湯浅健二の「J」ワンポイント
1997年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー・プレビュー
ここでは、各ラウンド(節)の注目カードをピックアップし、プレビュー(見どころ)だけではなく、私が実際に見たゲームのレビューもやりたいと思います。
●第一節
●第五節
●第六節
●第七節
●第八節
●第九節
●第十節
●第十一節
●第十二節
●最終節
第一節(1997年4月12日)
柏レイソルvs清水エスパルス
プレビュー
優勝候補の一角レイソル。新戦力のジャメーリと、スーパーストライカー、エジウソンのコンビが炸裂するか。または、2年目の智将アルディレス監督率いるエスパルスが、昨年のナビスコカップで見せたような魅力的で強いサッカーを見せるか。注目の一戦です。私は、レイソルに一日の長があると思っているのですが・・。
レビュー
レイソル対エスパルスは、結局、序盤に挙げたフリーキックからのゴール(澤登)を守りきったエスパルスに軍配が上がりました。レイソルでは、やはりエジウソン。彼がボールを持ったら、まさに牛若丸。簡単には止まりません。それでもしっかりとしたカバーリングから、ギリギリのタイミングでしたが、それでも確実にエジウソンの突破を止めていました。勝ったエスパルスですが、一点を入れてからは、ゲーム前半の積極さがカゲをひそめてしまいました。ゴールを奪った後が大事なのに、中盤の守備と、ボールを奪った後の攻撃で足が止まってしまったのです。ここがエスパルスの課題。消極的になって相手に押し込まれ始めてからが本当の勝負なのです。そこで「オイ!いくぞ」というかけ声をかけ、全員を再び「積極的」にさせることができるような「パーソナリティー」に欠けているように思うのは私だけではないに違いありません。またレイソルの攻めについてですが、確かに魅力はありますが、単調。ガンガン前ばかりに突っかけていくのではなく、たまにはバックパスからの「タメ」など、相手の「予測のウラ」を取ることも必要です。それがなければ、「エジウソンだけ抑えていれば大丈夫」ということになりかねません。加藤やジャメーリの、クリエイティブな「発想」に今後のレイソルの浮沈がかかっているようです。
ヴェルディー川崎vsジェフ市原
プレビュー
今シーズンのヴェルディーを占う意味で非常に大事な試合。相手は、ナビスコカップから、その好調さが目立つジェフ市原です。ジェフはあまり派手なチームではありませんが、フェルシュライエン監督のもと、一人ひとりが非常に忠実なサッカーをやるようになっています。ヴェルディーにとっては非常に危険な相手であり、ここで負けるようなことがあれば、「自意識の高い選手」が多いヴェルディーのことですから、チーム内での不協和音が外部にも聞こえるくらいに高まってしまうかもしれません。とにかく、両チームにとって勝つことがもっとも重要なテーマです。
レビュー
開幕戦の、ヴェルディー対ジェフ市原の試合は、私が予想したそのままの展開になりました。それは、攻撃に才能のあるプレーヤーを多く入れても、結局はボールを取り返さなければ攻撃を始めることは出来ないということが如実に証明された試合だったのです。ジェフは、チェイシング(ボールを持つ相手を追い込むプレー)からのインターセプト(パスのカット)、だけではなく、全員が「どこでボールを奪うか」というイメージをもって、協力した積極的な守備を展開していました。そして、ラデを中心としたクリエイティブな攻撃です。これにマスロバルが加わったら、より強力な攻撃陣になるに違いありません。もちろん北澤など、中盤で一生懸命にディフェンスに入っていたプレーヤーはいましたが、現代サッカーは、全員の「一致したイメージ」でのディフェンスが基本。その意味で、特に後半、ヴェルディーは「悪魔のサイクル」に入っていたとすることができそうです。一人がボールを追いかけても、ほかのプレーヤーがついていかずに、結局ボールを取れない。これでは、本当の意味での「ムダ走り」というわけです。「次」を狙っている選手がいないのですからね。こんな「意味のないムダ走り」だったら、何度も続ける気にならないのが当然です。ということで、ヴェルディーの場合、だんだんと全員の「動き」が緩慢になり、「悪魔のサイクル」に入ってしまいました。また、前園は、いったいどうしてしまったのでしょう。新聞に「自分はムダな動きはしたくない」など、ワケの分からないこと言っています。とにかくサッカーが分かっていない発言が目立ちます。クリエイティブなサッカーのほとんどは「ムダ走り」に費やされるのですからね。現在のイタリアの「最高の才能」、デル・ピエーロの「ムダ走り」を見習って欲しいものです。このままでは、本当に「生ける化石」のような選手になってしまう。才能がもったいない。私は本当にそう思います。彼は、まだ日本に、本当の意味での「プロ環境」が出来ていないことの「生きた証明」です。ドイツやブラジルなどでは、「才能」が死んでしまわないように、監督、コーチなどの現場だけではなく、メディアなどもガンガン叩きます。その環境がまだ日本にないということでしょうか・・・。アントラーズでは、「ジーコ」そのものが「精神・心理環境」です。ですから「柳沢の才能」は、今後とも順調に伸びていくに違いありません。さてヴェルディーでの「プロ環境」を整備するのは一体誰なのでしょうか・・・。
浦和レッズvs横浜マリノス
プレビュー
ナビスコカップ予選終盤の両チームの出来を見れば、レッズが優勢であることは誰の目にも明らかでした。ただ代表チームに4人を取られていたマリノスですから、本番のリーグ戦では堅実な戦いをするに違いありません。とにかくものすごく面白いゲームになることだけは確かです。私もこのゲームを見に駒場へ行こうと思っています。
レビュー
惜しい!!素晴らしいサッカーを展開したレッズでしたが、「ワンチャンス」を確実にゴールにむすびつけた老獪なマリノスに結局は負けてしまいました。ホームでの初戦でしたから、是非とも勝ちたいところでしたが・・・。それでも、サッカーの内容は素晴らしく、マリノスを圧倒していたとすることができるでしょう。これで福田が復帰したらリーグに旋風を巻き起こすことは確実?!そんな期待を抱かせる「クリエイティブで積極的な」サッカーでした。特に、新人の「永井」。「ココゾ」というときの爆発的な「勝負のドリブル」は大迫力。「あの」井原がキリキリ舞いさせられていました。勝負のドリブルには「責任」が伴いますから、新人にしては本当に気っぷのいいプレーでした。この新人。背は高く、足が速い。技術もしっかりとしている。そして何より、守備の意識など「積極的なサッカー」を心掛けています。永井の今後に大期待です。レッズですが、ホームで敗れたとはいえ、長丁場のリーグですから落胆することはありません。この試合内容を続けていけば、必ず優勝争いの主役を演じるようになること請け合いです。
お知らせ
私は、今週からドイツに出張です。「J」のプレビュー・レビューは、しばらくおやすみです。ごめんなさい。今度は連休明けから。ご期待あれ・・・
第五節(1997年4月26日)
横浜フリューゲルスvs名古屋グランパス
レビュー
この日の朝、ドイツから帰国し、一週間ぶりに「J」リーグの試合を見ました。一試合目は、等々力のヴェルディー川崎vsサンフレッチェ広島だったのですが、とにかく試合の内容が悪すぎました。時差のために寝不足でしたから、後半本当に居眠りしてしまいました。それにしても、チーム全体が消極的になっている川崎は重傷ですね。ここまできたら、「名前」になど関係なく切る者は切るなど、「事実を見つめた明確な意思決定」しか、チームが立ち直るための「ポジティブな刺激」にならないように感じます。前置きが長くなってしまいました。その試合に対し、横浜(三ツ沢)に移動してに見たフリューゲルス対グランパスの試合内容は、ドイツのブンデスリーガにも匹敵する素晴らしいものでした。眠気はイッキに吹き飛び、ゲームに熱中してしまった次第。内容的には互角。それでも、日本代表とブラジル現役代表のボランチコンビ、山口とサンパイオ。ブラジル代表のジーニョ、そしてバウベル。昨年から力をつけてきた服部など、フリューゲルスの戦術能力に「一日の長」があったように感じます。決定的なチャンスをつくり出す力では、明らかにフリューゲルスに軍配が上がるのです。特にジーニョ。「タメ」や「勝負のドリブル」、また相手を引きつけての「スーパースルーパス」など、心躍らされるプレーでした。もちろん、ときには素晴らしいパス回しからフリューゲルス守備網を振り回すなど、グランパスの「全員サッカー」に陰りが出てきたわけではありません。それでも決定的な場面をつくり出し、確実にゴールに結びつける「才能」「狡猾さ」に欠けていたことは事実。ワールドカップ予選のためにこの試合を欠場したストイコビッチがいれば状況が変わっていたかも。とはいっても、最近では、ストイコビッチ頼りが全面に出すぎるというネガティブな側面が指摘されていたようですから、どちらともいえないのでしょうが。とにかく、こんな素晴らしい試合内容のグランパスがまだ一勝もできずに最下位なのです。これがサッカーだということでしょうか。私は、ナビスコカップの試合内容から、グランパスを優勝候補に挙げたのですが・・。逆にフリューゲルスは素晴らしい出来。アントラーズと並び、このまま優勝争いの主役を演じるに違いありません。もしかしてこれは、「前園放出効果」だったりして・・。
第六節(1997年5月3日)
鹿島アントラーズvs柏レイソル(0-4)
レビュー
この試合、確かに「数字」の結果は4対0でレイソルの「圧勝」に終わりましたが、実際のゲーム内容は、結果が「逆」になってもおかしくないものでした。それほどアントラーズが、強く、安定した戦い方をしたのです。それでも、そこはサッカードラマ、強いチームがいつも勝つというわけにはいきません。前半、押しに押されていたレイソル。コーナーキックからのワンチャンスをゴールに結びつけました。後半も全員で「押し込み」にきたアントラーズ。特に両サイドバックの相馬と名良橋も積極的にオーバーラップです。ただレイソルは、アントラーズ守備組織に出来た「大きめ」のスペースをうまく活用したカウンター攻撃で、エジウソン、ジャメーリ、エジウソンと、立て続けに3ゴール。終わってみれば「0-4」という大勝です。良いゲームをしている・・自信をもって積極的にプレーできている・・でも、チャンスをゴールにつなげられない・・何となくイヤな予感・・と、その瞬間に失点してしまったアントラーズ。そして、何とか早い段階で同点にしなければ、と全員が積極的に「前へ、前へ」。ところが、ちょっとしたミスから相手にボールを奪われてロングパス。そこに「マイティーマウス」エジウソンです。まあ、良いゲームはしているけれどリードされ、押し込み過ぎて(全員の「意識」が前方に向かい過ぎて「背中」のケアがあまくなる)相手のカウンター攻撃に合い、リードを広げられてしまう・・という典型的なゲームパターンでした。アントラーズにとっては、「サッカーじゃ、こんなことは日常茶飯事。とにかく早く忘れようゼ!」という態度が大事です。攻めすぎで後方守備のバランスをくずしてしまったことはいただけませんが、まあ全体的な内容はオーケー。それが結果につながらなかったことは残念ですが、こだわっていても何も生まれません。こんなときこそ「ポジティブ思考」が大事。フリューゲルスと並んで(トップグループでは1ゲーム少ない)まだ首位なんですからね。
アビスパ福岡vsヴェルディー川崎(1-2)
レビュー
「名前にこだわらず、切る者は切る」という決断をしたヴェルディーの加藤監督。前園は、ベンチにも入りませんでした。ということは、練習で何かあった!?もしかすると、前園がサブを拒否した!?真相はヤミの中ですが、前園をサブにも入れなかった加藤監督が「全てのリスク」を自分一人で背負った試合になりました。ゲーム内容は満足できるレベルからはほど遠かったのですが、それでも、前のゲームに比べて格段に積極的なサッカーで勝ったということに意義があります。あれだけ注目を浴びている前園を先発から外したのは、加藤監督の勇断であり、チーム全員に大いなる「ポジティブ刺激」を与える結果になったということでしょう。今の前園の出来では、チームにとってマイナス要因でしかないことは誰の目にも明らかでしたからね。加藤監督も、自分の「姿勢」を(はじめて!?)明確にしたことになります。チームの調子も、このまま上向いていくかも・・・。サッカーは「心理ゲーム」。そのときの選手の心理状態で、チーム全体として「150%」の力を発揮することだってあります。また逆に、それが「20%」にまで落ち込んでしまうことだってあるのです。それも「たった一人の選手の怠慢」が原因で・・・。私はこれまで、いろいろなメディアを通じ、何度となく前園を「タタいて」きました。それは、彼の「才能」が惜しいからです。私はヨーロッパのトッププロで、何百人という「天才」の「没落」を見てきました。もし彼が、サッカーの原点は「走る」ことだと自覚し、「パスをフリーで受けるために」、「ボールがないところで」積極的に動いたり、守備にも積極的に参加するようになれば、必ず彼の「才能」が殻をやぶるはずです。攻撃における彼の課題は、「なるべく多く、マークの相手からフリーになってボールに触る」ことです。また彼は、現代・未来サッカーにおいては、「守備はあなたまかせ・・オレは攻撃のチャンスメーカーなんだからムダ走りはしない」などという態度は、自らを滅ぼすだけだということを肝に銘じるべきです。サッカーの本当の勝負は「ボールのないところで決まる」・・、素晴らしいサッカーは「クリエイティブなムダ走り」の積み重ね・・、ということは歴史が証明していることなのです。あんな素晴らしい才能がこのまま死んでしまうとしたら、それは、日本サッカー界全体の『体質的な問題の結果』以外のなにものでもありません。
横浜マリノスvsベルマーレ平塚(2-4)
レビュー
イヤ〜、久しぶりに見たベルマーレの中田。良くなっていますね。パスを受ける有効な動きだけではなく、守備にもアクティブと、とにかく積極的になって、彼の才能とセンスがものすごく光ってきています。また「問題児」だった岩本テルも、徐々にではありますが、運動量が多くなってきているように感じました。それでもテルの場合、どうしても「気を抜く」ところがまだ目立ってしまいます。とにかくこの二人、才能やセンスは世界に通用するものをもっています。あとは、サッカーの「ベースの部分」、それは、運動量の多さとか、責任と自由(クリエイティビティー)を意識しながら積極的にサッカーに取り組む態度などと表現できるかもしれませんが、それさえクリアすれば「本当の意味での世界」が見えてくるに違いありません。また、素晴らしい動き(フリーランニング)からの有効なボールキープと積極的なシュートトライだけではなく、アクティブな守備参加まで披露したツートップのロペスと野口、穴埋め作業に徹したダブルボランチの田坂と松川、そして、クラウジオ、名塚を中心に安定した最終ディフェンスラインと、ベルマーレにとっては、今シーズンのベストゲームでした。マリノスの方は、後半に元スペイン代表のサリナスと中村が入って、ものすごく積極的に、そしてクリエイティブになったのはいいのですが、猛然とベルマーレを押し込んでいる途中にボールをかっさらわれて一気にゴール前まで迫られ、最後はロペスへのファールでPK。その後は、中田自身のスーパーゴール、彼からのスーパースルーパスからのゴールと、立て続けに3点を奪われて試合を決められてしまいました。ホームのマリノスが敗れてしまったとはいえ、この雨中ゲームを最後まで見た観客の皆さんは十分に満足して家路につかれたに違いありません。試合後の両チームの選手達も、勝ち負けには関係なく、それぞれに満足した表情を浮かべていました。やはり、魅せる、(選手にとっても)満足できるサッカーの基本は『自由でクリエイティブな積極プレー』なのです。
第七節(1997年5月7日)
浦和レッズvs鹿島アントラーズ(1-3)
プレビュー
中盤の中心選手、バウアーが退団して少し混乱したレッズでしたが、広瀬を最終ディフェンスラインに入れ、ブッフバルトをボランチに上げることで急場をしのいでいます。次の相手は、レイソルに大敗したとはいえ、内容的には圧倒していたアントラーズ。確実で積極的な守備をベースにしたサッカーは安定感バツグンです。ここでレッズが踏ん張れれば、リーグ自体が面白いものになるだけではなく、レッズ自身も優勝戦線に躍り出てくるのですが・・・さて・・・
レビュー
とにかく「攻守のバランス」を考えさせられた一戦でした。前節は「攻め過ぎ」でレイソルのカウンターに沈んだアントラーズ。この試合は逆に、レッズの猛攻をカッチリと抑えて完勝です。これで、アントラーズが一歩抜け出ただけではなく、他のチームに大きく水をあけてしまうかもしれない・・・、そんなことを感じさせる一戦でした。アントラーズの戦い方は、アウェーにもかかわらず(それもレッズがホーム!!)、それほど群を抜いて安定していたのです。ジョルジーニョ、本田を中心としたアクティブで確実な守備からの、マジーニョ、柳沢が踏ん張る(つまり、多すぎない適当な人数での攻撃という意味)効果的で鋭い攻め。チャンピオンの名にふさわしい戦いでした。こんな強いチームと対戦しなければならないレッズ。この試合も、礒貝が先発です。確かに前よりは、攻守にわたって積極的になりましたが、まだ「後ろで待ち」、足元でボールを受けることが多い彼のプレーに大きな変化はありません。動きの中ではなく、足元でパスを受けるわけですから、当然相手の守備に狙われます。そんな状況からでも、たまには素晴らしいボールコントロールから効果的なパスを出すなど、才能の片鱗は感じさせますが、前シーズン活躍したバインの「一発で状況をガラッと変えてしまう」というプレー(スーパースルーパスなど)にはほど遠いものだといわざるをえません。チーム全体のパフォーマンスからすると、まだまだマイナス要因?!とにかくレッズ・・・。数週間前までは見られた、チーム全体が一体となった連携プレーはどこへいってしまったのでしょう。確かにバウアーの抜けた穴は大きいですが、それでも「素晴らしいアクティブ守備からのつなぐサッカー」から、アバウトな放り込みが多く見られるサッカーになってしまったことは残念です。アバウトなロングパスの一番のマイナス要因は、チーム全体の「動き」が空回り気味になることで、結局は、効果的に「ボールを動かす」ことが出来なくなり、結果として全員の「積極的な動き」が止まってしまうことです。それはそうですよね。中盤でパスを受けようと走っても、そのアタマ越しにボールが前線へ送られてしまうのですからね。そのボールを追いかける岡野は大迫力ですが、ほとんどのケースでは、「追いかけソン」になっていました。これでは、中盤で「組立」のパスを回すために必要な動きが停滞気味になってしまうのは当然。それが「悪魔のサイクル」と私が呼ぶ状況です。また中盤でのパスのつながりが悪いことで、「あの」永井のスーパードリブルも見られずじまい。個人的な見解ですが、ブッフバルトはやはり最終バックラインを基本的なポジションとするのがいいようです。ボランチとして十分な運動量を期待することは、36歳という彼の年齢を考えても少し無理がある(疲れがたまってきてしまう)ように感じます。堀は非常に重要な選手。堀、土橋、そしてもう一人の、献身的で能力も高いミッドフィールダーによる、中盤でのアクティブな「守備」をベースにした、以前のようなクリエイティブな「攻撃」が出てくれば、チーム全体として勢いを取り戻すに違いありません。サッカーはチームゲーム。『全員での攻守にわたった積極プレーなしには成功することはかなわない』という傾向は近代サッカーではより顕著になっています。ボール周りやボールのないところでの「たった一人の選手の停滞」が、チーム全体の「ペース」に非常に大きなネガティブ影響を与えてしまうのが近代サッカーなのです。
第八節(1997年5月10日)
グランパスvsレッズ(3-1)
レビュー
最終守備ラインを3人にする「3-5-2」システムに変え、日本人選手だけで戦ったグランパスが、立ち上がりから素晴らしいサッカーを展開。森山の先制2ゴールは順当な結果でした。順当の意味は、それほどグランパスの、全員守備からの、平野と森山を中心にした素早い攻撃が素晴らしかったということです。それまで「守備ラインのバランス」を重視する「4-4-2」システムで闘っていたことを考えると、選手たちの戦術的な適応能力の高さを感じます。要は、選手の「積極的にプレーする姿勢」のほうが、システムよりも重要だということが如実に証明された試合だったということです。対するレッズは、まったくの「リアクティブ・サッカー」。ハーフタイムの、レッズ、ケッペル監督の「前半30分までは全員が寝ていた・・」という発言は当然です。それでも前半、PKで一点を返した時点からだんだんと積極的になっていきます。先発の礒貝もまあまあの出来ですが、それでも中盤の中心選手としてチーム全体にインパルス(心理的・精神的な刺激)を注入したり、決定的な仕事をするところまでは至っていません。唯一、PKを誘うことになった永井へのスルーパスだけが、才能が光ったプレーでした。確かに以前よりはボールをもらう動きがアクティブになっただけではなく、守備へも積極的に参加するようになりましたが、彼ほどの能力の持ち主ならば「まだまだ」できると期待するのが自然です。このまま試合に使われていくことで、「まあまあ」ではなく、チームの「勢い」の中心的な存在になったり、実際に何度も決定的な仕事をするなど、「スーパー」なプレーを展開してほしいものです。後半は、負けているレッズのペースがまったく上がりません。結局、中盤の活動量と質の問題だということです。レッズ選手の動きに「統一されたイメージ」がないのです。これはグランパスの積極的な中盤守備がよかったこともあるのですが、そのグランパスが、逆に何度か決定的なチャンスを作り出してしまいます。こうなっては仕方がない。レッズのベンチが動きます。礒貝と広瀬にかえて、福田と堀の登場です。ここからレッズのサッカーがガラリと変わります。全員の「動き」が急に活発になり、中盤でのパスのつながり(ボールの動き)が見違えるほど早く、スムーズになったのです。結局は「単純につなぐこと」で、全員の「参加意識」に火がついたということでしょう。それでも、さてここからダゾ・・、と誰もが思ったその瞬間、一瞬のスキをつかれてグランパスに3点目を奪われてしまいます。これも平野、森山がからみ、最後は伊藤が決めたゴールでした。とにかくグランパスの森山。今シーズン、先発出場は初めてなのにもかかわらず、針の穴を通すほどの可能性でも全力で走り込むなど(これがフリーランニング!)最初から自信にあふれた積極プレーです。そのプレーは、非常にクリエイティブ(確固たるイメージに基づいた、創造性にあふれた考えるプレー)なものでした。いままでの「スーパーサブ」から、「攻撃の中心選手」へのステップアップを強烈にアピールした森山でした。これだけ連敗が続いたグランパス、確かに結果にはつながっていませんが、選手たちは「サッカーの内容自体はいいんだ!」という確信を持っているに違いありません。それが、連敗とは関係ない「自信と誇り」に満ちたプレーにつながっているのでしょう。結果はともあれ、残りも、この試合のようなスーパーゲームを見せてくれることを期待します。これからの第一ステージの残り試合は、次の第二ステージへ向けての非常に重要な試金石ですからね。
フリューゲルスvsレイソル(2-0)
レビュー
いやー、サッカーって本当に美しいものですネ・・・。今シーズン見たなかでは、もっとも美しく、「驚きプレー」テンコ盛りのエキサイティングなゲームを制したフリューゲルスのサッカーには、見るものを感動させる「クリエイティビティー」があふれていました。ジーニョの素晴らしいボールコントロールと、マークする相手の動きだけではなく視線までも止めてしまう「タメ」からのスーパースルーパス。現役ブラジル代表、サンパイオの、相手の意図を読んだ「芸術的なカバーリングとインターセプト」。日本を代表するボランチ、山口の美しい「穴埋め作業とオーバーラップ」。ジーニョ、サンパイオ、バウベル、服部の代わりに出場した吉田だけではなく、山口や三浦などもからむ夢のようなコンビネーションプレーなどなど。フリューゲルスにとっても、今シーズン最高の試合だったのではないでしょうか。それでも前半は、中央から攻めすぎの傾向があり、いくつかの決定的チャンスを生かすことができません。その時の選手達のイメージは・・「何度も決定的なチャンスがありながら、決められない。イヤな予感がしてきたナ」、というものだったに違いありません。良いサッカーをしてチャンスは作るのにゴールを奪えない・・・逆に、相手のカウンター一発でワンチャンスをものにされて負けてしまう・・・、そんなゲーム展開は、サッカーでは日常茶飯事ですからね。それでも、攻めが「広がり」はじめた後半は、攻撃がより効果的になっていきます。そしてバウベルからのピンポイント・センタリングを、キッチリとサンパイオが決めて先制。次は、吉田からの「フワッとした横パス」を、ゴールキーパーの動きをしっかり見極めて決めたバウベル。この両ゴールは、ともに「左右の揺さぶり」からの得点でした。正確な統計的数字はありませんし、数え方にもよるのですが、ゴールの8割は、サイドからの攻めから生まれるということがいわれます。もちろん最後は「中央」にボールがもどってくるわけですが、「崩し(つまりシュートまでのファウンデーション)」をサイドからやるのです。サイドからの崩しの方が、相手の守備組織を「分散」させることができるし、中央のマークもやりにくくなることは事実。サイドから攻められた場合、マークする相手とボールとの角度が広がってしまうために、マークの基本である「相手とボールを同時に見る」ということをやりにくくなりますからね。前半、あれだけ攻めまくったフリューゲルスでしたが、ことごとくレイソル守備網にはねかえされたのは、中央突破をはかりすぎたため。守備にとっては、自分の正面から相手とボールが迫ってくるのですから、意図を読むこともふくめて、守りやすいことこのうえないのです。次はレイソルです。負けたとはいえ、レイソルも、そのパフォーマンスの高さを証明する戦いでした。特に「マイティーマウス」、エジウソン。とにかく前方にスペースがあれば危険なことこのうえないプレーヤーです。ただこの試合では、完全密着マークに忠実なカバーリングという、フリューゲルスのクレバーな戦術で、スペースを「フリーで使う」ことはほとんどできませんでした。それでも最後の20分間は、完全にレイソルの時間帯になってしまいます。サッカーは心理ゲーム。「これで勝った」、そんなイメージが、フリューゲルス選手たちの足を止め、逆に「もうやるっきゃない」というレイソル選手達のパフォーマンスが倍増した結果です。最後の時間帯だけを見た人は、どちらが良いサッカーでリードしているチームかまったくわからなかったに違いありません。まあサッカーでは当然の現象なのですがネ・・。さて、アントラーズが負け、トップのレイソルも負けた・・・。もうこれ以上ないというエキサイティングな混戦状態になってきたではありませんか。次の試合が楽しみですね。
第九節(1997年5月17日)
ヴェルディーvsアントラーズ(1-1・・PK=2-3)
レビュー
素晴らしくエキサイティングな試合は、ペナルティーを制したアントラーズが勝ち点「1」を獲得しました(アントラーズにとっては「2」ポイントを失ったという意味の方が強い?!)。全体的には、アントラーズが攻め、カウンター狙い(押し込まれる試合の流れでそうなってしまった?!)のヴェルディーが必死に守るという展開。どう見ても、素晴らしい「チームプレー」を展開したアントラーズの方が力は上です。それは、25対11というシュート数の差にも表れています。また延長に入ってから、カウンターしか可能性のないヴェルディーのシュートが「0」だったことを考えると、「疲れてきた状態でも、攻守(人数)のバランス」をしっかりと意識してプレーした」、つまり攻めすぎず、守りすぎずというバランスを保ってプレーしたアントラーズの集中力には感服です。アントラーズの「チームプレー」を象徴するのが、同点に追い付いたゴール・・・・。ボールを奪ったビスマルクが、ヴェルディーの最終守備ラインへ向かってゆっくりとしたドリブルで迫ります。マークするディフェンダーは当たりにいけず、ただズルズルと下がるだけ。この状態でビスマルクは、相手の「動きと視線、そしてもしかしたら思考」までも止めてしまったことになります。それが「タメ」と呼ばれるプレーの本質です。しかしその「ウラ側」では、マジーニョが、ヴェルディーのもっとも危険なスペース(つまり、GKと最終守備ラインとの間のスペース)へ向けて超加速のフリーランニング(パスを受けるための動き)です。そこへ、ビスマルクからの「素晴らしいタイミングとコース」のスーパースルーパス。ハッと気づいたら、マジーニョは全くフリーでGKと一対一。こんな状況で彼がシュートを外すはずがありません。それは「スーパーゴール」でしたが、このマジーニョの「フリーランニング」に、アントラーズのチームプレーが象徴されているのです。パスゲームであるサッカーでは、『ボールのないところで勝負が決まって』しまいますからね。そのゴールシーンだけではなく、とにかくアントラーズがボールを奪ったら、少なくとも2人は、パスを受けるために常に動いていたのです。さてヴェルディーですが、カズとアルジェウがもどってきたことで調子が上向いてくるかもしれないという印象は持ちました。それでも、ゲームの流れの中でどうしても現れてくる『悪魔のサイクル』を断ち切ることができません。この、『悪魔のサイクル』については、すでに何度も書きました。それは、選手の足が止まり、チーム全体が消極的に、受け身サッカーになってしまっている状態のことです。もちろん、相手の積極的なサッカーに押し込まれている状態とも表現できますが、それでも、チームの調子が良いときは、何かのキッカケで押し返せるものです。ただこの日のヴェルディーには、あまりキッカケがありません。また、「キッカケ」の最後の手段である「選手交代」もまったくといっていいほど機能しません。中盤へ下がってパスを回し、再び前線へ飛び出していくような、カズの積極プレー。北澤の猛烈なチェイシング(ボールを持つ相手を追い込むプレー)。そんな刺激を受けても、周りのチームメートのほとんどが眠った状態です。笛ふけど踊らずとはまさにこのこと。たまに見せるカウンター攻撃も、鋭いけれども「単発」という印象をぬぐえず、「アントラーズにやられっぱなし・・」という状態が続きます。この『悪魔のサイクル』を断ち切るもっとも有効な手段は「アクティブ守備」しかありません。例えば、全員での強烈な「マンマーク」で相手にボールを回させない、積極的なチェイシングで相手にプレーする余裕を与えないなど、そんなアクティブな守備をすれば、自然と攻撃にも「モビリティー(動きとか活動性という意味)」が戻ってくるものなのです。ただヴェルディーには、最後まで、そんな「キッカケプレー」を見ることはできませんでした。最後に、CM自粛をアナウンスした前園。「アッ、良くなっている」と思ったのは、試合がはじまってからの20分間だけ(「やっと日本一の天才が生き返った」と胸をなで下ろしたものです)。そこまでは、しっかりとしたフリーランニングをベースに、パスを受けるために、ある程度フリーで(つまり余裕をもって)ボールをコントロールできる。そうすれば『ボールを持てば日本一』の前園ですから、スーパーコンビネーションプレーを演出したり、スーパースルーパスを出したり、また積極的にシュートにトライしたりと、それはもう素晴らしいプレーです。また、積極的に守備にも参加していました。それも、カッコだけの「アリバイ守備」などではなく、しっかりとボールを奪い返しに行っていたのです。ただその後がいけない。アントラーズにペースを握られてからは、元の「リアクティブな消極プレー」に終始。もしかしたら、コンディションが悪いのかもしれません。サッカーでは、有酸素状態(エアロビック)だけではなく、無酸素状態(アン・エアロビック)での持久力も求められます。「息が上がった」状態のことです。それでも、ゲームの流れで休める状況になるまでは頑張るのがサッカー。前園のプレーからは、最初の20分は別にして、その「ガンバリ」が感じられないのです。もし持久力などの基本的なコンディションが悪いのならば、トレーニングをすれば済むハナシ。毎日、ボールなどに触らず、25秒前後での200メートル・ダッシュを、最低30本はやりましょう。また、無酸素状態の持久力を強化するには「800m走」が有効です。そうすれば、コンディションに自信がもてるようになるだけではなく、「走ること」を思い出して、プレーが積極的になるに違いありません。あれだけの「才能」ですから、「生き返らなければ」、日本サッカーは大きな痛手をこうむります。「蘇生」のキッカケというか、良いプレーをしたいという彼自身の「意志」は、このゲームで見えました。これからは、精神・心理的な側面だけではなく、生理的な側面(コンディション)の強化も重要になってきます。
第十節(1997年5月24日)
グランパスvsヴェルディー(1-0)
レビュー
最低のゲーム内容でした。まあサッカー先進国でも、このような「まったく見所のないゲーム」はよくあるもの。結局は、「ボールのないところ(直接ボールに絡んでいない選手たち)」でのアクティブ・プレーが、ゲームを活性化し、エキサイティングなものにするということを『逆』に証明したゲームだったということでしょうか。サッカーは、基本的に「パスゲーム」ですからね。とにかく、ボール周りは別にして、それ以外のエリアでは、互いにほとんど「止まった状態」でのスタンディング・消極プレーに終始してしまいました。もちろん部分的には、グランパスの平野やストイコビッチの積極的でクリエイティブなプレー、ヴェルディー、北沢の、攻守にわたっての労を惜しまない積極プレーなどは見られましたが、全体的には、両チームの選手たちが「周りの雰囲気」に呑まれ、「状況に反応」するだけになっていたのは残念です。ただグランパスにとっては、内容は別にして、こんなゲームでも勝ったことが重要です。さて、ヴェルディーのGK、本並が退場になったことで交替させられ、クチビルを噛んで更衣室へと消えていった前園。まだまだ、ボールのないところでの「モビリティー(活動性)」、そしてアクティブ守備に課題が残ったとはいえ、徐々に「現代サッカー」とは何かが分かり始めているという印象を持ちました。とにかく彼には、「少なくても攻撃の時には、すべてのプレーに積極的に絡むんダ!」という意識でゲームに臨んで欲しいものです。そんな意識さえあれば、たとえ結果が出なかったとしても、(不満は残るかもしれませんが)納得はできるはず。試合終了のホイッスルが吹かれた時には足がケイレンしている・・そのくらい積極的にプレーに絡めれば、そのことが自信回復のベースにもなります。とにかく、今の彼に欠けているのは積極性だけ。それさえ出てくれば・・・。彼が、攻撃において日本有数の「才能」の持ち主であることは誰もが認めることろなのですから。
サンフレッチェvsエスパルス(1-0)
レビュー
イヤー、「魔術師」サントス。確かに運動量は少ないし、ケガのために途中で交替してしまいましたが、素晴らしい「タメ」からの美しい「崩しパス」や強烈なシュートなど、「世界レベル・チャンスメーカー」の本領発揮といったプレーでした。サンフレッチェは、高木や柳本、ポポヴィッチなど、主力の多くを、ケガで欠いた状態でしたが、そのことが、選手たちに「危機感」を与えたようです。もっといえば、「彼らがいなかったから良いゲームができなかった・・なんて言わせない」、そんな意識だったのかも知れません。それは、選手たちの意識が高まれば、素晴らしく積極的なサッカーになることの証明といったゲームでした。特に、最後の20分間に見せた、積極的で忠実な守備。そこでは「カッコ」だけのアリバイ守備などは皆無。感動ものです。それに対して、エスパルスは「二週間」の休み明けで、最初の頃は少しボケていたようです。サッカーは心理ゲーム。選手たちの「意識の高さ」で、時には150%の力を発揮してしまうし、逆に、意識の低さが原因で、それが20%にまで落ち込んでしまう、というのがサッカーです。ですから、監督の仕事のなかで最も重要なものが、「モティベーション」、つまり選手たちの「ヤル気のポテンシャル」を高めることだというわけです。そのために、いろいろな「刺激」を選手たちにあたえます。それは励ましなどの「ポジティブ」なものだけではなく、「怒り」を誘発するような「ネガティブ」な刺激を与えることだってあります。それでも信頼関係は変わらない。そこが監督のウデなのです。さてこのゲーム、サンフレッチェ、トムソン監督の「プロフェッショナルな刺激」だけではなく、主力の欠場という「刺激」がチームに好影響を及ぼし、逆に休み中の「刺激」に欠けていた(と、思われる)エスパルスの意識が「高まる」までに時間がかかり過ぎたという試合だったと私は見るのですが・・、いかが。
第十一節(1997年5月28日)
ジェフvsアントラーズ(0-2)
レビュー
この点差、ディフェンス力の差がそのまま現れた数字です。昨シーズンチャンピオンのアントラーズにとっては、強力なライバルであるフリューゲルスの調子がいいことから、ここで負けたら本当に優勝戦線から大きく後退というゲームでした。アントラーズの守備ラインは昨年とほとんど変わりません。秋田と奥野のセンターバックコンビに、右に名良橋(内藤)、左に相馬。そしてダブルボランチにジョルジーニョと本田(彼らは交代でリベロのポジションに入ります・・・この意味では、アントラーズは基本的にスリーバック?!)。強力な守備ラインです。自軍ゴール前では、ほとんどマークが「ズレ」ません。さて、この「マークのズレ」ですが、その意味は、前後左右にポジションをチェンジしながら「最も危険なスペースに入り込んでくる」相手の攻撃プレーヤーに、フリーな者が出てこない、つまり、すべての「シュートの可能性のある相手選手」が常にしっかりとマークされているということです。「マークがズレ」ない一番の要因は、決定的なゾーンでの「マークの受け渡し」をやらない、ということです。例えば、ゴール前(危険ゾーン)で、相手のフォワードが、右寄りの位置から、左サイドぎりぎりのポジションまで、グランドを横切るように走ったとします。アントラーズの場合、最初の段階でマークを受け持ったディフェンダーは、プレーが一段落するまで、しっかりとそのプレーヤーについていきます。もちろん、そのプレーヤーが完全にゲームの流れから外れてしまったら、その選手のマークを放っぽり出して、もっと効果的な守備ポジションへ移動します(受け持つ相手とスペースを探すという積極守備)。その「忠実な守備」が、ジェフではあまり見られないのです。例えば久しぶりに先発出場したアントラーズの増田。素晴らしいプレーを展開し、先制点までたたき出しました。前半、決定的なパスが出そうになったら、右から、左から、全力で「斜め方向」に「決定的なスペース(相手GKと最終守備ラインとの間のスペース)」へのフリーランニングにトライします。そんな動きに対し、ジェフの守備ラインは、「マークを受け渡す」つもりなのでしょうか(走り込まれた後で「アレッ」と慌てて追いかけるシーンを見ると、そんな意図は感じませんでしたが・・・)、いつも「行かせて」しまっていたのです。その動きが「決定的なスペースへの走り込み」なのにもかかわらずです。これは問題です。世界のトッププロだって、極度に緊張する「決定的ゾーン」における守備で、動き回る相手選手のマークを「受け渡す」ような離れ業ができるチームなんてありませんからね。それにジェフ最終守備ラインは「ヘディング」が弱い。とにかく弱い。ほとんどの場面で、黒崎やロドリゴに負けていました。勝てるのは、ボランチをやっていたボスくらいでした。また前半に限れば、ジェフの中盤での守備は非常に甘いもので、そこから「崩しのタテパス」が自由自在に送り込まれていました。これでは勝てっこない・・、というのが私の実感です。それも、マジーニョを出場停止で欠き、攻撃にクリエイティビティーの感じられないアントラーズを相手にしても、あれだけ「マークのズレ」が起きてしまうのですから、何をかいわんやです。優勝するためには、まず「守備力の強化」。このことはサッカーの歴史が証明しています。「J」でも、歴代のチャンピオンは「守備力」をベースに戦いました。強かった当時のヴェルディー。攻撃ばかりに注目が集まりましたが、それも「強力な守備力」があってのこと。結局は、ボールを奪い返さなければ(これが守備の目的・・ゴールを守ることではない!)攻撃を始めることさえできないのですからネ。
第十二節(1997年5月31日)
レイソルvsガンバ(4-1)
レビュー
エジウソン、下平などを欠くレイソル。それに対し、ほぼベストメンバーで臨んだガンバ。アウェーとはいえ、エムボマを擁するガンバが面白い戦いをするのでは・・と期待していたのですが、フタを開けてみたらレイソルの圧勝。とにかくレイソルの中盤と最終ラインの守備は、素晴らしい出来でした。また新加入のシルバも、ジャメーリ、加藤とともに、素晴らしいボールコントロールから、ガンバ守備をほんろうするクリエイティブなプレーを披露しました。これでエジウソンが加わったら、レイソル攻撃陣の破壊力は天文学的なレベルにまで高まってしまうのでは・・。他のチームにとっては、ソラ恐ろしいことになりそうです。「ソラ恐ろしい」の根拠は、レイソル守備ブロックの素晴らしいディフェンスにあります。守備が不安定では、いくら攻撃に才能をつぎ込んだところで空回りするだけですからネ。また、加藤、ジャメーリなどの攻撃陣も、カッコだけの「アリバイ守備」などではなく、本当に積極的にアクティブ守備を展開するのです。ソラ恐ろしい・・。この試合のレイソル、素晴らしい守備をベースに、本当に「クルクル」という感じでボールを「動かして」しまいます。ガンバのディフェンスブロックは振りまわされっぱなし。そして、アッ、と思ったら、ジャメーリ、加藤、シルバが、はたまた後方から攻撃参加してきた明神や石川、沢田や片野坂が、まったくフリーでパスを受けてしまう、というシーンが多く見られました(スペースにおいて、フリーでボールを持つということが『スペースを使う』というプレーの本当の意味)。ガンバ守備陣は、あまりにも素早くボールを動かされるものですから、ついついボール「だけ」を見てしまい、自分がマークするべき選手をフリーにしてしまっていたのです。そんなゲームの流れのなかで、試合の行方を決めた、レイソルの1点目、2点目が入りました。両方ともジャメーリの素晴らしい「ドカン・シュート!」。クルクルとボールが素早く回されるなかでフリーになったジャメーリにパスが回り、フリーシュートです。これでは、ガンバGKはどうすることもできません。それに対してガンバの攻撃は、一人ひとりがボールを持つ時間が長く(ということはボールの動きが停滞し、レイソルのディフェンダーに『次のパス』を簡単に狙われてしまう・・)、結局、パスが出すところがなくなって、メクラパスを、最前線に張っているエムボマへ「ボカーン!」です。これでは、いくら「存在すること自体が反則」のエムボマでも、いかんともし難い?!それでも、「スゲー!!」というプレーは随所に見せました。レイソルファンにとっては、点を取られない範囲で、エムボマの「スーパープレー」を堪能できたのですから、シアワセの極致といったところでしょうか。今日のレイソルファンの皆さんは十二分に満足して家路につかれたに違いありません。
最終節(1997年7月20日)
ベルマーレvsレッズ(3-2)
レビュー
まるでホームゲームのような雰囲気のなか(本当にレッズファンのエネルギーには敬服します・・それでも、そのエネルギーが間違った方向へ行かないように皆さんご自身で自己規制してくださいネ・・湯浅からのお願いでした)、アウェーのレッズが、開始早々、ポンポンと二点をリードしてしまいます。それに対し、押し込んではいますが、決定的なチャンスが出来ないベルマーレと、再三、鋭く正確なカウンターを仕掛けるレッズ。このままレッズに有利にゲームが展開するな・・、と思いはじめたその時、「あの」中田が、スーパープレーを披露しました。ゴール!!!それは、前半18分のプレーでした。レッズ守備の2人に囲まれた中田。素早くボールコントロールして振り向き、まるで背中に「目」があるかのように、レッズゴール前の「決定的なスペース」へカーブパスを送り込んだのです。そこには、ビッタシカンカンのタイミングで走り込んだ坂井がいました。2-1。それまで気になっていた、レッズ最終守備ラインのマークの甘さが、実際の失点につながった瞬間です。マークが甘いことの意味は、「パスが来るかどうか分からない」段階で、スペースへ走り込む(フリーランニング)ベルマーレ選手たちを、しっかりとマークし切れていないということや、マークの受け渡しが正確ではないということです。そして、パスが出された後で、慌てふためいてダッシュし、ボールを持つ相手を追いかけるのです。ベルマーレには、「日本代表のチャンスメーカー」中田がいるのにもかかわらず・・。これでは失点しても仕方がないと感じました。とはいっても、その後は、マークを変えた守備が安定し、前半は、そのまま「2-1」と、レッズリードのまま終了です。そこまでの試合内容ですが、福田と岡野を中心に、鋭く正確なカウンターを仕掛けるレッズの攻撃は、見ていて、楽しくそして魅力的なものでした。対するベルマーレも、中田を中心に、中盤でしっかりとボールをつなぐ組立サッカーが素晴らしく機能していました。見応えのある試合でした。
後半は、終始ベルマーレペースで進みます。リードされているから当然なのですが、バックラインもどんどんと押し上げてきます。それでも、ベルマーレの、素晴らしい「ニアポスト勝負」のフリーキックが決まって同点となってからは、レッズも押し返してきます。ただ、その押し返し方は、攻守の人数バランスを欠いてしまうような、あまりいただけないもの。ブッフバルトも上がりっぱなしです。そして結局、中途半端なパスをカットされ、フリーになってしまっている中田へ、スパッとパスをつながれます。こうなってはレッズも万事キュウス。「あの」中田が、フリーでドリブルしてしまっているのですからね。結局、一人のバックがチェックに行った瞬間、右サイドを走る(フリーランニング)竹村への絶妙タイミングのタテパスを出されてしまいます。そして、ゴール前で待ちかまえる外池へのピンポイント・センタリング。これで「3-2」と、ベルマーレが勝ち越し、そのまま今期10勝目をマークしたというわけです。
それにしてもベルマーレの中田。とにかく、才能がドンドンと花開いています。彼がボールをもったら、レッズ守備はお手上げ状態といってもいいくらい。日本代表のキーパーソンの一人である中田、頼もしい限りです。彼はまた、「ボールのなかところ」でもドンドンとスペースへ走り込んだり(フリーランニング)、効果的な守備参加と、素晴らしいアクティブプレーでした。こんなスゴイ選手がいるのですから、レッズは彼に、ゲームを通して決められた「マンマーク」をつけてもよかったのではないかと思います。中田を「受け渡し守備」で抑えるのは至難のワザのように感じたのです。とにかく「決定的な崩しのパス」は、ほとんど中田から出ていたのですからネ。彼を半分でも抑えることができれば、ベルマーレ攻撃の危険性も半減したに違いありません。状況に応じた「その日の戦術」のことを「ゲーム戦術」と呼びますが、それは、その日の両チームの調子を観察し、「ゲーム途中」でも、必要があれば変更しなければなりません。モダンサッカーでは、そんな臨機応変の「戦術応用力」がコーチに求められるのです。
これでファーストステージは終了。再来週からは、すぐにセカンドステージが始まってしまいます。プレビューについては、考えがまとまり次第掲載する予定です。ご期待アレ・・
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湯浅健二です。
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