トピックス


 

「新・五秒間のドラマ」、執筆中・・(2001年1月26日、金曜日)

いま、2000年版の「五秒間のドラマ」を執筆中です(出版元は「S社」の予定)。

 2000年といえば、日本サッカーが大きくジャンプアップした年。またオランダ、ベルギーが共同開催したことでも意義のあったヨーロッパ選手権(以前のネーションズカップ)もありました。その中から、私が気に入った(意味のある)シーンを抽出したというわけです。

 サッカーでは、ほんの「数秒間」というプレーの中に、攻めと守り両面におけるギリギリの「戦術ドラマ」と「心理ドラマ」が凝縮されています。それをクローズアップすることで、サッカーの本質的な魅力、進歩のためのヒント、はたまたフットボールネーションとの「最後の僅差」に関するヒントを探ろうという試みが、「五秒間のドラマ」というわけです(テクニカル・スタディー的な発想!?)。

 前回は、予選も含み、1998年ワールドカップにかかわるゲームの中から20程度のシーンを抽出し、「五秒間のドラマ(ゼスト刊)」というタイトルで出版しました。その本では、コンピュータグラフィックで描いたイラストを使ったのですが、今回は、サッカー好きのマンガ家の方にご協力いただき、「絵」をよりリアルに、かつ分かりやすくすることにチャレンジします。

 この数ヶ月間、仕事が重なりすぎて十分な時間を取れずにいたのですが、これからは「リキ」を入れて書くぞ!・・という覚悟も含めて(セルフモティベーションという意味も含めて!)、「新・五秒間のドラマ」の一端をご紹介することにしたというわけです。

 ここでは、完全に調子取り戻したオランダがスーパーゲームを展開した、ヨーロッパ選手権、準々決勝の「オランダvsユーゴスラビア戦」での「五秒間のドラマ」を掲載することにします。また本日「1月26日」にアップされる「ヤフースポーツ2002クラブ」でも、同様に、オランダが立ち直るキッカケをつかんだ予選リーグのゲーム「対デンマーク戦」の五秒間のドラマを掲載しました。そちらもご覧アレ・・

 本としてまとまれば、下記の文章に数コマの「五秒間マンガ」が挿入されることになります。では・・

===================

 これはグレートマッチになる・・

 最初の二分間のプレーを見て、そう確信した。両チームともに、技術、戦術的なレベルが高いことは周知。それに「心理・精神的」な部分が大きく加味されたグラウンド上の全選手のプレーから、攻守にわたり、完璧に「持てる力を100パーセント出し切るぞ!」という姿勢をヒシヒシと感じるのだ。そのことを象徴する一つのシーン・・

 オランダ攻撃の「コア」であるベルカンプが、中盤でパスを出した瞬間、「アッ、ミスパスになってしまう・・ヤツらにインターセプトされてしまう!」と感じる。そして実際にユーゴ選手にインターセプトされてしまうのだが、ベルカンプは、その瞬間には既に10メートルは全力で戻って守備に入っていた。そして、状況的にマークせざるを得なかったユーゴ選手を、「ボールがないところ」で最後までマークし続けたのである。「あの」ベルカンプが・・

 オランダのボールの動きは、予選リーグから比べれば「格段」にスピードアップしていた。パスを受けるための「クリエイティブな無駄走り」がアクティブになっただけではなく、各ステーション(=ボールを持つ選手)の「次の展開」に対する意識も素晴らしく向上し、それらが絶妙のバランスを魅せているのである。

 対するユーゴスラビアも、ピクシー(ストイコピッチ)を中心に、気力が充実した迫力サッカーを展開する。地元だから、観客の9割がオランダ支持。それでもユーゴ選手たちの、「オレたちは世界の才能集団」という自負に支えられるクリエイティブなプレーに、気後れなどまったく感じない。

 試合は、全体的にはオランダペースで進んでいた。しかし最初の決定的チャンスを作り出したのはユーゴの方だった。前半15分のことだ。

 後方から、最前線のミロシェビッチへパスが通る。例によっての天才的トラップ。そしてどんどんと、オランダ守備の重鎮、フランク・デブールへドリブルで突っかけていく。そして、フランクが当たらざるを得ない「間合い」まで迫った瞬間、ミロシェビッチの「左足の魔法」が炸裂する。スパッと、フランクを抜き去っただけではなく、カバーにきたスタムをあざ笑うかのように、後方から上がってきていた完璧にフリーなミヤトビッチへ、決定的な横パスを通してしまったのだ。

 決定的シュートの瞬間! 誰もが息を呑んだに違いない。ただ、フリーで放たれたミヤトビッチのシュートは、オランダGK、ファン・デルサールに「奇跡的」に防がれてしまう。この決定的チャンスは、オランダにとっては大きなショック(つまり大いなる刺激!)だったに違いない。そこからオランダが、覚醒したようなリスクチャレンジプレーを繰りひろげはじめたのである。

 その一分後には、ユーゴのペナルティーエリア内で、正確なタテパスをトラップしたベルカンプが、ディフェンダーの背後に回り込んでシュートを放つ。これまた「決定的」な場面。また19分には、ベルカンプがワンタッチの見事なトラップからドリブルで相手を抜き去ってシュート! 20分には、ダービッツが、ベルカンプとの素晴らしいタイミングの「ワンツー」から抜けだしてフリーシュート! フ〜〜

 オランダが、「本来」の実力を存分に発揮しはじめ、徐々にユーゴがタジタジとなる場面が目立ちはじめたのである。見ているだけでワクワクさせられる、中盤での「守備の集中タイミング」。そこからの攻撃は、華麗、かつダイナミック。そしてジワジワと、オランダの勢いが、ユーゴの「才能」を呑み込んでいく・・。そしてオランダが、その勢いを、実際のゴールに結びつけてしまう。前半29分のことだ。

----------------

 ●最初の五秒間・・

 左サイドから、最前線のクライファートの足元へタテパスが出る。ワンタッチの正確なコントロール。横にいたベルカンプへ素早くつなぎ、自身はそのままタテへ爆発スタート。そこへ、夢のように正確なラストパスが、ベルカンプから送り込まれたのである。それは、糸を引くように正確に、クライファートをマークしていたユーゴディフェンダー、ミハイロピッチの頭上を越えていった。ユーゴGKは、完全に飛び出しのタイミングを失っている。その瞬間、ワントラップしたクライファートは、「飛び込みタイミング」が遅れたユーゴGKの「鼻先」で、チョンとボールをプッシュしていた。

 「ダイナミックに前へ向かう姿勢」が、そのまま完璧なカタチで結実した・・といった先制ゴールではあった。

 その後、ゲームが少し落ち着く・・というか、ユーゴが、オランダの勢いに、「これは今日はダメかもしれない・・」と、ちょっと弱気になりはじめたのかもしれない。オランダの「中盤守備」も少し落ち着き、それまでの、相手を(心理的に)押し込んでしまうような「ダイナミック中盤守備」が、相手の次のプレーに対する「読み」を主体にした効率守備へと変化していったと感じる。いやそれは、ユーゴのプレーに、勢いと危険な臭いが失われていった結果だったのかもしれない。サッカーの「心理的な相対性メカニズム」ということか。

 そんな効率サッカーに転換する雰囲気が出てきても、オランダのプレーには、予選リーグで見られたような「停滞」を感じない。落ち着いた雰囲気の中にも、攻守の勝負所における「メリハリ」を感じるのだ。そんな「ゲームペース制御」の中心的な存在が、中盤の底にポジションする、コクーとダービッツ、そして上がり目のベルカンプである。前半終了間際の時間帯に叩き込んだオランダの二点目のシーンでは、そのダービッツが「台風の目」になる。

-------------

 ●二つ目の「五秒間」・・

 前線の左サイド、タッチライン際にポジショニングしていたダービッツ。その「前の」スペースに、タイミング良くパスが出される。これで彼は、ボールを持つ前の段階から余裕をもってルックアップし、最前線の状況を正確に認識できる。

 余裕のルックアップ。それは、最前線に張るクライファートとの「実効あるアイコンタクト」を意味していた。既にクライファートは、ダービッツがボールに触る前のタイミングで、ユーゴ最終守備ラインの「ウラ」にひろがる決定的スペースへ向けてスタート切っていたのである。

 クライファートのコース取りも、また秀逸だった。まず、ダービッツから「離れる」ように右サイドへダッシュし、次の瞬間には、急激に中央タテ方向へコースを変えたのだ。変化のある動き。マーカーだったミハイロピッチにとって、クライファートは「消えて」しまったに違いない。そしてダービッツから、決定的スペースへ超速ダッシュで抜け出るクライファートの「眼前のスペース」へ、まさに「測ったような」という表現があてはまる正確なラストパスが送りこまれる。マークするミハイロピッチの頭上を、ギリギリのところで越えていく・・。左足チップキックでのロビングラストパス。それは、ダービッツの「優れた感性」を如実に証明していた。

 またクライファートのダイレクトシュートも、「サッカーの美」そのものだった。相手GKの動きを完璧にイメージしているかのような、サイドキックでの「ソフト」なシュート。まさにそれは、「理想的なゴールへのパス」だった。

 これでオランダが、前半を「2-0」で折り返すことになる。

-------------

 私は、ユーゴの後半の「巻き返し」に期待していた。ただ、やはり・・というか、彼らにはもうエネルギーが残っていなかったようだ。前半なかば過ぎからの時間帯と同じように、中盤での「攻守にわたるダイナミズム」を魅せつづけるオランダにゲームを支配されてしまう。

 そして後半5分。オランダが、試合をのゆくえを決定づける三点目を叩き込む。またまたクライファート。彼にとって、ハットトリックとなるゴールだった。

 ●ここから五秒間!

 オランダ、ベルカンプのフリーキック。鋭くカーブを描くいたボールが、ユーゴスラビアのゴール前へ飛んでいく。ユーゴGK、クラリが、意を決した飛び出しから、力強いパンチング。ただ、そのクリアボールが、直接、右サイドのボスフェルトにわたってしまう。それが、ドラマの序章だった。

 クリアボールを右足の「甲」でスパッとトラップしたボスフェルト。その前には、ユーゴチームの「精神的な支柱」、ピクシーが立ちふさがっている。ただボスフェルトは、まったくひるむ様子なく、当たり前のようにドリブル勝負を仕掛けていった。右足で、ピクシーをスクリーニングするようにボールを運ぶ。もちろんピクシーもその動きに連動するように走りながら、ボスフェルトのドリブルコースに入り込もうとする。その瞬間だった。ボスフェルトが、右足で、鋭く切り返したのである。オッ、というように「左足」を突っ張ってストップするピクシー。ボスフェルトの狡猾なワナ・・

 これは「タイミング・フェイント」と呼ばれるものだ。まず動いて、マークする相手を「連動したアクション」に引き込む。その瞬間、急激にストップしたり、切り返すことによって、その相手の動きを止めてしまう。そして次の瞬間には、最初と「同じ方向」へボールを動かして相手を置き去りにしてしまうのだ。相手は「片足で踏ん張って」ストップするだろう。その「踏ん張っている足」の方向へ、「トッ、ト〜ン」というタイミングで「二度つづける切り返し」でボールを運んでしまうものだから、相手はまったく動けずに抜き去られてしまう。それは「1.5リズム」の「ダブル切り返し」フェイントとも呼べるかもしれない。

 ベーシックな「タイミングフェイント」だが、効果は絶大。ピクシーは、その単純なフェイントに、まんまと引っかかってしまった。そしてボスフェルトの勝負ドリブルに完璧に置き去りにされてしまう。「これはもう追いつかない!」と、動きを止めてしまうピクシー。その瞬間の落胆した表情は、今でも脳裏に焼き付いている。

 さて決定的シーン。ピクシーを抜き去られた瞬間。ユーゴのゴール前では、守るエネルギーと、攻めるエネルギーが、爆発的に交錯していた。

 ピクシーが抜かれた瞬間、まずジュキッチがカバーリングに急行する。またゴール前にポジショニングしているクライファートは、ゴベタリツァがマークしている。またミハイロピッチも、パスコースを塞ぐように戻ってきている。

 一瞬、クライファートをマークしていたゴベタリツァが、フリーでドリブルするボスフェルトに気を取られた。それが勝負の瞬間だった。クライファートが、その「意識の間隙」を逃さず、ズバッ!と爆発的にスピードアップしたのである。そう、ゴベタリツァの「目の前のスペース」へ向けて・・

 余裕のあるボスフェルトにも、クライファートの動き、つまり彼の「勝負の意図」が明快に見えていた。それこそ、「勝負イメージ」が完璧にシンクロした瞬間なのだ。スパッ! グラウンダーのラストパスが、「ゴベタリツァへ向けて」送りこまれた。ただ、ボールがゴベタリツァに届こうとする瞬間、彼の眼前に「オレンジの影」が割り込んだのである。ゴベタリツァにも、クライファートが自分の前に入り込んでくる動きは見えていた。ただいかんせん、対応のタイミングを完全に失してしまっていた。そして、クライファートの、「これぞ才能!」と世界中のエキスパートをうならせた、右足での「引っかけシュート」がゴールへ飛び込んでいったのである。

 クライファートは、身体を「ねじり」ながら鋭く右足を振り、アウトサイドでボールを「チップ!」するように引っかけたのだ。いや、目を疑うくらいの早業ゴールではあった。

 これでハットトリック・・。この三ゴールは全て、クライファートの、「アソコでゴールを決めてやるゾ!」という強烈な意志を基盤にしたフリーランニングと、仲間からの、フィーリングあふれるラストパスが相まって生まれた(ハイレベルなイメージシンクロ・コンビネーション!)。でも私は、どちらかといえば、クライファートの「ラストパスを呼び込む動き」の方が、戦術的に、より重要な「意味」を持っていたと思う。そう、勝負は「ボールがないところで決まる」のだから・・。

-------------

 このゴールで勝負は決まった。「3-0」となった時点で交代し、グラウンドを去るピクシー。ただ表情はスッキリとしたものだ。「全力は尽くした。この日のオランダだったら、世界中のどのチームも勝てないさ・・」。彼の表情が、そんなことを語っている・・ように見えたものだ。私は彼に、心からの拍手を送っていた。「アナタは素晴らしい。世界のサッカー史で語り継がれるべき選手だ。アナタのような天才が、物理的な限界まで、まさに最後の最後まで、攻守にわたって闘う姿勢を貫き通したのだから・・」

 その後クライファートが、自身の4点目となるゴールを決め、つづいて後半32分、後半45分には、オーフェルマルスが、オランダの5点目、6点目のゴールを決める。対するユーゴも、ロスタイムに入って、ミロシェビッチが一矢を報いる。

 オランダは、この試合で完全に「再生」したといえるだろう。再び、フランスワールドカップ当時の、組織プレーと才能プレーがうまく「バランス」した高質なサッカーを展開しはじめたのだ。「才能」たちが、予選リーグの試合内容を、「これではダメだ・・」と感じ、ライカールト監督のもと、自らのサッカーを見つめ直したのだろう。

 このゲームでは、全員が「チームのために」プレーした。ベルカンプ、クライファート、ダービッツ、コクー、ゼンデン、オーフェルマルス、そして最終守備ライン。まさに全員が、フォア・ザ・チームのプレーに徹したのである。

 やっと、「世界の才能」たちが、覚醒し、一つにまとまった。

---------------

 さて、いかかがでしたか。これからも、折を見て、「セルフモティベーション」として、別の「五秒間のドラマ」を掲載します。ご期待アレ・・

 では本日は、これで・・

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]