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そんな気持ちのよい状態で、勝負マッチを観はじめたわけですが、最初は徐々に気持ちが「萎え」、そして最後は、再び高揚していったという「変化」の多い内容でした。
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皮肉な展開になったな〜〜。前半の23分に日本が先制ゴールを入れたとき、そんなことを思っていました。
試合前は、10人で堅牢に守り、必殺のカウンターを狙ってくるタイ・・それに対し、相手の堅守に攻めあぐむ日本代表・・だからそこでは、人数をかけて守備を固めてくる相手を、素早いボールの動きをベースに、局面でドリブル勝負を仕掛けたり、サイドチェンジを多用するなどのゲーム戦術を効果的に実践していくのが日本代表のテーマになるだろうな・・なんていうイメージを描いていましたからネ。
もちろんそれは、相手を知らない湯浅の、単なる思いこみの予想展開だったわけですが、それが、フタを開けてみたら、そんな私の勝手な予想とはまったく違う展開になったんですよ。
たしかにタイは守りを固めています。ファイブバックに三人の守備的ハーフ。また二人のトップ選手も、自陣内まで戻って積極的なプレスに参加します。それに対し日本は、シュートチャンスを作り出せないばかりか、相手のペナルティーエリアにまで到達することさえままならない。日本選手たちのボールのないところでの動きも緩慢で、前方へのパスが通される「最初の展開ステーション」に狙いを定めたタイ選手たちの集中プレス守備に、(タイチームにとって高い位置で)ことごとくボールを奪い返されてしまうんですよ。そして、ボールのないところでの動きが緩慢なこともあってミスパスを繰りかえしたり、パスが通ったとしてもサポートが緩慢なことで簡単にボールを失ってしまうなど、どんどんと心理的な悪魔のサイクルに落ち込んでいく日本代表。
それに対し、タイ代表は、素晴らしくハイレベルなサッカーを展開します。タイの選手たちにしても、最初は、そんなに簡単に日本代表からボールを奪い返せるとは思っていなかったフシはありますが、とにかく、ボールを奪い返す「位置」が、当初イメージしていたよりも「高い」ことで、タイのチーム全体が徐々に押し上げるようになり、組織的な攻撃を仕掛けはじめるのです。
最初の20分間は、もう完全にタイペース。高い技術と、攻守にわたる豊富な運動量をベースに、クルクルとボールを回し(戦術的な発想レベルの高さの証明!)、日本ゴール前へ迫ります。そして2本、3本と、危険なシュートを放つのです。
それに対し日本代表のディフェンスは、完全に「後手」に回ります。相手の次のパスレシーバーが見えているのに、そこへの詰めが遅れる・・そしてチェックを簡単に外されたり、集中したところを、スッと穴へパスを通されてしまったり・・。観ていてフラストレーションのたまること。
友人たちとの集いから持ち帰った気持ちの良さは、その時点では、もう遙か彼方へ・・ってな具合でした。
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それが、前半20分前後くらいでしたかネ、ゲームを支配されつづけていた日本代表が繰り出した一発のカウンターが、この試合では初めてといえる「仕掛けのカタチ」になったんですよ。そしてそれをキッカケに、急に日本代表のサッカーに活気が蘇ってきたのです。そして続く22分、これまたカウンターからチャンスを作り出し、そこから、ゴールにつながるCKを得たというわけです。
予想をはるかに超えるタイの高質なサッカーに、(これまた予想に反して)日本が防戦一方になり、起死回生の一発カウンターで勝機を引き寄せる・・。それが、冒頭に書いた「皮肉な展開」という思いにつながったというわけです。
ここなんですよ。このチームの大きな課題は。
相手にペースを握られた状態から、自分たち主体で押し返すことができない・・。相手と比較しても、そのチカラは十分に備えているにもかかわらず・・。試合の流れを押し戻すためには、何といっても、中盤での積極的な(協力)ディフェンスがキーポイントになります。そこで良いカタチでボールを奪い返せるようになれば、ある程度は自信を取り戻すことができるようになるもの。だからこそ「中盤での積極的な(協力)ディフェンス」が、そんな状況での、もっとも重要な「発想」だということです。でも彼らの場合は、その「発想」をドライブするリーダーが明確に見えてこなかった・・。
鈴木啓太は、相変わらずのダイナミック守備を展開しようとはしますが、いかんせん周りが「受け身で消極的」。また彼にしても、仲間を叱咤激励するところまでは出来ていなかった!? またキャプテンの森崎にしても、読みの良いスマートなディフェンスは光るのですが、そのプレーからは、仲間にとって「強烈な刺激」になるようなダイナミズムは感じられません。
リーダー不在の「U21」・・。そのことは、数週間前の週刊プレイボーイでも書きました。
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(9月16日に仕上げた、週刊プレイボーイ用のコラムです)
「選手たちは完全にビビッていましたよ・・」。あるサッカー関係者が、私にそう言っていました。
今週の末に韓国で開幕するアジア大会。それに臨む、ギリシャオリンピックの骨格にもなる「U21日本代表」が、合宿中に、ジュビロ磐田と35分ハーフのトレーニングマッチを行いました。ただ期待に反し、内容的にも完全に凌駕され、「7-0」という惨敗を喫してしまったのです。最初ベストメンバーで臨んだジュビロが、こちらもベストメンバーに近い日本代表を完全に凌駕し、前半だけで6点も叩き込んでしまいます。心理・精神的に、完全に押し込まれてしまったU21代表。本来の実力からすれば、そんな大差をつけられるはずがないのに・・。
練習試合だから気にする必要ないって!? いやいや、そこで彼らがみせた受け身で消極的な姿勢は、大いに問題にされるべきポイントです。それこそが、このチームが抱える課題の本質だと思うのです。不利な状況から盛り返してゲームを落ち着かせることができない・・、チームを鼓舞するリーダーがいない・・、それです。
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「日本は、素晴らしい組織プレーを披露した・・」。先日ドイツで行われたサッカーコーチ国際会議で、何人ものコーチ仲間が、異口同音に日本チームの健闘を褒めていました。もちろんW杯での日本代表の活躍も話題になりましたが、ここでの日本とは、今年5月にフランスのツーロンで行われた国際トーナメントでの「U21日本代表」のことです。
ツーロン大会は、U21のイタリア代表、イングランド代表、ドイツ代表、ブラジル代表というブランド国も参加する本格感のある国際トーナメント。決勝でイタリアを2-0と下したブラジルが優勝したのですが、日本代表は、最後の順位決定戦でイングランドをPK戦で破り、堂々の三位に輝きました。ただ・・。
大会全体では優れた組織サッカーで結果を残した彼らでしたが、勝負という視点では、反省すべきポイントもあったのです。予選リーグでのドイツ戦。前半の日本代表は、内容で完全にドイツを圧倒し、彼らに対して3-1というリードを奪います。ちょうどそのときヨーロッパにいた私も、テレビ(ユーロスポーツ)で観戦していたのですが、若き日本代表の素晴らしくスピーディーなチームプレーに感嘆しきりでしたよ。
「もう完全にやられたと思っていたよ。クルクルとボールを回されていたし、日本の守備ブロックも安定していたからな。特に、最終ラインのブロンド選手が良かったな(FC東京の茂庭照幸)。それでも最後の時間帯になって、急に自信を失ったと感じたんだよ」。自分が育てた選手がいるということでツーロンまで出掛けていった友人のドイツ人コーチがそう感想を述べていました。
結局日本代表は、ゴリ押しのパワープレーを仕掛けてくるドイツ代表に追いつかれ、この試合を「3-3」で引き分けてしまったのです。押し込まれ、受け身になった日本代表は、結局「心理的な悪魔のサイクル」から立ち直ることができませんでした。
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私は、いまのU21日本代表は、まとまりのある良いチームだと思っています。でも逆に、もしかしたらそれは、「甘えの構造」に根ざした「まとまり」なのではないかとも心配しはじめています。チームの雰囲気に、闘うグループには不可欠な緊張感が足りない・・。
ギリギリの闘いの場で勝ち切るためには、心理的な悪魔のサイクルに陥ったとしても、自らそれを断ち切り、再びペースアップできるような「心理・精神的な強さ」が必須。その点に不安が見え隠れするのです。
だからこそ、ジュビロで活躍したドゥンガに代表されるような強烈な「刺激」で味方を鼓舞できるチームリーダーの存在が重要な意味をもってくるのです。私は、本番でも守備的ハーフコンビを務めるに違いないジェフユナイテッドの阿部勇樹と、レッズの鈴木啓太に期待しています。この二人の強いパーソナリティーは折り紙つき。縁の下の「汗かきプレー」にも全力を傾注する彼らだからこそ、「何やっているんだ。しっかり守備をしろ!」とか、「ビビるな。もっと闘え!」といったグラウンド上での罵声が重みを持つのです。「ドゥンガ」とまでは言いませんが、そろそろ彼らも、自分たちがチームのマインドを引っ張るという自覚を持たなければ・・。
良いところなく敗れた中国戦やジュビロ戦での惨敗。そこで落ち込んだり、自信が減退するようでは全くハナシになりません。彼らはそのネガティブ現象を、次のステップにつなげる良い刺激へと転換していかなければならないのです。脅威と機会は表裏一体。山本監督の、心理マネージャーとしての手腕に期待しましょう。(了)
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後半に魅せた日本代表のサッカーこそが、彼ら本来の実力です。でも、そこに至るまでに時間がかかり過ぎた・・。
たしかに、前半23分の先制ゴールで徐々にペースが上がり(タイが、守備ブロックを開きはじめたこともあった・・)、後半早々に飛び出した鈴木のスーパーゴールによって、完全に自信を取り戻しました。でもゴール「だけしか」、ペースアップのキッカケにすることができなかったという事実は残ります。それでは心許ない。そうではなく、試合の流れのなかで、自分たち主体でペースアップできなければ、決してギリギリの勝負で結果を残すことは叶わないのです。
決勝の相手はイランになりました。強い相手です。それに、日本にとっては初めてとなるタイトルもかかっています。肉を切らせて骨を断つというギリギリの勝負。だからこそ、最高の学習機会でもあります。
そこで問われてくるのは、彼らの「セルフモティベーション能力」。自分主体で、自らを鼓舞させられるチカラとでもいいますかネ。そんな個々のエネルギーが互いにぶつかりあい、刺激し合うことでしか、チームパフォーマンスは向上しないのです。不確実性ファクター満載のサッカーだからこそ、最終的には、攻守にわたって「自由」にプレーせざるを得ないからこそ問われてくる心理・精神的な(インテレクチュアルな)能力というわけです。
さて「U21日本代表」は、イランとの決勝戦を、ホンモノの学習機会にすることができるのでしょうか。注目しましょう。