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ヨーロッパの日本人・・今週は中田と中村だけでご勘弁・・(2004年3月15日、月曜日)

やった〜っ! それだ、それだよ!!

 そのとき、そんな奇声を上げていました。ホームのサンプドリアに「3-1」とリードされたボローニャが「3-2」という追いかけゴールを決めたシーン。後半23分のことです。

 そのゴールが決まるまでの仕掛けの流れを演出したのが(明確なキッカケになったのが)、中田英寿の最前線からの積極チェイシングだったのです。サンプドリアの不用意なタテパスを狙っていた中田が、その瞬間、スッとダッシュして間合いを詰めます。中田の存在感は大きいですからね。パスを受けたサンプドリアの選手は、中田の「顔」が間近に迫ったことで「逃げのトラップ」に入ってしまったのですよ。後方へ向けてトラップし、味方へのパスで中田のプレスを逃れようとするサンプドリア選手。でもパスコースがない。ということで、どんどん下がるばかり。「よし! チャンスだ!!」と、中田がプレスの勢いを急に倍加させたことは言うまでもありません。

 こうなっては相手は逃げるしかない。中田も、「ここはファールなし!」というイメージで迫ります。ものすごく興味深い攻防シーン。そして最後の瞬間、そのサンプドリア選手は、中田の後方からのファールを誘うように右方向へボールをコントロールする。でも中田の身体の入れ方が上手かった(中田には、相手の意図もお見通しだった?!)。ということで非常に微妙なタイミングで、中田がボールにも相手の身体にも触ったというわけです。もちろんそのサンプドリア選手は、中田と身体が触れ合った瞬間に(もしかしたらそのタイミングを見計らって・・まさに事前に意図していたように!)倒れ込む。でもレフェリーの判定は「ノーファール」ってな具合。

 微妙でしたが、中田のチェイシングの雰囲気が落ち着いていたのが功を奏したのでしょうね。それがアタフタしていたら、やはり相手の転倒に合わせてホイッスルを吹いていた?!要は、中田のプレーが「自然な詰めアクション」だったから、ファールの雰囲気が醸成し切れなかったということです(だからレフェリーも笛を吹けなかった?!)。そしてプレーは「流され」、次、その次と、ボローニャによる最前線でのプレスの輪が縮まっていったというわけです。この最前線でのプレスの輪(味方のアグレッシブなマインド)こそ、中田英寿が演出したものだったのです。だからこそ「やった〜っ!」という声が出たという次第。

 そして最後は、右からのサイドチェンジパスを受けたシニョーリがシュートを放ち、そのこぼれ球に、逆サイドから走り込んでいたネルヴォがヘディング一閃・・というわけです。ネルヴォが魅せた、逆サイドでの決定的な走り込みにしても、そのときのボローニャの全体的なプレーの流れに、「ここだ!」という勢いが乗っていたからこそ出てきたものだったに違いありません。

 その後、ボローニャのマッツォーネ監督は、シニョーリを下げてロカテッリをグランドへ送り込みます。要は、中田英寿をより高い位置でプレーさせようとする意図。そしてボローニャが残り時間を攻めつづけ、ロスタイムには二本もの決定機を作り出すのです。でも結局は「3-2」で押し切られてしまって・・。

 ゲームの流れは、全体としては互角。前半はサンプドリアがイニシアチブを握る時間帯が多く、後半は、追いかけるボローニャの勢いが勝ったという展開になりました。内容的には互角だったのですが、どうも「最終勝負の瞬間」におけるディフェンスの集中力(自分自身で考え、行動するチカラ)に差が出たとすることができるのかも。決定的瞬間に、あまりにも簡単にクロスを上げさせてしまったり、センターでのマークの間合いが空きすぎてしまったりするボローニャ守備ブロックの集中力のなさが目立っていたのです。それは、心理・精神的&インテリジェンスに大きく左右される部分。それが、チーム総合力の根幹をなしていること、またリーグランキングの背景要因になっていることは言うまでもありませんよね。ギリギリの最終勝負での集中力・・。ここでいう集中力の構成(心理)ファクターを分かりやすく表現するのは(分かりやすい表現を開発するのは)難しい作業ですが、これからも、それにトライしていきますので・・。

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 さて中田英寿。この試合でも、センターハーフ(≒本物のボランチ!)を務めました。全体的な出来は良かったですよ、本当に・・。でも、久しぶりに観たこの試合では、どうも味方からの中田へのボールの集まり具合が良くなかったという印象がありました。もっと彼を中心にゲームを組み立てるというイメージを徹底させればいいのに。彼がゲームをメイクし、フィニッシュのチャンスメイクは、シニョーリのイメージをメインに据える(中田のイメージは自然とミックスしていくでしょう!)・・なんていう「構図」を脳裏に据えて観戦していたのですが、どうもこの試合でのボローニャ選手たちはタテへ急ぎすぎていたような・・。

 やはりボールの動かし方に対するチーム全体の合意イメージが大事ですよね。それは、チームとしての「イメージシンクロ・コンテンツ」なんていう風に表現できるのかもしれませんが、それがしっかりとしたカタチをもっていれば、ボールホルダーも、パスレシーバーも、次のボールの動き(仕掛けの流れ)を脳裏に描きやすいし、その描写イメージがチーム内で合致しやすいというわけです。ボローニャの場合、その共通イメージが、ちょいと分散してきちゃったのかな・・なんてことを思っていた湯浅でした。

 それでも中田英寿は、常に守備からプレーに入っていくことで、非常に高質なプレーを展開していましたよ。だからこそ、冒頭で表現したシーンで、彼の汗かきプレーが次(結果=追いかけゴール)につながった(そのプレーが明確なキッカケになった!)ことが嬉しくて仕方なかったというわけです。

 ボールがないところでの予測ディフェンスも素晴らしいし、ボール絡みの攻防テクニックも一皮剥けた・・ボールを持っても、常に次の、その次の展開までイメージしたパスを出す・・そのイメージが、味方にもうまく伝わるようになってきているから、彼を中心にした仕掛けもスムーズに流れるようになっている・・等々、とにかく見ていて楽しい限りなのですよ。

 それにしても中田の存在感は群を抜いている。後半30分くらいでしたかね、以前パルマでチームメイトだったサンプドリアのディアーナが、ボローニャ中盤守備の「猟犬タイプ」、コルッチにファールされ、熱くなって詰め寄ったときのことです。そこへ寄ってきた中田の顔を見ただけで、ディアーナの怒りの表情が豹変したのですよ。もちろん中田も微笑みかけている。プロでは、そんな「交歓シーン」はネガティブに捉えられるケースが多いのですが、このシーンは完璧にポジティブでした。ボローニャが一点を追いかけるという緊迫した(見方によっては、ファールの応酬がつづく暴力的とまで言えそうな?!)雰囲気が一瞬でも和んだのだから、観ている方も、中田の存在感を再認識したに違いない・・。

 まあ、久しぶりに観た中田が元気だったことで安心した湯浅でした。

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 ちょいと(オリンピック代表の試合結果もあって・・)元気が殺がれてきたので、その他のヨーロッパの日本人については、中村俊輔に対する本当にショートなコメントだけで容赦アレ。

 中村については、現地での評価も割れているとのこと。技術的にものすごく高い位置にいることは衆目の認めるところだけれど、攻守の目的を達成するための実効レベルは?? 要は、局面プレーでの見事さと、その攻守での目的達成貢献度の兼ね合いに対する評価が難しいということでしょう。世界共通なんですよ。このタイプの選手に対する評価が割れるのは・・。もちろんドリブルで何人もの相手を「抜き去る」ようなプレーができれば、まったく問題ないけれど、中村の場合は、相手を「かわして」正確な中継パスをつないだり、タメからの勝負パスを出すという部分に強みを発揮する・・。でも、攻撃でのパスを受けるプレーはまだまだだし(でも意識は発展しているし、実効レベルも上がっている!)、守備での貢献度は、やはりマイナス評価の方が先行する・・。

 この試合での中村は、先週のゲームと同様、良かったと思います。自分のプレーに対する意識の進化を感じるだけではなく、実効レベルも上がっている。それでも、ここぞの走り込みシーンが少ないとか、守備での競り合いシーンで置いていかれる場面が目立つなど(ボールなしでの相手アクションにはほとんど付いていけない・・足が遅い・・)、まだまだ課題も山積み。さて・・。たしかに中村俊輔に対する評価の視点を「安定させる」のは難しい限りです。

 とはいっても、彼が大いなる可能性を秘めているのは確かなこと。もっともっと攻守にわたる運動量を増やし、ボール絡みでのシンプルプレーと勝負プレーのメリハリ、またボールなし状況での全力ダッシュに対する感覚(ボールがないところでの仕掛けイメージ)を鋭く磨いて欲しいと思っているのは私だけではないはずです。




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