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W杯レポート(27)・・素晴らしい内容の決勝戦でした・・ドイツ対ブラジル(0-2)・・(2002年6月30日、日曜日)

さて、やっと「ここまで」きました。長かったようで、終わってみれば・・ってなことを感じています。それでも、明日から「たまったビジネス」だけではなく、ワールドカップを締めくくる文章を仕上げたり、連載の文章も継続しなければなりません。まあ、とはいっても、大会期間中の仕事量から比べればね・・。

 ということで「前段」はここまで。とにかく決勝。次はいつになるかまったく予想もできないアジアでのワールドカップの決勝です。

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 この試合、ドイツはスリーバックに戻し、ミヒャエル・バラックの代わりに、イェレミースが入ります。これで、少しハーマンが上がり気味になって、ベルント・シュナイダーとコンビを組む!? ツートップは、クローゼとノイヴィル。

 対するブラジルは、彼らが考える(フェリペ・スコラーリが考える!)「ベストメンバー」。例によって、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョの前線三人コンビに、左右のカフーとロベカルがどんどんと押し上げてくるに違いありません。その代わりに、ジウベルト・シウバとクレベルソンは、中盤の底で「前後左右に動きまわるバックアップディフェンス」に徹する・・。フムフム・・。

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 さて試合開始です。そして早速に来ましたよ、ブラジルが。左サイドでボールを持ったロナウジーニョが、リンケをドリブルで抜き去ったのです。最後は、追いついたリンケがコーナーに逃れましたが、その迫力は、本当にスゴイ。これで少なくともリンケは、目が覚めた・・!?

 それにしてもスタジアムは、完全にブラジルのホームという雰囲気です。まあ、嫌われ者のドイツは、世界のどこへ行ってもこれですからネ。まあ、だからこそ、彼らの集中が途切れないということなんですがネ。このことは、韓国との準決勝でも証明しましたよね。

 やはりというか、予想された展開です。両チームともに、注意深く立ち上がる・・。

 5分。ドイツのフリーキックの場面。右サイドのペナルティーエリア際です。キッカーは、もちろんベルント・シュナイダー。それでもここでは、グラウンダーの横パスで、味方に中距離シュートを打たせます。この仕掛けは、もちろん「次」を考えてのことです。ブラジルの、フリーキックに対する守備のイメージを「分散」させようというわけです。

 全体的な流れは、まさに膠着状態。互いに、極端にリスクを避けていると感じます。それが、決勝戦での独特の雰囲気・・というわけです。もちろん、ブラジルもドイツも、試合状況が、それぞれの「ツボにはまる」のを最高の集中力で待ちながらネ。

 そんな展開の9分。きましたよ、今度はドイツのツボ。右サイドでベルント・シュナイダーとノイヴィルが短くパス交換し、最後は、ニアポストスペースへ走り込んだミロスラフ・クローゼへの「グラウンダーのラストクロス」。ブラジルは冷や汗のクリアです。

 全体的な流れは、徐々にドイツに傾いていっているという時間帯です。それでも、ドイツ選手たちは知っています。ブラジルの爆発が、レベルを超えていることを・・。そのことは、彼らの忠実な守備ポジショニングに明確に現れています。マーク受けわたしますが、それも、「早い段階」。そして、一度決まった相手をピタリとマンマークするのです。

 ドイツの選手たちには、ブラジル攻撃の「リズム」が明確に見えています。だから、相手のボールホルダーへ安易なアタックは仕掛けていかずにブラジルの攻撃を遅らせます。そして協力プレスをかけていったり、「次」の、ボールがないところで動く選手をハードにマークしつづけるのです。彼らは知っています。ブラジルの攻撃のツボは、ボールのないところにあるということを・・。

 そんな忠実な守備から、ここ一発の、カウンター気味の「組織攻撃」を仕掛けていくドイツ。「ツボの雰囲気」に誘われるように、チャンスとなったら、絶対にビビらずに、確実に「必要な人数」が上がってきます。そして、直線的な攻撃を仕掛けていく・・。まあ、ドイツの時間帯です。

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 ブラジルの攻撃は、私が予想したとおり、「個」に引っ張られ過ぎている・・。だから、ボールのないところでの動きが停滞気味(=インターセプトの餌食)。横へのボールの動きはたしかにありますが、それでも「縦横」の動きに、またボールのないところでの動きに、まだまだ停滞する雰囲気があるのです。

 それでも、18分。ブラジルも、「ツボ」を披露します。中央でボールを持ったロナウジーニョ。その瞬間、そこを回り込むようにロナウドがタテへ抜け出したのです。そこへ、ロナウジーニョから決定的なラストスルーパスが糸を引いていく・・。

 このシーンは、典型的な「最終勝負のワンツー」。ロナウドをマークすべきメッツェルダーも、もちろんそのイメージをもっていたのですが、最後の最後で、ロナウジーニョからのラストスルーパスを「カットするポジション」に入ってしまって・・。まあ彼は、ラストパスコースを、完璧に「ここしかない」と思っていたのでしょうし(まあ、正しい判断!?)、オフサイドも視野に入れていたような・・。

 それでも、そんな多くの「攻撃を阻止できる要素」にもかかわらず、ここしかないというコースへ、それもオフサイドになるギリギリのタイミングで通してしまったロナウジーニョ。また、最後まで確信をもって走り抜けたロナウド。それこそ、天才のほとばしり・・といったシーンではありました。

 そして、このドイツにとっての大ピンチシーンは、例によっての「オリバー・カーン劇場」が締めくくります。

 まったくフリーで抜け出し、スルーパスを受けたロナウドに対し、例によって、両手を垂らし、スッ、スッと寄せるオリバー。そこには、動物的な鋭さがあります。そして結局ロナウドは、そんな迫力ある雰囲気に呑まれたかのように、ダイレクトで放ったシュートをミスってしまうのです。勢いなく、コロコロと、ドイツゴール左へ外れていくボール。いや、素晴らしいぞ、オリバー!なんて声が出ていました。

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 とにかく、これほど明確な「試合の流れ(コンテンツの傾向!)」も珍しい・・なんて思いながらゲームを観戦している湯浅です。

 29分。それまで何度かサイドからの崩しを魅せていたドイツに対し、またブラジルが、ここ一番というラストスルーパス攻撃を魅せます。飛び出しのは、またまたロナウド。ピタリと合わせられる、ロナウジーニョからのロビングパス。でも最後は、またまたオリバー。スッと、音もなく飛び出し、自分の「構え」をしっかりとロナウドに「意識」させるのです。そして、(ちょっとアセって!?)伸ばしたロナウドの足が、うまくボールを捉えることができない・・。フ〜〜ッ! とにかく、最後の瞬間での彼の「落ち着き」は、まさに宇宙人ってな雰囲気です。

 このシーンですが、またまたロナウドとロナウジーニョが演出した、コンビネーションベースの仕掛けの「締めくくり」でした。ワンツーはうまくいきませんでしたが、うまくこぼれたボールを、ロナウジーニョが、チョン!と、浮き球のラストパスにしてしまったのです。

 彼らのチャンスは、とにかく「ゆっくり」としたリズムからの爆発的なペースアップがベース。その「加速力(複数の選手による、加速イメージの共有!)」は、まさに脅威です。いや、素晴らしい。

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 そして前半の終盤では、そんな流れのなかで、ブラジルがゲームを支配しはじめます。とはいっても、それは例によってのドイツの「狡猾なワナ」。彼らには、明確にブラジルのプレーリズムが読めていますからネ。とにかくドイツの「ボールがないところでの守備」は感動ものなんですよ・・テレビでは、あまり出てこないでしょうがネ。また、ロナウジーニョなどがボールを持ったら、すぐに「視線にはいっていない」ドイツ選手が、守備に急行し、タックルを仕掛けてボールを奪い返してしまう。相手の「動きの遅滞」を活用した協力プレス! そんな守備のやり方は、ロナウドやリバウドに対しても同様です。

 彼らは、ドイツ選手たちが描いている「イメージ通りのリズム」で攻撃を展開しているということです。

 まあそれでも、ミヒャエル・バラックがいないドイツの攻撃は、シンプルですが、危険度はかなり落ちる・・。まあ仕方ないか・・。

 とにかく、試合の「緊迫度」は高まりつづけています。やはりワールドカップの決勝はいい・・そんなことを感じていました。この「テンション」こそ、日本の選手たちが「体感」すべきものですからネ。

 44分。このちょっと前にも、オーバーラップからの中距離シュートを放ったクレベルソンが、もう一発見舞います。これまた中距離シュート。今度は、かなり正確です。そして、ドイツのカーンの壁を破り、バーを直撃してしまいます。フ〜〜っ!

 その直後には、左サイドからロベカルがロングシュートを放ち、それがドイツ選手に当たってロナウドの足許へ。それを叩いたロナウドでしたが、最後は、カーンが、ヒザでそのシュートを防ぎます。これまた、フ〜〜っ!

 前半の最後は、自分たちのやり方にこだわりつづけるブラジルが、「それでも」の攻撃を成就させそうになった時間帯でした。やはりブラジルはスゴイ!

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 個人の才能レベルでは比べようもないドイツ。でも、一人ひとりが、決められたゲーム戦術を忠実に、そしてクリエイティブにこなしている・・と感じます。またこの試合では、ツキもありそう。とにかく後半に期待しましょう。

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 さて後半。

 立ち上がり早々の46分。ドイツが、コーナーキックから、決定的なヘディングを放ちます。イェレミースのダイビングヘッド! ブラジル選手の足に当たったことで事なきを得ましたが・・さて・・。

 そして48分、今度はノイヴィルが、フリーキックから(約25メートル)、ブラジルの右ポストを直撃する爆発シュートを放ちます。一瞬フリーズするスタンド・・。

 51分。今度はブラジル。ショートコーナーから、ズバッというクロスボールを送り込むロベカル。それに、リバウドと、もう一人のブラジルディフェンダー(ジウベルト・シウバでした)が飛び込み、ヘディングシュートを放ちます。でも、またまたオリバーが防いでしまって・・。

 すごい後半の立ち上がりだな・・なんて思っていました。そして例によって緊迫度が高まりつづける・・。これは歴史に残る決勝戦になるかも・・なんて思っていました。決勝では、すべてが「閉塞」してしまうことも多々ありますからネ。

 そして、66分。ブラジルが、ドイツの「ダブルのミス」を突いて先制ゴールを挙げます。最初のミスは、ハーマン。完全にボールをコントロールしたのに、ロナウドのアタックでバランスを失ってしまいます(フェアなショルダーチャージ)。そして奪い返したボールをリバウドにシュートされてしまうのです。

 もちろんそこにはオリバー・カーンがいる。でも、そのときに限って・・。オリバーが、あんなイージーシュートを前へこぼしてしまうなんて・・。そして、そのこぼれたところに、ロナウドが忠実に詰めていたという次第。

 このゴールは、自らのミスでボールを失ったロナウドの、間髪を入れない守備参加、そしてボールを奪い返してからの忠実な「ゴール前への動き」によって生まれました。まあ仕方ない・・。それしてもロナウドには拍手じゃありませんか。こんな「執念」を、ロナウジーニョにも見たいものです。

 そして、気持ちが楽になったブラジルのプレーに、本来のキレ(奔放なダイナミズム)がもどってきます。もちろんドイツも、一点を追って押し返します。一つのゴールが生み出した、ゲームのダイナミズムというわけです。

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 72分。ルディー・フェラー監督が、クローゼに代えて、オリバー・ビアホフをピッチへ送り込みます。

 それにしてもドイツでは、二列目のベルント・シュナイダーと、ノイヴィルの活躍が目立ちます。もちろんそれも、ハーマンとイェレミースの忠実プレーがあるからこそなんですがネ。さて、「高さのビアホフ」が入ったドイツ。どこまで行けるのか・・。

 でも逆に、ブラジルが追加ゴールを挙げてしまって・・。78分。右サイドのクレベルソンからの、グラウンダーのクロス。それをリバウドがスルーします。そして最後は、ロナウドが、ピタリという「ゴールへのパス」を右隅へ決めたのです。

 このシーンでは、イェレミースと代わったばかりアザモアの集中切れを指摘しなければ・・。このシーンでは、最後のロナウドをチェックしなければならなかったのは彼。最初ロナウドをマークしていたリンケが、リバウドのマークへ行かなければならないことは「事前」に分かっていたことですかネ。それでも、結局マークが遅れてしまって・・。

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 その後、ドイツもいつくかのチャンスを作り出しました。それでも、結局ゴールを割るところてまでは行けなくて・・。

 色々なメディアに、「才能集団」対「職人集団」という、このゲームの構図を書いてきました。そしてまさにその通りの展開になりました。ドイツにもチャンスはありましたが、結局はブラジルが、彼らの「やり方」に最後まで固執し、個人の才能ベースでワンチャンスを作り出し、そしてそれを決めたのです。立派な勝利でした。

 また、キーポイントになった先制ゴールが、守護神カーンのミスだったのですから、彼らも諦めがつくでしょう。何といっても、彼らの躍進の背景に、カーンの大活躍があったことは確かな事実ですからね。

 またブラジルは、弱いといわれた守備にも、試合が進むなかで、どんどんと集中力が充填されていったと感じます。彼らは、優勝にふさわしいチームだったということです。これは本心からの言葉。ここに至るまでに、ものすごく苦労した彼らに対し、心から「おめでとう」という言葉を送りたいと思います。

 またドイツにしても、彼らを襲った様々な逆境のなかで、よく最後まで闘い切ったと思います。準優勝という結果には、誇りに思ってよい「内容」が詰め込まれていました。もちろん彼らは、まだまだ構造的な問題を多く抱えています。才能ある若手の伸びが鈍化している(勝負の場が少なすぎる・・)、またクリエイティブ系の選手が伸びてこない・・等々。

 その意味では、今回は勝たなかった方が・・なんて、あまり健康的ではない発想まで浮かんできてしまいます。とにかくこれからのドイツは、体質改善も含め、構造的な改革を推し進めていくことが必要です。まあそのことは、彼ら自身が一番よく分かっていることですがネ(私も、彼らがそれを理解していることは良く分かっています!)。そう、「2006」へ向けて。

 さて、これからのドイツサッカーの動向に対する興味が膨らんできた・・。

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 素晴らしい内容が詰め込まれた決勝戦を最後に、アジアで最初の、また21世紀最初のワールドカップの全日程が終了しました。とはいっても、もちろんサッカーに終わりはありません。それは、「次」の始まりだということです。

 今回の大会では、美しく、そして強い「はず」のチームが、早々と大会を後にしました。また、サッカー勢力図の揺動も、明確に感じ取れました。変化こそ常態。諸行無常。だからこそ、これからの展開が面白いんですよ。

 さて次は「J」だ・・。何といっても、ワールドカップの母体は、それぞれの国のリーグですからネ。その発展なくして、ワールドカップでのドラマも、決して完結することはないのです。




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