湯浅健二の「J」ワンポイント


1997年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー・プレビュー
ここでは、各ラウンド(節)の注目カードをピックアップし、私が実際に見たゲームのレビュー、またできればプレビュー(みどころ予想)もやりたいと思います。

●第一節
●第二節
●第三節
●第四節
●第五節
●第六節
●第七節
●第八節
●第九節
●第十節
●第十一節
●第十二節
●第十三節
●第十四節
●第十五節
●第十六節
●第十七節

第一節(1997年7月30日)

ジェフvsレッズ(1-0)

レビュー

「大きなチャンスが、2-3度あったが生かせなかった。こうした試合に負けるのはとても悔しい」。試合後のレッズ、ケッペル監督のコメントですが、この悔しさは選手も同様。決定的チャンスをものにできなかったことの結果はつねにきびしいものなのです。そんなことは、ピュアプロフェッショナルの集団である彼らのことだから心底理解しているとは思いますが・・・。

最前線のプレースピードが、相手の厳しい守備でスローダウンさせられてしまう傾向はありましたが、ケッペル監督のコメントにもあったとおり、試合の内容はレッズのものでした。ブッフバルトの「上がり過ぎプレー」もあまりなく、土橋との守備的ハーフコンビはうまく機能していました。また、永井の積極ディフェンスプレーも特筆もの。この三人は、中盤での「ジェネレーター機能」を十分に果たしていたとすることができます。ただ最前線の福田と岡野がうまく機能していませんでした。彼らは、「一番前」でボールを受けようとし過ぎだったと思います。それも二人ともですから、結果として、相手ゴールキーパーと最終ディフェンスラインのあいだの「決定的スペース」を突くことが難しくなります。「タテのポジションチェンジ」がもっとも効果的な方法ですからね。福田か岡野が一度「下がって」パスを受けることでマークの相手を「引き出し」ます。そして、相手最終ディフェンスライン周辺にできた「スペース」を、超速ターンした福田・岡野だけではなく、ベギリスタインや永井、土橋やブッフバルト、はたまた両サイドバックなどの、後方から上がっていく選手が(フリーランニングで)利用するわけです。そんな「タテのポジションチェンジ」があまり見られなかったから、どうしても「最前線で詰まる」ような展開になってしまったというわけです。

対するホームのジェフですが、たしかに活動量はありますが、「速いボール回し」からの崩しなど、クリエイティブなプレーはほとんど見られず仕舞い。ボールの動きが、各ステーション(パスを受けた選手)で、いつも止まってしまうのです。これでは、守備ラインのウラを突くことなど望むべくもありません。その都度、守備ラインが、ポジションやマーク、インターセプト狙いのターゲットなどを「調整」することができますからね。ケガから戻ってきたマスロバルのパスは、確かに正確で危険なものなのですが、それだけ頼りでは何とも心許ない・・というのが私の印象でした。

今回は、両チームの「攻撃」にスポットを当て、簡単にコメントしてみました。この試合を見る限り、レッズの今後にはおおいに期待できますが、それに対しジェフは、かなりの調整が必要、という印象を持ちました。皆さんはいかが・・・???

第二節(1997年8月2日)

マリノスvsレッズ(0-2)

レビュー

イヤ〜〜、「サッカーは心理ゲーム」ということを地でいった試合でしたネ。

前半は、まるでサッカーになっていなかったレッズ。「悪魔のサイクル」をまったく断ち切れませんでした。原因はいろいろとありますが。そのもっとも大きな部分が、「中盤でのモビリティー」、つまり中盤でのプレーが消極的になり、攻守にわたって動きがなくなってしまったということです。もちろんマリノスの「押し込み」が厳しかったということもあります。このことについては、今日ブッフバルト選手にインタビューしたときにも、彼自身が言っていました。「前節負けているから、注意深く試合を始めることを心掛けたが、逆にマリノスがあまりにも積極的だったから押し込まれ過ぎてしまった・・」。また、同じく前節に負けているマリノスは、前半からフルパワーなのです。レッズも、前節は負けてしまったわけで(それも、内容的には「勝ち試合」をです)、彼らもまた、負けられない状態でこの試合に臨んだハズですが・・。とにかく、マリノスに「やられっぱなし」だった前半です。

特に、中盤のポジションに据えられた永井。また、日本のサッカーに馴染んでいないベギリスタイン。この二人のモビリティー(活発な動き)に問題がありました。それでもベギリスタインは、ボールを持てば、それなりのプレーをしていましたけれどネ(とはいっても、彼に対する期待値からすれば、まだ合格点とはいきません)。ただ、永井の場合は「戸惑い」が見ている方にもひしひしと伝わってきます。彼のプレーは、攻守にわたって「消極プレー」そのものだったのです。パスを出しても、次にリターンパスを受ける動き(パス&ゴーの動き・・フリーランニング)がまったくない・・。守備も中途半端だから、自分がマークしていたハズの選手にやられてしまう・・。そんなことの繰り返しでした。マリノスの方は、しっかりとした中盤での「モビリティー」から全員が積極的なサッカーを展開します。特に三浦。彼の積極プレーは特筆モノ。「あの」ブッフバルトを、フェイントで振り切って上げたセンタリングは、本当にスーパーでした。またバルディビエソも、ファーストステージとは見違えるほどのモビリティー(活発な動き)とクリエイティビティー(創造性)を発揮します。ということで、前半のシュート数は、マリノスの「10本」に対し、レッズは、たったの「1本」でした。これではどうしようもない。何かの「刺激」が必要な、前半のレッズでした。

そして後半。岡野にかわって「堀」が登場です。そして彼の攻守にわたる積極プレーによって、レッズが生き返ります。前半は「戸惑いプレー」に終始した永井は、最前線で、福田とコンビを組み、今度は、生き返ったような積極プレーを見せましたし、ベギリスタイン、ブッフバルト、土橋、それに両ウイングバックも見違えるほどのアクティブ・プレー。そして、先制「PK」を呼び込んだ、土橋からの、ベギリスタインへのスルーパスです。そんな彼らの積極プレーの「キッカケ」になったのが「堀」だったのです。とにかく彼は、攻守にわたって「スーパー積極プレー」を展開しました。一人でも、そんな「積極的」なプレーを始めたら、周りも「自信」と「勇気」を取り戻すものなのです。それにしても、素晴らしい。今日は、「堀」のことだけで終わりにします。彼については、私がコラムを連載しているオンラインマガジン「2002 Japan」でも掲載されます(今週金曜日)。是非、ご覧アレ・・

第三節(1997年8月6日)

ヴェルディーvsベルマーレ(1-2)

レビュー

ココ2-3日、チョット忙しかったのでアップデートが遅れてしまいました。水曜日に等々力で見た、ヴェルディー対ベルマーレのレビューです。

しかしヴェルディーはいったいどうしてしまったのでしょう。中盤でのクリエイティブな動きがまったくカゲをひそめてしまっています。サッカーの基本は「モビリティー(動き)」です。もっといえば、「クリエイティブ(創造的)なムダ走り」の積み重ねが、美しいサッカーの基本ともいえます。サッカーはパスゲームですから、「ボールのないところ」で勝負が決まってしまいますからネ。

何とかボールを素早く動かそうとトライする(つまりしっかり動いてパスを受けようとする)カズ。攻守にわたって、まだまだ活動性を発揮する北澤。そして右サイドで積極的なオーバーラップを見せる長田。ただ、彼ら以外は、まったくサッカーをやっていないのです(とはいっても、新加入のアルシンドはそれなりに頑張っていましたが・・)。特に、前園とジアスが悪い。本当に、ヴェルディーはどうしてしまったのでしょう・・。

この試合、「あの」勝負師、エスピノーザが前園を使い続けているということで、興味が湧き(もしかしたら心を入れ替えてアクティブサッカーをやっているかも・・)、彼のことをメインに見に行ったわけですが、前と何も変わっていませんでした。たまには「フリーランニング(自分から積極的にパスをもらうための動き)」を見せますが、それも単発。また、パスを出した後にダッシュするシーンはついに一度も見ず仕舞い(パス&ムーブはサッカーの原則=それがあってはじめて、クリエイティブで素早いボールの動きを演出できる)。もちろん守備参加も、以前同様の「アリバイ・ディフェンス」です。エスピノーザが彼を使い続ける意味が分からなくなってしまいました。もちろん前園の才能は「日本トップクラス」。そんなことは皆が知っています。ただそれも、ボールを持ったらのハナシ。ボールを「フリー」で受けられる場面がまったくないのですから(ということは、フリーランニングでパスを受けていないということ)何をか言わんや。エスピノーザは、前園の「ボールを持ったときの才能」に期待しているのでしょうが・・・。また新加入のジアスの出来もガタガタ。この前園、ジアスの二人で、中盤でもっとも重要な「モビリティー(活動性)」をつぶしていました。これでは良いサッカーが出来るはずがありませんし、勝てるはずがありません。北澤、カズ、長田などがいくら頑張ってもです。笛吹けど踊らずとはまさにこのこと・・?!

対するベルマーレも、決して良い出来ではありませんでした。両チームとも、中盤での「モビリティー」に問題をかかえていたというわけです。それでもベルマーレには「あの」中田がいます。全体としては彼の出来も満足できるものではなかったのでが、それでもボールを持った時の「決定的な仕事」はさすが。ヴェルディーは、この中田だけにやられてしまったといっても過言ではありません。

それにしても、衛星放送を通じ、「ライブ」で流れていたのがこの試合だけだったことを考えると、何とも腹立たしい試合内容ではありました。こんな試合をやっていたら、スタジアムへ足を運ぶ観客が少なくなって当然。まったく言い訳がたちません。もう少し、自覚をもってサッカーに取り組んで欲しいものです。彼らは、社会的な価値を生産しなければならない(突き詰めれば、一つの商品ということ)プロなのですから・・・

第四節(1997年8月9日)

アントラーズvsグランパス(7-0)

レビュー

いい天気だったから、カシマまでオートバイを飛ばしてゲームを見てきました。サッカー専用競技場、アントラーズ・サポーターなどなど、サッカーに必要な全ての要素を「包み込んだ」カシマスタジアムには、本当に「本場の雰囲気」がありますネ。それにしてもアントラーズは強い。ア〜〜、このままでは「J」の灯が消えてしまう、そんなことを思った試合でした。

この試合ではストイコビッチに注目しようと思っていたのですが、それもつかの間、開始早々からアントラーズがフルパワーで攻めたてます。そして9分。右サイドでボールを持ったジョルジーニョが、「例の」ピンポイント・センタリングの体制に入った・・。もちろんゴール前では、アントラーズの黒崎がフリーランニング(パスを受ける動き)です。それにしても、ジョルジーニョの「ピンポイント能力」に対する信頼はすごいですネ。それが「トップサッカー」の条件であり証明でもあるのですが、事実、その黒崎の「ニアポスト」へのフリーランニングに、本当にピタッとセンタリングが合ってしまうのです。そして先制ヘディングシュート。マークにも問題がありました。ジョルジーニョのセンタリングなのですから、とにかく1センチでもフリーにしないという覚悟でマークしなければならないのに・・。次がマジーニョです。彼のフリーランニングも特筆もの。スッと、相手守備ラインを抜け出るマジーニョ。しっかりとマークはされていましたが、それをうまくかわしたマジーニョにゴールラインまでボールを運ばれてしまいます。そしてラストパス。ビスマルクのゴールは、典型的な「ゴッツァン・ゴール」でした。

そしてその後はゴールラッシュ。終わってみれば「7-0」という大勝です。それにしてもグランパスの守備。4バックから3バック・・今度はその逆など、クルクルと守備システムを変更しています。この試合では、トーレスという守備リーダーがいないのですから、「マークの受け渡し」という難しいプレーをやらなければならない「4バック」ではなく、明確な「マンマーク」が基本の「3バック」で臨んだ方がよかったのに。結局「マークのズレ」で、何度もシュートチャンスを相手に献上してしまいます。ところで、マークのズレですが、それは、自軍ゴール前でフリーな相手が出てきてしまった場合に使う表現です。つまり、相手プレーヤーに対する「受け渡しマーク」がうまく機能しなかったということです。それはそうですよね。「タテ」にフリーランニングしている選手を簡単に行かせてしまうのですからネ。それも「後方の守備ライン」の人数が足りていないにもかかわらずです。グランパスでは、「受け渡し」をしていいゾーンと、「しっかりとマークを決めて、付いて行かなければならないゾーン」が本当にアイマイでした。これが「受け渡しゾーンディフェンス」の難しいところです。またグランパスでは、ベンゲル監督当時の、本当の意味での「ライン・フォー」守備ではなく、限りなくファジーな「4バック」でした。トーレスがいれば、「今は付いてこい」、「行かせていい」などの指示が飛んだハズ。また「決定的なスペース」もしっかりとカバーできていたはずです。まあ、2点先行されたところで、グランパス守備の集中がプッツリと切れてしまったことは確か。それはそうです。「あの」強いアントラーズを相手に、それも彼らのホームで2点も先行されてしまったのですからネ。この試合は、グランパス・ファンの方々には申し訳ありませんが、グランパスの「順当負け」という内容でした。それでもサッカーですから、こんなに調子の悪い試合もあれば、チーム力が「200%」にまでなってしまう試合もあります。今度は頑張ってほしいものです。

最後にアントラーズの強さの秘密について。前節までの試合、黒崎、長谷川、柳沢というスターたちがペンチを暖めていました。代わりに先発出場したのが、増田、真中です。「その時点で調子がいいと『監督である私が』判断した選手を使う・・」。チーム内のモラル・モティベーションは最高レベルにあるに違いありません。カルロス監督は、本当に良い仕事をしています。そして、そんな状態でも「不協和音」が聞こえてこない背景には、もちろん「あの」ジーコがいる、というわけです。

確かにジュビロ、ベルマーレなど調子を上げているチームはありますが、とにかく「安定感」という意味ではアントラーズが図抜けています。こんな強いアントラーズと対戦するチームには、本当の意味での「特別なゲーム戦術」を組んでもらいたいと思います。彼らの良さが「半減し」、自分たちパフォーマンスが「倍増」するような「ゲーム戦術」をです。次の節の相手はフリューゲルス。オタシリオは、守備戦術に長けた監督ですから、少しは期待がもてるかもネ。

第五節(1997年8月16日)

フリューゲルスvsアントラーズ(5-3)

レビュー

本当に、フリューゲルスvsアントラーズは「伝統の一戦」になりつつあると感じます。以前は、ヴェルディーvsマリノス。それが今は・・。変化のはげしいプロサッカーですから当然の現象です。おちぶれた「伝統の一戦」など誰も見たいとは思いませんよね。プロのビジネスなんですからそれでいいのです。「需要と供給」の関係、またマーケティング的な表現では「価値の創造レベル」で「本物しか残らない」というのがプロの体質というわけです。

それにしても、昨年、そして今年と、フリューゲルスvsアントラーズの一戦は、どれもエキサイティングそのもの。「これは日本プロサッカーの歴史に残る一戦・・」。フリューゲルス、オタシリオ監督の弁ですが、ゲームのペースを両チームが交互に奪い合うなど、まさに、内容的にどちらが勝ってもおかしくない「理想的なエキサイティングゲーム」でした。ただ、この試合に限っては、山口という「デイリー・ヒーロー」が出てきたフリューゲルスに軍配が上がりました。

もっとも面白かったのは、両チームの守備システム。フリューゲルスは「3バック」での「ストリクト・マンマーク」です。ストリクト・マンマークとは、はじめからマークする相手を決めて、守備となったら、できる限り同じ相手をマークするやりかたです。対するアントラーズは「4バック」。とはいっても、以前のグランパスがやっていた、最終守備ラインが一体となって前後左右に移動するような「ライン・フォー」ではありません。守備的ハーフの本田とジョルジーニョが、交互に「リベロ」のポジションに入ります。つまり、「リベロ」が上がった、変則的な「3バック」ということです。

アントラーズは、このフリューゲルスの守備のやり方に、最初はとまどいます。それはそうです。パスを回そうにも、まったく「フリーなパスの受け手」が出てこないのですからね。それでも、「足元」への強いパスからの展開はさすが。あの強烈な「マン・マーク」の中でも、しっかりとシュートチャンスをつくり出していました。「強いパスが重要」とよくいわれますが、それは「味方の足元」へのパスのことです。フリーランニングする味方への「スペース」へのパスは、もちろん「加減」しなければなりません。ハナシを元にもどしましょう。対するフリューゲルスの攻撃は、基本的には「カウンターアタック」。しっかりとマンマークしていますから、相手の「タテ・パス」をインターセプトするチャンスが多いのは当然。そして、そのパスをカット(インターセプト)した選手が(それが、どんなポジションの選手であれ)、そのままガンガンと攻撃に参加してくるのです。それは大迫力でした。

そんな両チームのサッカーは見応え十分。両者ともに、交互に「ゲーム・ペース」を握ります。アントラーズ攻撃陣の足が止まり、パスをインターセプトされ出したらフリューゲルスのペース。逆に、いくらタイトにマークされているとはいえ、「マークする守備選手を背負った状態での」ボールコントロールからの展開がうまくいき始めたら、アントラーズのペースです(多くの場面では、名良橋や相馬など、アントラーズ守備選手の攻撃参加が決定的な要因でした)。ただフリューゲルスの場合、パスカットからの攻撃参加で、悪いカタチでボールを奪い返されたら大ピンチに陥ってしまいます。マークが「ズレ」、その確認ができないままにアントラーズに攻め込まれてしまうのですからね(アントラーズの二点目がその典型でした)。それでも、そんな「危機状況」でも、多くのケースで、ブラジル現役代表の守備的ハーフ、サンパイオを中心に、うまく「マークを受け渡して」しのいでいました。

それにしても山口。昨日の彼の、思い切ったロングシュートには、世界レベルの「冴え」がありました。そんなシュートを打たれたら、守備ラインはたまりません。しっかりとした中盤選手の戻りがあれば、山口のシュートチャンスをつぶすことができたのでしょうが、多くの場面で、山口がフリーで上がってしまうケースが目立っていたのです。それでは最終守備ラインは混乱しますよね。山口自身も、膠着した状態での「ロング・シュート」の威力を再確認したに違いありません。

「肉を切らせて骨を断つ」闘い、ワールドカップ最終予選。最高の緊張レベルの中でゲームが膠着する。それは容易に予想できることなのですが、そんな膠着状態を打破する、というか、相手より一歩先んじるための(ゴールを決めるための)大きな武器の一つが「正確で強烈なロングシュート」であり、それこそ「いまの」全日本にもっとも必要なモノだと思います。トップの選手は完璧にマークされている。それでも、足元への強烈なパスを「落とさせて」ロングシュートを狙う・・。そんな「思いきりのいいプレー(つまり、チームにとってのポジティブな刺激)」が、悪魔のサイクルを断ち切るのです。

第六節(1997年8月20日)

マリノスvsジェフ(1-0)

レビュー

ゲームは、城のPKでマリノスの勝利に終わりましたが、20歳前後のプレーヤーを7人も投入して戦ったジェフは大健闘を見せました。それも、大黒柱であるマスロバルを欠いたゲームです。

大健闘の意味は、確かにシュート数ではマリノスに軍配が上がったとはいえ、試合内容でマリノスを上回っていた時間帯が確実に長かったという意味です。特に後半での、攻守にわたったアクティブサッカーは見応えがありました。同点ゴールは、その試合内容に見合うような、「勝ち取った」ものだったのです。

マリノスゴール前の「決定的スペース」へ、矢のようなフリーランニング(それも20-30メートルの長い距離!!)をする、松下、井上、酒井など「10代プロ」。そこへ、素早いボール回しから、ズバッとスルーパスが通されます。エキサイティングプレー。この10代選手たちをうまくコントロールしたのが、外国人選手、スコルテン、ボス、そして野々村、江尻などの中核選手たちでした。特にスコルテンとボスは、互いに「タテのポジションチェンジ」をしながら、攻守にわたって本当にダイナミックなプレーを展開しました。

対するマリノス。前半こそ、ジェフを押し込んでいましたが、後半は逆に「消極プレー」に終始し、ジェフに押し込まれる場面が目立ちます。一番の原因は「中盤の守備」。ボールを持つ選手に対するプレスが甘いだけではなく、周辺の「パスの受け手」に対する「インターセプト狙い」もパッシブなのです。これでは押し込まれても当然といったところ。また、野田と組んで、守備的ハーフのポジションを受け持つ上野。彼の「攻撃プレー」関する才能は誰もが認めるところなのですが、私が見た限り、守備においては、彼のところで「穴」ができるケースが多かったように思います。自分がマークする相手がボールを持っているケースでの守備プレーはいいのですが、相手が「ボールなし」の場合が問題。その選手が「フリーランニング(パスを受ける動き)」で勝負をかけてきた場合の守備に不安が残りました。簡単に「視線のウラ」を突かれて、走り込まれてしまうのです。これでは最終守備ラインはたまったものではありません。アッ、と思ったら自分の目の前にフリーな相手がいるのですからね。マリノスでは、この後、4人の代表組が抜けてしまいます。バルディビエソの出来も含めて、課題が残ったマリノスでした。

それにしてもティーンエイジャーたちの「自信にあふれたプレー」には驚かされます。もちろん課題も多いのですが、そのポテンシャルの高さに期待がふくらんだゲームでした。ジェフは若手の育成に力を入れていますが、その成果が徐々に出始めたようです。一般的にいって、これからの「J」では、若手の台頭がもっと目立ってくることは確実なことでしょう。それは直接的に、中堅、ベテランプレーヤーの「危機」につながるわけですが、若い頃から「プロ」という目標・見本があった年代と、そうでない年代のハンディーはどうしようもないもの。サッカーでは「イメージ・トレーニング」が非常に重要な要素なのですが、常に「トップ・イメージ」に刺激されて育っている若手によって「世代交代」が徐々に進行していく傾向は、今後とも、止まらないに違いありません。私個人としては、もっと中堅・ベテランに頑張って欲しいのですが・・・。

アントラーズvsジュビロ(1-0)
レビュー

この試合、私はテレビで見たので「ボールのないところのプレー」を全て観察できたわけではありません。テレビ観戦の場合、どうしても「視野」が限られてしまいますからね。ということで、限られた範囲ですが、この試合に関する印象を述べてみたいと思います。

ジュビロは、純粋ジャパニーズチームで試合に臨みました。対するアントラーズはベストメンバー。これでは・・・、というインプレッションだったのですが、試合がはじまってみると、そんな予想が裏切られます。とにかく、攻守にわたって積極的にプレーするジュビロ。すばらしい試合を展開します。立ち上がりは、アントラーズがタジタジといったところ。それでも自力にまさるアントラーズ。徐々に自分たちのペースで試合を進めるようになります。とはいっても、確実な「受けわたし・マン・マーク」をベースに、安定した守備を展開するジュビロの守備ラインを完全に崩すところまではいきません。逆に、ジュビロの、名波を中心としたアクティブ・カウンター攻撃は危険そのもの。押し込まれながらも、何度かアントラーズゴールに迫ります。

後半がはじまって5分。コーナーキックから、黒崎に先制点を許した後は、もうジュビロは「イケイケ」。全員がどんどん攻め上がってきます。中盤でクルクルと素早くボールを「動かし」(全員がアクティブに動いて、何本ものダイレクトパスを簡単につないでしまいます---素晴らしい!!)、機を見て、(名波などからの)ラスト・スルーパス・トライです。もちろん、そのスルーパスを受ける側の代表は、中山。素晴らしく積極的なフリーランニングを繰り返します。オフト時代から、ボールを動かすサッカーに長けていたジュビロですが、あの当時は、これほどリスキーなパスをトライすることはありませんでした。やはり、面白いサッカーは「ボールがよく動くサッカー」だということを再確認させられたゲームでした。対するアントラーズは、全員の足が止まり気味・・結果として「ボールの動きも停滞気味」になってしまっています。これではジュビロに押し込まれるのも道理といったところ。

ただそんな「消極的雰囲気」のなかでも、アントラーズの、「ココ一発」というカウンター能力は特筆モノ。やはり、ビスマルク、ジョルジーニョ、マジーニョ、黒崎、柳沢(長谷川)という才能をもっているチームは強いな、という印象が残ります。それほど、攻め込まれた状態からのカウンターに威力を発揮するのです。それが、終了間際の長谷川の二点目につながりました。もちろん、ジュビロの「攻め上がりすぎ」という判断ができないわけではありませんが、足が止まっているとはいえ、「ここが勝負!」となったときの爆発的な「動き」と「正確なリスキーパス」には王者の貫禄がありました。

これで全勝チームはいなくなってしまいました。また代表組が抜け、リーグ状況がもっと混沌としてくるに違いありません。ひと事ですが・・面白くなるゾ〜〜。

第七節(1997年8月23日)

ヴェルディーvsアビスパ(2-0)

レビュー

「走らない選手は使わない・・」。前節の試合内容に我慢まできなくなった、ヴェルディー、エスピノーザ監督の試合後の談話です。世界の一流監督の「走らない選手は・・」という単純な表現。やはりサッカーは、基本的には「走るボールゲーム」なのです。「効率的に・・」とか「頭を使って・・」とか、なにやら訳のわからないことを言うヤカラが多いなか、エスピノーザ監督の言葉は非常にわかりやすいですよね。

もちろん「ヤミクモに走れ」といっているわけではありません。サッカーは「クリエイティブなムダ走り」の積み重ねですし、それがなければ「美しいサッカー」を演出することなどできる相談ではありません。走らなくてもクリエイティブで美しいサッカーが出来る・・なんて発言をする選手やコーチは、前世紀の遺物といったところでしょうか・・。チームメートの「汗かきプレー」があってはじめて、創造的なプレーを実現することが出来るのです。

そのことが少しは分かってきたのでしょうか、前半の前園のプレーには「改善」を見ることが出来ました。彼はマラドーナではありません。やはり「チームプレー・組織プレー」に徹するなかで、彼の才能を表現するのが原則。それをやろうとする「意志」が見え始めたことに、ホッと胸をなで下ろしています。彼ほどの才能ですから、基本的な考え違いから「才能の墓場」へいってしまっては、日本サッカーにとっての大きな損失ですからね。

ただ試合内容は、全般的にはアビスパのものでした。積極的な守備をベースにした、中盤での活動的でクリエイティブなパス回しからのフィニッシュなど。シュート数にもあらわれているとおり、内容的には「アビスパのゲーム」だったのです。それでも、再デビューしたラモスの闘志が、ヴェルディーにツキを呼び込みました。

(後半は、例によって消えてしまったとはいえ)明らかな改善を感じさせる前園、闘志あふれるプレーでヴェルディーに活を入れたラモスなど、確かに、ポジティブな発見はありましたが、全体的には、ヴェルディーの「病根」が深いと感じざるを得ない内容でした。チームとしての「活動性」に明らかな問題が見えるのです。簡単にいえば、絶対的な「運動量」が足りないということですが、この「笛吹けど踊らず」の状態を改善するためにはまだまだ時間がかかるように感じます。エスピノーザ監督の手腕、ラモス入団のポジティブ効果、心を入れ替えた(?!)前園のアクティブプレーなど、そんな刺激で、いつヴェルディーが、再び「踊る集団」に変身するのか注目ではあります。

第八節(1997年8月30日)

フリューゲルスvsジュビロ(0-2)

レビュー

「スルーパスだ!!」。ボールを持った藤田が、右のオープンスペースへ走り抜けた中山へスルーパスを出す・・・、誰もがそう思った瞬間、ボールを持ちかえた彼は、そのままドリブルで突進する。中山へのスルーパスを予測したフリューゲルス守備陣の対応が遅れ、藤田は、ほとんどフリーでフリューゲルスゴールへ迫る。そして、ドリブルの「自然なステップ」の中で、まったく予想できないループシュート。ゴ〜〜〜ル!!

本当に素晴らしいゴールでした。楢崎もまったく反応できません。ゴールキーパーは、相手のモーションから次のプレーを予測します。藤田の「自然なドリブル動作」からのシュートは、それほど「相手の虚を突くモノ」だったのです。

この試合のヒーローは、何といっても、日本代表の「元」司令塔、ジュビロの藤田でした。攻守にわたった彼の鬼神の活躍は、全盛期をホウフツさせるレベル。長丁場のワールドカップ予選を考えると、本当に希望をいだかせる活躍でした。

試合は、二試合連続の黒星だったジュビロが、最初からフルスロットルで攻めたてます。攻めたてるとはいっても、その攻撃的なプレーのベースは、やはり守備。彼らの中盤での守備は特筆モノだったということです。ボールを持つ相手を、前線からチェイシングする。そして、苦し紛れのパスを出させ、そこにターゲットを絞っていた後方のディフェンダーが集中して「プレス」をかける。もちろん、90分間をとおしてそんなハードなサッカーができるはずがありません。彼らのやり方は、本当に「ツボ」をえたものだったのです。

それに対し、基本的なマーク相手を最初から決める「ストリクト・マン・マーク」で試合に臨んだフリューゲルス。最初は、自分のマークだけに気を取られ過ぎて、「ここダ!」という「プレス・チャンス」での「守備の集中」がうまく機能しません。ボールを奪い返すという「守備の目的」からすれば、非効率な守備でした。また、マン・マークにしては「インターセプト」も少なすぎました(パスカットを狙う『猛禽類の目』が欠けていた?!)。ただ後半にはいり、やっと、タイミングの良いプレスがかかり、ジュビロを押し込み始めます。もちろんプレスのためには、自分のマークをホッポリ出さなければならない、つまり「リスク」が生じるわけですが、「リスク」にチャレンジすることのない「無害サッカー」では何も始まらないことは歴史が証明しています。

ジュビロを押し込んでいたフリューゲルスですが、何本かの「決定的チャンス」をつぶした後、逆にジュビロに追加点を入れられてしまいます。そこでも「藤田」。古賀からのパスを受けた藤田は、タイミングの良いドリブル勝負でマークを振りきり、ゴールラインのギリギリから、ビッタシカンカンのセンタリングをアレサンドロのアタマに合わせます。このゴール、私は藤田にも「0.5点」をあげたいと思います。

アントラーズがレッズに勝ち、いぜん首位をキープしています。追うジュビロ、ガンバ。また、調子を上げてきたグランパスにも、「Jの灯を消さないために・・」という期待がかかります。また、日本代表が抜けたとはいえ、この試合に限っては、試合内容に大きく響いた・・という印象はありませんでした。他のチームでも、才能のある若手が「チャンス」を活用しています。どんどんと若い才能が出現してくる・・それが「サッカー文化浸透」の証です。代表選手が帰ってきても、自動的に与えられるポジションなどない・・、それがホンモノのプロの体質。さて、何人の「代表選手」がベンチを温めることになるのか・・注目してみようではありませんか。

第九節(1997年9月3日)

レッズvsグランパス(3-0)

レビュー

ここ数試合、レッズは、ストリクト・マンマーク戦術でゲームを闘っています。「ストリクト・マンマーク」というのは、最初から決まった相手を「できる限り」マークし続けるというもの。「トイレの中まで付いて行け!」というのがコンセプトです。そして最後尾には、特定のマークを持たず、カバーリング、フリーで上がってきた相手のマーク、サポートなどの「マルチ・タスク」をこなすブッフバルトが控えています。

先日のアントラーズ戦でも、この守備戦術がうまくいったと聞いています。結局、ビスマルクのフリーキック一発に沈んでしまいましたが、それでも、「あの」アントラーズを苦しめたことは特筆モノでした。

さて試合ですが、まったくフリーな選手が出てこないくらい徹底マークされたグランパス選手たちの「足」が止まりはじめます。例の「悪魔のサイクル」です。いくら走っても、確実にマークされている。フリーでパスを受けるところまでいけないグランパスの選手たちは、何度も、何度も走りますが、走るほどにフラストレーションがたまっていき、最後は「フリーランニング・トライ」に消極的になっていったのです。逆にレッズの方は、面白いようにボールを奪い返すことができます。それはそうです。足の止まっている相手の足元へのパスが多いというわけで、パスカットの予測も簡単ですからネ。そして攻撃にうつった「次のプレー」は、レッズの進歩を感じさせるものでした。それまでは、ボールを奪い返したら、まず前線へのパス供給、そして消極的な攻撃サポート・・、ということで、どうしても前線で詰まってしまっていたのが、ボールを奪い返した選手が、そのまま攻撃に参加するという戦術が徹底してきたことによって、攻撃に「厚み」が出てきたのです(つまり、攻撃の人数がある程度確保できているということ)。こうなれば、ボールがよく動き始めるのは道理。ボールがよく動くということは、「ボールのないところでの、選手の動きが活発」ということの証明ですからネ。

レッズの先制点は、「チキ」こと、ベギリスタイン。素晴らしいサイドチェンジからのゴールでした。右サイドから、中継を入れて、素早いパスが、左サイドの「チキ」へ送られます。彼は、トーレスと一対一。そのまま勝負してのゴール。素晴らしい。攻撃の目的は「相手守備の薄い部分を突く」というものです。右サイドに相手守備を集中させ、素早いサイドチェンジで、グランパス守備の薄い(人数の足りない)左サイドを突く。何ともいえない快感をおぼえる、スマートな攻めではありました。それも、しっかりと攻撃に人数をかけているからできる攻撃です。それまでのような、前線への「放り込み」とはかけ離れた「相手守備を撹乱する組立攻撃」。いいですね〜〜。

後半の追加点も特筆モノでした。それを演出したのは大柴。中盤からの素晴らしいドリブルから、フリーランニングで、決定的スペースへ走り抜けている「チキ」へラストスルーパスです。それも「あの」トーレスまでも抜き去ってしまうような「勝負のドリブル」でした。この追加点、わたしは大柴にも「0.5点」あげたいと思います。

「ストリクト・マンマーク」ですが、一般的にこれは、時代遅れの守備戦術と考えられています。相手を「受けわたし」、勝負の場面(ボールを奪い返せる、または相手がシュート体制に入れる場面)でのみ「密着マーク」するというやりかたの方が、より「経済的・効率的」で、アタマを使う、未来サッカーのやりかただと考えられているからです。それでも、自チームの選手の能力・特徴、相手チームの強さ、またゲームの意味(リーグ?トーナメント?)などを総合判断して、このような戦術をとるチームもあります。これは、サッカーの本場でも例外ではありません。「J」でも、フリューゲルスが、よく使っています。

集中を切らさずにアタマを使い続ける。そして「自分自身の判断と責任感」によって「その時点でマークする相手を捜し、最後まで付いていく」・・、そんな「受けわたしマーク」をベースにする守備方法は簡単ではありません。そこでは、最高レベルの「意識の高さ」が必要になってきます。ただ「自由度」は高くなりますし、攻守にわたったクリエイティビティー(創造性)・サッカーの質も向上するはずです。とはいっても、そんな傾向の中でも「明確な守備方法」である「ストリクト・マンマーク」はなくならないに違いありません。

第十節(1997年9月6日)

アントラーズvsヴェルディー(5-0)

レビュー

試合内容は、アントラーズの攻撃カルテット(柳沢、2得点の黒崎、同じく2得点のマジーニョ、スーパーラストパス連発のビスマルク)と、「あの」ジョルジーニョによる、前後左右のポジションチェンジ、素早いパス回しによって、ヴェルディー守備陣が振り回された試合でした。

それにしても、ヴェルディー守備の出来はひどいものでした。とにかく、「ここにボールが来る!(つまり、この相手にパスが回される!)」という予測をまったくしていないようにも感じてしまうのです。それほど、相手の攻撃選手に対するマークが甘く、どんどんフリーになってしまいます。ゴール前では「タイト・マンマーク」が原則なのに、そこでも、簡単にフリーな相手が出てきてしまいます。とにかく、アントラーズの攻撃カルテットは超一流ですから、(中盤の選手も含めて)マークが決まったら、よほどのことがない限り、最後までピタッと付いて行くべきでした。「ボクは『読み』で守備をするタイプなんだヨ・・」などという『素人』の発言が見えてくるような、高慢な守備姿勢でした・・。まあこれでは、ラモスが入って少しは「中盤でボールが動くようになった」ヴェルディーでも、上位へ登っていくことは容易ではないに違いありません。いくら、クリエイティブに攻めてゴールチャンスを作っても、何度もくり返す「決定的なマーク・ミス」で簡単に失点してしまうのですからね。

ただ、全体としては、(守備はのぞいて)ヴェルディーが一時期の「どん底」から少しずつ這い上がってきているように感じます。こんな大差の試合でもか〜〜?・・・てな声が聞こえてきそうですが、以前の、攻守にわたる「動きのないサッカー」があまりにもひど過ぎたから、そう感じられるというわけです。前園も、一時期から比べれば、ある程度は積極的に「ボールのないところでの動き」を意識していましたし、ボールを持った後も、何度か積極的に「リスク・トライ」を見せていました。

中村、柱谷などの守備の中心選手をケガで欠いているヴェルディー。攻撃では、ラモス、北澤、永井、アルシンドを中心に、良い面が見えてきているのですから(ラモス、北澤は中盤守備でも大車輪の活躍!)、何とか最終守備ラインを安定させなければなりません。そこで提案ですが、このメンバーでは「受けわたしマーク」は難しいと判断して、少なくとも3-4人は、最初からマークを決めた「ストリクト・マンマーク」で戦ってみてはどうでしょうか。フリューゲルスやレッズも、それで、調子を取り戻す気配を見せています。守備の基本は「(決定的場面では特に)相手をしっかりとマーク」するような「人を見るディフェンス」です。それをベースにしなければ、『読み』の守備などできません。大学やアマチュアでは、「基本的な」守備ポジショニング・ミスをしても、相手のパスミスに助けられるケースが多いものですが、プロではすぐに決定的チャンスにつながれてしまいます。そのことが如実に証明されたのが、今日のアントラーズ対ヴェルディーだったとすることができそうです。ヴェルディーには、(多分彼らの何人かが考えている)『ダサいマンマーク守備(それでも、これが基本!)』に立ち返ることで、守備の安定をはかってもらいたいモノです。「J」の灯を消さないためにも・・。

第十一節(1997年9月10日)

フリューゲルスvsマリノス(2-3)

レビュー

例によって、「ストリクト・マンマーク(最初から決められた相手を、出来る限りマークし続ける守備方法)」で試合に臨んだフリューゲルス。マークする相手のプレーに馴れるまでは少し苦労しましたが、リズムがとれてきてからは、マリノスを「悪魔のサイクル」に陥れてしまうくらい、この守備方法がうまく機能しました。基本的なフリューゲルスの戦い方は「確実に守ってカウンター」というもので。確かにシュート数ではマリノスに分があったとはいえ、勝負としては、勝ってもおかしくない試合内容でした。

対するマリノスは、フリーな味方が出てこないこともあって、徐々に足が止まってきてしまいます。例の「悪魔のサイクル」です。前の選手たちが、確実に「マンマーク」されているのですから、後方の選手たちが、彼らを追い越す勢いでオーバーラップしてこなければ、中盤でボールを素早く動かすような、クリエイティブな攻めはできません。前半の中頃を過ぎた頃から、簡単にボールを奪い返されるようになってしまうマリノス。そして前半37分。例によって、「足元への」パスをカットしたフリューゲルスは、戻り気味の山田へマークについていることで、右サイドの前線にポジションしていた薩川へ素早いパスを回します。彼は、チェックにきた松田を振り切り、余裕をもって、中央でフリーに待ちかまえる服部へラストパスです。服部のボレーシュートは見事でしたが、このゴールは、薩川に「0.7点」あげたいと思います。薩川は、マリノスの山田のマーク担当でした。山田は、薩川に密着マークされていることで、どうしても下がり気味になってしまっています。ということは、逆に、薩川が上がり気味にポジションをとっているということになるわけですが、そんな状況で、フリューゲルスがボールを奪い返すモノですから、薩川は、まるでフォワードというプレーを随所に見せました。

「ストリクト・マンマーク」では、ボールを奪い返した者、また、「その時点」で前線にいる選手が、そのまま「フィニッシュ」まで参加するというのが基本的コンセプト。同じ守備戦術をとり、最近とみに調子をあげてきている浦和レッズでも、基本的にはストッパーのオランダ人、ネイハイスがゴールを重ねています。すこし「オールド・ファッション」と考えられる「ストリクト・マンマーク」戦術ですが(今は、スリーバック、フォーバック、ラインフォー戦術など、どれでも『受けわたしマンマーク』が基本)、ボールを奪い返した者、「その時点」で前にポジションをとっている選手が、積極的に攻撃に参加するという「意識」が定着するならば、この「もっともシンプルで確実」な守備戦術も悪くない・・、そう感じています。最終的には、「受けわたしマーク(ゾーン・ディフェンスと呼ばれることもあります)」に移行していくとはいえ、そこでも最後は「人」を見なければならないことに変わりありません(まだまだ、オレは『ポジショニング』と『読み』で守備をするタイプなんだヨ・・・などという勘違いが横行しているのは問題です・・・)。その、「相手を捜し、積極的にマークし、決定的な場面では最後まで付いていく」という意識を植え付けるためには、プロセスとして、この「ストリクト・マンマーク」戦術も、効果がありそうです。

さて、試合にもどりましょう。前述したように、フリューゲルスのペースで前半が終わりましたが、後半は、守備的ハーフ、上野の積極的な攻撃参加など、マリノスが試合のペースを握り、フリューゲルスも、カウンターで応戦するなど見所が多い試合内容でした。そんななか、PKを決められなかったマリノスに、決定的なゴールチャンスが訪れます。それは、中盤から、ドリブルで攻め上がった上野がセットアップしたもの。彼は、ドリブルのスピードを落とすことなく、素晴らしいタイミング、コースのラストパスをサリナスに出します。右サイドでフリーになった彼が、そんなチャンスを逃すはずがありません。同点ゴール!!ただ、その後はフリューゲルスも押し返し、再びフェルナンドのヘッドシュートで突き放します。ただマリノスも、その4分後に、新人、岡山のゴールによって再び同点。ただ最後に勝負を決めたのは、再び登場の、「上野--サリナス」コンビでした。「ストリクト・マンマーク」の相手に対しては、「後方からの支援」がもっとも有効。また、前線の選手と後方の選手が「入れ替わって」しまうくらい、「タテのポジションチェンジ」を意識しなければ崩すのは難しいのです。それを実践した守備的ハーフ、上野。フリューゲルスGK、佐藤のミスキックを拾った岡野からのパスを受けた彼は、素晴らしいパスをサリナスに送ります。そのパスを、相手のチェックの動きを封じてしまうような「すばらしいコース」にトラップし、マークの股間を抜いてゴールを決めたサリナス。本当の意味で、勝ち取ったゴールでした。

それにしてもフリューゲルス。ジーニョが果たしていた機能の代わりをバウベルがやろうとしていますが、攻撃がどうもうまく機能しません。確かに、「ストリクト・マンマーク」戦術は正しい選択のように感じますが、前線での「タメ」など、攻撃では、ジーニョがいた当時の「クリエイティビティー(創造性)」が抜け落ちてしまっているように感じるのです。山口も抜けている状態では、厳しい闘いが続くに違いありません。彼らには、「ストリクト・マンマーク」戦術と「攻撃の意識」を、より磨くことで踏ん張ってもらいたいものです。

第十二節(1997年9月13日)

ヴェルディーvsグランパス(2-0)

レビュー

この試合、テレビでしか見ることができませんでした。ということで、限られた範囲ですが、インプレッションだけでもまとめたいと思います。

全体としては、ラモスを欠き、必死に守ったヴェルディーが「ワンチャンス」をものにして勝ち取った勝利だとすることができそうです。とにかく、この試合までのヴェルディーの失点ランキングは第3位。強いころのヴェルディーでは考えられない事態です。あの頃のヴェルディーの強さのベースは、何といっても「守備力」。異論はあるかもしれませんが、このことは事実だと思います。これは何もヴェルディーに限ったことではありません。あの「ブラジル代表」も含めて、強いチームのベースが「守備力」にあることはサッカーの歴史が証明していることなのです。それでは、守備の中心を全日本にとられている、マリノス、アントラーズがまだ勝ち続けていることを、どのように説明するのか・・という疑問がわいてきますが、勝ち続けているとはいっても、内容的には「安定感」に欠けるものです。長丁場のリーグですから、最後の結果には、そのことが確実に反映されてくるでしょう。

この試合のヴェルディーは、とにかく守備の安定を最優先させたようです。アルジェウを中心とする最終守備ライン(フォーバック)。三浦(兄)、菅原、北澤、永井の中盤プレイヤー達も、まず守備、という意識でプレーしていました。アルジェウも、この試合に限っては、まったく攻撃参加は見せません(テレビのレポーターによれば、監督から『絶対に上がるな!』と言われていたとか・・)。前節のガンバ戦、0-5で惨敗したアントラーズ戦。そこでは、彼が上がった後の最終守備ラインの「弱さ」が露呈してしまったわけで、当然のゲーム戦術だとは思います。

そのアルジェウ、この試合では、「守備のリーダー役」として、素晴らしい守備プレーを披露するだけではなく、気合いの入った統率力も見せます。その一例が、前半の山田のマーキングミスに対する、「鬼のような顔」での文句でした。その剣幕は、レベルを超えたモノ。ストッパーの広長や北澤も必死でアルジェウのことを止めに入っていました。そのことが刺激になったのでしょうか、それからは、ほとんどマークがズレることなく、フリーになってしまうグランパスの選手がほとんど出てこなくなりました。とはいっても、試合全体でペースを握ったのは、攻守の切り替えが非常に早いグランパス。とにかく、中盤でのアクティブ守備からの、素早いボール回しと、素晴らしいサッカーを展開しました。ヴェルディーの、ペナルティーエリア付近までは・・・。

対するヴェルディー。守備の意識が高いのはいいのですが、それが「心の重荷」になってしまっていたのでしょうか、守備から攻撃への切り替えは「鈍重」。チャンスに、我を忘れたフリーランニングで攻撃参加する選手が少なすぎました。それでは、いくらアルシンドが前線でボールをキープしても「次」につなぐことはできません。前の試合では、攻撃に心を奪われ過ぎ。そしてこの試合では守備に・・。そのバランスがとれてくれば、また強いヴェルディーが蘇ってくるにちがいありません(そう期待したいものです・・)

ただ、ペースを握ったグランパスでしたが、どうしても、最後のシュートチャンスに結びつけることができません。それは、ヴェルディー守備陣が非常に厚く、最後まで集中を切らさなかったことと、グランパス最前線の選手たちの「リスク・チャレンジ」の決定的フリーランニング(ラスト・パスを受けるための動き)があまり見られなかったからです(ピンポイント・センタリングを呼び込むような『ゴール前での決定的フリーラン』もありません)。しっかりとマークされていたこともあるのですが、とにかくグランパスのトップの選手たちは、ヴェルディーの最終守備ラインとGKとの間の「決定的スペース」を、ほとんど活用できていませんでした(そのスペースに入り込む決定的フリーランニングなど)。これでは、攻撃を跳ね返されるのも道理。『彼』がいるといないのでは、最前線プレーヤーの、決定的スペースへの飛び出し頻度にこんなにも違いが出てきてしまうのでは、「ストイコビッチがいない・・」と揶揄されても仕方がありません。中盤では、攻守にわたって素晴らしいプレーを展開しているのに・・。

レッズvsジュビロ(0-1)
レビュー

素晴らしい!!

こんな、エキサイティングでハイクオリティーなゲームが続けば、「J」の繁栄は間違いない・・、そんなことを感じさせたゲームでした。

試合は、「例の」オールコート・ストリクト・マンマークのレッズと、ドゥンガを中心に、積極的で攻撃的な「受けわたし・マンマーク」を展開するジュビロが、ガップリ四つ。とにかく、両チームがゲームのペースを奪い合う、スーパー・エキサイティングゲームでした。オールコート・ストリクト・マンマークとは、最初から決められている相手を、できる限りマークし続けるという、少し「オールド・ファッション」の守備戦術。対する、受けわたしマンマークは、ゴールに遠いゾーンでは、マークの相手を受けわたし、ゴールに近くなったらハードなマークで最後まで付いていくという、現在主流の守備戦術です。これは「ゾーン・ディフェンス」という分かりにくい呼び方をされることもあります。ただ、ゾーンを守る守備など存在しません。どんな守備戦術にしても、最後は「人」を見る(マークする)ことには変わりはないわけですから、私は、ゾーンディフェンスをという、ファジーな呼び方はキライです。

さてレッズですが、後半の中盤からペースを握ったジュビロの波状攻撃でも、最後まで「決定的な場面でフリーな相手が『あまり』出てこないような」彼らの守備は感動モノ(とはいっても、最後の最後で、西野のマークを巧みに振り切った藤田にVゴールを決められてしまいましたが・・)。もちろん、ストリクト・マンマークとはいっても、「決められたマーク」が変わってしまうこともしょっちゅうです。それは、ボールをもった相手にマーカー役が抜かれてしまったり、マークの「ウラ」を突かれて置き去りにされてしまうような「緊急事態」ですが、そこには、リベロ(特定のマークを持たない、最終守備ラインのリーダー)、ブッフバルトが控えているだけではなく、「緊急事態」だと判断し、自分のマークを放り出してでもカバーリングに入る別の選手がいます(この意識が積極守備のベース)。また、抜かれたり、マークを振り切られてしまった守備プレーヤーも、それで足を止めることなく、味方守備選手がカバーリングに入ったことでフリーになっている近くの相手をマークしたり(結果的にはマークの受けわたしをしたことになります)、カバーリングに入ったブッフバルト選手のポジション(リベロ)に入ったりと、とにかく最後まで、明らかに集中が切れるような場面を見ることは、ほとんどありませんでした。そしてチャンスとなったら、『その時点で前にいる』選手もガンガンと参加するカウンター攻撃です。それは、危険このうえないものでした。ただ、ジュビロを押し込んでしまうような、自分たちがペースを握る時間帯での攻撃では、どうしても前が詰まってしまいます。やはり、まだレッズは、カウンター(もちろん、イッパツのロングパスなどいう単純カウンターではなく、パスをつなぎながら、素早く相手ゴールへ迫るというカウンターのことです)の方が有効な攻めを展開できるようです。じっくりとした組立からの攻撃に課題が見えたゲームでした。

対するジュビロ。名波がいないとはいえ、ドゥンガを中心にした能動ディフェンスをベースに、とにかく素早くボールを動かす「積極オフェンス」を見せました。特にスーパー『ドゥンガ』。彼の、レッズにボールを奪われた場面での、カウンターの芽を摘み取ってしまうようなディフェンスと、「視線フェイント」を多用した効果的なタテパス、決定的なスペースへのロングパスなどは、エキサイティングそのもの。また、後半に見せた、タテへ抜け出る中山への、「ロング・ラスト・スルーパス」は秀逸でした(それも、ダイレクト!!)。全体としては、ジュビロの方がペースを握っていたとすることができるでしょう。

最後に一言。サッカーの守備では、ゴールから遠いゾーンでは、「ルーズ・マーク」や「マークの受けわたし」はOKですが、最後は「人」を見る、つまり、決定的なゾーンでは、フリーな相手が出てこないようにしっかりとマンマークし、最後までついていくのが基本です。確かに「オールコート・ストリクト・マンマーク」は、効率的な方法ではありませんし、ものすごい集中力と体力が必要です。それでも、この守備方法を続けていくことで、「積極的に相手を探し、必要な場面では最後まで付いていく」という「人を見る積極守備」の意識だけではなく、有効なカバーリングや、美しい積極守備のシンボルである、インターセプトを狙うという意識が定着するでしょう。そしてそのことによって、より効率的な「受けわたし・マンマーク守備戦術」へのステップアップも、うまくいくに違いありません。ということで、リーグの優勝争いでは可能性が薄れてしまったレッズには、天皇杯での「より高度なサッカーの開花」を期待することにしましょうかネ。

第十三節(1997年9月20日)

ジェフvsグランパス(1-2)

レビュー

グランパスの「ライン・フォー」守備戦術が、うまく機能した試合でした。

ジェフの、「スリーバック」で、ストイコビッチに鈴木が「オールコート」で付く以外は、相手を受けわたし、「早目」にしっかりとマンマークしてしまう守備戦術に対し、グランパスは、ライン・フォーの最終守備ラインに、4人の中盤守備ラインを「平行」に引き、四人と四人の「ボックス」をつくるような「4-4-2」システムで戦います。

この「ライン・フォー」ですが、ベンゲル監督当時にやっていた、ボールの位置を中心にして、四人(最終守備ライン)と四人(中盤守備ライン)の守備ブロックが「一体」となって移動する、八人による「明確なボックス陣形を維持する守備戦術」とは少し違っています。ベンゲル氏の場合は、相手が「最終的な勝負」にうつるまで、ほとんどこのブロックを崩すことなく、ボール周辺のゾーンをせばめていく(プレッシャーをかけていく)ような守備戦術をとっていたのですが、ケイロス体制になって、それが、より柔軟なものに変わってきています。ケイロス監督の場合、まず守備ブロックの「人数・ポジションのバランス」を取ってから、どちらかというと、より「相手を見る(つまり、マークを積極的に探す)」という守備のやり方に変わってきているのです。対照的な守備戦術で戦う両チームの対戦に、大きな興味を引かれました。ジェフは、シンプルだが確実な守備(失点が最も少ない)。それに対しグランパスの守備は、常に最高の集中を要求される「効率的な守備」方法です。

ゲームは、互いにペースを奪い合うような拮抗した内容。それでも、ストイコビッチ、バウド、浅野を中心に、徐々にグランパスがペースを握っていきます。そして迎えた前半の33分。ストイコビッチの、ピンポイントCKを、トーレスが測ったようなヘディングシュートです。これで一点をリードしたグランパスは、その後もペースを握り続けます。対するジェフは、ボールは回りますが、決定的スペースを突くような、フリーランニング+スルーパスが、あまりありません。そして後半が始まって間もなくの5分。マークを振り切ったストイコビッチが、今度は自分自身で突進し、ゴールキーパーまで抜いて追加点を挙げてしまいます。ジェフの、早目にマークを決めて付いていくという守備戦術の欠点は、一人が抜かれたり、マークを離してしまった場合、「次の」受けわたしやカバーリングがスムーズにいかない、というものなのですが、これは、その典型的なケースでした。

このゲーム。「スーパー」ストイコビッチを除いて、グランパスで目立ったのがバウドでした。ヨーロッパで、彼の全盛期のプレーを何度も目の当たりにしたのですが、これまでは、そのイメージからはかけ離れた出来でした。それが、この試合では「全盛期」をホウフツとさせるようなキレを見せたのです。アクティブな守備からの、ダイナミックな攻撃参加など、理想的な、ボランチ兼「ゲームメーカー」の役割を果たしていました。またジェフでは、スコルテンとボスの、息の合った「前後のポジションチェンジ」が特筆モノでした。スコルテンが上がれば、ボスが下がる。またその逆ありと、二人の効果的な「タテのポジションチェンジ」は見応え十分。結果につながらなかったのは残念です。

この試合、攻守にわたって「積極的に」中盤を制したグランパスに軍配が上がったというのが、わたしの見方です。グランパスの「ライン・フォー+ボックス守備戦術」は、リーグでは「特異な存在」。一時期、スリーバックにしましたが、再び「少し調整したカタチ」でライン・フォーに戻しました。ベンゲル時代、あれほど素晴らしいサッカーを展開したのですから、選手たちにも、そのときの良いイメージが深く定着しているに違いありません。もしかしたら、守備システムを戻したのは、選手たちが希望したからかも・・。もしそうだとしたら、グランパスの今後には大いに期待できるのですが・・・。

ヴェルディーvsジュビロ(1-6)
レビュー

この試合、テレビでしか見ることができなかったので、限られた範囲ですが、インプレッションだけでもまとめたいと思います。

ラモスがもどってきた。素早く正確なパス回しなど、攻撃のリズムだけは、全盛期を「匂わせる」レベルにまでもどってきた。このゲームの序盤、ヴェルディーが、この試合に勝てばリーグのトップに・・というジュビロの攻勢をはね返し、スパッ、という音が聞こえてきそうな鋭く素早いパスを回しながら、キレの良い攻撃を見せていました・・。対するジュビロも、ヴェルディーに匹敵するくらいのアクティブ攻撃。両チームの「ボールの動き」が非常に活発だ・・・これは面白い試合になりそうだナ・・と、思っていたその瞬間、この試合ではボランチをつとめる服部が、あっさりと先制点を決めてしまいます。ヴェルディーが、ペナルティーエリア周辺で短いパスをつなごうとした(短くなってしまった?!)ボールをかっさらった服部は、そのまま左足でシュート。GKの菊池はノーチャンスでした。何故、大きくクリアしないのだろうか・・。ロングボールは、ヴェルディーにとっては「アバウト」なもので、あまり好まれない・・だからこの試合でも、パスはまわるが、ジュビロのドゥンガのようなロングパスはほとんど見られない・・。何か、ヴェルディーの体質的な問題点が浮き彫りになったような、ジュビロの先制点でした。

前節のグランパス戦では、とにかく守備、守備・・という戦いで完封勝利したヴェルディー。ただ、この試合では、またザル守備に戻ってしまった感があります。テレビですから、明確には判断できませんでしたが、「服部ゴール」の後の、ゴン中山の「ハットトリック」は、「マークの甘さ」を突かれた失点だったことは明らかなようです。また、2本続けて、中山への決定的センタリングを上げた、アレサンドロに対するマークもいい加減そのもの。マークの基本は、常に、「相手とゴールを結んだ線上にポジションする」、「ゴール前ではできる限りタイトに」というものですが、ヴェルディーの最終守備ラインは、「途中でのパスカット」だけを考えているのでしょうか、相手が自分の「ウラ」へ走っても、簡単に「行かせて」しまうのです。しっかりとしたマーキング・ポジションから、タイミングを見計らって飛び出し、インターセプト、というのが原則なのに・・。そんな守備は、ミスパスの多いアマチュアにしか通用しないことは世界の常識。また、先制点以降は、中盤での守備も甘くなり、二列目からの飛び出し(パスを受けるためのフリーランニング)もやられっぱなしです。このくらい「ボールウォッチャー」になってしまっているのですから、大量失点するのもアタリマエ・・という内容でした。

とはいっても後半は、少しは落ちついてきます(奥と藤田に、ワザありのゴールを決められてしまったとはいえです・・)。それは、最終守備ラインが、しっかりとマークし続けるということを心がけただけではなく、中盤の(ボールのないところでの)守備もよりアクティブなものになり、それをベースに攻撃も活性化したからです。もちろん、「勝負」としてはもう遅すぎますが、このまま、ジュビロに「やりたい放題」では、あとあと尾を引いてしまい、立ち直るのにもっと時間が掛かってしまいます。全ての試合内容は、「次へ」つながりますからネ。

それにしても、持ち味の素早く正確なパス回しだけではなく、ドゥンガのスーパーロングパス、中山や、後方の選手たちの、決定的スペースへの飛び出し(そこへの決定的パス)などなど、ジュビロは素晴らしい出来でした。全員が、攻守にわたって、しっかりとした目標をもち、高いモティベーション(やる気のポテンシャル)レベルを維持していました。レギュラー守備プレーヤーの何人かが出場停止ということで、最初の時間帯は少し混乱しましたが、そこには「鬼軍曹」、ドゥンガがいます。彼の「締め」は大効果。また、それは良い「刺激」にはなるものの、以前のように、ジュビロの日本人選手たちが、彼の「怒りアクション」に萎縮することもなくなってきたようです。次節の相手は、二位のガンバ。残り試合の相手を考えれば、これに勝つことができれば、「優勝」の二文字も見えてくるように思います。

第十四節(1997年9月24日)

ヴェルディーvsフリューゲルス(1-0)

レビュー

例によって、フリューゲルスは、最初から「オールコート・マンマーク」守備戦術で試合に臨みます。最終守備ラインは「スリーバック」。対するヴェルディーは、前節、ケガで退場したアルジェウの代わりに、エスパルスから移籍してきた白井を入れ、彼と広長が、中央でストッパーをつとめる「フォーバック(ゾーンディフェンスなどと呼ばれることがありますが、実際には『受けわたしマンマーク守備』というのが正しい)」です。ただヴェルディーでは、これまでに何度もこの「フォーバック・システム」が崩壊してしまいました。決定的な場面で、必ず一人は、マークされていないフリーな相手選手が出てきてしまうのです。この守備戦術が成功するためには、高い「意識」と集中力が必要です。それは、前後左右にポジションチェンジをしながら決定的なスペースへ入り込んでいく(パスを受ける動き=フリーランニング)相手を、受けわたしながら、『勝負の場面』では、確実に、そしてタイトにマークしていなければならないからです。それは非常に難しい守備方法なのです。

案の定、ゲーム序盤は、「シンプル」な守備方法で戦うフリューゲルスが中盤を制してしまいます。『ボールのないところでの動き』が緩慢なヴェルディーでは、フリーでパスを受けることのできる選手が、まったくといっていいほど出てこないのです。ということで、ヴェルディーは、中盤でボールをキープすることさえできません。ただ、20分を過ぎた頃から、徐々にヴェルディーが「悪魔のサイクル」から抜け出しはじめます。一回ごとにボールを止めるのではなく(それが、ボール停滞の原因=相手守備が狙いやすい)、素早いパス回しを何度も見せるようになってきたのです。もちろんそれは、ボールのないところでの選手たちの動きがアクティブになってきたから。そして、その背景にあったのが、ラモス、ヤスが積極的に参加する守備でした。彼らのアクティブ守備、指示によって、必要な場面では、「その時点」で決まったマーク相手に最後までついていくようになったのです。守備は、やはり「人を見る」のが基本。「ポジショニングで守る」とか、「タイミングを見計らってゾーンを埋める」などと表現される、クリエイティブな守備方法は、バレージ、マルディーニなど、世界のスーパースター達の専売特許だということでしょうか。そして、唯一といっていいチャンスをヴェルディーがものにしてしまいます。それは、前園のフリーキックから、アルシンドがヘッドで合わせたゴール。ハードにマークされていたアルシンドの、フリーキックに合わせた動きは秀逸でした。

後半は、リードされているフリューゲルスが、前半にも増して攻め込んできます。前線のプレーヤーだけではなく、サンパイオ、三浦、森山など、守備的なプレーヤーもどんどんと攻撃参加。また守備となったら、例のハードマンマークです。マークをハズされても、すぐにカバーが入り、抜かれたプレーヤーも、超速で次のマークの相手を探します。また、カウンターの場面では、「決められたマーク」とは関係なく、全員が、積極的にマークの相手を探し、ピタッと付いてしまいます。そして、ボールを奪い返したら、「奪い返したプレーヤー」が、そのまま攻撃参加です。フリューゲルスの「オールコート・マンマーク」が、本当にうまく機能していることを感じます。とにかく後半のフリューゲルスは、ヴェルディーの何倍ものシュートを打ちました。

それでも、「人を見るディフェンス」が徹底しはじめたヴェルディーの守備は、今度は容易には崩れません。何度も押し込まれますが、守備ラインは鉄壁そのものといったところ。広長、白井のマーキングは万全。最後は、交代出場した林も、リベロとして最終守備ラインに参加しました(フリューゲルスが人数をかけて攻めてきたことに対抗する措置)。また、ラモス、ヤス、北澤、交代出場の菅原など、中盤でのアクティブ守備も特筆モノでした。確かにフリューゲルスは多くのシュートを放ちましたが、そのどれも「決定的」とは言いがたいもの。そこのところに、後半のヴェルディーにおける守備の堅固さが現れていたといっていいでしょう。ただ一つだけ気になったことがあります。それは、 後半の「勝負の時間帯(決定的な場面)」で、ヴェルディー左サイドの山田が、何度か自分のマークに振り切られてしまっていたことです。そのことが、ヴェルディーの決定的なピンチにつながったことは言うまでもありませんが、彼は、ボールに気を取られ過ぎでした。それとも、彼だけが、「オレは、うまいポジショニングでボールを奪い返せるんだ」などと考えていたのでしょうか。そんなことはないとは思いますが・・。クリエイティブな守備が出来るためには、周囲の状況(ボールの位置、マーク相手の位置と意図、ボールを持つ選手の意図、味方ディフェンダーの位置と意図などなど)を、一瞬のうちに把握するだけではなく、『相手よりも早く守備アクションを起こす』ことができるだけの能力と経験が必要なのです。

第十五節(1997年9月27日)

レッズvsガンバ(1-4)

レビュー

例によって、オールコート・マンマークで試合に臨むレッズ。対するガンバは、4-4-2のライン・フォー守備ラインです。

最初の時間帯はレッズのペース。マンマークがうまく機能して、ほとんどのガンバの選手がフリーでパスを受けることが出来ません。これは、あのスーパーマン、エムボマも同じ。彼のマークについたのは、最初の頃は田畑でしたが、スピードのあるエムボマをうまくマークをしていました。そのマンマークをベースに、レッズが、中盤でどんどんとボールを奪い返してしまいます。ただそこからがいけない。警告の累積でベギリスタインを欠いていたこともあるのでしょうが、どうしても決定的なチャンスをつくることが出来ないのです。パスは回りますが、そのほとんどは足元への「安全パス」。決定的なスペースへ送り込むような「勝負のパス」はほとんどありません。それは、パスを受ける側にも問題があります。二列目で、ある程度フリーでボールを持つ選手は出てくるのですが、その「攻撃の起点」ができた瞬間、またはそれを予測した「決定的スペースへのフリーランニング(パスを受ける動き)」がほとんど出てこないのです。最前線の選手は、福田も含め、ゴールを背にして、足元へのパスを待つだけ。マークする相手を振り切って前線へ抜け出す動きがなさ過ぎました。これでは、守備ラインを崩すことなど出来る相談ではありません。たまに、個人技でチャンスはつくりますが、それも単発。もちろんその背景には、ガンバ最終守備ラインと中盤の守備ラインによる、素晴らしい「受けわたしマン・マーキング」がありました。そうしているうちに、まずエムボマが、マークする田畑を振り切って左サイドを抜け出てしまいます。そのピンチは、リベロのブッフバルトがギリギリのタイミングで防ぎましたが、何となくイヤな感じ。そしてそんな雰囲気の中、海本のスーパードリブル、中央突破から、シュートが決まってしまいます。

オールコート・マンマークの場合、一人のマーカーが抜かれた場合や、後方から「フリー」でドリブルしてくる相手選手が出現してきた場合などは、「自主的な判断」が要求されます。それは、自分のマークを放り出して、マークに行かなければならないということなのですが、この、海本のドリブル突破の場面では、その判断が遅れます。それが、チェックのタイミングが遅れ(遅れ気味でチェックに入ることほど、抜きやすいタイミングはありません)、海本のドリブル突破を許してしまうという結果を招いたのです。この先制点によって、オールコート・マンマークの弱点をさらけ出されたとすることができるかもしれません。また、その後のレッズの攻めでは、「さあ、攻撃だ」という、全員が前に重心が掛かっている状況で、「悪いカタチ」でボールを失ってしまうケースが増え、マークが一定しなくなってしまいます(ボールを中途半端に失った場合、決められた相手をマークする余裕などない!)。その一番の原因は、ボールの動きが「緩慢」で、ガンバ守備陣に、パスコースを簡単に読まれてしまったことでした。

それにしても、ガンバのエムボマ。後半の三点は、すべて彼のゴールといっても過言ではないものでした(実際は、1ゴール、2アシスト)。とにかく、その技術とスピードは群を抜いています。その後、田畑からネイハイスにマークが変わったのですが、それでも彼を止めることは容易ではありませんでした。

また、ガンバの「4-4-2」ですが、彼らはリベロを置いていませんから、それはグランパスと同様に、純粋な「ライン・フォー」、プラス「四人の中盤守備ライン」といえる守備陣形です。どんどんとマークを「受けわたし」ながら、決定的な場面では、タイトにマンマークをする・・。そこでは、最高レベルの集中力と積極性が要求されます。この守備システムでは、特に、中盤の木山、海本、稲本、カーリッチに相当の運動量と積極性が要求されるのですが、それを十二分にこなしたガンバの中盤守備に拍手です。確かに、中盤におけるレッズのボール回しにも問題はありましたが、このゲームでは、ガンバの四人+四人の「ダブル・ラインフォー」が、レッズの攻撃を機能させなかったといった方が正しい表現のように感じます。彼らは一致協力し、ボールを持つレッズ選手を追い込み、「次」にターゲットを絞った守備を見せます。プレッシャーから「苦し紛れ」のパスを出させ、それを狙ってボールを奪い返してしまうのです。これこそ、積極守備の典型といったサッカーを展開しました。

たしかに、エムボマ頼りという点は否めませんが、全員が自信を持ち、積極的にプレーする姿勢を最後まで維持していたことは特筆モノ。(ガンバの)現在の順位にも納得、といった試合内容でした。

第十六節(1997年10月1日)

ヴェルディーvsレッズ(1-2)・・ジュビロ、セカンドステージ優勝!

レビュー

この試合は、ヴェルディーの凋落を象徴するものになってしまいしまた。

ホームゲームであるにもかかわらず、ヴェルディーのサポーターはまばら。対するレッズは、「燃えるレッド・サポーター」です。彼らの勢いのちがいは、そのままグランドでのプレーとなって現れてしまいます。例によって「オールコート・マンマーク」による積極的な守備をベースに、チャンスを見計らって危険な攻撃を仕掛けるレッズ。それに対し、チャンスらしいチャンスを作ることさえ出来ないヴェルディー。「外野の喧噪」がそのままグランド上の雰囲気までも支配してしまった感があります。プロ選手たちは、良いゲームをしてナンボ、というのが原則。外側の「政治的な動き」に惑わされ、やる気までも喪失してしまったような印象を与えるようではプロの資格はありません。クラブ関連の外側の動きと、彼らの「ビジネス・フィールド」は全く別物なのです。とにかく今日のヴェルディーは、(失点してからは、少しは、リズムが良くはなりましたが・・)全体的にボールはよく動くのですが、決定的なチャンスを作り出すことがまったくといっていいほど出来ません。それは、クリエイティブな、「決定的なフリーランニング(相手の決定的スペースへ走り抜ける、パスを受ける動き)」がほとんどないからです。カズは、どんなにチーム状況が落ち込んでいても、「自分の仕事」はしっかりとこなします。彼の「クリエイティブなムダ走り」は見応え十分。それが、今のヴェルディーでは見えてこないのです。また守備でも、再びマークの甘さを露呈してしまいます。中盤では、ラモス、ヤス、北澤を中心に、良い「読み」でレッズの攻勢を、ある程度は抑えているのですが、肝心の「決定的な場面」でのマークが甘くなってしまうのです。これでは・・・。とにかく彼らには、クラブ組織的な「問題」をアタマの中から追い払い、サッカーは最も自由な「遊びの発展形としてのボールゲーム」だということを思い出して欲しいモノです。自分たち自身が「楽しむ」ことができるような、積極的なサッカーを展開するために。基本的には能力のある選手たちが集まっているのですから・・・。

対するレッズですが、それまで、守備的ハーフからストッパーまで、はじめから決められた相手を、出来る限りマークし続ける「オールコート・マンマーク」守備戦術で試合に臨んでいたのが、この試合から、中盤のマークが、少し「柔軟」なものになります。中盤では、臨機応変にマークを受けわたすようになったのです。それまでの「オールコート・・」は、確実なことはたしかですが、どちらかというと非効率なやり方。それに対し「受けわたし・マンマーク」は、リスクはありますが、モダンで効率的なやり方です。選手の意識が高く、集中さえしていれば、マークの受けわたしもうまくいくものですし、実際、彼らの受けわたしマンマークは、最後までうまく機能していました。それも、何試合か「オールコート・・」守備を続けた効果だとすることができるでしょう。「オールコート・・」では、自分たちの攻撃が終われば、瞬間的に守備へ切り替え、同時に、決められているマーク相手を探さなければなりませんからね。そんな、選手にとっては厳しい守備方法を続けた結果、攻撃から守備への素早い切り替えだけではなく、自分から積極的にマークの相手を探すことに対する『意識』が、より浸透してきたのです。この『意識』を発展させ、それをベースに、より積極的な攻撃を展開することができれば、ナビスコカップ、天皇杯でも、かなり良い結果を残すに違いない・・と感じさせられたゲームでした。ただ一つだけ気になったことがあります。それは、「チキ」こと、ベギリスタインの調子が上がらないことです。彼は、パス&ムーブ(ワンツー)など、味方とのコンビネーションで攻めるのが得意な選手。ドリブルや、ボールキープ(タメ)からのチャンスメークという場面は希です。彼がボールをもった時の周りの味方の動きが緩慢なだけではなく、彼を起点としたコンビネーションプレーも、ことごとく失敗してしまいます。あれだけの選手ですから、何かキッカケがあれば、数段上のプレーができるハズなのですが・・。

今節で、ジュビロの、セカンドステージ優勝が決まりました。彼らのサッカーの内容を考えれば、当然の結果だとは思います。

ところで、面白いですよね。あのチームには、正式の監督さんがいないのですからね。桑原監督「代行」は、良い仕事をしたのですが、わたしは「代行」に大拍手を送りたいと思います。ジュビロは、新監督就任までの「つなぎ」として桑原さんを監督に据えたのでしょうネ。もしかしたら、「監督」という肩書きを付けてしまった場合、何か「組織的」な問題が出てきてしまうのかも・・。(後の情報で、桑原氏が「S」級ライセンスをまだ持ってないための措置ということが判明しました・・ゴメンナサイ)どちらにしても、一般の方々には本当に分かりにくいものです。「J」は、消費者、ファンの方々なしには存続できないということを、関係者は肝に銘ずるべきなのです。歴史上、消費者を無視したことで消えていった「ビジネス」が、いかに多いことか。市場が、消費者なしでは成立しないことは、明白な事実なのです。

第十七節(1997年10月4日)

ジュビロvsエスパルス(2-0)

レビュー

1997年シーズン、セカンドステージ優勝のジュビロが、地元ファンに「優勝お披露目」のゲームをプレゼントしました。相手は、「地域ライバル」のエスパルス、相手にとって不足はありません。連勝街道を突っ走る両チームは、超満員の観客を前に、素晴らしいゲームが展開しました。特にエスパルスは、勝てば「二位」の可能性があるということで気合いは十分だったのですが・・。

このダービーマッチ、先制したのは、ホームのジュビロ。鈴木から、アレサンドロ、そしてフリーランニングをする中山へのスルーパスが通ります。中山の左足シュートは、半分ミスキック。それでもゴール方向へボールを転がしたところはさすがです。中山をマークしていたエスパルスの堀池。たぶんオフサイド狙いだったのでしょうか、足を止めてしまいます。ただアレサンドロの、パス出しタイミングはピッタリ。中山も、オフサイド・ポジションをケアーしていましたからネ。素晴らしいコンビネーションからのゴールでした。とにかく、ジュビロにとっては、「中山のフリーランニング」は大きな武器です。追加点も、ドゥンガのフリーキックを、ニアポスト側へ走り込み、マークする相手より数センチ先にヘディングした中山の「スーパー・フリーランニング・ゴール」でした。彼が、決定的スペースへ走り込む(フリーランニングする)ことで、必ず相手の守備ラインが引っ張られます。そしてその後ろからは、藤田が、奥が、はたまたアレサンドロ、ドゥンガが上がってきます。ジュビロの、チャンスに見せる「厚い攻撃」は特筆モノ。セカンドステージ・チャンピオンの面目躍如といったゴールでした。

優勝したジュビロで特筆されるプレーヤーは、何といっても「鬼軍曹」ドゥンガ。プレーだけではなく、精神的な支えでもあります。もちろん、ゲーム中の「怒り」に対しては、その時点では「反発」もありますが、彼が叫んでいることの「多く」は正しいものです。以前は、その「怒り」に萎縮していた選手たちも、今では言い返す「素振り」をするまでに、精神的に成長しています。それも「ドゥンガ効果」なのです。彼は、選手たちが反発して、自意識を高めることまでも、もくろんでいたに違いありません。現役ブラジル代表のキャプテン。素晴らしい『仕事人』です。また、セカンドステージの第四節からジュビロに参加した、アレサンドロ。素晴らしい働きを見せました。「優勝立役者」の一人ですが、彼にとっても、ドゥンガは「鬼軍曹」に違いありません。何せ、ブラジルの代表キャプテンですからね。彼に認められることが、即、ブラジルでの評価につながることをよく知っているのです。

中盤での、ボールを奪い返すことを目的とした積極的な「受けわたし守備」。それなしに、ジュビロの優勝はありませんでした。受けわたし守備は、難しい守備の方法です。全員が「考えながら」、自分で「ボールを奪い変えすんダ」という高い意識を保ち続けなければ、必ずどこかで「フリーでボールを持つ相手」が出てきてしまうのです。それを「マークのズレ」などと表現することもあります。ドゥンガ、鈴木、復活した藤田、守備意識が劇的に高まった奥など、ジュビロ勝因のコアに、彼らを中心とした「中盤守備」を挙げないエキスパートはいないに違いありません。まだ『湯浅データベース』をまとめる時間はありませんが、これからジックリと、ジュビロ優勝の背景を、「数字データ」を活用することでも分析していきたいと思います。乞う、ご期待。



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