すでに結果が分かっている試合の解説ですから、実況解説とは少しちがったものにしなければなりません。私のコンセプトは、サッカーに興味をもっていらっしゃる方々が「サッカーを語れるようになる」というものです。このことは、拙著『サッカー劇場へようこそ』(日刊スポーツ出版社)、『闘うサッカー理論』(三交社)に共通する原則でもあります。私はプロサッカーコーチですから、コーチの視点で、「J」を「素材」に、分かりやすく、サッカーの面白さ、美しさを解説できれば・・と思っています。
サッカーに詳しくない方々でも、普通の日常生活における発想で(日常生活の言葉・表現で)理解できる解説にする自信はあります。私の解説では、「このチームは、スペースのバランスがいいですね〜〜」とか、「あそこのタメがよかったですね〜〜」とか、「いまはシステムがうまく機能していませんね〜〜」とかいった、ワケの分からないものは出てきません。そんな、普通の方々には「意味不明」の表現。その背景を解説するのがプロの解説者の役目ですからネ。
ここまで大きなことを言うと気合いが入ります。さてどうなることやら・・。乞うご期待・・
さて試合ですが、まず土曜日に行われたドルトムント対バイエルンからいきましょう。ドルトムントは、ホームゲームだったこともあり最初からフルパワー。そしてゲームが始まって3分。フリーキックから、ドイツ代表のリードレが見事なヘディングシュート。ゴール!!順調な滑り出しだったのですが、その後がいけない。その2分後には、ミュンヘンのカウンターから右サイドを破られ、ピンポイント・センタリングです。それに合わせてヘディングシュートを決められてしまいました。1対1。その後は、バイエルンの確実でハードな守備に、ドルトムントは、押し込んでチャンスは作るものの、どうしてもゴールを割ることができません。逆に、アウェーのミュンヘンにカウンターから何度か決定的なチャンスを作られてしまいます。この試合のことは、シュツットガルトのホテルでテレビ観戦したクリストフ・ダウムとも話したのですが、とにかくミュンヘンの闘い方は、「アウェー」であることを考えた場合、非常にクレバーだったということで意見が一致したものです。さてこれで、ドルトムントとミュンヘンの勝ち点は「1」づつ増えました。ドルトムントにとっては、非常に悔しい引き分けだったとすることができます。これで、現在二位のレーバークーゼンが勝てば、ミュンヘンとの勝ち点差は「3」に縮まり、優勝も射程圏内ということになるのですが・・・。
ドルトムント・・ヨーロッパ選手権(チャンピオンズリーグ)決勝へ進出!!
今は「チャンピオンズリーグ」と呼ばれるヨーロッパ選手権ですが、それは、ヨーロッパ各国の前年度リーグチャンピオン、つまり各国の最強クラブチームによるチャンピオンシップです。日本では、前年度チャンピオンの鹿島アントラーズが参加するアジア選手権がそれに当たります。ドルトムントは、ブンデスリーガの前年度チャンピオン。つまりドイツを代表するクラブチームとして、このチャンピオンズリーグの準決勝まで進出しました。その試合が、4月23日の水曜日、イングランドのマンチェスターで行われたのです。準決勝までは「ホーム&アウェー」で戦います。第一戦はドルトムントのホームスタジアムで行われ、ドルトムントが「1-0」で勝利しています。そして雌雄を決する第二戦が、今度はマンチェスターのホームスタジアムである「オールド・トラフォード」で行われたというわけです。このゲーム、攻めに攻めたマンチェスターでしたが、前半に素晴らしいゴールを決めたドルトムントに最後まで守り切られ、結局二連敗ということで姿を消すことになりました。ドルトムントの気迫あふれる守備が目立った試合。クレバーなゲーム戦術の勝利とすることができます。もう一つの準決勝。ユーベントス対アヤックスは、これも二連勝したユーベントス(前年のトヨタカップチャンピオン)が決勝に進出しました。決勝が行われるのは、ドイツのミュンヘン。決勝の開催地は、ヨーロッパ連盟によって初めから決められています。地元のドイツで戦えるドルトムントに、非常に有利ということですが、素晴らしいチームワークで、現在世界最高のチームとの呼び声が高いユーベントス。ドラマチックな闘いになること請け合いです。このゲーム、日本のテレビでも中継されるはずですから、見逃さないようにご注意あれ!!
とまれ、予選の形態が「世界の常識」に準じることはポジティブなことです。それは、ファンの方々が、この最終予選期間の「サッカードラマ」を、「より長く」また「自国でも」堪能できるだけではなく、基本的には底ヂカラのある「日本代表」ですから、より実力を出し切ることが出来るに違いないからです。一カ所での集中予選では、「運」や心理的要素(開催国がどこかによって大きく違ってくる)が多分に影響してしまいますからね。この方式によって、より実力が問われる予選になったというわけです。
本日、予選の組合せが決まります。前回のワールドカップ本大会出場国である、サウジアラビアと韓国は、AおよびBグループに振り分けられ、それ以外の8カ国が抽選によって両グループに振り分けられます。その予選グループ分けが決定した後に、また書きます。
第14節でトップに立ったフリューゲルス。ただ、次の15節でマリノスに破れ、逆にアントラーズは、アウェーのサンフレッチェにキッチリ勝利してトップを奪い返します。アントラーズは、そのまま残り二試合に連勝してチャンピオンに輝きました。確かにフリューゲルスも、残りの二試合に連勝はしましたが、それは、優勝という「未知の世界」からの心理的プレッシャーが、見ている方にもヒシヒシと感じられるような薄氷の勝利でした。
優勝争いに参加したことはあるが、そこで勝利した経験がない、という「未知との遭遇」が、勝負のかかった大事なゲームで、不安をかりたて、自信を押しつぶしてしまうことはよく起こることです。プレーが、受け身で消極的なものになってしまうのです。リスクのあるプレーを避けようとする態度が前面に出てしまうということですが、魅力的で強いサッカーの基本はその逆、つまり、攻守にわたる積極的な「リスキープレー」なのです。そんな積極プレーが出てこなければ、受け身の停滞サッカーになり、結局は「悪魔のサイクル」にはまり込んでしまいますからネ。優勝のかかったフリューゲルスの最終戦、対サンフレッチェの前半(0-2でサンフレッチェがリード)は、まさにそんな「リアクティブ(自分からアクションするのではなく、相手に反応するだけ)」なサッカーに終始してしまいました。ただ後半は、見違えるほどのアクティブサッカーで、あの大逆転劇を達成してしまいます。そこでは、「もう失うものが何もなくなった」という心理状態が後半だったにちがいありません。ということは、前半には「心理的プレッシャー」があったということですよネ。
それでも、1996年シーズンに続いて優勝争いを経験したフリューゲルスにとって、そんな「極限状態でのゲーム経験」が、大きな「心理的資産」になったのは確かなこと。ジーニョが抜けてしまうとはいえ、今後も、優勝戦線にからんでくるにちがいありません。「未知(優勝)との遭遇」は、いつかは果たさなければなりませんからね。
今回のアントラーズ、フリューゲルスもそうでしたが、優勝戦線にからんでくるチームは、例外なく「攻守のバランス」に優れています。つまり「ゴールが多く」「失点が少ない」ということです。アタリマエじゃないか・・、との声が聞こえてきそうなので、もっと突っ込みましょう。私は、バランスというよりも、しっかりとした守備が、「優勝」のための原点、だと思っています。守備がしっかりとしている。つまり、全員で、積極的に「ボールを奪い返す」プレーに優れている。また、インターセプトなど「予測ベース」の守備能力もある(ゲーム観察能力・インテリジェンスなど)ということです。
守備がしっかりしていれば、攻撃も、よりアクティブになるのが普通です。それは、アクティブにボールを奪い返すプレーは、その後の、積極的な攻撃プレーに「自然と連動してしまう」からです。「ヨシ!成功した」という、ポジティブな心理状態が「ボールを奪い返した守備プレーの結果」ですからネ。ただ逆に、攻撃から守備への「切り替え」には「高い意識」が必要になります。「あーー、失敗した・・」というのが、攻撃の終わり方のほとんどのケース。そんな、ネガティブな心理状態から素早く「立ち直る」ためには、どうもしても、しっかりとした意識が必要だというわけです。守備に対する意識を、優勝のための「原点」だといった理由はそこにあります。
今までの優勝チーム。アントラーズ、ヴェルディー、サンフレッチェ、マリノス・・。どのチームも、しっかりとした守備をベースに「アクティブ・サッカー」を展開していたとは思いませんか・・?
さて、後期がすぐに始まりますが・・。プレビューについては、考えがまとまり次第、掲載します。ご期待アレ・・
国際会議でのテーマは、それぞれの時点でもっともホットなもの。私のもっとも近い友人で、ブンデスリーガ(ドイツ・一部プロリーグ)を代表するプロコーチ、クリストフ・ダウム(ガンバレ、クリストフ&ローラントのコーナーを参照してください)も講演しました。彼のテーマは、プロ選手の「モティベーション」。私は、モティベーションのことを、「ヤル気のポテンシャルを高揚させること」と定義します。オンラインマガジン、「2002 Japan」のコラムでは、クリストフの講演内容も含めてご紹介します。ご期待アレ(表紙ページにリンクボタンあり)。その他にも、生理学、心理学の権威による講演、トップコーチたちによる、最新トレーニングのデモンストレーション、ドイツを代表するジャーナリスト、コーチたちによるパネルディスカッション等など、内容の濃い国際会議でした。
ただ、プロライセンス・コーチたちの組織であるドイツ・サッカーコーチ連盟が主催する国際会議とはいえ、基本的にそこは、(現時点で)プロビジネスには直接かかわっていないコーチたちがノウハウを交換する場になっています。それは、毎年、会議が開催される時期が、各国プロリーグの開幕時期と重なってしまうため、どのチームの監督たちも、シーズン開幕へ向けての準備に大わらわだからです。それでも連盟は、「現役」のプロチーム監督との「関係」を維持するための努力をつづけています。彼らは、例外なく、ドイツ・スペシャルライセンス(Fussball-Lehrer-Lizenz)コーチングスクールの卒業生ですからね。連盟会長である、クラウス・ロルゲン氏は、「プロチームの監督に、できる限り国際会議に参加するよう電話で勧誘しているが、時間的に難しいというのが現状だ。もちろん、ほとんどのコーチ連中は、時間が許せば是非参加したいという返事はするが、現実的には難しい・・」と残念そう。そんななか、現役プロ監督(ブンデスリーガ・チーム監督)がつとめる「連盟副会長」のポストに、「クリストフ・ダウム」が選ばれました。このポジションには、現役のブンデスリーガ監督であること、という条件が付けられているのですが、アカデミックなバックグラウンドなど、彼ほどの適任者はいないということだったのでしょう。前任者は、ブンデスリーガで何度もチャンピオン監督になったことのあるカールハインツ・フェルトカンプです。連盟副会長に選ばれたことで、クリストフは、理論と実践を結びつける非常に重要な役割を担うことになりました。クリストフによる「モティベーションとは・・」というテーマの講演は、連盟副会長としてのものだったわけですが、前年のミュンヘンでの国際会議でも講演をしましたから、二年連続で「プロ領域の」副会長としての責任を果たしたことになります。それでも、毎年、シーズン開幕時期に開催される国際会議のために常に時間をつくることは難しいに違いありません。ブンデスリーガの監督ともなれば、トレーニングだけではなく、記者会見、その他のビジネスミーティング等など、やることが山積みですからね。今回の国際会議が開催されたケルンと、クリストフのチーム所在地、レーバークーゼンは隣町ですから、トレーニングの合間をぬうことも比較的簡単だったということですが、来年の国際会議が、レーバークーゼンから400キロも離れたカールスルーエであることを考えると、スケジュール調整がより難しくなるに違いありません。まあそのときは、代わりに私が講演しましょうかネ。
ドイツサッカーコーチ連盟は、ヨーロッパ・サッカーコーチ・ユニオンの「雛形」になった組織です。ヨーロッパ・サッカーコーチ・ユニオンの事務局長は、長くドイツサッカーコーチ連盟の事務局長をとつめた、モイラー氏(ドイツ人)ですし、ドイツサッカーコーチ連盟の重鎮メンバーの多くが、同時に、ヨーロッパ連盟の重要なポストを兼ねています。このように、この両連盟の関係は非常に深いのですが、そんな両組織に共通する大きなテーマが、「理論(知識、学術領域活動など)」と「実践(プロの現場で鍛えられた経験的ノウハウ)」との融合です。ですから、バリバリの現役プロ監督であるクリストフや、ドイツ代表チーム監督であるベルティー・フォクツなどの「実践家」たちが、ドイツサッカーコーチ連盟でも、アクティブな活動をつづけているというわけです。
ところかわって日本。皆さんもご存じのように、「J」における価値の大きな部分は、まだ「外国人(外国人監督・外国人選手)」が占めています。彼らは、基本的には「優勝請負人」。短期間に、報酬に見合った成果を出さなければ即刻クビ、という立場が普通です。あまり長い時間を与えられていない彼らは、自分のチームを「勝たせること」だけをテーマに仕事をするわけで、結局、彼らの『実践的なノウハウ』が、日本サッカーに広められることは希。その背景には、彼らのノウハウを吸収し、それを「伝える能力」のある日本人がいないという現実があります。ですから、このことは、日本サッカー協会のテーマでもあるように感じるのです。高い金をはらって雇った一流の外国人監督・選手。いなくなってしまえば、残されたのは「目のウラの残像」だけ・・というのでは、いかにも寂しいではありませんか。どんなかたちでもよいから、彼らの『実践的なノウハウ』が、日本サッカーの発展にとって効果的なかたちで活用されることが必要です。ドイツでは、「あの」故ヴァイスバイラー(世界的に『超』有名なプロコーチ)が、プロコーチ養成コースの、二代目校長でした。彼は、アカデミックな活動と平行して、一部プロチーム、メンヘングラッドバッハを何度も優勝へ導いたのですが、彼の存在が、「理論」と「実践」の融合にどれほどのポジティブな影響を与えたことか・・・。ドイツにおける「理論」と「実践」の融合は、すでに1950年代にはじまっていたのです。そしてそれが、今のドイツの強さのベースであることは確かなことです。
ラジオでは、まず聴取者の皆さんに「場面イメージ」を描いてもらわなければなりません。そして、そのプレーの「背景解説」と、非常に大変な作業なのですが、そこはテレビ、視聴者の皆さんは実際のプレーを見ていますから、私は「背景解説」だけに専念していればよいので、楽だし、解説もより深くすることができました。とはいっても、試合開始当初は、ラジオの「クセ」でモニター画面をまったく見ずに「ラジオ的」な解説・・。ディレクターから「もっとモニター・プレーを追いかけてください・・」などと指示されてしまったりして。それでも後半は、私自身も楽しんで解説することができました。私のコンセプトは『皆さんにサッカーを語ってもらうためのソース提供』というものです。そして解説のベース(評価基準)は、みなさんの「ナルホド」の数。これからも、テレビ、ラジオ解説をとおして、サッカーの楽しさ、美しさを、サッカー経験者ではない皆さんにお伝えしていこうと思っております。
さて試合の内容ですが・・、アッと、この試合には「内容」はまったくといっていいほどなかったんだっけ・・・。プレシーズンマッチということで、ほんとうに「動き」がない、つまらない試合でした。もう一つ。そこでテストされた若手プレーヤーたち。彼らにとっては、自分をアピールする機会という意味で、「勝負の試合」です。どんなにゲームの雰囲気が「ダレ」ていたとしても、彼らには、後で「足がケイレン」するくらいのプレーを見せてほしかったというのが私の本音です。彼らのほとんどは、雰囲気に呑まれてしまっていました。つまり、自主的な判断と自分自身の責任で、自由にプレーしようとする意志・・・それは、「パーソナリティー」と表現できるかもしれませんが、それがほとんど見られなかったのです。そのことが残念でなりませんでした。
[ トップページ ]
[ Jワンポイント ]
[湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ]
[トピックス(New)]
[ 海外情報 ]