=========
(10月7日に仕上げた原稿です)
「次の(外国人)監督は、日本の組織体質とも戦わなければならないが、それを乗り越えるのは難しいだろう・・」。日本代表監督を退任したフィリップ・トルシエが、そんな発言をしていたということです。フムフム・・。
さて、ジーコ監督が就任した日本代表が始動します。相手はジャマイカ。総合力では日本代表の方が明らかに上ですから、とにかく確実に良いスタートを切っておこうということでしょう。
さてジーコ。監督経験がないという不安材料はありますが、基本的には歓迎です。1991年からアントラーズの前身である住友金属でプレーをはじめ、引退してからも総監督として日本サッカーに関わりつづけています。そこでは、日々「日本的な発想」と対峙したことでしょう。そんなプロセスを経て、日本的な社会体質の裏表を知り尽くしたジーコですから、冒頭に紹介したトルシエの予言も、杞憂におわるだろうと思っているのです。
日本独特の社会体質。それは、「建て前」的な協調と調和が全てに優先される組織性向なんて表現できますかね。要は、個人よりも組織が優先される社会だということです。「個」を殺して、組織の協調と調和を優先するのが大前提の行動規範。だから逆に、個人レベルでは「甘えの体質」が浸透してしまうというわけです。でもそんな体質は、「本音の世界」であるサッカーでは、マイナス以外のなにものでもありません。
サッカーは、イレギュラーするのが当たり前のボールを「足」で扱うことで瞬間的に状況が変化しつづけるという、不確実な要素がいっぱいのボールゲーム。最後は、自分自身の判断と決断で、勇気をもってリスクにもチャレンジしなければなりません。だからこそ、チームの目的を強烈に意識した「本音の自己主張プレー」が大事であり、それを互いに認め合うという雰囲気が、闘うグループへ成長する上で欠かせないのです。
ただ、代表チームの戦う雰囲気は高まったとしても、「周囲の体質」が旧態依然としているのではね。それが、冒頭に紹介したトルシエ発言の背景にあるのです。でもジーコは、そんな、サッカーにとってはネガティブな日本体質をしっかりと理解しているでしょうし、彼の「実績パワー」からすれば、「周囲」も率先して、彼が仕事をやりやす環境を整備しようとするに違いないと思うのです。
でも逆に、「裸の王様」になってしまうかもしれないという心配もあります。日本サッカー界のなかでは、間違いなく世界的にもっとも有名なジーコ。だから、オープンなディスカッションが交わされる「ディベート環境」の整備が進まないかもしれないという不安です。健全な批評こそが、進展のための唯一の糧。彼の代表監督就任は、我々メディアの人間にとっても大いなる学習機会なのです。
-------------
さて新生ジーコジャパン。メンバーを見たときの第一印象は、技術的に優れた選手を中心に選んでいる・・、でも「汗かきタイプ」のミッドフィールダーが少ないのでは・・というものでした。「汗かき」とは、中盤でのマークや、押し上げた味方のポジションをカバーするなど、目立たない忠実バックアップに徹する選手のことです。
「4-4-2」のシステムで臨むと公言しているジーコは、本当に「外国人」の四人を中盤に並べるつもりなのかもしれません。中田英寿、中村俊輔、稲本潤一、そして小野伸二。面白い。でも、うまく機能するのかな・・。
フォーバックでは、最終ライン中央ゾーンの人数が「二人」になります。トルシエのフラットスリーは、基本的には、両サイドも最終ラインに入る「ファイブバック」ですから、中央ゾーンには三人いることになります。ですから、相手の二列目選手がフリーで攻め上がってくるような危機的状況にも、ある程度はうまく対処できていました。でもフォーバックでは、そう簡単にはいかない。攻め上がろうとする相手の二列目選手には、必ず中盤の誰かが「最後まで」マークに付かなければなりません。だから、「汗かきタイプ」を中盤に組み込むのが普通なのです。そう、戸田のような選手。でもジーコは、四人が、あくまでも自由な判断で守備に就けばいいと言います。さて・・。
とはいっても、私も含め、日本全国の誰しもが、この四人で構成する「中盤カルテット」を見たいと思っているのも確かなことです。
本場でもまれている彼らだから、やらざるを得なくなったらしっかりと汗かきプレーもこなすに違いない・・? 中盤がうまく機能しなくなったら、最後は中田英寿がリーダーシップを発揮してくれる・・? 彼ならば、他の三人も言うことを聞くに違いない・・?
とにかく、様々な視点で興味深いジャマイカ戦。とことん楽しもうじゃありませんか。(了)
=========
誤解を避けるために、まず、日本の「建て前」社会体質について一言だけ・・。
上記したことはあくまでも一般論であり、サッカーという特殊なボールゲームにとってそれは、あまりポジティブではないという「事実」を表現しようとしたものです。
日本には、本当に多くの「だからこその(反作用としての!)」素晴らしいパーソナリティーを備えた人々がいますし、「本音の先進マインド」にあふれる(本質的なディベートが活発にできる体質)企業も多く存在します。でも、ことサッカーに限った場合はね・・。
----------------
さてジーコジャパン。やはり・・というか、中盤が噛み合っていません。攻撃でも、守備でも。
攻撃では、とにかくボールの動きが緩慢。上記した「汗かきプレー」ですが、何もそれは守備に限りません。ボールがないところでの、メリハリの効いた効果的なアクション(クリエイティブなムダ走り!)こそが、ボールの動きの源泉となる「汗かきプレー」なのです。それが目立たないから(もちろん中田英寿は、メリハリの効いたフリーランニングを繰り返していましたが・・前半ロスタイムでのチャンスメイクは秀逸!)、攻めが「単発」になってしまうし、明確に「パス」のコースとタイミングが読めるから、どんどんとジャマイカ守備に集中されてボールを奪い返されてしまう。もちろんそれには、ボールを持った中盤選手が、多くのケースで「一発チャンスメイクパス」ばかりを狙っているから・・また、中盤守備ブロックが不安定ということで、両サイドがサポートに上がっていきにくい・・という面も無視できません。
やはりサッカーでは(ある程度人数をかけて)組み立てようとする「発想」が大事なんですよ。しっかりとパスをつなぐことで相手守備ブロックを振り回し、そして出来た「穴」を突いていく・・。急がば回れ。そんな組織プレーは、日本の真骨頂だったのに・・。
それでも、日本のカウンター攻撃は危険そのものでした。まあそれも、一点を追うジャマイカが、前後のバランスを崩しがちだったということですがね。また、彼らにしてもボールの動きが単調でしたから・・。ということで、稲本や中田ヒデが、中盤の高い位置でボールを奪い返れば、例外なくすぐに決定的チャンスへ・・という場面が何度かありました。
----------------
守備については、まさに、上記の「汗かきの不在」が顕著に出ていました。実際にボールを奪い返す勝負シーンの「前段階」で、守備の「仕掛けの起点」になるような忠実&ハードなマーキング&チェックをつづける・・、中盤から抜け出そうとする相手を(ボールのないところで)最後まで忠実にマークしつづける・・、はたまた、一度「置き去り」にされたとしても、粘り強く、全力で戻って次のカバーリングに参加する・・等々。
この試合では、稲本と小野が守備的ハーフコンビの「専業」になっていました。まあ、久しぶりに彼の中盤守備能力の高さを再確認できたことは収穫でしたが、それでも、どうも稲本にしても、小野にしても、次の(予測ベースの)クリエイティブ守備プレー(インターセプトなど)をイメージする傾向が強い。たまに、両人が交代に繰り出す「穴を突く攻め上がり」は効果的でしたが・・。
さて、小野伸二。先制ゴールは、例によっての「天才的なゴールへのパス」。素晴らしかったですよ(その前段階のカウンターシーンでの攻撃参加もネ)。でも、全体的には不満。まあ彼の前に、動かずに(パス&ムーブも希)足許パスばかりを要求するゲームメイカーがいるし、そのこともあってボールの動きが緩慢だから、フェイエノールトのようにはいかないのは分かりますが、もっと後方からの「サポート」の動きをすることで、ボールの動きを活性化することにチャレンジしても良かった。もちろん「例のゲームメイカー」に対し、「オイ! シンプルにパスを出して、すぐに忠実に走れ!」なんていう檄を飛ばすことも含めてネ。もっと彼は、リーダーシップを発揮しても良かった・・と思っている湯浅なのです。
(注釈:ジーコの記者会見で、小野が前日に熱を出していたことが公表されました・・ナルホド・・それだったら、いくら熱が下がったといっても、肺の機能が十分に回復するはずがない・・)
とにかくチームの重心は「守備的ハーフ」です。そこが、チームのジェネレーター(発電器)といっても過言ではありません。忠実でダイナミックな守備をベースに、攻めに移れば、どんどんと押し上げ、これまた忠実に、ボールの動きを支援する「パスのステーション」としてシンプルプレーに徹する・・等々。
ということで、福西と中田浩二が登場したラストの10分間は(もちろん同点にされたことで、ゴールを奪いにいったこともあったでしょうが)、日本代表のリズムが好転します。要は、組み立てを効果的に回すために必要な「シンプルなボールの動き」が戻ってきたということです。フムフム・・。
---------------
まあ、とにかくもう少し様子を見なければいけません。一試合だけで「選手タイプの組み合わせが悪い」なんていう結論を出すのは早すぎますし、ある程度の期間一緒にプレーすることで、彼らが自分主体で「バランス」を求めはじめ、全員が、攻守にわたる汗かきプレー「も」できるようになるかもしれません。もしそうなったら、彼らの才能レベルですから鬼に金棒です。ジーコが期待しているようにネ。とにかくジーコは、この四人を「本物のユニット」にしたいと思っているようです。「とにかく、長い期間いっしょにプレーすることが、成長するために大事なんだ(ジーコ)」。
ジーコジャパンの船出は、順風満帆というわけにはいきませんでした。だからこそ、どんどんと興味レベルが高まりつづける。さて・・。