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天皇杯準々決勝・・素晴らしいゲームを展開した川崎と、覚醒するまでに時間がかかった鹿島といった構図でした・・アントラーズ対フロンターレ(1-0)・・(2002年12月25日、水曜日)

さて天皇杯が準々決勝まできました。この試合の前に、サンフレッチェがエスパルスに勝利をおさめたというニュースが入ってきました。フムフム・・。テレビで観戦した方から、「サンフレッチェのカウンターは本当に勢いがありましたよ。でもまあ、彼らにはそれしかなかったですけれどネ・・」という情報が寄せられました。私もミーティングがなければ、そのゲームを観戦してからとは思っていたのですが・・。

 さて試合レポートに入りましょう。

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 「ヤッタ〜〜!!」

 そのとき、大声を張り上げていましたよ。後半40分をまわったところで、フロンターレが左サイドからのフリーキックを得ます。そこからの素晴らしく正確なクロスボールが、ファーサイドで、うまい動きから相手マークを外した小林にピタリと合ったのです。その瞬間、小林のアタマに描かれたイメージは明確でした。逆のポスト際スペースへのラスト・ヘディングパス! そしてボールは、小林の強烈なスピリチュアルエネルギーに操られるかのように、正確に、本当に正確に、アントラーズGK曽ヶ端の脇をすり抜け、大外から回り込むように忠実に走り込んでいた伊藤にピタリと合ったというわけです。

 でも伊藤の足は、ほんの僅かに届かなかった・・。それこそ、必然と偶然が交錯した瞬間でした。神様のイタズラ・・。そして私は、今度は「フ〜〜ッ!」と深い溜息をつく・・。

 もし決まっていたら、まさにそれは、フロンターレの選手たちが自らの尽力で勝ち取った正当な報酬というにふさわしい同点ゴールでしたよ。それほどフロンターレが展開したサッカーは、ディフェンスを中心に素晴らしいものだったのです。

 たしかに、個人の能力、戦術的な発想レベルなど、地力ではアントラーズの方が明らかに上。それでも、甘く見ていた彼らは、フロンターレの術中にはまっていきます。まさに、フロンターレ石崎監督の意図がピタリとはまったという試合展開でした。

 要は、フロンターレのゲーム戦術が、これ以上ないというほど理想的に機能したということです。ということは、彼らは徹底的に守った?! いやいや違います。決して彼らは、全員が戻って人の壁を作るような「下がった受け身ディフェンス」ではなく、あくまでも前で、前でボールを奪い返すという、次の攻撃までも強烈に意識したダイナミック守備を展開したのです。

 そのベースは、7人で構成する強固な守備ブロック。

 最終ラインは、若く(20歳)優秀なリベロ渡邉を中心に、正確な判断をベースにした忠実でダイナミックなマークキングをつづる両ストッパー、岡山と伊藤で構成されます。両サイドの塩川と長橋もまた優秀。攻守にわたり、現代サッカーでのサイドプレーヤーの在り方を示唆するようなクリエイティブプレーを魅せつづけます。そして、これまた自分主体のダイナミック守備を展開する、鬼木と今野が組む守備的ハーフコンビ。特に鬼木は、中盤守備のリーダーとして、まさに「鬼神」の活躍でした。古巣に対する意地?! まあ、それもあったでしょうね。

 フロンターレのディフェンスが素晴らしく機能した背景には、前述したように、アントラーズの「イージーなマインド」もありました。ボールのないところでの動きが緩慢だから、どうしてもボールの動きを読まれてしまう。それでも私は、フロンターレ選手たちが展開した、「自分主体のダイナミック守備」の方を称賛したいと思います。

 最後まで集中を切らさず、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)への素早いチェイシングやチェックをつづける。その周りでは、チームメイトたちが次のパスを狙う。そしてボールがないところでフリーランニングを仕掛けるアントラーズ選手たちに対する忠実なマーク。それこそ、受け身ではなく、あくまでも次の攻撃を意図したダイナミックディフェンス。爽快です。

 強烈な闘うマインドを前面に押し出すフロンターレ。そんな彼らのプレーにシンパシーを感じていたからこそ、冒頭の決定的チャンスに、「ヤッタ〜!」という声が出たというわけです。

 とにかく、フロンターレの爽快サッカーに共感することしきりでした。来シーズンの彼らの発展プロセスにも、できる限り注目していこう・・なんて思っていた湯浅でした。

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 さてアントラーズ。試合前の私は「こんなこと」を思っていました。

 いくらトニーニョ・セレーゾが意識付けしようと、やはり選手たちは、フロンターレを深層では甘く見るだろう・・たぶんそのことは、中盤ディフェンスでのイージープレーとして現れてくるだろう・・それが原因で自分たちのサッカーができなければ、そこから立ち直るのは至難のワザだ・・何といってもサッカーは、本物のチームゲームだから、全員の意識が高まらなければ相乗効果は発揮されない・・とにかくこのゲームでは、フロンターレにも大いにチャンスありだな・・。

 そして実際に、緩慢な立ち上がりのサッカーから、なかなかペースを上げていけないアントラーズが目の前にいたというわけです。とにかく、ボールがないところの選手たちの動きとボールの動きが「有機的に連鎖」しないのです。また局面でのボールを巡る競り合いでも、フロンターレを凌駕しているというわけでもありませんからね。

 前半22分ころですかネ。はじめてアントラーズが、チャンスらしいチャンスを作り出したのは。横パスを受けた中田浩二から、素早いワントラップ&パスが最前線へ飛んだのです。そのパスを受けたのは、ベストタイミングで決定的スペースへ飛び出していた柳沢。彼は、中田浩二がパスを受ける前のタイミングで、アイコンタクトをベースにスタートを切っていたのです。理想的な「三人目の勝負アクション」。中田浩二と柳沢の勝負イメージがピタリとシンクロした素晴らしい攻めでした。でも結局は、柳沢が放ったシュートは左に外れてしまいました(あのような決定的チャンスをキッチリと決める確率をほんの少しだけ高められれば、確実に柳沢は本物のブレイクを果たす・・彼にもイメージトレーニングが重要だ!)。とはいっても、それが、目の覚めるような突破アクションだったのは確かなこと。そう、誰もが目を覚ますような・・。

 そのチャンスをキッカケに、アントラーズの攻めに活力が戻ってきたと感じたのです。一度狂った歯車を戻すのは難しいものなのに、予想に反して、アントラーズがどんどんとペースアップしていったのですよ。やはり彼らは、互いのプレーイメージがハイレベルにシンクロした実力あるユニットだな・・ってなふうに感心していた湯浅だったのです。

 本山の決勝ボレーシュートは素晴らしいの一言でしたよ。左サイドでボールを持ったアウグストから、ファーサイドスペースへ走り込んだ本山へ、ここしかないというコースのラストクロスが決まったのです。まあ、後半も15分を過ぎたあたりから、ポールがないところでの大きな動きをベースにしたアントラーズの波状攻撃がやっとうまく回りはじめていましたしね。

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 個人的には、注目していた中田浩二のパフォーマンスにちょっと落胆。もっと、意図が満載された全力ダッシュが、攻守にわたって見られると思っていたのに・・。大いなる可能性を秘めた中田浩二だからこそ、どんな試合でも「全力で・・」という姿勢を貫いて欲しいと思っている湯浅なのです。

 とはいっても勝負所では、サスガ!という守備プレーは魅せましたよ。ボール絡みでも、ボールがないところでも。また中盤の底で、うまくゲームを組み立ててもいました。だからこそ、もっと・・もっと・・という期待がふくらむというわけです。

 もっと、自分主体でどん欲になれ、中田浩二!

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 さて準決勝の対戦カードは、アントラーズ対ジェフユナイテッド、パープルサンガ対サンフレッチェということになりました。それぞれに見所豊富な戦いになるに違いありません。注目しましょう。

 私は、例によって、元旦の決勝をラジオ文化放送で解説するのですが、そのこともあって準決勝は、スタジアムとテレビで二試合ともしっかりと分析しようと思っていますので・・。




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