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フラットライン守備システムを語り合いましょう・・(2001年9月)

「Isize 2002 Club」で発表した、「フラットライン守備システム」に関する文章について、多くの方々からメイルをいただきました。要は、「分かりやすいから、データベースとして湯浅健二のHPにも載せておいてくれないか・・」ということです。

 たしかに、イサイズに載せた文章は、どんどんと「表示レベルが下がって」いきますから、私自身にとってのデータベースとしても、常に「見える」ところに置いておくことにしようかな・・ということで、私のHPでもアップしておくことにしました。

 原文は、かなり長いので、大事な部分だけをピックアップして・・なんて思っていたのですが、結局はほとんど原文のまま・・ということになってしまいました。まあ、我慢してお読みになっていただければ・・と期待いたします。

 尚、ワールドユースにおけるヤング日本代表の予選リーグ最終戦については、逆に「イサイズ」で書きますので・・

 では・・

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 まず、守備における原則的なポイントについてサラリと・・

 「守備の目的」は、言うまでもなく、相手からボールを奪い返すこと。ゴールを守るというのは「結果」にしか過ぎない。その「具体的な目的イメージ」をもつことが、守備プレーの出発点になる。

 ボールを奪い返すのは、ドリブルやキープをする相手との「一対一」の勝負シーンだけではない。相手のミスパスで、労せずしてボールを取り返すシーンも頻繁に起きるし、パスを途中でインターセプトしたり、パスを受ける相手がボールに触る瞬間を狙ったアタックによって奪い返す場面も多いのだ。だからこそ、「ボールのないところ」で動き回る相手パスレシーバーをしっかりと意識(マーク)しておかなければならない。どんな守備のシステムでも、「最後は人を見る(マークする)」ということに変わりはないのである。ここが重要なポイントだ。最後は「人」を見なければならない・・

 もちろん、守備にまわったら、まず何といってもボールを持つ相手選手に対するチェックがスタートラインになる。それがなければ、フリーでドリブルされたり、余裕をもって決定的なパスを出されてしまう。相手ボールホルダー(ここでは、短い横パスなどのレシーバーも含めよう!)を確実にチェックすることが基本というわけだ。そしてそれをベースに、「周りのディフェンダー」は、次や、その次の仕掛けパスを狙ったり、味方のカバーリングに備えるのである。

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 次に、ディフェンスにおける最後の砦である「最終守備ラインのシステム」について軽く触れることにする。

 最終守備ラインには、いろいろな種類がある。以前は、相手のトップ選手をどこまでもマークしつづけるストッパーと、リベロやスイーパーと呼ばれるカバーリング役(最終ラインの統率役=守備のリーダー)が組み合わされたシステムが主流だった(相手トップの人数などによって、スリーバックやフォーバックにしたりする)。

 このシステムでは、それぞれのディフェンダーの役割が明確だから、シンプルで分かりやすく、堅実ではある。もちろん、「二列目」と呼ばれる、後方から上がってくる相手のミッドフィールダーは、味方の中盤選手たちが、これまた最後まで「マンツーマン」でマークしつづけなければならない。それはそうだ、味方のストッパーが、動き回る相手のトップ選手をマークしつづけて動くわけだから、最終守備ラインにスペースがどんどんとできてしまう。中盤選手たちのマークが甘くなれば、後方から上がってきた相手選手に、簡単にスペースを使われてシュートチャンスを作られてしまうというわけだ。

 ただこの守備システムは、「ゲームの流れ(最終的な勝負所)」とはまったく関係のない相手選手までもピタリとマークしつづけるということで、あまり効率的とはいえない。そこで出てきたのが、ゾーンディフェンスと呼ばれる守備システムである。

 このシステムは、最終ラインの選手たち(当時は四人が普通)が、互いの距離を保ちながら横に並び、それぞれが受けもつ「ゾーン」に入ってきた相手をマークするという考え方を基本にしている。要は、動き回る相手選手のマークを「受けわたし」ながら、勝負の瞬間になったら、しっかりとしたマンツーマンマークへ移行するのである。この発想をベースにした守備システムは、現在でも世界中でよく見かける。

 そして「フラットライン」システム。それは、「ゾーンディフェンス」の発展型とも呼べるものである。このシステムでは、四人、または三人(これがフラットスリー)の最終守備ラインの選手たちが、互いの距離を保ちながら(ポジショニングバランスを保ちながら)「一体」となって相手の攻撃に対応するように前後左右に移動する。要は、自分たちが「オフサイドライン」だということを強烈に意識しながらプレーするということだ。

 そして、スルーパスとか、フリーの相手がドリブルで勝負してくる状況などに対応し、ラインを崩して(私はそれを「ブレイク」と呼んでいる)マンマークへ移行して最終勝負に臨むのである。そこでは、ドリブルする相手との一対一の勝負になる場合もあるし、ボールのないところで決定的パスを受けようとフリーランニングする相手をマークしつづける場合もある。

 このゾーンディフェンスシステム、フラットライン守備システムは、選手たちに高度な戦術的判断が要求されるということで、マンツーマンシステムよりも難しい守り方だとすることができる。

 前述したように、マンツーマンマークシステムであれ、フラットラインシステムであれ、「最後の勝負の場面」では、必ず、相手をしっかりとマークしなければならない。ただ、そこに至るまでの「プロセス(ベーシックな発想)」が異なるということなのである。

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 次に、フラットライン守備システムを、より詳しく見ていこう。

 フラットラインを組んで攻撃を迎え撃つのは、相手が「中盤で組み立て」て攻め上がってくる状況に限る。つまり、後方からの一発ロングパスやカウンター攻撃の状況では、はじめから「ラインがブレイク」した状態で対応せざるを得ないということだ。

 だから、先日のフランス戦の「後半」に奪われたいくつかのゴールに対して、「フラットスリーが完全に崩されましたネ・・」などという解説をつけること自体が的はずれもいいところなのである。

 ハナシを戻すが、フラットラインは、相手が中盤で組み立てて攻め上がってくる状況で、彼らの「前後」のボールの動きや「次の勝負意図」に応じて最終守備ラインを上げ下げする。自らがオフサイドラインなのだから、それを上げ下げすることで、相手が使えるスペースを制限してしまのである。

 相手が後方へボールを動かしたら(相手がバックパスせざるを得なくなった状況)、スッとラインを上げる。そのことで、相手トップをオフサイドの位置に置き去りにし、相手がタテパスを出せない状態にする。相手はタテパスを出せないから、中盤でプレーできる「ゾーン」そのものが狭くなり、「より」前が詰まった状況に陥ってしまう。中盤の味方による、ターゲットを絞った「協力プレス」の大いなる支援というわけだ。

 そして、オフサイドゾーンに取り残されていた相手が、最終守備ラインの位置まで「戻って」きた状態で、相手からタテパス(ロングパス)が出そうになった瞬間、そのパスのタイミングを予測し(このタイミングを読むことは、比較的容易)、今度はスッと下がることで「最初に」そのパスに追いついてボールを奪い返してしまおうというわけだ。

 そこでは、フラットラインを構成する選手たちが、ラインを下げたり、最終勝負のために「ブレイク」してマンマークへ移行するタイミングをしっかりと判断できるために、中盤での「攻撃の起点(ボールを持つ相手選手)」に対する効果的なチェックがキーポイントになる。要は、最終ラインが、「どのタイミングで、どこへ、最終勝負のラストパスが出てくるのか」を、正確に予測できるように、今度は、中盤の味方選手たちが、最終ラインを「支援」するわけだ。もちろん理想は、相手が決定的スペースへ向けたスルーパスやタテパスを出せないようにしてしまうことなのだが・・

 これが、一般的にいう、フラット守備システムの「ラインコントロール」なのである。

 「オフサイドトラップ」は、相手がタテパスを出す瞬間を狙い、スッと最終ラインを上げることで相手トップ選手をオフサイドにしてしまうことを言う。それに対し、フラットラインの押し上げは、相手がタテパスを出せない状況にしてしまうことが目的だから、基本的な発想が違うということだ。それでも、「最終勝負シーン」でのラインコントロールでは、限りなくオフサイドトラップに近い状況も出てくるわけだが・・

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 次に、フィリップ・トルシエが導入したフラットスリーを中心に、フラットライン守備の神髄ともいえる「最終勝負におけるラインコントロール」について、またそれが機能しているかどうかを「評価するポイント」について議論をすすめていくことにする。

 まず、フィリップの「フラットスリー」について簡単に触れておこう。

 フラットライン守備システムには、最終ラインを三人で構成する「フラットスリー」と、四人の「フラットフォー」がある。ここで一つだけ、「誤解」を解いておかなければならないことがある。それは、フラットスリーが、決して「最終ラインを三人で守る」のではなく、守備にはいった場合には、(もちろん相手のチカラやシステムにもよるが)その「三人」に両サイドバックの二人が加わって「ファイブバック」になる守備のシステムということだ。そこが、多くの方々に誤解されている。「サイドスペースの守備」は、基本的にサイドバックが担当するということなのである。

 別な見方をすれば、フラットスリーが、相手がシュートを打つために最後は向かわざるを得ない「中央ゾーン」に三人を配置しているから、フラットフォーと比べて、より「堅実」なシステムだともいえる。

 もちろん「相手」によって、両サイドバックの「タイプ」は変えざるを得ない。世界トップネーションとの対戦となったフランス戦では、両サイドから崩されるケースが目立っていた。だから、強豪のスペイン戦では、両サイドに「より」守備の強い選手(服部と波戸)を置くことで安定した戦いを展開することができた。とはいっても、波戸や服部が、機を見て、攻撃の最終段階に絡んでいくシーンを何度も目撃したし、フィリップも、彼らに対して、「チャンスがあれば、行けよ!」と意識付けしていたに違いない。だから、どちらかというと守備的なタイプの選手を両サイドバックに配置したからといって、彼らが「守備専門要員」というわけでは決してないのである。

 要は、サイドにどのようなタイプの選手を置くのかによって、また「守備的ハーフ(ボランチ)」をどのように配置するのかによって、ディフェンスのチーム戦術を「微調整」することができるということだ。

 これが原則だが、フィリップ・トルシエが標榜するフラットスリーには際だった特徴がある。それは、「より積極的」に最終守備ライン(オフサイドライン)を押し上げさせること、そして「ラインブレイク」をできる限り「遅らせる」ことだ。まさに攻撃的なフラット守備システムだとすることができる。

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 さて、「実戦」におけるフラットスリーシステムの機能性についてである。

 まず明確にしておかなければならないことは、どのようなケースを、「フラットスリーが破られた!」と、捉えるべきなのかという「ベーシックな視点」だ。原則的な状況は、(前回のコラムでも述べたとおり)フラットラインがしっかりと組織されている状態で、組み立てて攻め上がる相手が最終勝負を仕掛けてくるシーンである。

 サッカーは「非定型」のボールゲーム。だからプロセスは無限なのだが、一般的には、ゴールキーパーと最終守備ラインの間や、相手が攻め込んでくるのとは逆のサイドに広がる「決定的スペース」において、(もちろんオフサイドにならずに)相手選手に「ある程度フリー」でボールを持たれてしまうことが(もちろんダイレクトでシュートを打たれたり決定的センタリングを送り込まれてしまうようなケースも含めて・・)、「フラット最終ライン」が崩された瞬間だと考えて差し支えないだろう。

 フランス戦の後半では、カウンターから失点を重ねた。ただそれは、(カウンター状況だから)はじめからラインはブレイク状態だったわけで、フラットスリーが破られた・・というシーンではなかった。それは、日本の守備ブロック全体が、アンバランスに攻め上がり過ぎて崩壊したといった方がふさわしい出来事だったのである。しかし、フランス戦の前半に失った二点目のシーンやその他のピンチ、またスペイン戦での決勝ゴールのシーンでは・・。

 さて、フラットスリーがうまく機能しているかどうかの判断について。ここではまず、相手が、中盤での組み立てから「攻撃の起点(ある程度フリーでボールを持つ選手)」を作りだし、そこからラストパスを出すなど、最終的な仕掛けに入ってきた状況を「実例」を挙げて考えてみることにしよう。もちろん相手のトップ選手は、組織された最終フラットラインに「溶け込む」ようにポジショニングしている。

 まさにこれが、「最終勝負のラインコントロール能力」が問われるシーンなのだ。

 例えば、フランス戦での立ち上がり7分に作り出された決定的ピンチ。中盤の深い位置でボールをもった中盤の底、ラムーシが、ルックアップするやいなや、40メートルはあろうかという超ロング「ラストパス」を最前線へ送り込んだシーンがあった。狙うは、トップに張るアンリの眼前に広がる決定的スペース。

 その瞬間、あっ、オフサイド・・!? 誰もがそう思ったに違いない。ただそのタテパスは、オフサイドぎりぎりのところで決定的スペースへ飛び出したアンリに、ピタリと合ってしまう。

 ラムーシがボールを蹴った瞬間。たしかにアンリは、マークしていた森岡の「前」にいた。もし森岡が「最終ディフェンダー(つまりオフサイドライン)」だったら、完璧にオフサイドのタイミングである。

 「自分がオフサイドラインだと確信できること・・」。それも、日本代表が採用するフラット守備ラインのコンセプトの一つ。この瞬間、森岡は確信していたことだろう。「よしっ! アンリはオフサイドだ・・」。ただ現実は違った。パスが出された瞬間、少なくともアンリと「同じレベル」にいた日本選手がいたのだ。右サイドバックの明神。

 そして、タテに走り抜けながら、ソフトに、本当にソフトに、右足のアウトサイドでボールをトラップしたアンリは、そのまま決定的なシュート体勢にはいる。一発のタッチで、ボールをシュートスポットへ正確にコントロールしてしまう・・。まさに天才である。ただ、左足のインサイドで放たれたシュートは、日本ゴールの左ポストをわずかに外れていった。アンリが狙ったのは、日本ゴールの左上角。ただ結局は、狙い過ぎたためにシュートミスになってしまったのだ。

 そして13分。またまたアンリの「飛び出し」によって日本が二点目を失ってしまう。ラストスルーパスを出したのはピレス。右サイドのタッチライン際をドリブルする彼には、中村、稲本、そして服部の三人が対応していた。ただ誰もアタックにはいけず、逆に、ピレスの単純なキックフェイントに体勢を崩されてしまう。そして次の瞬間、一瞬のルックアップから、ピンッ! という音がしてきそうなコンパクトなモーションで、ラストスルーパスが放たれた。

 中央でアンリをマークしていたのは森岡。彼は、ピレスの「ラストパス動作」が、あまりにもコンパクトで唐突だったために、ラストパスをインターセプトしたり、最初に追いつくための「先読みスタート」の準備さえままならなかったに違いない。結局森岡は、アンリの爆発ダッシュに完全に置き去りにされてしまう。それは、素晴らしいコースとタイミングのスーパーラストパス、そして決定的フリーランニングだったのである。

 完璧にフリーで、決定的スペースへ抜け出すアンリ。スルーパスに余裕をもって追いつき、シュート体勢に入る。ただアンリは、水を含んでスリッピーになっているグラウンド状態ということもあり、かなり厳しい状態でシュートを打たなければならなかった。それでは鋭いシュートを飛ばせるはずがない。案の上の、力ないシュート。誰もが、「あっ、楢崎にとってはイージーボールだ・・」と思ったことだろう。ただ事もあろうに、一旦キャッチしたかのように見えたボールが、楢崎の「脇の下」をすり抜け、日本ゴールへ弱々しく転がり込んでいったのである。

 楢崎、痛恨のミス。もちろんそれは、彼がGKとしてステップアップするための「強烈な刺激」だったと捉えなければならないわけだが・・。

 その後も一度、最終ラインの「球出しに対する読み」のウラを突くラストパスを出されるシーンがあった。とにかくフランス戦は、日本代表のフラットスリーにとって、世界トップと対戦する際の問題点や課題を整理できたという意味で、願ってもない「学習機会」になったことだけは確かな事実である。

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 そしてスペイン戦。フィリップは、両サイドと中盤ディフェンスをより安定させただけではなく、安易な「オフサイドトラップ」は避けるような意識づけをしたに違いない。そんな「調整」がうまく機能した日本代表のフラットスリーは、たしかに何度かピンチを迎えたとはいえ、ラインを崩されて決定的スペースを突かれるような場面は、(後半のホセ・マリがヘディングシュートを放ったシーンを除いて!)ほとんどといっていいほどなかった。ただ・・

 後半もロスタイムに入ったゲーム終了間際の時間帯。このままいけば、両チームの「やる気レベル」が高揚した勝負マッチで、世界のトップネーションの一つであるスペインと引き分けられる。選手にとって、それほどの自信ベースはない。そんなことを思っていたとき、「その瞬間」が唐突に訪れた。

 セルジが蹴ったフリーキックの競り合いから、ボールがこぼれた。それ奪ったスペイン選手が、後方の選手へバックパスする。そこからのラストパスやシュートを狙わせるためだ。ただそのパスコースは、中田浩二に読まれていた。スパッ! 見事にインターセプトした中田浩二が、少しサイドライン方向へボールを持ちだし、前戦へタテパスを送る。そのタテパスに合わせるように、日本の最終守備ラインが押し上げる。しかし中田浩二のタテパスはカットされ、逆にムニティスへパスが回されてしまう。

 そこが勝負だった。スパッとトラップし、瞬間的にルックアップするムニティス。そして間髪を入れず、右サイドの決定的スペースへスルーパスを出した。

 ムニティスがボールを持ったとき、中央ゾーンで、一人のスペイン選手がフリーランニングをスタートしていた。ボランチのバラハ。ムニティスとバラハの「勝負イメージ」が、完璧にシンクロした瞬間である。対応できない(しなかった!?)日本守備ブロック。「オフサイドだ!」と手を上げた森岡と中田浩二だったが、瞬間的に状況を把握し、力無くその手を下げた。その二分前に、ケガの上村と交代して出場した中澤が残っていたことに気づいたのである。それは、このゲームで唯一、日本の守備ラインが崩し切られたシーンだった。

 中田浩二がタテパスを出した時点で、最終ラインのリーダー森岡と服部は、条件反射のように押し上げていた。ただ中澤は、様子見になってしまい、その上がりに乗り切れない。森岡と服部、そして中田浩二が、「オレたちがオフサイドラインだ・・」と確信していたにもかかわらず・・。

 そのとき中澤は、バラハが狙う決定的スペースをイメージできていなければならなかった。ラインがブレイクし、デコボコになった状態では、もう彼しか残されていなかったのだ。にもかかわらず、結局スタートが遅れ、フリーシュートから、決勝ゴールを許してしまう。

 そのときボクは、ディフェンダーにとっても、「スペース感覚(相手がイメージしている決定的スペースに対する読み!)」がいかに重要なファクターか・・ということを反芻していた。

 難しいフラット守備システムだからこそ、最終ラインの選手たちは、最終勝負における「守備のスペース感覚」を、常に鋭く研ぎ澄ましていなければならない。「今はラインを保つのか、ブレイクしてマンマーク(スペースチェック)へいくのか・・」。選手一人ひとりが、あうんの呼吸でラインを組織しながら、勝負の瞬間には、自分主体で判断・決断し、実行できなければならない。それが、フラットシステム成功のカギなのである。

 一瞬の意識の空白。それが、世界との勝負では致命傷になる。中澤は、「瞬間的な集中ギレ」の恐ろしさを体感し、そこから学習することで、もう一つステップアップするに違いない。それこそ、世界との勝負における真の価値なのである。

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 さて、フラットラインが本当の意味で機能しているのかどうかを判断するための、もっとも具体的な基準である「最終勝負におけるラインコントロール」。

 フラットラインシステムの「神髄」は、オフサイドラインをコントロールしながら、最終勝負の瞬間に「自分主体」の判断でラインをブレイクしてマンマークへ移行し、ラストパスやドリブルからのシュートを阻止すること(ボールのないところでの決定的マーキングアクション、そしてドリブル勝負する相手へのアタックなど)。そしてもう一つ、「ブレイク」せずに、自分たちの「背後(=オフサイドポジション)」にいる相手をそのまま残したり、決定的スペースへ走り込む相手を「行かせる」ことで、オフサイドを取ったり、ラストパスを出せないようにしてしまうというギリギリの判断である。

 それを機能させるための生命線は、相手の勝負の仕掛けを「高い確率で読める(予測できる)」ことだ。この「予測」をうまく出来なければ、確実に決定的なピンチに陥ってしまう。だからこそ、中盤選手たちの、「最終勝負の起点」に対する効果的なプレッシャーが重要なファクターになる。それによって、「ラインブレイク」のタイミングを測ったり、逆にラインを「維持」して、背後の相手をそのまま残すとか、相手を「行かせる」という判断もできるわけだ。

 フランス戦は別にして、次のスペイン戦、そして今回のコンフェデレーションズカップでのカメルーン戦、はたまたブラジル戦を通し、日本代表のフラットライン守備システムは、ある程度は、うまく機能していたとすることができる。

 相手にタテパスを出させないという「基盤となるアイデア」に基づくラインの押し上げ。相手がタテパス(特に後方からのロングパス)を出しそうな展開を「読んで」、スッとラインを下げることで先にボールに追いついてしまう「一般的なラインコントロール」。相手が「決定的な起点(最終ラインの前で、ある程度フリーでボールを持つ選手!)」を作り出した状況における「最終勝負のラインコントロール」。そして、より確実な「ライン・ブレイク」。

 無闇な「オフサイド・トラップ」も見られなかったし、「全体的」にはうまく機能していたと思うのである。

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 日本代表のフラットスリーは、難しい守備システムである。それでもボクは、ポジティブ要素とネガティブ要素を「相殺」すれば、確実に「プラス方向」へ振れるだろうから、フィリップのフラットスリーについては、基本的にアグリーではあるのだが・・。

 それでも、フランスやスペインのように、相手のチカラが別格といえるほど上で、中盤での「プレー制限(プレス)」がうまく機能しなかったら・・、そして相手の最終仕掛けの意図やタイミングを予測することがままならなかったら・・。

 フランス戦での教訓から、より現実的な守備戦術を選択したスペイン戦では、たしかに、中盤での「ファウンデーション」としてのチェックがうまく機能した。だから「最終勝負のラインコントロール」もかなりのレベルでうまくいった。とはいっても、ギリギリのところでオフサイドを取れはしたが、現実的には「ラッキー」だったことを否めないタイミングもあったし、相手の「起点」が、ラストパスではなく中距離シュートを打ってきたことで助かったシーンもあったということも忘れてはならない。

 だからこそ、相手が強くなればなるほど、より確実な「判断」がテーマになってくる。もし味方の中盤選手たちが、ボールホルダーへのプレッシャーを十分にかけられないことで、フラットラインの選手たちが「球出し」のタイミングやコースなどを正確に予測するのが難しい場合、それでもどこかのタイミングで必ずキラーパスが出てくると「感覚的」に予見される場合、絶対に、自分主体の「早め(この言葉には様々なファクターが含まれる!)」のブレイクで、すぐさま「確実なマンマーク」へ移行すべきだと思うのである(ライン組織のポジショニングをベースにした、『素早く、小さな動き』でのスムーズなマンマークへの移行!)。

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 2002ワールドカップへ向け、これからの日本代表は、コンフェデレーションカップ、キリンカップ、はたまたその他の国際マッチなどを通し、フラットスリーにおける「理想と現実のバランス」がどこにあるのか・・、もっといえば「リスクテイクと実効」の「理想的なバランス」がどこにあるのかを測っていくことになるだろう。

 ボクは、そのプロセスを「ロジカルな目」で冷静に見つめることが、我々ジャーナリストの使命だと思っている。

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 さていかがでしたでしょうか・・。長い、長〜〜い文章なのに、最後まで読んでいただき、感謝いたします。戦術的な取り決めが決定的に重要な「意味」を持つ「ディフェンス」。だからこそ、それを語り合ううえでも、原則だけは捉えておかなければ・・なんて思っている(思い上がっている!?)湯浅でした。もちろん、「枝葉末節ディスカッション」には際限はないわけですがネ・・

 ということで・・

 




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