まあそんな所用が重なった流れで、早い段階でヨーロッパへ飛びU20のオランダ対日本を観ることも叶わず、結局アメリカ経由で昨日(火曜日)の未明にフランクフルトに到着したという次第。そしてすぐにレンタカーをピックアップし、空港近くの行きつけのホテルをリザーブしてからケルンへのアウトバーンを疾走する湯淺だったのです。
ケルンでは、プロコーチ養成コースのマネージメント総責任者ドクター・ギュンター・シュタインケンパー氏とか、プロコーチ養成コースの総責任者(ドイツにおける全てのコーチ養成コース総責任者)エーリッヒ・ルーテメラーなど、アポイントを取っておいたサッカー関係者とのミーティングをこなし、その後にフランクフルトへとって返し、スタジアムに併設されているメディアセンターで、プレスAD取得や無線LAN環境、はたまたスタジアム内ロケーションの確認など、大急ぎで全てのルーチンワークを済ませたというわけです。終わったのは1800時を少しまわったころでしたかね。その後すぐにドイツの公式練習を観にスタジアム内へ。でも、寝ぼけ眼でトレーニングを観察していた私のところに係員が寄ってきて、こんな言葉を浴びせるんですよ。「これからは非公開練習になるからスタジアムを出ていただきます!」だって・・。仕方なく、ちょっと時間は早いけれどフランクフルト市内で行われるれ「メディアパーティー」へ向かうことにした湯淺だったのです。
ところで出来上がったばかりの美しいフランクフルトスタジアム。市の森と呼ばれる、町全体を取り囲むような「グリーンベルト」のなかにそびえ立ちます。ということで、その正式名称は、ヴァルト・シュタディオン(森の競技場)。ピッチ中央の真上に、巨大な「四面ディスプレー」が設置された超モダンなサッカー専用スタジアムです。それにしてもディスプレーのデカいこと。ピッチとの兼ね合いでは、ちょっとアンバランスかな・・。
さてメディアパーティー。世界各国から集まったジャーナリス連中を歓待するホスピタリティーがメインミッションのパーティーなのですが、ブラートブルスト(グリルド・ソーセージ)やコテレット(骨付きのブタ肉のグリル)、ザウアークラウト(酸っぱいキャベツ)、ブラートカルトッフェルン(グリルド・ジャガイモ)など、典型的なドイツ料理に舌鼓を打っているうちにおかしなことに気付きました。ドイツのパーティーでは絶対に欠かせないビールスタンドがないのですよ。ジュースなどの飲み物スタンドは二つも三つも用意されているけれど、ビールスタンドがない。
ビックリした私は、近くのサービスの方に「いったいビールはどこ?」なんて、頓狂な声で聞いてしまったりして・・。でもね、その彼氏の反応もかなり不自然なのですよ。ドギマギして、「いまおもちします・・」と言って奥へ引っ込み、ビンビールを持ってきてくれたのですが、そのビールを見てまたまたビックリ。何と、アメリカのバトワイザーじゃありませんか。そしてすぐに思い出しました。2005コンフェデレーションズカップというロゴの下に、アンホイザーブッシュのロゴが大きく入っている通り、ドイツでやるサッカーの世界大会にもかかわらずアメリカのビールメーカーがメインスポンサーになったことを・・。たしかに当時は、スキャンダラスな話題にのぼったものだったっけ・・そのときは聞き流していたけれど、実際にその現象が目の前に展開されたのだから・・。私は違和感一杯で、パーティー会場を早々に立ち去りました。ビールの本場ドイツだぜ・・そのオフィシャルパーティーでドイツの地ビールが飲めないなんて・・。そして改めて、経済主導のプロサッカーの現状に思いを馳せたわけです。
そのことについては、本日の午後にお会いした日本サッカーの恩人デットマール・クラーマーさんも苦々しく話していましたよ。「サッカー自体を深く知らないジェネラルマネージャーが増えていることは良いことではない・・彼らは、例外なく経済的な成功を優先させようとするからな・・それに対してバイエルン・ミュンヘンのジェネラルマネージャーは、元ドイツ代表のウリ・ヘーネスだから、ビジネス的にだけではなく、スポーツ的にもバランスが取れた運営ができる・・」。まあ、経済主導のプロサッカーとサッカー分かとの相克っちゅう構図なんだろうけれど、いまの方向性が正しいかどうかは、歴史が証明するということなんでしょう。
クラーマーさんとは、その他にも、様々な困難を乗り越えて当初の目的を達成したジーコについてとか、日本代表の発展プロセスにはサッカーの歴史に残る特筆のエッセンスがあるとか、いろいろなことを1時間半にわたって話しました。そのなかでもっとも印象に残ったのは、「努力」の意味と、そのプロセスを助けるコーチに課せられたミッションの重さでした。勝負を決める決定的な仕事は、そんなに簡単に成功させられるモノじゃない・・ココゾの勝負所で躊躇なく勝負のドリブルを仕掛けられたり、勝負のスルーパスを送り込んだり、そのパスを期待して爆発的に走り込んだり・・そしてもちろん、そんなトライのなかでシュートを確実に決めなければならない・・。
それについてクラーマーさんは、カールハインツ・ルンメニゲのことを例にとって話してくれました。「彼には、考えなくても自然と身体が動くまで厳しいトレーニングを課したんだよ。例えば右足のボレーキックだけれど、そこにボールが来れば自然と身体がモーションに入るというレベルまで高めることができた。そんな努力があったからこそ、あのレベルまで発展できたというわけだ・・」。「それは、監督の資質として重要な我慢強さを象徴しているように思えるのですが・・?」。「まさにそういうことだネ・・」とクラーマーさん。
そんな、単純再生産トレーニングは、私が尊敬するスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーのトレーニングでも、何度も観察したことです。彼は、しつこく、しつこく、選手たちを駆り立て、モティベートしながら、一つの一つのプレーを改善し、発展させつづけたのです。カッコいいことでは、本物の成果は得られないことの方が多い・・。そういえば、世紀の天才ペレも、「私のプレーは、1割が才能で残りの9割は地道な努力の賜なのです・・」なんてことを言っていたっけ。ちょっと「臭すぎる」正論のように聞こえるでしょうし、工夫すれば、単純でつまらないトレーニングを面白いものにできるさ・・なんて言葉が聞こえてきそうだけれど、とにかく退屈な「練習」でのみ発展させられるプレー要素は多いのです。そしてそんなプレー要素が、サッカーの内容と結果を決めてしまう・・。クラーマーさんの落ち着いた低音から発せられた言葉は、その事実を明確に反芻させてくれました。感謝です。
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さて、初戦のオーストラリアを「4-3」と振り切ったドイツ代表。そこで展開された、攻守にわたってリスクチャレンジてんこ盛りのダイナミックサッカーは、彼らが好調の波に乗りつづけていることを象徴していました。
予選が免除されているドイツにとって、今回のコンフェデレーションズカップは、非常に大事な「勝負マッチ」です。まあ、W杯前では唯一の、本物を体感できる機会といっても過言ではありません。だから試合前は、チームにも緊張感があふれていたということです。この試合では、20〜23歳くらいの若手が6人も先発していたことも特筆でした。そんな彼らが、「ゲーム全体として」あれほどの積極サッカーを展開できたのですから素晴らしい成果ですよ。
とはいっても、今日の昼間にクラーマーさんが、「ダイナミズムのレベルは上がっているし、選手たちも積極的にチャレンジするようになった・・ただ、まだまだ勝負所で集中力に欠けるところも目立つ・・まあ、若さということなのだろう・・」と言っていたように、組織コンビネーションが冴えまくった立ち上がり20分を過ぎたあたりから、ちょっとリズムが停滞気味になり、逆にオーストラリアに同点ゴールをたたき込まれてしまうのです。
この「2-2」にされたゴールは、それ以外の偶発的な2失点とは違って、戦術イメージ的な問題点を含んでいました。試合後の記者会見で、ドイツ人の記者が、「失点が多かった・・最終ラインが若く、うまくコンビネーションが取れていなかったからではないか・・」と質問したのに対し、クリンズマンは、明確に「いや、特に同点にされた失点は、中盤ブロックとのコンビネーションがうまく機能しなかったことで生まれた・・決して最終ラインのコンビネーションが悪かっただけではない・・守備は、協力作業なのだ・・」と話していましたよ。まさにその通り。またクリンズマンの口調には、なかなかの説得力を感じてもいました。これまでの素晴らしい内容と成果によって、クリンズマン自身の確信レベルもうなぎ昇りということなんでしょうね。
もう一つ、後半のドイツ代表が、前半での問題点(=要は、ボールがないところでのプレーが減退したこと!)を、しっかりと修正してきたことも特筆でした。そして前半同様の組織コンビネーションが冴えわたる。そこでのキーワードは、やはり中盤ディフェンスでした。そのことについては明確に言わなかったけれど、観ていれば、選手たちのプレー姿勢が、中盤ディフェンスにおいて何倍にも高揚したことが分かるはず。それがあったからこそ、次の攻撃でも、ボールがないところでのプレー(パスを呼び込むフリーランニングなど)が活性化したというわけです。
さて、コンフェデレーションズカップという勝負トーナメントの初戦を飾ったドイツ代表。「この勝利によって、チームは落ち着くだろうし、若いチームだからこそのエネルギーのステップアップもあるはず・・」。クリンズマン自信のコメントです。まさにその通り。とにかくこのチームは、ドイツ社会における期待というポジティブな心理エネルギーも増幅させています。友人たちとの会話でも、そのことが明確に感じられる。ここ10年くらいは明確に感じられなかったことです。ドイツは本物のフットボールネーション。やはりサッカー文化が、深く、深く、日常に浸透しているということでしょうね。羨ましい・・。
もう限界。いま現地時間で夜中の0040時なのですが、ここにきて急に、私の身体が日本時間を思い出しはじめたようで・・。明日は、朝の1000時ころを目処に、ハノーファーへクルマで移動します。2-4人ほどのジャーナリスト仲間が便乗する予定だけれど、彼らには、200キロ超の巡航速度でも文句を言わないこと・・とくぎを差してあります。さて・・。