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まず稲本潤一。
サンダーランド戦での稲本が、フラムの挙げた3ゴールすべてに絡む(1ゴール、2アシスト)など、大活躍を魅せました。
ボール絡みでの確実なトラップ&キープと展開パス。また前にスペースがあれば、ドリブルで突っかけたりもします。プレーが、どんどんと発展している・・。また、フットボールネーションのプロで生き残るために、ものすごく重要な意味をもってくる「ツキ」にも恵まれている・・。ここが大ブレイクのチャンスだ・・。
先制ゴールのシーンでは、右足、太股の「内側」でボールの勢いを殺し、狙いすまして左足を振り抜きました(ボールは見事にゴール左のサイドネットへ!)。本当に、落ち着いた素晴らしいゴールでした。この決定的チャンスにおける「落ち着き」こそ、W杯、ベルギー戦、ロシア戦でのゴールイメージの恩恵なのです。本物の勝負の場における、ギリギリの成功体感・・それです。
また二点目、三点目シーンで魅せた、「右を向いた状態」からの左サイドへのタテパスも見事。相手(相手守備ブロックの最終プレーヤー=最終カバーリング要員)の視線とアクションを引きつけた「落ち着きのラストパス」でした。まあ、このゴールシーンでは、周りの味方によって、稲本に「美味しいツボ状況」が巡ってきたということですが、私は、その前に魅せたスルーパストライの方を、より高く評価します。
中盤の高い位置からの、味方とのワンツーで抜け出し、自ら「ツボ状況」を演出したシーンです。ここでもタイミングの良いラストパスを出したのですが、ギリギリのところで、マーカーにクリアされてしまいました。とはいっても、自分自身が「流れのコア」になった最終勝負の演出。「ヨシッ!!」なんていう声が出てしまいましたよ。
この試合での稲本も、「発展」を明確に感じされてくれました。とはいっても私は、まだまだ不満。彼ほどの能力を備えているのだから、もっともっと、中盤の高い位置での爆発ディフェンスを仕掛けなければ・・、もっともっと動きまわって、彼が中心になった「ボールの動き」を演出できなければ(まだまだ、味方が作り出した仕掛けの流れを『観て』しまうシーンが目立つ)・・。
前回も書いたのですが、とにかく彼は、基本的には前気味のボランチというイメージでプレーしなければいけません。要は、もっと、中盤でボールを奪い返す「流れ」に乗らなければならないということです。二列目という意識は、逆に、彼のプレーの幅を確実に狭めてしまう! もちろん「深追い」は必要ありません。それでも、もっと守備参加を活性化させ、うまく「高い位置」でのボール奪取に成功すれば、中盤のどこからでも「自分がコアになった攻撃ユニット」を仕掛けられる・・。この試合でも、稲本自身のボール奪取シーンがほとんどなかったことは確かな事実でしたからね。
最後に、前回に書いた「締めの文章」をもう一度。
(二列目なんていう意識から解放されて!)もっと積極的な守備参加を・・もっと思い切ったドリブル突破へのチャレンジを・・もっと決定的スペースへの飛び出しを・・もっと自分が中心になったコンビネーションへのトライを・・もっと、もっと・・。
発展している稲本だからこそ、また「場」を勝ち取っている今だからこそ、チャンスを逃さず、攻守にわたる勝負シーンへの吹っ切れた絡みをイメージすることが大事だと思う湯浅です。それには、編集ビデオを駆使した「イメージトレーニング」がもっとも効果的・・。ガンバレ、稲本。
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次は中田英寿。
開幕ゲームのプレー内容は、まあまあといったところでした。それでも、昨シーズン2-3月以降に魅せつづけた、攻守にわたる「復活のダイナミックプレー」から比べれば、かなり見劣りする・・。
まあ、これほどチームが「解体&再構築」されてしまっては(まだまだそのプロセスにあるから)難しいことは分かります。特にツートップのムトゥーとアドリアーノは、二列目とのコンビネーションを意識するというよりは、足許にボールをもらって個人勝負・・というイメージのプレーばかりにチャレンジしますからネ。
また他の中盤プレーヤーとの呼吸もまだまだ・・。というよりも、周りの中盤プレーヤーたちは、ボールをしっかりと動かすという意識が希薄だと言った方が正しい表現でしょう。組み立てや仕掛けイメージのシンクロ。それが欠けているんですよ。だから中田英寿も、自分がコアになったコンビネーションベースの最終勝負を、うまく仕掛けていけない。
まあ、リーグが進むなかで、より明確な「組み立て」と「仕掛け」に対するイメージが、チーム内に浸透していくでしょう。もちろん、中田英寿に対する「信頼」をベースにした、よりコンビネーションが強調される組み立てと仕掛けがネ。
中田英寿は、チームをイメージ的に引っ張っていけるだけのサッカー的能力とパーソナリティー、そしてインテリジェンスを十二分に備えていると確信している湯浅なのです。
とにかく、これからも「チームの発展プロセス」に注目していきましょう。
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さて、最後に中村俊輔について。まず、週刊プレイボーイの連載で発表した文章を・・。
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(2002年8月27日に書き上げた原稿です!)
いま、ちょっと中村俊輔のことが心配になっています。とにかく、メディアの報道内容が加熱しすぎていると感じるのです。事実をしっかりと目詰めた報道ならば大歓迎なのですが、その内容のほとんどが、やれ「スーパーフリーキックを決めた」だの、「相手を翻弄してゴールを決めた」だの、90分中のほんの数秒間のグッドシーンを採り上げ、「彼はもうレッジーナの王様だ・・」なんてね。まあ、イタリアのメディアは、もう少し冷静な見方をしているのかもしれませんが。
これまでのゲームは練習試合にしかすぎません。相手は明らかにレベルが劣るチームですし、彼らにしても、自国のリーグに臨むための調整ゲームですからね。リーグ戦やカップゲームといった「本番」での厳しさは、トレーニングマッチとは比べものにならないということです。練習試合でいくら目立っても、まあ・・ネ。
それでも、彼が所属するレッジーナの地元ファンが期待するのは当然です。彼らは、誰でもいいから「オラが村のチーム」を強くして欲しいと思っていますからね。中村が、補強の目玉として報道されていることで、声援が加速するのはよく分かるのです。でもそれは、実体のない単なる「期待」。「事実」を積み重ねた現実的な評価とはまったく別物だということです。そこなんですよ、怖いのは。
もちろんファンの期待は、際限なく高まっていきます。そして、シーズンが開幕してからの「現実」との対峙。そこでのパフォーマンスと期待レベルとのギャップが大きい場合、彼らの感情は、すぐにでも正負が逆転してしまうものなのです。少しは時間的な猶予は見てくれるでしょうが、期待が大きければ大きいほど、批判のノイズも天井知らず・・なんてことになってしまうのは歴史が証明している通りです。何といっても、彼らの日常にサッカーが占める割合は、想像を絶するくらい大きいですからね。もちろん現地のメディアも、そんなファンの心情に「相乗り」しますから、事実に輪をかけた批判記事が展開されることは想像に難くない・・。
サッカーの本場では、それが日常的な光景なんです。厳しい競争の世界ですからね。だからこそ、中村俊輔自身が、そのメカニズムをしっかりと意識していることが重要な意味を持つのです。周りがいくら騒いでも決して踊らされることなく、冷静に、セリエでプレーする際の重要なポイントを明確にイメージし、その部分を発展させることに全精力を注入するのです。
私が心配しているのは、彼がテクニックに優れたタイプの選手だからなんですよ。とはいっても、決して「マラドーナ」クラスというわけでもない。足も速くはありませんから、中盤からのドリブルで相手を振りきってチャンスを演出するというシーンを期待する方が無理というものです。
そんな「技術系」の選手に対するマークは、殊の外厳しいものになります。止まってパスを待つようなプレー姿勢だったら、「その場」で潰されてしまうのがオチでしょう。中村は、「J」時代とは比べものにならないくらい動きまわらなければいけません。マークが厳しい状況ではシンプルにパスを回し、そこからのクレバーで急激な動きでマーカーを振り切って次のリターンパスをもらう。そして、ある程度フリーで前を向けたら、得意のフェイントでチェックにくる相手を翻弄し、決定的パスや勝負のコンビネーションを狙う。そんな地道なプレーを繰りかえすことでしか、持てる能力を最大限に活かせるようにはならないというわけです。
特に彼の場合は、「彼の能力を活かしてやろう」という味方のサポートが重要な意味を持ってきます。だから守備もサボってはいけません。自分がボールを奪い返せなくても、味方がアタックできるように、積極的なチェイシングからのチェックをつづける。そんな「汗かきプレー」こそが、味方の信頼を勝ち取るための唯一の道なのです。
環境こそが人を育てる。とにかく、あの才能が、セリエでどこまで発展するのか興味が尽きません。
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本場で成功をおさめるためのキーワードは、何といっても自己主張。
攻撃ではシュートを打つこと(ゴールは結果にしか過ぎない!)。また守備では、相手からボールを奪い返すこと。そんな攻守の「本当の目的」を強烈に意識し、常に、すべてのプレーシーンに絡んでいこうとする「自分主体」の積極チャレンジプレーを繰りひろげる。それこそが本物の自己主張であり、それを基盤に自信レベルも深化していくという「善循環」が確立するのです。(了)
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私は、こんな文章を発表したこともあって、レッジーナでの中村俊輔のプレーぶりに注目していました。でも結局は、上記文章で心配したことが、そのままプレーに現れてしまって・・。
良いカタチでボールを持つことが、まったくといっていいほど出来ないんですよ。こんなシーンがありました。右サイドで横パスを出した中村。例によって(相手マークとの間合いが空いていることで)その場に止まってパスを待ってしまいます。でもボールを持った味方は、相手の激しいプレッシャーを抑えながら、タテのスペースへパスを出したのです。あの状況では、まさに正解のパスコース。突っ立っている中村へパスを出しても、(相手が狙っていることで!)完璧に集中プレッシャー砲火を浴びるだけですからネ。
そのプレーに象徴されるように、中村は、あまりにも「動かずにパスを待つ」というシーンが目立ちすぎました。もちろん相手マークからは「ある程度」フリーにはなれるわけですが(もちろんパスが飛んでくれば、瞬間的なハードチェックが仕掛けられる!)、それでは、仕掛けようと「前へ重心を移している」味方ボールホルダーからパスが回ってくるはずがありません(ボールを持つ彼にしても、中村が狙われていることが分かっている!)。
それでも何度か、「どうぞ・・」というパスはもらいました。しかし、すぐに相手ディフェンダーのプレスを受けて、安全パスを回すだけになってしまいます。もちろん、そんなプレーでは、何かのキッカケになるはずがない・・。これでは、味方からパスが回ってこなくなるのも道理です。
彼ほどの才能なんですから、とにかくまずたくさんボールに触ることをイメージしなければいけません。もっともっと動きまわってボールに触り、最初はシンプルにパスを回して、常に「爆発的なパス&ムーブ」を繰りかえすのです。そうすれば、必ずいつかは、中盤の高いポジションで最終勝負の「起点」になれるもの。そうなって初めて、彼の才能が活かされるのです。でも実際は、例によっての緩慢な「ランニングペース」を繰りかえすばかり。これでは・・。
とにかく中村のプレーでは、攻守にわたって、全力ダッシュのシーンがほとんどないんですよ(次を狙っていないことの証明!)。また、守備参加もおざなり・・。これでは、味方からの、本当に意味での信頼を勝ち取れるはずがありません。
このことは、稲本にも言えますが、中村は、もっともっと中盤での『爆発的!』なディフェンスからゲームに入るという「意識」を高めなければなりません。自分が奪い返せなくとも、味方ボール奪取に、何らかのカタチで貢献できれば、自分の自信にもなりますし、味方の信頼も高まるはず。そうすれば、自分自身のボールがないところでのアクションにも、おのずとダイナミズムが出てくるものです。
まあ、彼にとっては最初の「ホンモノ勝負」の体感ステージですから・・。とはいっても、フットボールネーションでは、そんなに「時間的猶予」が与えられないことも事実。上記の週刊プレイボーイ連載でも書いたように、フットボールネーションでは、周りのノイズの「内容」が、瞬間的に「正負逆転」してしまうものなのですよ。
この試合でのプレー内容を観て、中村俊輔に対する心配がふくれ上がっている湯浅でした。もちろん、彼のコーナーキック、フリーキック、はたまた抜群に危険な中距離シュートなど、何度か良いシーンがあったにもかかわらず・・ですよ。
中村俊輔よ、とにかく、まず自分自身の意識改革を!! そして、ガンバレ!!!