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ジュビロのボールの動きは、ひと味違う・・・・(2001年12月18日、火曜日)

さて、以前に発表したコラムの「リードバック」ですが、その三回目として、「ジュビロのパス」を採り上げることにします。というのも、フィリップ・トルシエが代表監督に就任した1998年当時、「ジュビロのボールの動きはひと味違う・・」というコラムを発表したのですが(1998年9月の2002クラブ)、読み返してみて、やはり彼らの「組織プレーと個人プレーの優れたバランス」には歴史があったと再認識したからです。

 今月から「週刊プレーボーイ」での連載もはじまるのですが、今週の金曜日に発売される第一回目のテーマも「ジュビロ」。タイミングが良いので、そのテーマを採り上げることにした次第。ドゥンガなど、懐かしい名前が出てきます。

 では・・。

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 ここのところ、ジュビロのパス回しに魅了され続けている。

 彼らのパスが素早く、広いことはもう何度も触れたとおりだが、それにつけ加えなければならないことがある。それは、彼らが演出するボールの動きには、「タテ方向にも深さがある」ということだ。

 以前、このようなクリエイティブなパス回しはヴェルディーの専売特許だった。それが、第六節で対戦した両チームの試合内容が、まるで逆転していたのである。

 たしかにヴェルディーのボールの動きは、監督が替わり、ゲームコンセプトがより明確になったことで活発になってきてはいる。ただその動きは、ほとんど「フラット」。どちらかというと、展開に詰まったから仕方なく横パスを回す・・という雰囲気なのだ。それに対し、ジュビロのボールの動きは、それこそ「縦方向にもジクザグ」。そして、ダイレクトパスを多用するなど、本当に素早く、広い。

 随所に活発なフリーランニングを展開する彼らは、確実にそんな「ボールの動き」を意図している。そう感じる。

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 例えば、中盤でドゥンガがパスを受けたシーンを想像していただきたい。その瞬間、最前線の選手や攻撃的ミッドフィールダーが、数歩もどるようなフリーランニングを見せる。これでマークする相手との「間合い」が少し空く。ドゥンガは、その瞬間を逃さず、例の「視線フェイント(右を見て、実際には左へパスなど)」から、ビシッというパスを、その選手の足元に付けるのである。

 もちろんドゥンガは、パスを出した後、バックパスを受けるためにすぐに移動し(パス&ムーブ)、再びボールを受けるだけではなく、そこからまた最終守備ラインへボールを下げたりもする。そして、また短いタテパスを受け、それを再び最前線へ素早くつなぐ。そして再度バックパスを受け、横パスをミックスしながら、攻めにおける「展開の起点」をどんどんと前方へ移動させていってしまう。

 そのようにジュビロは、10メートル前方の選手の足元に、どんどんとボールを付ける。その選手はボールをこねくり回さず、すぐにダイレクトなどでバックパスを出すか、横に展開する。バックパスの場合は、もちろん、最初にタテパスを出し「パス&ムーブ」で動いた選手へ戻したりする。それを今度は、左か右へ展開した後、またまたタテの「往復パス」をつないでしまう。フム、素晴らしい。

 他のチームの場合、タテパスは、限りなく「一発勝負のパス」であることが多い。そのパスだけで、決定的なチャンスを作りだそうとするのだ。それでは、イチかバチかのタテパスと言われても仕方ない。ただジュビロの「短い、前後のタテパス交換」の場合は、根本的なコノテーション(言外に含蓄される意味)が違う。

 「組み立てのタテパス交換」と「勝負のタテパス」では、基本的な意味(目的)が違うということなのだが、そこに、ジュビロのゲームコンセプト(概念)が見えてくる。

 彼らが意図しているのは、相手の守備ブロックを「タテに振り回す」ことで、相手守備選手たちの、タテとヨコのポジションバランスを崩し、それをキッカケにして、より可能性の高い「ホンモノの最終勝負の起点」を作りだすような展開ということだ。そしてその起点から、二列目、三列目の選手のタテへのフリーランニングも含めたファイナルバトルを仕掛けていくのである。

 そんな攻め方をされたら、相手の守備ブロックが対応に苦慮するのも道理である。

 相手のミッドフィールダーたちは、そのボールの動きに合わせ「前後に」ポジションを移動することになるわけだが、そのように前へいったり後ろへ戻ったりと、中盤の守備組織が「タテ」に振り回されてしまうことで、「ここが、ボールを奪い返す勝負だ!」という、マーキング(次のパスターゲットの絞り込み)のポイントが見え難くなってしまうだけではなく、守備組織をしっかりと維持することも難しくなってしまうのである。

 相手のボールの動きが「横方向」主体だと、ある程度組織をコントロールできるし、マークする相手とボールを同時に見ることも比較的容易だ。でもそのボールの動きに、激しい「縦方向」が加わったらハナシは別。マーキングに問題が出てくるだけではなく、結果として守備組織もバラバラになってしまうものなのである。

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 それは、「ポストプレーの繰り返し」などと言い換えることができるかもしれない。

 通常ポストプレーは、センターフォワードへの「クサビのパス」からはじまる。守備ブロックの密度が一番高い場所(つまり、相手ゴール前の危険地帯)へ、まるでクサビを打ち込むようなパスを送り、そのボールをセンターフォワードがキープして(またはダイレクトで)、後方からフリーランニングしてくる周りの味方を効果的に使う。そんなプレーだ。

 ジュビロは、そんなポストプレーを、中盤でもどんどんと活用してしまうのである。

 ジュビロのパス回しが最高潮に達すると、相手の足が完全に止まってしまう。あまりにも素早く、タテ方向のジグザグパスが行き交うから、ただ呆然と、首を振ってボールの動きを追うだけになってしまう選手だって出てきてしまう。そして「思考」までも停止してしまう。

 守備ブロックが「能動的な読み」の姿勢を失ったら、ジュビロの意図する攻めが佳境に入ってきてから(ファイナルバトル局面になってから)やっと反応するような、受け身の消極ディフェンスになってしまうことは火を見るよりも明らかだ。

 彼らの、縦方向に深さがある「ジクザクパス回し」の本当の意図には、そんなふうに相手の集中を切らせてしまう(つまり思考を停止させてしまう)ことも含まれているに違いないと思う。

 その立役者は、例によってドゥンガ、名波、藤田、奥の中盤カルテットだ。とにかくジュビロのサッカーの質は、他のJチームと比べても群を抜いている。たしかに、セカンドステージでは、開幕戦から二連敗を喫してしまったが、内容だけは対戦相手を圧倒していた。

 日本代表監督に就任したトルシエ氏も、短い時間だったが、観戦したレッズ対ジュビロの試合で、勝った方のレッズではなく、ジュビロの質の高いサッカーをしっかりと評価していたのが印象的だった。

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 いかがだったでしょうか。

 ジュビロのサッカーが、クリエイティブで忠実なダイナミック守備をベースにしていることは言うまでもありませんが、彼らの「攻めのコンセプト」も、確実に継承され、発展しつづけているということが言いたかった湯浅でした。

 一昨日の天皇杯では、(聞くところによると)奥の退場が響いて、ヴェルディーに負けてしまったということですが(サバイバル戦争に勝ち残ったヴェルディーは天皇杯で暴れるに違いない!)、ケガが完全に癒えた名波がもどってくるだけではなく、西や金沢という若手が着実にチカラをつけている来シーズンには、もう一つステップアップしたジュビロを見られるに違いありません。そう、今シーズンのファーストステージで魅せつづけた、美しく、強いサッカーを・・。

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 さて、サッカーに関する「経済と文化の動的な均衡」というテーマですが、これについては、一橋大学において「スポーツ産業論」というゼミを率いる早川教授、また学生の方々と一緒に、機会を改めて展開することにしました。もう少しお待ちください。

 次は「ボランチ(守備的ハーフ)」について、これまでに発表した様々な文章を「リードバック」しようと思っています。ボランチは、本当に深く、面白いテーマですからネ。

 では、今日はこの辺りで・・。そろそろ帰国モードに入った湯浅でした。

 




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