ガンガンと「前からの戦い」を挑んでくる実力チームのイランU23代表に対し、ホームの日本代表も負けじと押し返そうとはするけれど、どうも、仕掛けプロセスに参加してくる後ろ髪を引かれないバックアップアクションの質と量で日本の上をいくイランが、シュートチャンスで完全に優位に立っている・・。
やはり、仕掛けに入ったときのボールなしの動きの思い切りレベルが、チャンスメイクでの決定的なファクターになるということです。そんな原則を反芻していた湯浅でした。ボールを奪い返した次の瞬間、眼前にスペースを見つけた者は、例外なく突っかけていくイラン(サポートのフリーランニング!・・走りきるフリーランニングは、守備側にとってイヤなもの!)。それに対し、そんな大事な一瞬に状況を見てしまう傾向が強く、最終勝負シーンにおいて人数を増やすことがままならずにチャンスを逃しつづける日本。
それでも先制ゴールは日本が挙げます。山瀬からのパスを受けた田中達也が、左サイドで勝負を仕掛けてマーク相手を外し、ベストタイミング&ベストコースの(ファーポストスペースへの)クロスを決めたのです。そのゾーンでフリーで待っていた平山にとっては、まさにゴッツァンゴールでした(平山にとっては、ヘディングで流し込むだけのイージーゴール)。もちろん平山は、一度なかへ入る動きを入れてから外へ開いたからこそフリーになれたわけで、その意味では意図的なボールなしの動きの勝利だったとすることもできます。
その後は、ダイナミックでエキサイティングな膠着状態がつづきます。まあ基本的なゲームの構図に大きな変化なしといったところ。ガンガン攻め上がってくるイランに対し、どうも吹っ切れた攻め上がり(バックアップアクション)という視点でダイナミズムが十分ではないU23日本代表・・。ということで、仕掛けの「吹っ切れ度」では確実にイランに軍配が上がるわけですが、まあ日本が一点リードしている状況を考えれば、自然なプロセスでしょう。
そんなイランの積極サッカーのベースは、もちろん、ダイナミックで実効ある中盤ディフェンス。それがあるからこそ、ミッドフィールドの高い位置でボールを奪い返すことができるし、周りも、そんなボール奪取をイメージしているから、次の仕掛けへ参加しやすい・・。逆に日本は、どうも中盤守備で振られ気味ということで、次の攻めに勢いを乗せること(≒人数をかけることで、しっかりとボールを動かす攻めを仕掛けること)がままならない・・。
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後半は、中盤ディフェンスが活発・効果的になるなど、日本のサッカーも持ち直してきます。とはいっても、まだまだダイナミック方向へ完全に脱却したとはいえない。そして徐々に、前半同様イランに実質ペースを握られはじめるのですよ。
ここで私は、「ここからは、どのくらいイランの攻めを抑え込んで勝ち切れるかがテーマになる・・それを残り30分の見所にしよう・・」なんて思ったものです。でもその数秒後、イランにフリーキックを決められてしまって・・。同点ゴール!! 後半16分のことです。それにしても見事なフリーキックでした。これで、またまたテーマ(見所)が変化してくる。「ここからは、いかに日本代表が、自分たちが主体になってペースを奪い返し、イランのゴールへ迫っていけるか・・」。そのミッションを達成するためには、もちろん全員での中盤ディフェンスが絶対的な条件になります。そのディフェンスを有機的に(組織的に)連鎖させるためには、中盤リーダーの力量が問われてくる。鈴木啓太・・。
そしてゲームが、互いにペースを奪い合う展開を基調にしながらも、日本代表が、勝利へ向けてより積極的に仕掛けはじめるという構図へ変容していきます。積極的で効果的な中盤守備をベースに、日本代表の攻めが風雲急を告げていくのですよ。
そんな変容プロセスでは、交代出場した坂田の、ボールがないところでのダイナミックな動きも良い刺激として機能していました。最前線での彼の大きく鋭い仕掛けのフリーランニングは、イラン守備ブロックを混乱させるだけではなく、味方の仕掛けマインドも一段と活性化させたと思うのです。そして日本が、勝利へ向けて一丸となっていく・・。
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最後の20分間に日本代表が魅せた、攻守にわたるダイナミックサッカーこそ、いままで我々が待ち望んでいたものでした。それまでは、どうしても甘さが目立ち、自分たち主体でゲームペースを高揚させることが出来なかった(ギリギリの闘争心や気合を前面に押し出すことがままならなかった)オリンピック代表に、ようやく戦う雰囲気が出てきたのですよ。ホッと胸をなで下ろしていた湯浅でした。
まあそれには、トゥーリオ、今野と鈴木啓太(彼をキャプテンに指名したのは最高の選択!)、山瀬、そしてツートップと、(新メンバーも含めて)やっと背骨が整ったという背景もありそうです。
あっと、トゥーリオですが、最終ラインのリーダーとしては、まだまだディフェンスでの組織プレーに課題が見え隠れしています。彼のディフェンダーとしての能力の高さは疑う余地はありませんが、どうもまだボンミス(集中力が一瞬の途切れる気抜けプレー)も目立つのですよ。例えば後半26分のイランの攻撃シーン。右サイドへのスルーパスが通り、日本ゴール前への正確なクロスが返ってくるという状況で、ニアポストスペースで、イラン選手が完全にフリーになってしまったのです。そのイラン選手のマークに急行しなければならなかったのはトゥーリオ。でも結局彼は、ボールウォッチャーになってしまっていた。グラウンダーのクロスボールが直接GK林へ飛んだからよかったものの、それは、トゥーリオの(集中切れ)カバーリングミスでした。このような危急状況においてこそ、ディフェンダーの組織プレーセンスが問われるわけで、その視点で彼もまだまだということです。
最後に、この試合がオリンピックチームデビュー戦となった平山相太についても短くコメント。彼はチカラのある選手です。とにかく、チームにとって有用・有益な特徴が「特殊」であることがいい。もちろんそれは、高さ。190センチですからね。それに足も早いから、ジャンプ力も十分でしょう。空中戦は鬼に金棒・・のハズ・・。
でも実際には、その価値を存分に活用し切っているとは言い難いのが実状です。彼は、その特徴の価値をまだ十分に理解していないのかも。「オレは足許プレーの方が得意なんだ・・逆にヘディングはあまり好きじゃない・・」なんてことを考えているとは思いたくないのですが・・。これまでの彼のプレーを総体的に見た場合、どうもヘディングの練習を怠っているのかも・・なんて思えてくるのですよ。とにかく、ハイボールに対する目測が甘い・・だからジャンプのタイミングも悪い・・だから、物理的に負けるはずのない相手にヘディングで競り負けてしまうシーンも目立つ・・。これではいけません。
ドイツ・ブンデスリーガの雄、ボルシア・ドルトムント。その絶対的なエースは、言わずと知れたチェコ代表のヤン・コレル。彼も最初は「アタマ」で売り出しました。それは相手にとって大きな脅威だったのです(彼は、チームにとっての大いなる価値を強調した!)。でも時間が経つにつれて、彼の足許プレーの実効レベルが高いという認識も浸透していったのです。そして今では、大柄にもかかわらずの「器用なテクニカル系選手」という評価まで定着してしまって・・。
まず、自分の特徴を前面に押し出してチーム内ポジションを確保し、そのベーシックな価値をしっかりと維持しながら、どんどんと別なプレー価値も付加していく。それこそ、特にチームにとって有用な特徴・価値を備えた選手の正しい発展プロセスというわけです。
平山は、高さだけではなく、シュートにも特異な才能を持っていると思います。先の世界ユースや正月の高校選手権でも、ここぞの決定力を魅せつけたし、この試合でも、ロスタイムでの絶対的シュートチャンスで「異様な落ち着き」を魅せました(相手GKの正面に飛んでしまったとはいえ、胸トラップからの、ボールを正確にインパクトした落ち着いたシュートモーションは特筆!)。また、意識すれば、しっかりとしたポストプレー(最前線でのボールキープ)も効果的にできるはず。そして彼のポストプレー能力に対する信頼が深まれば、後方からの押し上げの勢いも増すことで、チーム全体の仕掛けの厚みは格段に増大するに違いありません。だからこそ価値がある。
とにかく平山は、もっと意識してヘディングのイメージトレーニングと目測トレーニングだけは積まなければなりません。肉を切らせて骨を断つ戦い(オリンピック地域予選)では、そんな彼の特異な能力が必要とされるときが、必ずきますからね。