トピックス


ドイツ便り・・その(3)・・さて、サッカーコーチ国際会議です・・(2002年7月31日、水曜日)

さて、ドイツサッカーコーチ連盟が主催する国際会議がはじまりました。場所は、ドイツ中部の西端に位置するザールブリュッケン。すぐお隣はフランスです。

 私は、ここ10年来、毎年招待されているのですが、年々その規模と内容が充実してきていると実感させられます。もちろん今回は、自国のナショナルチームがW杯準優勝に輝いたわけで、盛り上がりもひとしお。参加を希望したコーチたちだけで1000人近くに上った聞きます。

 ホテルから、会場の「ザールブリュッケン・ホール」へは、レンタカーで移動するのですが、とにかく駐車スペースを探すのに一苦労です。ドイツには公共交通機関もありますが、それを使った場合と、クルマでは所要時間に大きな差が出てきていまいますからね。やはりドイツは車社会だな・・。そんなことを実感しながら会場へと入りました。

--------------

 まず例によって、ドイツサッカーコーチ連盟会長のクラウス・ロルゲンさんが、ドスの利いた声で開会の挨拶です(彼は、私がBライセンスを取得したときの恩師でもあります)。「長い道のりだったが、再びドイツが世界サッカーで成果を挙げることができた。我々コーチは、今回の成功をベースに、以前の栄光を取り戻せるよう不断の努力を積み重る義務がある・・」等々。

 その後は、お決まりのVIP挨拶です。ザールランドの知事からはじまり、FIFAやヨーロッパサッカーコーチ連盟から招かれた要人のスピーチなど、それに時間をとられ、実際のプログラムがはじまるのが45分も遅れてしまいました。

 最初のスピーカーは、ドイツ代表チームのドクター、ティム・メイヤーさん。厳しいシーズンを闘い抜いた選手たちの身体チェックや「リ・ジェネレーション(フォームの回復プロセス)」の話からはじまり、ドイツ代表のチームドクターとして考慮した様々なファクターの説明がつづきます。

 それらの要素は、移動時間、蒸し暑いアジア気候の問題(結局、今回のW杯では肩すかしでしたがネ・・)、食事、時差、環境順応、睡眠と生活リズム、トレーニングや試合での疲労と回復プロセス、持久力トレーニングの効果、選手に対する身体検査と「問診」の際の注意事項などなど、多岐にわたります。もちろんここでは全てを細かくレポートすることはできませんが、まあ専門書を読めば、全て書いてある内容ではありますがネ・・。

 でも、その中で面白い発言が・・。それは持久力についてです。要は、それは人によって大きな差があるから、集団で単一トレーニングを行うのではなく、できれば個別プログラムを組むべきだという指摘です。

 もちろん最終的には、ある一定の水準を達成しなければならないわけですが、そこに到達するにも、個人差が大きいというのが彼の指摘。一番持久力のある選手を基準にトレーニング計画を練った場合、ケースによっては、逆効果になってしまうことだってある・・。もちろん、それぞれの持久力の量や質に対する「評価基準」が重要な意味をもってくるわけですが、今回は、そこまでは話が及びませんでした。

 今度は彼にも話を聞きたくなった湯浅でした。

-------------

 さて次が、今回の国際会議での目玉の一つ、現ドイツ代表コーチのミヒャエル・スキッベの講演です。彼は、前日にオスローで行われた「欧州・U19選手権の決勝」を観戦し、次の日の一番の飛行機でフランクフルトへ帰国しました。もちろんフランクフルトからザールブリュッケンまでは車での移動。ということで到着も遅れ気味でした。

 あっと・・。欧州U19選手権の決勝ですが、それはドイツ代表とスペイン代表との間で争われました。結局スペインが、マンUやアーセナルから50億円オファーを受けているというヤングスター、トーレスのゴールで辛勝したわけですが(名前と移籍金の額についてはテレビコメンテーターの早口の聞きかじりですから定かではない・・悪しからず!)、内容的には、ドイツが互角以上のサッカーを展開していました(特に前半)。まあ、局面での「個のエスプリ・レベル」は、たしかにスペインに一日の長はありましたが・・。

 私は、この日、ミヒャエル・スキッベと、対談の約束を取り付けていました。彼の講演が終わった後のランチタイムに話そう・・ということで話が決まっていたんですよ。それでも、全てのプログラムが大幅に遅れ気味。とても心配になっていました。

 さて、遅れて壇上に登場したミヒャエルの講演がはじまりました。

 彼が話した内容の骨子は、リーグで疲れ切った選手たちを回復させるプログラムが殊の外うまくいったこと、相手を研究し尽くした戦術トレーニングが成果を挙げたこと、またエアリッヒ・ルーテメラー(もう一人のコーチ)が中心になった速さとコーディネーション(筋肉と神経系のバランス)トレーニングも重要な意味をもっていたこと、ルディー・フェラー監督と二人のコーチ(ミヒャエル・スキッベとエアリッヒ・ルーテメラー)とのスムーズな共同作業が、今回の大きな成果の背景にあったこと等、多岐にわたりました。

 まあ、詳細な内容については、雑誌での記事だけではなく、私のHPでもご紹介差し上げるつもりですので・・。

-------------

 でもミヒャエルは、講演が終わった後も、テレビのインタビューに応じたり、挨拶に来る要人と話したりと、なかなか私との対談がはじまりません。まあ仕方ない・・。そしてやっと食事をしながらのインタビューに辿り着いたという次第(この内容については、サッカーマガジンに掲載されます)。

 本当は、ランチブレイクは1時間半の予定でした。だから対談にも十分に時間がとれると思っていたんですよ。内容的には十分ではあったのですが、話はじめたら「もっと、もっと・・」ということになりますからね。ちょっと消化不良。でもまあ、次の機会には、もっと十分に時間をとろうということになりましたから・・。

 そしてその後は、間髪を入れずに、パネルディスカッションです。司会進行役は、著名スポーツジャーナリストのヴェルナー・ツィマー氏。参加者は、現代表コーチのミヒャエル・スキッベ、前チュニジア代表監督のエックハルト・クラウツーン、現カメルーン代表監督のヴィンフリード・シェーファー、それに私です。今回のパネルディスカッションでは、私もパネラーとして招かれていたんですよ。

 ということで、ミヒャエルとは、対談した直後に、今度はパネルディスカッションでも同席することになったという次第です。

 パネルディスカッションの導入部は、もちろんワールドカップ。

 私は、「日本は負けてしまったけれど、私にはドイツがあったから、最後まで存分に楽しめた・・我々にとっては、日本の一般生活者がサッカーに秘められたパワーを体感したことがもっとも素晴らしい成果だった・・これで爆発的なブームになるとは思わないが、それでも、もっとサッカーを理解したい、語りたいという人々が増えてくることだけは確かだと思う・・以前は学校主体だったユースサッカーだが、徐々にクラブも存在感を上げてきている・・その二つのバランスのとれた共存と、整備された選手セレクションシステムが、現在の若手育成のファンダメンタルズになっている・・個が主体で自由にプレーせざるを得ないというサッカーは、組織主体の日本人には(まだ)得意な競技ではないのかもしれない・・ただ、国際化や国際的な競争環境が進行している今だからこそ、そんなサッカーの特性に対する社会的な興味が増大していくだろうし、それにともなって選手たちの自主性も高まって行くに違いない・・とにかく私は、そんなサッカーの特性や、世界でもっとも愛されているサッカーの本質的な価値や美しさを、ジャーナリストとして今後ともプロモートしていく・・そのためにポジティブな報道だけではなく、建設的なクリティックもどんどんと展開していくつもりだ・・」なんてことを、ランダムに話しました。

 もちろんパネルディスカッションのメインテーマは「ドイツの今後」。そこでは、ミヒャエルを中心に、スポーツをする若者が減っていることも含めた若手育成の問題点、各クラブに在籍する「外国人」が、若手タレントの「場」を奪っているのではないかといった問題点、ドイツのサッカーから美しさが感じられないといった課題などなど、様々な視点から活発なディスカッションが展開されたというわけです。

 壇上で話すのには慣れているとはいえ、相手は、1000人近くの、ほとんどがプロコーチという猛者連中ですからね。もちろんドイツ語ですし、最初はかなり「気」を遣ってしまいましたよ。でもまあ、いつものように、言いたいことだけは「マイクを奪って」でも話したつもりです。面白かったですよ・・本当に。

-------------

 その他にも、過去15年のワールドカップにおける、様々な視点からの「数字的な統計分析」に関する講演や、「フラット守備システム導入トレーニング」のデモンストレーション等々、充実した内容の国際会議です(全日程は三日間)。

 初日の夜には、ドイツサッカー界の重鎮、FIFAやUEFAからの代表者、各国サッカー協会からの招待参加者など150人を超える人々が参加したパーティーが催されました。もちろん私も招待されたわけですが、そこでは、ドイツにおける私の恩師で、日本のスペシャルライセンスシステムを構築するためにも貢献したゲロー・ビーザンツさんと、フラット守備システムについて深く語り合いました。これもまた、ものすごく面白かったから、次の機会に内容をご紹介することにします。

 さてこれから、ミヒャエルとの対談をサッカーマガジンの記事にまとめなければ・・。では皆さん、また・・。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]