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(8月21日に書き上げたサッカーマガジン用のコラムです)
まさに「ラストパスを呼び込むフリーランニング」だった。「J」最終節、レイソル対ジュビロ。「2-2」で迎えた後半37分、中山雅史が決定的チャンスを演出したのだ。
ボールは、名波から、高原、川口を経由し、再び名波へ動こうとしていた。右サイドのタッチライン際でボールを持った川口が、まったくフリーで上がってきた名波へパスを戻そうとする。そのとき名波が、クビを振り、最前線に張る中山へ視線を投げた。それは、川口からのパスが、まだ転がっている最中のこと。次の瞬間、中山がアクションを起こした。ファーサイドから、レイソル最終ラインをなぞるように超速ダッシュをスタートしたのだ。そのまま、横にいるレイソルディフェンダーの眼前を回り込み、タテの決定的スペースへ急激にターンしていく。このアクションで、レイソルのディフェンダーは置き去りだ。そして名波から、ここしかないというタイミングとコースのラストパスが糸を引いていった。この状況で、フィニッシャーとなるべき高原も、中山とクロスして大きく回り込み、最終勝負スポットになるニアポストスペースへ動きつづけていた。3人のプレーが、有機的に、そして美しく連鎖したコンビネーション。レイソルの最終ラインがズタズタに切り裂かれた瞬間だった。
走り込む高原へのラストパスは僅かにズレてしまった。しかし、中山雅史の忠実なフリーランが演出した決定機は、感動的でさえあった。「オ〜ッ!」。思わず声が出た。
この試合の中山は、いつものように、忠実な爆発フリーランニングを繰りかえしていた。そのほとんどは、味方にスペースを作り出など、自らが「潰れる」ことを覚悟した自己犠牲プレーだ。そして、良いポジションに入り込んだ味方へ泥臭いパスを回す。もうすぐ35歳になるチームリーダー。脱帽である。チームメイトたちの、攻守にわたる「ボールがないところ」でのプレーが活性化されるはずだ。
前半17分に中山が挙げた二点目は、まさに正当な報酬と呼ぶにふさわしいゴールだった。それもまた、相手の一瞬のスキを突き、人垣の前方に空いた猫の額のようなスペースへ抜け出す動きが「呼び込んだ」藤田の正確なフリーキックから生まれた。目の覚めるようなヘディングシュートだった。
中盤の五人が、縦横無尽ともいえるポジションチェンジを繰りかえすことで相手守備ブロックを翻弄していた最高の状態からすれば、たしかに「輝度」はまだ劣る。それでも、奥の移籍、名波の回復の遅れ、また自分のリズムを乱して帰国した高原という逆風のなか、辛抱強く積極サッカーをつづけてファーストステージの優勝を果たしたことの意義は大きい。高い守備意識に対する相互信頼をベースに、長い時間をかけて培われてきた選手たちのプレーイメージが再びリンクしはじめたのだ。そのプロセスを支える物理的、心理的バックボーンが、中山のダイナミックな粘り腰プレーであることに異論をはさむ方はいないだろう。
さてジュビロが、全盛期の輝きを取り戻してきた。(了)
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「ベテランの実効ある自己主張」がチームに与える、ポジティブな心理効果(もちろんゴンのプレーには実の効果もてんこ盛りですよ!)のことを書いたというわけです。何故、そのポイントから書きはじめたかったかって・・? もちろんレッズでプレーをつづけるベテラン選手(=福田正博・・注釈:最初の文章では、あまりにも明白ということで名前を出しませんでしたが、やはり考え直しました)の、中山ゴンとは「正反対のプレー姿勢と効果レベル」が、あまりにも目に付き過ぎたからですよ。
このことについては、これまで何度も書きましたから、以前の文章を参照してください。とにかく前半のレッズサッカーに締まりがなかったことの大きな要因は「そのベテラン」にあることは明々白々の事実でした。
とはいっても、後半からは、レッズのペースが上がってきます。「そのベテラン選手」とは関係のないところでのプレーが功を奏しはじめたのです(どうせ何もやらないからと、無視したことが功奏した!?)。両サイドの山田、平川、中盤の鈴木と内舘など、彼らが、抜群に忠実で積極的な守備を、どんどんと攻撃へ結びつけていくことで、レッズのダイナミズムが格段に向上したということです。
とにかく「あそこ」に、別の実効ある選手さえ入れれば、レッズの全体的なサッカーが、もっともっとパワーアップすることは確かなことです。一皮剥けたアリソン、そして阿部敏之まで放出したレッズ。「誰か」を獲得するという噂ですが、さて・・。
この移籍については、同業者としてハンス・オフトの判断を尊重します。ということで、代替の選手タイプ、そしてオフトがイメージするサッカー(攻撃)に対する『興味』が、大きく膨らんできます。
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この試合でも、相手ボールホルダーに対する、素早く、効果的なチェック、確実な(早めの)「マークの受けわたし」からの、ボールがないところでの忠実な守備(マーキング)など、例によっての「忠実で堅いレッズ守備」が目立っていました。
中盤のブロックも含めて、守備については、明確な「やり方」が選手全員に浸透し、それがうまく機能しているということです。まあ、レイソルのサッカーが、あまりにもカッタるかったということもありましたが、私は、レッズの守備については、どんどんと「堅度」が上がっていると評価しているのです。もちろん、その堅さと、「守備での創造性」のバランス、また攻守のバランスという意味ではまだまだですが、サッカーの基本がディフェンスにあることを考えれば、ここまでのチームの「基盤」作りは正しい方向へいっている・・。
ここからは、その「堅さのイメージ」を維持しつつも、より創造性が問われるクリエイティブディフェンスにも徐々にトライしていく・・のかな??
まあ注目しましょう。
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さて最後に、エメルソンについて。
彼が抜群の能力を秘めたストライカーであることは誰しもが認めているところです。もちろん彼の「陰」の部分も周知の事実。
そんな、高い能力を秘めた「孤高のストライカー」でも・・いや、だからこそ、「効果的なサポート」がものすごく重要になってくるのです。この試合でも、彼がボールをもって勝負の体勢に入ったら、もう誰も寄ってこようとしないし、決定的スペースへの走り込みなんかも全くなくなってしまっていました(周りでのサポートアクション対する意志が、まったく感じられなかった!)。
周りでフリーランニングをすれば、彼のドリブル突破をイメージする相手ディフェンダーも惑わされるだろうし、もしエメルソンが、そこへ「パス」をしたら、次からは、ディフェンダーの対処イメージも難しくならざるを得ないじゃありませんか。それは、彼自身にとっても(彼の能力を最大限に活かすという意味でも)プラス以外の何ものでもないのです。
「だって、アイツは、ボールをもって勝負に入ったら、絶対にパスなんてしないじゃないか!」って・・!? そんなことは、決定的フリーランニングも含め、ボールを持つ彼の周りのサポートの動きをやらない言い訳にはなりません。
先日のオールスターでは、彼も、エジムンドを強烈に意識したプレーをしていたし、そのことによって、彼の突破能力も(危険度も)増大したと思います。まあエジムンドは「パス出し役」に徹していたし、二度、三度と、彼との良いコンビネーションが決まってからは、エメルソンが、エジムンドへのパスを意識し過ぎてしまいましたがネ・・(何度も、そのパスを読まれて詰められ、ボールを失ってしまった)。
とにかく、エメルソンにとっても、周りのサポートの動きを「使う」ことがプラスであることは確かな事実。それでも、これだけの期間が経過したのに、周りの味方に、そのことに対する「意志」さえ感じない・・。そうなっては、明確に、ベンチの「意識付け」に原因があると言わざるを得ません。フムフム・・
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ということで、守備は別にして、全体としての今のレッズのサッカーが理想型へ向かっている(何らかの明確なベクトルを認識できる)とは思えない湯浅です。
さて、これからレッズのサッカーが、どのような「プロセス」を経てレベルアップしていくのか・・。ハンス・オフトのお手並みを拝見することにしましょう。