン大幅に復調した石塚がケガということで出場していません。またマリノスでは、まだ中村俊輔がリカバーできていません。さて・・・。

 序盤の試合展開は完全にマリノスペース。ヴェルディーでは主力が欠けている・・?! それは言い訳にはなりません。とにかくヴェルディーの基本的な運動量、活動量が、目立って少ないんですから。主力が欠けているからこそ、もっともっと積極的なサッカーを展開しなければならないのに・・。

 特に中盤の「才能」、小林。そこそこ安定しているボランチのタスクは別にして、攻撃での彼のプレーに不満がつのります。たしかにボールを持てば「世界」を彷彿させます。ただ、ボールを持つまでのプロセスがカッタル過ぎる。

 基本的に、『省エネ?!』の「ウラ取り」しか狙っていないんですかネ。チームワークの中での組立にも絡まなければ(シンプルなつなぎプレーへの積極的な関与のことですヨ!)、チームが決定的なシーンを演出することだってかなわないじゃありませんか・・。いったい彼は、どんなイメージでサッカーをやっているんでしょうか、一度ジックリと聞いてみたいモノです。

 今週号の「2002」でも小野について書きましたが、何故日本では、「才能」のダイナミズムが「極端」に低調なんでしょう(積極的なボールをもらう動き、展開パスやワンツーなどのシンプルプレー、そしてボールがないところでのクリエイティブな無駄走り・・など)。これはもう体質的なものとしか言いようがない?!

 日本が世界に抗していくためには、彼らのような才能が、ジダン、デル・ピエーロ、レオナルド、リバウド、ボバン、ダビッツ、そして中田などのように、もっともっと運動量多く、ダイナミックに(オレが攻守の中心になるんだ・・という積極的な意識をもって)プレーしなければならないのに・・

 ただ試合は、25分を過ぎたあたりからやっとヴェルディーも、攻撃に参加する人数が多くなるなど、ペースを上げてはきました。不満はありますが、少しはゲームが「サッカーらしく」なってきたことは確かです。「やっとかヨ・・」ってな具合かな・・

 マリノスでは、バウベルが調子を上げています。縦横無尽に動き回るなど、とにかく多くボールにタッチしようとする高い意識を感じるのです。わたしにとっては、フリューゲルス時代の「持ちすぎ」「守備をしない」「自分勝手」などなどの「ネガティブ・イメージ」が強く残っていましたから、ホントに格段のイメチェンです。

 後半も、マリノスがペースを握り、ヴェルディーが、たまにカウンターを仕掛けるといった展開。このカウンターですが、やはりそこは能力レベルが比較的高い選手が集まっているヴェルディーですから、ある程度は「危険なニオイ」を感じさせるところまでは持っていきます。

 そんなことを思っていた矢先の後半13分。逆に、ヴェルディーのコーナーキックを逆手に取ったマリノスが、そこからのカウンターを見事に決めてしまいます。最後はゴールではなく、右ポストを直撃するシュートでしたが、全体的な(相手ゴールに迫る)スピードといい、ボールの展開コースといい申し分のない「これぞカウンター!」という見事な攻めではありました。

 やはり、守備が格段に進歩している現代サッカーでは、(なるべく高い位置でボールを奪い返し、相手守備が整わないうちに)「少ないボールタッチで素早く相手ゴールへ迫る」というのがもっとも効果的な攻撃・・ということなのでしょう。

 残り15分の攻防は、ある程度は面白かったのですが、それにしても両チームともに、相手守備ラインのウラを突けない。パス出しのタイミング、そして決定的スペースへのフリーランニング。その両方のタイミングがシンクロしていないということなのですが、これはひとえに、最終勝負を仕掛けるときの「タメ」、つまり有効な「攻撃の起点(最終勝負ゾーンでフリーでボールを持つ選手のこと)」ができない、また勝負の場面での決定的なフリーランニングに対する意識が低いことによるのでしょう。

 もちろん両チームの最終守備ラインが強く、先を読んだポジショニングで対処されてしまうということもありますが、それにしても、最終勝負を仕掛けるタイミングを計る・・という場面さえも作り出せないのでは・・。

 そして延長前半2分、「単独勝負」によって勝負が決まってしまいます(こんな試合展開では典型的?!)。「元」マリノスの山田が、一念発起して後方からのドリブル勝負を仕掛け、ロングシュートを決めてしまったのです。たしかにゴールを決めた山田の、「ココゾ!」のドリブル突破、そしてシュートは素晴らしかったのですが、これで、試合全体のカッタルい印象が払拭されたわけではありません。

 両チームともに、もっともっと「仕掛け」なければ・・(マリノスの方が「比較的」積極的に仕掛けてはいましたがネ・・)。たしかにそれは「リスク」ではあります。ただ、リスク・チャレンジのないところに進歩もないし、世界にもつながらない・・ということを心底再認識して欲しいモノです。

 観客がプロサッカーに求めるのは、リスクヘッジばかりを考えた、「斜に構える経済サッカー(彼らに言わせれば、クレバーなサッカーってことなんでしょうがネ・・)」なんていうものではないのです。

 エスパルスが敗れたため、「再生中」のヴェルディーが二位になりました。基本的には「クレバーで確実な守備」をベースに、少ないチャンスをモノにしていく・・といった構図ということになるでしょうか。ただ、観客にとってもっとも大きな「価値」である魅力的サッカーという意味では、まだまだ大きな課題をかかえています。

 ヴェルディー全盛期の、運動量が多く、ボールが素早く、広く動くようなダイナミックなサッカー。チームプレーと個人勝負プレーが素晴らしくバランスし、調和のとれた強さを発揮するサッカー。今のヴェルディー選手たちの「基本的能力」を考えれば、彼らにはそこまで期待してもよさそう・・と感じている湯浅です。セカンドステージが楽しみになってきたじゃありませんか・・



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