今回のコンテンツは、エスパニョールをホームに迎えた今節のレアルが、先発メンバーでグラヴェセンとグティーを入れ替えたことです(この試合では、最前線のロナウドもオーウェンに代わって先発出場)。前節のヌマンシア戦ではグラヴェセンの良さが目立っていたけれど、その試合とまったく同じ基本布陣(選手たちの基本ポジショニングバランス)で、唯一の守備的ハーフに入ったグティーはどうだろう・・。
たしかに数字的な結果では「4-0」でエスパニョールに大勝したけれど、サッカーの内容では、組織プレーが冴えるエスパニョールに守備ブロックを崩されてチャンスを作り出されてしまうというピンチ場面も目立っていました。安定しないレアル守備ブロック。そこでは、やはりグティーの「局面的なディフェンス内容」が大きな不安ファクターだったというのが私の評価です。
勝負はボールのないところで決まる・・。グティーは、相手が組織プレーで仕掛けてくる場面でボールしか「見られない」し、ボールのないところでのマーキングも出来ていない。また明確なワンツーコンビネーションでも、簡単に置き去りにされてしまう。特に、後方の相手選手が「追い越しフリーランニング」を仕掛けるといった勝負場面では、彼の判断の甘さとポジショニングミスが目立っていました。もちろん余裕があるケースでは、最終ラインの味方と「タテのマーク受けわたし」もオーケーだけれど、絶対に無理という場面でも安易に「行かせて」しまう(そのオーバーラップの動きに気付いてさえいない?!)。また、ボールばかりを見て、自分の背後スペースを意識していないから、相手にスペースを使われっぱなし。要は、最終勝負シーンでの、ボールがないところでの守備コンテンツ(守備イメージの描写能力)が、あまりにも低レベルだということです。まあ本人は「互いのポジショニングバランスを取っているんだヨ!」ということなんでしょうがネ・・。
グティーが守備的ハーフということで、右サイドのベッカムはしっかりとバックアップしていたけれど、ジダンが入る左サイドが問題。一度などは、ロベカルとジダンがパス交換して上がって行くという状況にもかからず、(彼しかいないのに)グティーが、そのサイドに残った相手選手をまったくケアーしないという体たらくでした。このシーンでは、ロベカルのミスパスで、すぐに「その相手選手」にパスが回され、そこから決定的シュートを放たれてしまったわけですが、それはもう完全にグティーのカバーリングミスでした。
サッカーのレベルが上がれば上がるほど、「最終勝負」がボールのないところで決まってしまうという傾向は強まります。もちろんレアルとかその他の世界選抜クラブでは、その「行間」に、天才たちが演じる「個人プレーの饗宴」がミックスされてくるわけですがネ。とにかく、中盤の底を任された選手が、ボールがないところでの守備をイメージできないのは致命的です。たしかにグラヴェセンと比較して、グティーの方が、攻撃にうつったときの「ボール・デバイダー(分配役)」としての機能性は高いですが・・。要は、攻めでの価値とディフェンス価値の相克・・っちゅうことですかネ。この試合では、後半10分を過ぎたところでグラヴェセンが交代出場しました(ジダンがアウト・・そのポジションにグティーが上がる!)。そしてそこから、レアルの守備ブロックが格段に安定したという次第。またグティーも、水を得た魚のようにはつらつとした「攻撃プレー」を展開していましたしネ・・。
とにかく、「レアルという現象(ストーリー)」において、いま最も注目すべきなのが、グラヴェセンとグティーが提供してくれている、攻守にわたる価値(プレーコンテンツ)比較なのですよ。いやいやホントに、レアルは様々な学習機会を提供してくれるじゃありませんか。サンキューッ!! ということで、ここからは北朝鮮との勝負マッチレポートです。
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「サッカーはホンモノの心理ゲーム・・とにかく攻守にわたる勝負所で数的に優位な状況を作り出せれば、いくら実力で上だとはいっても日本も危ない・・北朝鮮選手たちの気合は確実に日本を凌駕するだろうから、それに見合って運動量も多くなる・・そしてグラウンド上のいたるところで実際に数的に優位な状態を作り出されてしまう・・とにかく決して簡単な試合ではない・・たしかに実力では日本の方が上だし、戦術ロジック的には楽に勝てる相手だけれど、そこは、イレギュラーするボールを足で扱うという不確実な要素が満載されたボールゲームだから・・」
今朝、ラジオのインタビューでそんなことを語りました。そして実際の試合でも、まさにそのようなことが起きた・・。北朝鮮は良いチームでした。深く浸透したチーム戦術イメージを、全員が、全力で、忠実に、そしてねばり強く実行しつづけました。試合の流れのなかで彼らにゲームペースが移ったときには、グラウンド上のいたるところで数的に優位な状況を作り出し、危険な攻撃を仕掛けてきましたよ。
たしかに、全体的なボールキープ率では日本に軍配が上がります。でも、そのキープの実質的な内容では(要は、仕掛けの質では)逆に北朝鮮の方が上だったということです。日本代表の海外組がピッチに立つまではネ・・。
あまりにも早い段階でゴールを入れたから(前半4分の小笠原のFK)?! まあたしかにそんな見方もできるでしょうが、一発ロングで最前線へパスを送り込むだけで、誰もフォローにいかない・・足許パスばかりで、あまりにもリスクチャレンジが少なすぎる・・全員が様子見プレー姿勢で、スペースへ向けてパスレシーブの動きを敢行する選手がいない・・なんていう体たらくじゃ、流れのなかでまともな仕掛けを演出できるはずがありませんよね。その展開は、まさにカザフスタン戦やシリア戦の前半と同じ流れだったのです。ホント、フラストレーションがたまりました。
たしかに後半の立ち上がりの日本は、少しはボールがないところのプレーが活性化したことで、仕掛けにも実効コンテンツが充填されはじめたとは感じました。でも逆に、北朝鮮が繰り出す攻撃の方が、より密度が濃い実の詰まり方だとも思っていましたよ。要は、ボールがないところでのフォローの動きが大きく、素早く、忠実だから、彼らの組織パスプレーにも勢いが乗って、より危険な仕掛けを繰り出せるというわけです。そして、そんな彼らの勢いが後半16分の同点ゴールとなって実を結ぶことになります。ゴールを決めた16番のナム・ソンチョルは、左サイドバックのポジションから最前線を追い越して決定的スペースへ飛び出し、そこで決定的なパスをもらいましたからね。彼が魅せつづけた激しく前後に動きつづけるボールなしのプレーは世界レベルに匹敵するモノ。だからそのゴールは、まさに正当な報酬でした。でももちろんそのゴールが決まったときは、前進に冷たい電流が流れましたけれどネ。もし日本代表がドイツW杯に参加できなかったら・・。考えるだけでも身の毛がよだつ。
そしてやっと海外組が登場し、日本の攻撃に格段にハイレベルな「実効コンテンツ」が詰め込まれていくのです。高原と中村が登場してからの日本代表のポジティブな豹変は、誰もが明確に感じていたに違いありません。
まず何といっても、ボール絡みのプレーが危険度のアップが特筆でした。それまでの日本の攻めは、ボールを持っても集中プレスで簡単に奪い返されてしまったり、前へ仕掛けていくのではなく安全パスで逃げ回るばかりだったりと、北朝鮮の選手たちが脅威を感じるような攻めとはほど遠い内容でした。たしかにキープ率は高かったけれど・・。それに対して、特に中村俊輔が魅せつづけた素晴らしいタメやドリブル勝負、はたまた守備ブロックを切り裂く勝負パスは、相手にとって、まさに脅威そのものだったのです。
とにかく、中村のボール絡みのプレーが、常に前へ勝負していくという危険なモノだったことが大きい。タテへのドリブル勝負・・タテへの勝負パス・・タテ方向への勝負のコンビネーション・・等など。北朝鮮の選手たちは、完全にビビりはじめ、そして中盤でのプレスが効かなくなっただけではなく、守備ラインも「下がり気味」になっていきました。中村俊輔が演出した「個人プレーの脅威」。素晴らしいの一言でしたよ。そして、北朝鮮選手たちのディフェンスが徐々に受け身で消極的になっていったのに対して、逆に日本選手たちのボールなしのプレーがどんどん活性化していく・・だから、どんどんとスペースを活用できるようになっていく・・。
また高原直泰のプレーも北朝鮮にとって大いなる脅威でした。ドリブルしかり、ヘディングしかり、シュートへ入っていく迫力アクションしかり。でも、そんな中村や高原の活躍で作り出した何度かの決定機を決勝ゴールに結び付けられずに時間ばかりが過ぎていく。そして、諦めかけていたロスタイムに飛び出した劇的な同点ゴール。ホント、心身ともに疲れ切っちゃうゲームでした。それにしてもジーコジャパンは信じられない程ツキにも恵まれている・・。
「一次予選のホームでのオマーン戦、アウェーでのシンガポール戦。またアジアカップ準決勝でのバーレーン戦。そしてこの試合。ジーコさんは、ものすごくツキに恵まれていると思うのですが、ご自身でそのことを実感されていますか? それがつづくと確信してきていますか? また世界のジーコが蓄積している体感から考えて、このツキにはどのような意味がありますか?」なんてネ、試合後の監督会見で、そんなちょっと変な質問をぶつけてみました。そうしたら、何かのボタンを押してしまったみたいで、ジーコが語る、語る・・。
内容的には、メンタリティーこそがツキを呼び込む・・何度も、最後の5分でも絶対に逆転できると選手たちに意識させた・・そのことを選手に分かってもらう努力をした・・この感覚が大事・・この確信が大事・・そして冷静に、その確信を実現していくことが大事・・等などといったところでしたが、そのなかでもっともインプレッシブだったのが、「ツキを主体的に呼び込めることに対する感覚的な確信を選手たちに与えられたことが嬉しい・・」というものでした。そのテーマについては、浦和レッズのギド・ブッフヴァルトともこんなふうに語り合ったことがあります。
「最後の10センチ先まで足が伸びるかどうかというギリギリの勝負シーンとか、いつかは冷や汗が出るような決定的場面と向き合わなければならない瞬間がくるはず。そのとき、世界でのギリギリの勝負を体感しているギド・ブッフヴァルトの経験からにじみ出てくるエネルギーによって、選手たちの足を、もう10センチ先へ突き動かすことができるだろうか?」。そんな私の質問に対してギドが、「そうできることを心から願っているよ」と応えたものでした。
これからジーコジャパンは、もっと厳しい勝負マッチを積み重ねていかなければなりません。ジーコに対し、選手たちにもっと深い確信マインドを植え付けて欲しい・・なんて願わずにはいられない湯浅なのです。もうフラフラですから、今日はこのあたりで。でも、本当に、本当に、勝ててよかった・・。では、オヤスミナサイ・・。