湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第四節(1999年3月27日)

ヴェルディーvsアントラーズ(2-1)

レビュー

 冷たい雨が降り続く国立競技場。それでも二万弱の観客が入りました。また、日本テレビ系列での全国放送もあります。選手たちは、いやが上にも「気合い」が入ろうというもの。そして実際に試合は、ものすごくエキサイティングな展開になり、結局(多くの幸運があったとはいえ)ヴェルディーが、勝ち点「3」にふさわしい内容でビクトリーを「勝ち取り」ました。

 先々週のコラムで、かなりヴェルディーを叩いた湯浅でしたが、この試合の内容はまるで別チーム。何か強烈な「刺激」があったのかも・・?!。

 確かに先々週のセレッソ戦では、勝利は収めたものの内容は「??」のオンパレード。選手たちも、勝利とは関係なく、何となく不満が残ったに違いありません。その試合のコラムの内容は、結果はついてきたけれど、プレーのプロセスで「共通の意図」が見えない場当たりサッカーでは先が知れている・・、良い選手はいるのだから、しっかりとしたアクティブサッカーの共通イメージを早く作り上げて欲しい・・ってな内容でしたかネ。それがこの試合では既に見えてきていた・・?!

 ヴェルディーは、アントラーズと長年のライバル関係にあります。それでもここ数年は「ブランドイメージ」で水をあけられっぱなし。

 アントラーズといえば、常にチャンピオンを狙うチーム。それに対しヴェルディーは、「過去の栄光におんぶにダッコ」。そのくらい、両チームの「ブランド・パワー」には差が出てしまっていたように感じていたのです。

 そんなこともあり、選手たちは、「挑戦者」という意識ではなく、「ヨシ、この試合でオレたちの本当のキャパの高さをヤツらに教えてやるゾッ!!」ってなことを思っていたのかもしれません。選手が変わったとはいえ、何せ一世を風靡した「ヴェルディー川崎」なんですからネ・・。会社は倒産しても「ブランド(マインド)は死なず・・」ということなのです。そんなことが心理的な背景にあったと思うのです。(特に前半では)一つひとつのプレーに、ヴェルディー選手たちのレベルを超えた意識の高さと自信を感じさせられたモノでした。

 そんな「マインド」を象徴していたのが、昨年度チャンピオンを「内容で」完全に圧倒していた前半のサッカー。そのことはシュート数に如実に表れています。ヴェルディーの前半シュート数は「八本」。それに対し、アントラーズは、たったの「三本」。

 前半のヴェルディーを表現すれば、やっと「個」から「組織」へ脱皮した?! ということになるでしょうか。それまで辟易させられていた「ボールのこねくり回し」などほとんど見られず、逆に、中盤での、忠実、アクティブ、そして素晴らしくクリエイティブな守備からの、積極的な「ボールがないところでのプレー(フリーランニング)」と、素早く大きなボールの動きをベースにしたダイナミックな攻撃を展開するのです。

 その秘密は、例によって積極的な中盤守備にあります。中盤を制した者が勝つ・・。よく言われることですが、その意味は、中盤でのボールを巡る攻防、つまり守備で相手を圧倒するということです。そしてそれが、連鎖的に攻撃もアクティブにするのです。

 それ以前の試合では、ボールの動きがカッタルく(周りの選手の動きが緩慢で、ボールを持つ選手もこねくり回し過ぎ!)、相手に簡単に「次のボールの動き(パスコース、パスの受け手)」を読まれてしまっていたのが、この試合では、「J随一」のアントラーズ守備陣をキリキリ舞いさせてしまうようなシーンを何度も演出してしまうのです。

 中盤守備では、小林と林の「リンリン・コンビ」が光ります。特に林。それまでは「オレの守備の真骨頂は『読み』なんだヨ・・」ってな感じの、「忠実さ」に欠けるディフェンスで、たまに素晴らしいインターセプトを見せたかと思うと、フリーランニングをする相手を最後までマークし続けずに「自ら」墓穴を掘ってしまったり・・と、ディフェンダーとしては致命的な「不安定さ」だけが目立っていたのですが、ここのところの「忠実・クリエイティブ・安定プレー」に、チーム内での「信頼感」が深まってきているように感じます。まあ、もう少し観察してみなければ分かりませんがネ・・。

 次に小林。学生プロの彼ですが、この試合から(?!)明確に、ボランチポジションをスタートラインにプレーするようになりました。そして、そこそこの安定度。それは、「インテリジェンス」も含めた彼の能力の高さを証明するプレー内容ではありました。もちろんまだまだ課題はかかえていますが、彼が「中盤の底」に定着できれば、「ボールを奪い返す頻度が一番高い場所」からの展開が、より効果的なものになること請け合いです。

 さて、いつも通りの効果的な活躍を見せる北沢ですが、その安定度は「例によって」抜群。我々コーチは、彼のような存在を「計算できる選手」と呼びます。つまり、この試合のような素晴らしく効果レベルの高いプレーを続けても、それが「アタリマエ」になってしまい、どうしても注目度が低くなってしまうというわけです。ということで次の選手に対するコメントに移りましょう・・ゴメンネ、キーちゃん。

 さて、私がこの試合で最も注目した選手の登場です。そうです、「寂(サビ)れた天才」、石塚です。はじめて先発出場した今日の彼のプレーを見ていて、私は「前言を撤回」しなければならなくなったと感じたモノです。前言とは、「彼は、既に片足を『才能の墓場』に突っ込んでいる・・」というものです。

 それまでの彼は、確かにボールを持てば「才能の宝庫」を感じさせるのに、あまりにもチームプレーに怠惰だったことで、総合的なチーム貢献度では「邪魔」と言わざるを得ない存在でした。守備はしない、できない、ボールがないところでの動きが緩慢だし、ボールを持てば無駄なこねくり回しで、良い攻めの流れを中断させてしまうことが多い・・などなど。ところが・・。

 素晴らしいポストプレー(クサビパスの処理)、ボールがないところでのアクティブな走り(特に才能選手は、待つのではなく、自ら多くボールに触ろうとすべき!!)、シンプルなつなぎプレーと要所をわきまえた「個人勝負プレー」との優れたバランス、そしてビックリするくらいアクティブな(・・になった?!)守備参加(彼の、ボールを持つ相手の可能性を縮めてしまうチェイシングが、後方の『リンリン・コンビ』の読みベース守備をより効果的なものにした!!)。

 一体、彼に何が起きたのでしょう。たぶん想像を超える「刺激」があったに違いありません。例えば「怒り」、「憎しみ」などの「ダークサイド心理パワー」を活性化させるような刺激が・・。

 サッカーネーションでは、考え違いした「才能」を「更正」させることほど難しいことはない・・とよく言われるのですが、石塚の場合、本当に「豹変」と言えるほどの、ポジティブなイメージチェンジ・・。この試合でのポジティブなプレーイメージの発展に対する努力を怠らないことを願って止みません・・。

 この試合でのヴェルディーは、確実に良い方向へ向かっていることを証明しました。そのベースは、上記の個人的、チーム的な「パフオーマンス・アップ」。「刺激」、石塚の先発決断なども含めたそれら全てについて、李総監督の功績を認めなければなりませんネ。彼はプロコーチとして、良い仕事をしているようです。

 さてこれで、もう一つ楽しみなチームが増えたじゃありませんか・・。



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