この試合での小野伸二は、完全にゲームメイカーとして機能していました。ボールを持った日本選手たちが積極的に小野を捜していると感じます。中盤ディフェンスの実効レベルも、稲本との有機的なコンビネーションを基盤に、高みで安定しているし、素晴らしい中盤リーダー振りでした。
ところで、この試合でも自分主体の創造的フリーランニングが目立ちに目立っていた久保竜彦。そんなボールがないところでの忠実&迫力アクションを観ていて、ある試合のことを懐かしく思い出していました。それは、1998年10月28日に大阪の長居で行われたトルシエ・ジャパンのデビュー戦。エジプトとのフレンドリーマッチです。そのゲームで、後半13分に交代出場した久保が、ボールから何10メートル離れていても、常にウラの決定的スペースを狙ったフリーランニングをスタートしつづけていたのですよ。もちろんパスがまわってくるはずがありません。それでも、何度も、何度も「クリエイティブなムダ走り」にチャレンジしつづける久保。だからこそ逆に、ボールがないところでの、意図が満載された全力ダッシュプレーが強烈に印象に残ったというわけです。そのゲームをレポートしたコラムは「こちら」です。
久保のパスを呼び込む爆発アクションですが、日本代表のなかでも、そのフリーランニングがコアになった勝負イメージが浸透してきていると感じます。ボールを持った選手が、まず最前線の決定的スペースを意識するようになったと思うのです。この試合でも、小野からだけではなく、アレックスや稲本からも、タイミングのよい一発タテパスが、抜け出す久保の勝負スペースへ出されましたよ。彼らの脳裏には、スペースへ走り込む久保の姿が、より明確にイメージ描写されるようになったということです。要は、久保が仕掛けるフリーランニングが、「レベルの低いポゼッションの悪循環」を断ち切り、仕掛けイメージを発展させるキッカケになっているということです。
この試合では、アレックスのパス能力も目立っていました。抜け出そうとする玉田へスルーパスを通したシーンは、まさに極上。完全にアイスランド最終ラインをズタズタに切り裂きました。それ以外でも、玉田や久保へのタイミングとコースが抜群のスルーパスを出したり、彼らとのコンビネーションプレーも冴えました。とはいっても、彼に期待されるのは左サイドでのドリブル突破なのですが、どうもそのポイントで、アレックスは自信を失いかけているのかもしれない・・。
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後半は、最終ラインフォーメーションをフォーバックに変え、前の6人を全員チェンジした日本代表。それでも、ダイナミズムが低落することなく、最後はアレックスのPKでアイスランドを突き放して勝利を確実なものにしました。
まあ、とはいっても、フォーバックは難しいから、ちょっと最終ラインが不安定になったし、アレックスや加地も、ほとんどオーバーラップができなくなってしまいました。要は、フォーバックになったときのサイドバックのオーバーラップには、より強い意志のパワーが必要になる・・よりハイレベルな、守備的ハーフによるバックアップアクションが必要になってくる・・というわけです。もう何度も書いているように、いまの日本代表のレベルからすれば、何といってもスリーバック(ファイブバック)が現実的。それによって、ディフェンスがより安定するし、それがあってはじめて、次の攻撃にもパワーを乗せることができるようになる。要は、スリーバックの方が、選手たちが、より自然に運動量を増大させられる・・攻守プレーをより積極的に展開できるようになるということです。
とはいっても、相手は、総合力で劣るアイスランドだから、フォーバックでも十分に対応できていましたよ。攻撃にしても、人数をかけた組織プレーが目立っていましたしね。ボールを奪い返したポイントから最終勝負まで、組織パスプレーに徹した攻撃を仕掛けつづけました。明確なパスリズムがあったからこそ、ボールがないところでのサポートの動きも活性化した・・だからこそ、組織コンビネーションが有機的に連鎖した・・というわけです。
それにしても、あれほどシュートチャンスがありながら、結局ゴールを割ることができなかったことにはフラストレーションがたまりましたよ。特に柳沢。絶対的なゴールチャンスが少なくとも3本はあったのに・・。
ここで、先日スポナビで発表した文章の一部を引用しましょうかね。それは、ハンブルクで活躍する高原を中心に、決定力というテーマでまとめたものです。
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・・まあ、高原がシュートまで行けていることは評価に値するけれど、それを、ある一定のパーセンテージでゴールに結びつけられていない現状では批判されても仕方ない。このパーセンテージは、言うまでもなく、長い歴史に支えられたフットボールネーションの不文律を基準にしている。とにかく、選手たちが傾注するすべての攻撃エネルギーはゴールを挙げるために費やされるし、結果に対する注目度と期待度がケタ違いに高いストライカーだから、常に批判の矢面に立たされるのは宿命なのである。
シュートを決められない症候群・・。その背景要因としては、やはりメンタルな部分がもっとも大きいだろう。アチラのプロ選手たちは、結果が重視される競争社会という心理・精神環境を背景に、本当に血反吐を吐くくらい厳しいシュート練習を積み重ねる。もちろん、そこで緊張感の高揚を演出する監督・コーチのウデも「本場」である。私は、そんな厳しいトレーニングを何度も体感したことがある。たしかにテクニックや戦術イメージのトレーニングという側面もあるだろう。ただそこでもっとも重要視されるのは、心理・精神的なテーマなのだ。
そこでの具体的な目標イメージは、どんなシュートチャンスでも確信レベルが微動だにしないところまで心理・精神的な「フォーム」を高揚させること。言い換えれば、どんな状況においても、瞬間的に描写されるシュートイメージをなぞるように自然と身体が動くというレベルまで到達することだ。その具体的ターゲットへ向かい、強い意志をもって極限負荷のトレーニングを積み重ねているからこそ、シュート動作のブレの範囲を小さく抑えることができる・・だからこそ、より高い確率でシュートを決められる・・そしてそのことが、再び確信レベルを高揚させる・・それこそが物理的現象と心理・精神的な要素の善循環サイクル・・というわけだ。そんなプロセスを経た強者たちのなかには、シュートモーションに入ったときから、ゴールへ突き刺さっていくボールが見えるなんていうレベルまで到達しているゴールゲッターもいるのである。
高原は、シュートモーションに入った「異次元空間」でのギリギリの確信レベルを向上させる努力をつづけなければならない。まあ来シーズンは、ムペンザという強力なライバルが加入してくるし、ドイツで3シーズン目を迎える選手に対する視線もより厳しいものになるだろうから、自分自身の内に潜む甘さを克服し、闘いのメンタリティーをステップアップさせていくことだろう。やはり、環境こそが人を育てるのである。
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この文章の「高原」を「柳沢」に置き換えれば・・ってな具合です。
やはり決定力の本質は「メンタル」にあり・・なのです。だからこそ、自信と確信レベルを常に高みで安定させておかなければならない・・だからこそ日頃のシュートトレーニングやメンタル&イメージトレーニングを着実にこなさなければならないし、意識して自分を追い込めなければならない・・だからこそ、監督・コーチのウデが試される・・というわけです。イージーな状況でいくら美しいシュートを決めたところで、実戦での極限プレッシャーでの「それ」とは別物ですからネ。
ということで、二日後のイングランド戦へ向けたウォームアップゲームとしてある程度の意義があったアイスランド戦でした。多くの選手たちがプレーしましたしね。この日の試合内容から、イングランド戦が楽しみになってきました。
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最後に、私の代表作の一つである『サッカー監督という仕事』が新潮文庫に収録されたので、その報告をしておこうと思います。文庫化にあたり、3万ワード以上(本文で60ページ以上)を加筆しました。要は、いくつかの項目を書き加えたということです。それについては「ここ」を参照してください。