湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第八節(1999年4月24日)

エスパルスvsジュビロ(2-5)

レビュー

 静岡勢同士のライバル対決。優勝争いとしても興味の尽きないゲームです。

 試合は、立ち上がりから大迫力の中盤での主導権争い。両チームともに、中盤での素早いボールの動きに特徴があります。その特徴を、まず「消す」というゲーム戦術なのでしょう。どこまで、このハイペースを維持するこどができるのか・・。

 エスパルスは、例によって森岡を中心にしたラインスリーバック。そして左にアレックス、右に安藤のサイドアタッカーです(アレックスは、どちらかといえばウイングバック的・・より攻撃的)。そして、サントス、田坂、はたまた伊東などが、サイドバックが上がったスペースをケアーします。また攻撃では、長谷川をワントップに、後方から澤登(ちょっと後ろ気味・・1.5列目なんていったりするんですかネ・・)、伊東、はたまたアレックス、安藤などがどんどんと、最前線の「決定的スペース」を狙って飛び出していきます。この「タテのポジションチェンジ」が彼らの真骨頂といったところです。

 対するジュビロは、例によってフォーバックの前に、福西と名波のダブルボランチ。そして奥と藤田が左右の二列目で、川口と中山のツートップです。とにかくジュビロでは、名波の、攻守にわたる鬼神の活躍が光ります。彼は、日本を代表するボランチにまで成長を遂げようとしています。ここにも、ドゥンガの隠された功績が見え隠れ・・。

 (名波と同様)足が速くないドゥンガは、ある意味では、読み(インテリジェンスと強烈な個性・意志がベース)、リーダーシップ、ファイティングスピリットだけで世界の頂点を極めた男だともいえます。もちろん名波には、まだその部分では物足りなさも感じますが、その総合的なキャパの高さに、レベルを超えた期待感がつのる湯浅です。

 何といっても、チームの中でもっとも重要なポジションは、攻守の要、ボランチですからね。

 さて試合。最初の頃は、エスパルスが押しているように見えたのですが、逆にジュビロの、チャンスと見た状況での(カウンター気味の)押し上げも圧倒的な迫力。20分を過ぎたあたりから、そんなジュビロの「危険な雰囲気」に、エスパルスが、ちょっと「心理的」に注意深くなってきつつある気配を感じていました。

 そんな状況での、何とタイミングの良いエスパルスのPK。これは、アレックスの(絶対的な自信を背景にした)ドリブル勝負能力に拍手です。澤登の、スーパーな「リラックスPK」。23分のことです。

 その後は、連続的に攻守ところを変える素晴らしくエキサイティングな内容。とはいっても、両チームともに、相手最終守備ラインのウラの「決定的スペース」をうまく突くことができません。ジュビロ、エスパルスともに、守備での集中レベルは最高レベル。素晴らしい・・

 さて、大きく期待感が高まる後半がはじまりました。

 ただ展開は、前半同様に、中盤での「忠実・クリエイティブ」なせめぎ合い・・。両チームともに、相手のウラを突くことがままなりません。

 ただそんな膠着状態が続いていた後半14分、エスパルスのちょっとした「集中ミス」から、ジュビロが同点ゴールを挙げてしまいます。

 右サイドから展開したジュビロの久藤から、エスパルスゴール中央で待ち構える福西へ素晴らしいセンタリングが上がり、そのまま彼がヘディングゴールを決めたのです。この同点ゴールシーンですが、その最後の瞬間、福西には正しいマークが付いていませんでした。

 エスパルスのディフェンダーは、センタリングが上げられた瞬間、福西の「前と後ろサイド」にポジショニングをしていたのですが、福西とゴールを結ぶライン上には誰もいなかったのです。そして、久藤から上げられたセンタリングが、まず福西の前にいるディフェンダーの頭の上を越え、福西のアタマにピッタリカンカンに合ってしまい万事休す。

 これは、(センタリングが上げられる直前)ちょっと後方から「前へ出た」福西に対し、(前へ出る前までは)しっかりとマークポジションにいたエスパルスのディフェンダーが、ほんの一瞬「ボールを見てしまった(ボールウォッチャーになってしまった)」ことで、その動きに付いていけなかったからなのでしょう。

 ほんのちょっとした「集中切れ」。それが勝負を決めてしまう・・。レベルの高い試合だからこその「勝敗の分岐点」ではありました。

 その後のPKを取られたシーン、追加点を入れられたシーンもそうでしたが、エスパルスの、決定的な動きをする(決定的なポジションにいる)相手選手に対する「最後の瞬間でのマーク」が、時間を追うごとに甘くなっていったと感じます。

 その追加点のシーンですが(この試合のベストゴール?!)、タテパスを出したジュビロ選手に対するプレッシャーが甘い(簡単にタテパスを出させてはダメ)・・、最初にペナルティーエリアでタテパスを受けた川口へのマークが甘い・・、そして逆サイドからゴールを決めた中山は全くフリー!!

 試合を決めたのは、この追加点。その後のジュビロの追加点は、ゲーム展開からすれば仕方のない出来事でした。

 試合全体としてのキーワードは、試合が進行して、選手たちの(肉体的・精神的な)疲れが出てくる時間帯における「忠実で決定的なボールがないところでのプレー」、そして「最後の瞬間の『守備における』集中力」・・といったところでしょうか。「それ」で、ジュビロが一日の長(僅差でも決定的な差?!)を示した試合だっというわけです。

 それにしても、攻めに入った状況でも、選手の、グランド全体的な(特に前後の)ポジションバランスを崩さない・・、ボールの動きが衰えずに、忠実にグラウンドを広く使い続ける・・、そして目立たないホンモノの「ボールがないところ」での勝負所における(彼らはそれを感覚的に理解している!!)最高の集中力・・、そんなジュビロの「ディ〜〜プな強さ」が証明された試合でした。

 私は、限られた財源の中で頑張っているエスパルスを(彼らのやろうとしているサッカー内容を)支持していますから、ちょっと残念ではありますが、彼らには、最善を尽くして踏ん張り続けて欲しいと思います。最後は、内容が、人々を惹き付けるのですから・・



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