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「決定力」に関するディスカッション・・(2001年12月11日、火曜日)

どうも皆さん。ちょいと時間ができたので、また多くの方々からご質問をいただいたので、ホームページをアップすることにしました。テーマは「決定力」。

 まず、以前にサッカーマガジンで発表したコラムから・・

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 「ダメだ! 一本に集中しろ! 明確なイメージをもってシュートしろ!」

 ドイツの伝説的名監督、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、ダミ声で檄を飛ばす。ケルン監督時代の、個別に選手を呼び出してのシュート練習である。彼は、シュート一本ごとに鋭い刺激を与えながらモティベートし続ける・・

 ハナシ変わって、先日の日本対中国戦。城や名波、はたまた望月のフリーシュートなど、相手守備ブロックを崩した決定的チャンスを何本も作りながら、結局ゴールを割ることができなかった。翌日のメディアには、例によって「決定力不足・・」などのタイトルが踊る。さて、「決定力」って??

 「チャンスを作り出すことと、実際にゴールを決めることは別物なんだヨ」。ドイツサッカー史に残るストライカー、ルディー・フェラー(補足注:いまはドイツ代表の監督におさまってしまいましたネ)がそう言ったことがある。「チャンスの瞬間、シュートまでのプロセスや、ゴールへ吸い込まれていくボールのイメージが鮮明に浮かんでくるんだ。それは体感に裏打ちされた自信とでもいえるのかな・・」。その意味は、チャンスを確実にモノにするためには、ハイレベルの「心理・精神的バックボーン」が決定的な要素になるということだ。

 瞬間的に脳裏を駆け抜けるゴールイメージ。それは、厳しい練習で積み重ねられた「成功体験」に裏打ちされたものだ。

 チャンス! その瞬間、「世界」のストライカーたちは、「一呼吸」を意識できるくらい落ち着き払い、相手GKやディフェンダーのモーションを脳裏に描きながら、「よし、もらった!」と確信をもってシュートに入っていく。まるで、自らのイメージに誘われ、自然と身体が動くかのように・・

 ゴールイメージを研ぎ澄ますためには、勝負の試合におけるゴール以外では、地道な反復トレーニングをこなすなかで、シュート成功の「体感」を蓄積していくしかない。それも、「本物ゴール」の体感を・・である。

 本場のプロは、それこそ血のにじむようなトレーニングを繰り返す。またそこでは、「本物ゴール」をどのくらい「体感」させられるかという監督のウデも問われる。鳥肌が立ち、冷や汗が出るような「限界状態」を効果的に演出するウデが・・

 ゴールは、技術・戦術能力と、体感ベースの自信・確信などが凝縮した「クリスタル(結晶)」である。一朝一夕でモノになるはずがない。

 気乗りしない雰囲気で「やらされる」シュート練習を繰り返す日本選手たちを見かける。そして「勝負」における決定的シュートミス・・。そんな光景を見るにつけ、「ダメだ! もう一度!」という、ヴァイスヴァイラーの「意味深」なダミ声を思い出す。

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 さて、いかがだったでしょうか。「決定力」というつかみ所のないサッカー的現象。それを左右するファクターのなかで、もっとも重要なモノ(心理的な部分!)にスポットを当てたつもりです。

 一本のコラムをまとめるに当たっては、まずメモを書く作業からはいります。時には、それがコラム本体の数倍にまでふくれ上がってしまう・・なんてこともザラ。それをベースに一つの文章を仕上げていくというわけです。

 決定力というテーマでコラムを仕上げたときもそうでした。もちろん全てのメモの内容が的を射ているというわけではありませんが、なるべく多くの視点で一つのテーマを突き詰めていくという作業は、楽しくもあり、苦しくもあり。そんな「プロセス」を通して、自分自身の「発想の瞬発力」が高まっていくというわけです。この「発想の瞬発力」こそが、コーチにとって、もっとも重要なファクターの一つなんですよ。錯綜するサッカーのメカニズムを把握し、一瞬にして、一つの「サッカー的現象」の本質を言い当てる・・。フム・・

 さて、決定力についてですが、そのときも、以前の書いた文章も含め、様々な「メモ」を残していました。そのなかから、面白そうなモノを少しピックアップしましょう。

 もちろん「シュート技術」が、すべての原点になることは言うまでもありません。正確なトラップ。シュートモーションへ入るまでのコントロール。そして正確なキック。それが最初のテーマだということです。

 次に出てくるのが、個人戦術的な部分(まあ、戦術的なプレーに対する明確なイメージってことですかネ)。そこで一番大事なのが、コンパクトモーションからの素早い「振り」に対する確固たる動作イメージ。もちろん、立ち足を踏ん張ってから蹴るまでのタイミングをなるべく素早くすることも含めてネ。モダンサッカーでは、余裕をもってシュートを打てる場面などは希だということです。

 マラドーナのキックタイミングは参考になりますよ。彼は、「イッチ、ニー」というのではなく、「イッチニッ」という「1.5リズム」のタイミングで、正確にキックをすることができます。たまには、バックスイングがなく、走るそのままの動作でキックしてしまったりして・・。彼のビデオを持っている方は、何度も、何度も見返すことで、「ビデオ・イメージ・トレーニング」に励みましょう。必ずその「イメージトレーニング」が、自分自身のプレーに大きく(ポジティブに)影響するはずです。あっと・・、これは、プレーヤーの方々に対するアドバイスでした。

 その他でも、マークする相手の体勢、相手GKのポジションなどが完璧に「見えて」いるかどうかなど、一つひとつの戦術的イメージが重要な意味をもってきます。それらの要素が、一本のシュートが、「ホンモノのイメージ」として脳のなかに蓄積されるかどうかを決めてくるのです。

 「決定力」は、本当に深い「戦術的ファクター」。これからも、機会を見つけて(より分かりやすい表現がアタマに浮かぶたびに)議論していこうと思っていますので。でもまあ次は、サッカーに関する「経済と文化の動的な均衡」というテーマを分かりやすく展開しようかな・・なんて考えています。

 では、今日はこの辺りで・・。外国よりのアップでした。湯浅・・

 




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