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ジーコジャパン(44)アジアカップ決勝・・ヨーロッパ選手権でのギリシャ優勝にもイメージがダブるすごい粘り勝ち・・確実に、他のアジア諸国に「怖さ」を印象づけられた!?・・(日本vs中国、3-1)・・(2004年8月7日、土曜日)

ヤッタ〜〜ッ! 後半ロスタイムの玉田の突き放しゴールが決まったとき、思わず声が出た。これで、来年ドイツで行われるコンフェデレーションズカップの出場権も勝ち取ったぞっ!!

 大会がはじまってから、ビックリするような勝負強さを魅せつづけた日本代表が、再びアジアの頂点に立ったのです。たしかに彼らの勝負強さは、「ロジックな余裕」とは遠いものだったとはいえ、とにかく最後まで諦めずに闘って勝ち切ったことは、チームにこれ以上ないほどの自信を与えたことでしょう。まさに、今年のヨーロッパ選手権におけるギリシャ優勝ともイメージがオーバーラップする見事な粘り勝ちでした。

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 ちょっとここで脱線します・・。

 試合前、BS1で放送された「ここまでの軌跡」をみながら考えていました。そして再認識したものです。やはりこのチームが決勝まで駒を進められたのは、レベルを超えたツキと守備ブロックの強さがバックボーンだったんだな・・。また、その軌跡をみながら、こんなことも思っていました。彼らは、初戦のオマーンとのゲームで、暑さに対する「恐怖心」をもってしまったのかもしれない・・だから、中盤からの、組織的な積極ディフェンスをベースにしているからこその「人数をかけた組織的な仕掛け」がカゲを潜めつづけてしまった・・。前からの(コンパクト守備ブロックベースの)積極的なディフェンスが機能すれば、高い位置でのボール奪取をベースに、人数をかけた攻撃を仕掛けていくことができたのに・・でも暑さに対する恐怖心から、積極的に「前へ」重心を掛けていけなかった・・。

 それには、中村俊輔というチャンスメイカー(=チームのなかで唯一、攻守にわたって完全な自由を保障された選手)が、ボールをこねくり回し過ぎるなど、仕掛けをスピードダウンさせてしまうタイプだし、ワンツーなどのコンビネーション場面も含めて、パスのレシーバーになる意識がほとんどないという背景もあると思っていました。

 たしかに中村は、局面プレーでは「上手さ」を感じさせてくれるけれど、個のドリブル勝負で相手守備ブロックを突破していったり、仕掛けシーンで決定的な「タメ」を演出できるというわけでもない・・。彼の場合、仕掛けプロセスでの実の効果という視点では、中途半端なプレーの方が目立つということです。仕掛けの中心になるべき選手がそんなだから、仕掛けの流れに「厚み」が出てこない・・また中村が前にポジションをとっていることで、守備的ハーフの最前線への飛び出しも慎重になってしまう(中村の守備意識に対する相互信頼がない!)・・だから、流れのなかでのチャンスメイクがままならならない・・。とはいっても、たしかに中村は、セットプレーでの正確なキックや、ツボにはまった状況での崩しパスでは能力を発揮してはいたけれど・・。さて・・。

 中村に対する評価は、サッカーの歴史が証明しているように、彼が「レベルを超えて上手い選手」だからこそ、難しい。昔から、(それがマイノリティーであるからこそ!)上手さに対する畏敬の念ほどパワーもった「魅力や希望」は他にありませんからね。とはいってもこの数十年間におけるサッカー進歩のベクトルは、その「テクニシャン」に対して、より広範にわたるパフォーマンスを求めるようになったことも事実です。より大きな運動量・・「アリバイ」ではない実効あるディフェンス参加・・シンプルなパスプレーやボールがないところでの着実プレーなどの組織プレーへの貢献・・等々。それが出来てはじめて、彼らの「天賦の才」に対して正当な評価とレスペクトが与えられるというわけです。もちろんその「才能」がマラドーナだったらハナシは別。彼は、どんなエゴプレーに奔っても、誰も文句が言えないほどの「仕掛けでの実効プレー」が出来ましたからネ。とにかく彼は、すべてのサッカーを愛する人々にとっての「希望の星」だったのです。でもすぐに人々は、「やはりヤツは、世紀の例外プレイヤーだったんだ・・」という事実に気付くわけです。

 ということで、「マラドーナ以外の才能」に対する評価基準のベーシックな考え方は、シュートを打つという攻撃の目的と、相手からボールを奪い返すというディフェンスの目的を達成するプロセスにおいて、彼らがどのくらい効果的なプレーができているのかという視点での「総合評価」になるべきだというわけです。その視点で、私は、中村俊輔は「まだまだ出来る!!・・彼のプレーについては、前回のコンフェデでのフランス戦こそが絶対的な評価基準になるべきだ!!・・」と思っているわけです。

 まあ、日本代表が、ガチガチに守備ブロックを固め、ワンチャンスのセットプレーでゴールを奪って勝つ・・というゲームコンテンツに徹するのならばハナシは別ですがネ・・。でもそれじゃ、今の日本代表の実力からしたら、確実に「後ろ向きのチーム戦術」ということになってしまうし、そんなプレーコンテンツでは、彼らが日本サッカーのイメージリーダーになれるはずもない・・とにかく「その武器もあるんだゼ!」というスタンスでセットプレーを捉えて欲しい・・。

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 決勝も、まさに「この大会での日本代表のオハコ」といったゲーム展開になりました。相手の攻撃を抑えながら(注意深く)単発の攻撃を繰り出していく・・そのなかで得たセットプレーチャンスを最大限に活用する・・。まあその視点では、ジーコは素晴らしい準備をしたとすることができます。何せ、選手たちの「仕掛けイメージのシンクロレベルを極限まで高めた」わけですからね。

 中国の攻めは怖くない・・。それは、イランとの準決勝をみた感想でした。とにかくステレオタイプ。個人勝負能力は高いけれど、仕掛けにおける「スペースをうまく活用する」ようなボールの動きがない・・だから、次に、どこから、どのような仕掛けが出てくるのか、事前にイメージできてしまう・・だからステレオタイプサッカー・・もちろんたまには、個の勝負からチャンスは作り出したけれど・・。準決勝でのイラン戦でも、(一人少ないイランに対し)たしかに圧倒的にボールはキープしているけれど、まったくといっていいほどイラン守備ブロックを崩していけないのです。逆に実効チャンスの数では、確実にイランに軍配が上がりました。

 日本代表の守備ブロックは、そんな中国の稚拙な組み立てと仕掛けを完全に掌握できていました。もちろん何度かは、ドリブル突破や、局面のワンツーなどでピンチに陥る場面はあったけれど(またまた川口能活が神様になったシーンも!!)、全体としては、余裕をもって中国の攻めを抑制できていたということです。また守備ブロックが安定していたからこそ、徐々に中盤での「タテのポジションチェンジ」も出てくるようにもなりました(何度か、中村俊輔の粘りディフェンスもみられたし・・)。

 とにかく、どちらに転ぶか分からないという試合展開になったら、より高い確率でゴールを奪える「武器」を持っている日本のモノ(そんな展開では、確実に日本にやられてしまう)・・というイメージを他のアジア諸国に定着させられたことは、今大会でのもっとも大きな成果だったと思っている湯浅なのです。(W杯予選など)これからの「肉を切らせて骨を断つ本物の勝負」においては、心理ファクターこそが、勝敗を分けるキーになる。だからこそ、相手に「怖さ」を印象づけることができた今大会は、優勝したこと以外にも、ものすごく重要な意義があったと確信しているのです。

 それにしてもジーコジャパンは、あの「雰囲気」のなかで、フィジカル的にもサイコロジカル的にも、本当に最後までねばり強いプレーを展開し、勝ち切ってくれました。様々なコノテーション(言外に含蓄される意味)が秘められた見事な闘いに対し、心から拍手をおくっていた湯浅なのです。とはいっても、ここから、この後の「本物の勝負」へ向けたチーム作りをスタートしなければなりません。さて・・。

 



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