ブンデスリーガ、マインツ05の監督、ユルゲン・クロップが、ケルンスタジアムのなかに設けられたテレビスタジオで、横に座るもう一人のコメンテイター、フランツ・ベッケンバウアーを尻目に、エネルギッシュに語りつづけていました。
今シーズンは10位に終わったマインツ05。ただ、選手のクオリティーからしたら、「よくそこまで頑張った」というのが一般的な評価です。その「ガンバリ」を支えていたのが、ユルゲン・クロップ監督というわけです。とにかく、いまドイツでもっとも注目を集めている若手プロコーチなのですよ。いま、38歳。ドイツエキスパートたちは口を揃えて、「アイツは、本当に能力のある監督だ・・インテリだし、決断も早く勇気がある・・もちろん判断と決断の背景にあるロジックもハイレベルだ・・ヤツは、確実にこれからのドイツサッカー界を代表する監督になる・・」なんてこと言うのです。
とにかくそんな若者がオピニオンリーダーになったり、ドイツを代表するテレビ中継のコメンテイターとして起用されるなど、保守的なドイツ社会だからこそ、そこに何らかの大きな変化の潮流感じている湯浅なのです。ハンブルクのトーマス・ドル、シャルケのラルフ・ラングニック、昨シーズンまでシュツットガルトを率いたマティアス・ザマー、ブレーメンのトーマス・シャーフなどなど、とにかく若手プロコーチの台頭が、ドイツサッカー界の体質を徐々にポジティブ方向へ変えつつあるということです。
そのユルゲン・クロップが、強い思い入れを込めて日本代表のことを語っている。前回のギリシャ戦とこのブラジル戦のサッカー内容で、日本の攻守にわたる組織プレーを高く評価していたユルゲン・クロップは、たぶん日本代表のことを好きになったんでしょう。ちょっと嬉しくなりました。彼は、ビデオを駆使して、日本選手たちのボールがないところでの勝負の動きが鈍かったことを指摘します。例えば、前半に玉田が左サイドでまったくフリーでタテパスを受けた場面。結局最後はボールを無為に失ってしまったけれど、その場面でユルゲンは、「コイツとコイツのサポートの動きが遅すぎる・・もっと素早いタイミングで、全力でダッシュしていたら確実にパスレシーバーとして間に合っていたのに・・」とかね。それ以外にも、ビデオシーンを三つくらいピックアップしていましたよ。彼の日本代表に対する思い入れの強さを感じます。
ユルゲン・クロップの指摘は、攻守にわたるボールがないところでの仕掛けの動きとカバーリングの動きについてでした。「それでも、すごく良くなっているんだゼ・・」なんて、彼の話を聞きながら独り言を呟いていた湯浅だったのですが、まったくニュートラルなブンデスリーガ監督の「体感レベルの素直な感想・評価」は基調です。脳裏に焼き付けておきましょう。
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前半は、ブラジルが、組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスした優れたサッカーで日本を圧倒したというのがフェアな評価でしょう。でも私は、それ以上に、ブラジルには日本を「攻めさせる」余裕があった??・・なんてことまで考えていました。最初の時間帯は押し込んだブラジルが、あるときから、日本の攻撃の場面で、前から当たりに行かず、守備ブロック全体を徐々に下げるようなプレー姿勢をみせたのです。ブラジルが全体的に下がれば、もちろん日本は全体的に押し上げる・・。でもそれは、ブラジルの狡猾なワナだった?!
そのことは、ある程度の「高さ」まで日本チームを「全体的」に押し上げ「させた」ブラジルが、そこから急に、組織プレッシャーの強さを倍加させるというプレーをみせていたことからも分かります。ボールへプレッシャーを掛ける者・・協力プレスのために寄ってくるもの・・その周りでパスを狙う者・・。それらが、まさに有機的に機能し、日本がプレーできるゾーンが急激に押し潰されてしまうのですよ。その迫力たるや、まさに世界。そしてボールを奪い返した次の瞬間には、抜群のスピードで、個の才能ベースのカウンターを仕掛けていくのです。そんな素晴らしいカウンター攻撃を見ながら、「そうか・・スペースが広がるカウンター攻撃こそが、才能選手たちの見せ場なんだよな・・」なんてことを思い出していた湯浅でした。
「攻めつづけ、押し込んでいくことの弊害」を何度も体感しているブラジル。彼らは、状況を見て、全体的に(次の爆発カウンターをイメージして!)下がり気味にプレーするという意図的に流れも、すぐに機能的にマネージしてしまう。もちろんブラジルは、カウンターだけではなく組み立てでも、ワンツーなどのコンビネーションや一発スルーパス(ロングレンジの勝負パス!)、勝負ドリブル、はたまたクロスやロングシュートなど、まさに変化のオンパレードという仕掛けを繰り出していく。やはり強いよ、ヤツらは。
そんな強者に対して、日本代表は、本当にねばり強く、優れた組織サッカーで対抗しました。たしかにギリシャ戦のように仕掛けがシュートチャンスとして結実するというシーンは少ないけれど、全体的な押し上げ意志が衰えないことが素晴らしい。中村俊輔のロングシュートだけではなく、素早いパス交換で、何度かブラジル守備ブロックのスペースも突いていきましたしね。たしかに最後は余裕をもって抑えられてしまうけれど、そんな積極的なプレー姿勢に期待感は高まりつづけました。
その期待感が、プレーペースが上がった後半に同点ゴールとして結実したのだから堪えられない。そのゴールの前にも、右サイドの崩しから決定機がありましたしネ(まあそれはフラストレーションにつながったけれど・・)。
いま午前0100時。徐々にアタマが回らなくなりはじめました。限界に達する前に、日本のフォーバックを簡単に評価しておきまししょう。
フォーバックは難しい。だから、中盤との連携ディフェンスが命綱になります。その視点で、ギリシャ戦ではうまく機能したフォーバックだったけれど、やはりブラジルが相手だと崩されるケースが増えました。二列目からのワンツーコンビネーションや突破ドリブルで中盤が置き去りにされて決定的ピンチに陥ってしまうケースも何度かありました。そんなシーンを見るたびに、最終ラインのセンターゾーンに一人足りない(決定的ピンチで動けるカバーリング要員がいない)というマイナス面を感じていた湯浅だったけれど、それでも、フォーの最終ラインと中盤との上手い守備コンビネーションを何度も目撃しながら、これもアリかもしれないと考えはじめた湯浅だったのです。
全体としては、まあまあ上手く機能していたフォーバック。これからもジーコは、「これ」でいくはずです。そう・・継続こそチカラなり。守備ブロックも、やればやるほど、コンビネーションが良くなっていくだろうし、選手たちの「ボールがないところでの守備意識」の高揚をベースに、全体的な確信レベルも高まっていくに違いありません。
もちろんスリーバックでやるというオプションも残しながら、基本はフォーバックの機能性を高めていくという路線を推し進める。以前は疑問符の方が先に立ったけれど、今では、それもアリだなと思えるようになりました。何せ、その方がリスクチャレンジの頻度も高まりますからね。とにかく、これからのジーコジャパンに対する自分のなかの期待の高まりが明確な輪郭を持ちはじめたと感じていた湯浅でした。
もちろん私は決勝までレポートします。まず25日は、ブラジル対ドイツ。凄いカードになりましたよね。そして次が、26日のアルゼンチン対メキシコ戦。日本代表が負けてしまったから、これからメディアシートを確保するのが難しくなるでしょうが、とにかく最後の最後までベストを尽くし、とことんサッカーを楽しむつもりです。