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(8月14日に書き上げた原稿です)
そのとき小野伸二は、自分自身がシュートするシーンを明確にイメージしていた。
チャンビオンズリーグ本戦へ進出するための最終関門となる予選3回戦の一試合目。小野が所属するフェイエノールトが、ホームに、トルコのフェネルバチェを迎えた。ホーム&アウェーの二ゲーム合計で争われる一発勝負である。慎重なプレーに終始する両チーム。前半は、動きのない展開がつづいた。ただ後半になってゲームが動きはじめる。フェイエノールト選手たちのプレーに、リスクへチャレンジする姿勢が目立ちはじめたのだ。主導権を握るフェイエノールト。対するフェネルバチェも、厚い守備ブロックをベースに、レビーボ、ラパイッチ等を中心としたカウンターを繰り出していく。
そして後半19分。この試合唯一のゴールが決まる。小野伸二。
後方からの鋭い「足許パス」を受ける小野。マーカーとの間合いを明確にイメージしている。左足で柔らかくトラップし、眼前に迫る相手のアクションを見定めるように、一瞬タメる。そのトラップは、まさに才能。ピタリと止められたボールが、そのまま流れるように右足で蹴ることができるポイントにソフトに「置かれた」のである。それは、ほんの一秒間の出来事。そして相手がアタック動作に入った瞬間、その鼻先で、最前線のファン・ホーイドンクへ向けて「ワンのパス」が放たれた。それが勝負の瞬間だった。
小野がイメージしたのは、チェックにくるディフェンダーが飛び出したことで空いた前方の決定的スペース。そして、見事なワンツーから夢のようなスーパーゴールが決まる。小野が放ったダイレクトシュートは、軽いカープを描きながら、立ちはだかるディフェンダーの脇の下を抜け、W杯で三本の指に数えられたトルコ代表の名GKレクベルの指先をもかすめてゴール左隅へ飛び込んでいった。
このときレクベルは、小野が、大きく開いた右サイドへ打ってくると確信していた。ただ小野が狙ったのは左サイド。逆モーションを取られたレクベルのセービングアクションが一瞬遅れる。小野は、敢えて、シュートを打つ地点からは、ほんの10数センチしかコースのないサイドを狙ったのだ。天才・・。鳥肌が立った。
この試合での小野は、良い方向へ確実に発展していると感じさせてくれた。たしかに、まだまだ攻守にわたる課題は抱えている。それでも、忠実なチェイシングやボールホルダーへのチェック等の守備をベースに、彼の真骨頂ともいえる、攻撃の流れのなかに入り込んだ一発ラストパスが冴えわたる。機を見たスペースへの飛び出しに、彼の意識の高揚を感じる。フェイエノールトが作り出した決定的チャンスのほとんどは、小野からの、ダイレクトも含む素早いパスから生まれていた。あとは、接触プレーを恐れない勝負ドリブル、決定的なタメなど、徐々にリスクチャレンジを増やしていけばいい。
環境こそが人を育てる。彼の発展が楽しみになってきた。(了)
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文字数の関係で入れることはできませんでしたが、その他にも下記のような文章も書きためていました。
『たしかに、守備における「1対1」の競り合いやボール奪取の勝負、またボールがないところでの決定的なマーク等に課題を抱えているが、忠実なチェイシングやボールホルダーへのチェック、はたまたインターセプトをイメージした読みディフェンスでは、実効あるプレーを展開していた。また攻撃でも、身体が接触するプレーを嫌うあまり、ドリブルやリスキーなキープ(タメ)などを駆使した攻撃ユニットを演出することはままならないにしても、一つの攻撃の流れに「乗った」状況では、何度も決定的な仕事をしていたし、ココゾ!の状況では、何度も決定的なフリーランニングも魅せていた。特に、最終勝負の仕掛けでは、最終的な「パス出しステーション」として、チームメイトからの絶大な信頼を感じるまでに成長したと思う。』
日本時間で本日の早朝、フェネルバチェ(トルコ)のホームで行われた、チャンピオンズリーグ予選3回戦の二試合目。小野のプレーが、(上記の文章で述べた課題ポイントでも!)どんどんと進化していると感じました(決して彼が、素晴らしい先制ゴールを決めたからではありませんよ!)。まあそれには、数日前のオランダリーグ戦で、「サッカーはサーカスではない(フェイエ監督の談)」と途中交代させられた「強烈な刺激」による心理効果もあったんでしょうがね・・。
立ち上がりはガンガンと攻め込まれつづけていたフェイエノールトですが、前半も20分を過ぎるあたりから徐々に押し返せるようになっていきます。そんなポジティブな変化には、小野も一役買っていた・・。良いじゃありませんか。10番のローリン、またボスフェルトとの「ポジショニングバランス」もいい。
もちろんチーム内での「プレーイメージ調整」の賜だと思うのですが、小野が前へ行けば、ローリン、ボスフェルトは後方からのサポートプレーに徹する・・またその逆の状況では、小野がバックアップ要員になる・・など、優れたコンビネーションを魅せていました。とにかく、小野の攻め上がりが放散しつづける「吹っ切れたダイナミズム」には、大いなる可能性が詰め込まれると感じていた湯浅なのです。もちろん、忠実なディフェンスを基盤にしてね・・。
さて小野が、攻守にわたって「本物の自己主張」をはじめた・・。それは、自分自身のプレーの「実効レベル」に対する自信と確信が深まったからに他なりません。
これでフェイエノールトが、チャンピオンズリーグの本戦(一次グループリーグ)へ駒を進めました。小野伸二の、インターナショナルフィールドにおける「さらなる発展」に期待が膨らむじゃありませんか。