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ジーコジャパン(28)・・目の覚めるような二つのスーパーゴールと、それ以外のシーンで延々と繰りひろげられた沈滞プレーの落差が見所でした・・(日本対イラク、2-0)・・(2004年2月12日、木曜日)

「たぶん日本チームは、立ち上がりの10-15分間に我々が魅せつづけたアグレッシブなプレー姿勢に驚かされたに違いない・・残念ながら、そのペースを90分間つづけるのは叶わなかったけれどね・・たしかに我々は2-0で負けたけれど、ゲーム内容自体については、差なんて全くなかったと思っている・・むしろ、内容的には互角以上の部分も多かったと思っているし、何度かあったチャンスを決めていれば、勝てたゲームだった・・戦争が終わってからの10ヶ月間、我々が満足なトレーニングを積めなかったことは周知の事実だし、(外国プロチームと契約している)主力が4-5人も欠けているという状況を考えれば、この試合で我々が展開したハイレベルなサッカーを、心から誇りに思っているよ・・」。

 イラク代表のドイツ人監督、ベルント・シュタンゲが、満足感を前面に押し出しながらも、あくまでも落ち着いたドイツ語で語りつづけていました。ホントによく喋るな、このオッサンは・・。ちょっとドイツ語の通訳が苦労していたから、他の記者の方たちにニュアンスまではうまく伝わらなかっただろうことは残念でしたけれどネ。とにかく、シュタンゲの言葉には、どうだ見たか! オレたちは(あなんヒドイ状況であるにもかかわらず・・またオレの指導で!)、これくらい立派なサッカーができるんだぞ・・という自負がビシビシと伝わってきたものです。

 ベルント・シュタンゲは、東ドイツ時代の有名コーチ。1983年から1988年までは、東ドイツ代表チームにかかわっていました(監督ではなかったようです・・)。でも選手としては無名だし、東ドイツ代表のキャップもありません。そんな彼の生活は、東西ドイツが統一されたことで、職にあぶれたプロコーチのベルント・シュタンゲが、ニーズのあるところへ、世界中を渡り歩いているということです。当時の東ドイツ人ですからね、母国を失ったことで、サッカーに自らのアイデンティティーを見出す旅をつづけている・・なんて表現できるのかもしれません。ハングリーさでは右に出る者がいないに違いないベルントは、それをポジティブエネルギーに変換して前進をつづけているということです。イラク代表チームが置かれている厳しい状況を考えれば、たしかにベルントは素晴らしい仕事をしていますよネ。

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 さて試合ですが、そんなベルントのコメント通り、イラクが素晴らしいゲームを展開したのに対し、日本代表は、先日のマレーシア戦に輪をかけた「受け身で消極的サッカー」に終始したということになりそうです。そのことについては、ジーコもまた「今日のゲームの出来は良くなかった・・ミスが多すぎた・・」と述べていましたが、私の目には、問題の本質は、選手達の「心理・精神的な部分にあり」と映っていました。まあ、いつも書いていることですがネ。

 たしにか、流れのなかで日本代表がたたき込んだ二つのゴールは素晴らしいの一言でしたよ。先日のマレーシア戦から比べれば雲泥の差ともいえる「素晴らしいコンテンツ」が詰め込まれたゴールだったのです。でもそれ以外の、ゲームの全体的なプレー・コンテンツ(内容)については、むしろマレーシア戦よりも悪かった・・。

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 どうせオレたちは欧州組のサブさ・・。そんな不健全なマインドが目に見えるようだ・・。立ち上がりの日本代表のプレー姿勢を観ていて、すぐにそんなことを思ったものです。何せ、ポゼッションという発想をはき違えているかのように、誰一人として(ボール絡み、またボールなしでも)リスクにチャレンジしていかないのですからね。いやもしかしたら彼らは、無意識のうちに、その発想を逆利用していたのかもしれません。オレたちは、最終勝負を仕掛けていくときの急激なテンポアップのために、安全に落ち着いてボールをキープすることを意識しているんだよ・・。

 また守備にしても、中盤での組織プレッシャーがまったく不十分です(マークも甘いし、予測プレスもうまく機能しない!)。たしかに全体的には日本の方が少しはチカラが上だと感じさせてはくれますが、そんな日本選手たちの気抜けプレーに、祖国の現状を心理基盤に、限りなく高いモティベーションでゲームに臨んでいるイラクチームの真摯な積極プレー姿勢に対するシンパシーが高まるのも自然な流れだと感じていた湯浅なのです。

 とにかく、日本チームのあのプレー姿勢じゃ、チャンスを演出することなんてできるはずがない。前述したように、止まっている選手の足許への「無為な横パス」が目立ちに目立つのですよ。誰一人として、前方へ「仕掛け」ていくというチャレンジ精神を感じさせてくれない。別の表現をすれば、日本チームの誰一人として、チームのマインド活性化のための刺激ファクターになろうとしていないということです(逃げ・・責任転嫁・・等々)。

 チャンスを作り出すためには、足許パスばかりをつないでいたってどうしようもない。自分が原因でボールを失いたくないから、とにかくまず落ち着いて安全にキープだ・・なんていう後ろ向きのプレー姿勢ばかりが目に付いてしまう。まさに、受け身で消極的な、アナタ任せの「やらされているサッカー」。

 これじゃ、マレーシア戦から何も学んでいなかったと言われても仕方ない。チャンスを作り出すためには、とにかく誰かが、リスキーなタテパスからのコンビネーションやドリブル突破チャレンジ、はたまた勝負のロングパス(もちろん決定的フリーランニングとのイメージシンクロ・・だからこそ、フリーランニングもリスクチャレンジ!)などにトライしていかなければならないのですよ。もちろん、ボールがないところでの活発なフリーランニングを基盤にしてネ。でもこの試合の日本代表には、自分主体でチャレンジしようとする意図すら見えてこない・・。まあ、前半に二度ほどあった藤田俊哉のボールなしの勝負の動きくらいでしたかネ、チャンスの芽を感じさせてくれたのは・・。

 後半もまた、まったく同じような倦怠感あふれる展開がつづきます(まあ後半2分に日本代表が先制ゴールを奪ってリードしたこともあったのですがネ・・)。私は、彼らが、自分たちのプレーペースを自ら高揚させることができないということを証明してしまったと思っています。小笠原にしても藤田にしても、久保や柳沢、遠藤や福西にしても、中田英寿と稲本潤一が中盤に入れば、まったく違った高質なプレーを魅せるのに・・。

 とにかく、リーディングパワー(チームメイトに対する刺激能力?!≒中盤ディフェンスの機能を活性化させられる能力?!)に欠ける中盤に、辟易(へきえき)していた湯浅だったのです。そのことは、中村俊輔が入っても、まったく解消されることはありませんでした。

 この試合については、こんなところですかネ。それにしてもアレックスが絡んだ二つのゴールは(また一点目シーンでアレックスへスルーパスを通した小笠原のプレーも)見事でした。だからこそ、その素晴らしさが、ゲーム活性化のための刺激にならなかったことが不可解で仕方なかった・・。




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