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2006_オシム日本代表(その7)・・不満もあったけれど、まあ漸進していることは確かだから・・(日本対ガーナ、0-1)・・(2006年10月4日、水曜日)

さて、どのように総括しましょうか。

 まあ、まず何といっても、ガーナ選手の個の能力が高かったという事実からかな。だから、局面で個の勝負に持ち込まれたら日本も大いに苦しんだ。それでも、ガーナの組織プレーは大したことはない。ボールがないところでの二人目、三人目の動きは緩慢だから、パスで崩されるという怖さはない。だから、ボール絡みで厳しく当たり、そこでボールの動きを停滞させて協力プレスを仕掛けていけば、そんなに大きな問題にはならなかったということだよね。

 考えてみたら、今回のドイツワールドカップが開幕する前に、ガーナ代表とトルコ代表のテストマッチを観戦したんだっけ(5月26日のボーフムでの試合)。そこでも私は、同じような印象を書いていた。そのレポートは「こちら」

 局面での個の勝負に持ち込まれるのが怖い・・だから日本代表は、上がってくる相手をしっかりとチェックし、協力して効果的なディフェンスの輪を構築することをスタートラインにするというイメージで試合に臨んだ・・そしてもちろん、そのカチッと決まった守備ブロックをベースに、チャンスとなったら、後ろ髪を引かれないリスクチャレンジの仕掛けを繰り出していく・・実際に、それがツボにはまったシーンが何度もあった・・。まあ総括は、そういうことかな。

 たしかに日本代表は、強いガーナを相手によく闘ったし、カウンターや素早いコンビネーション、またアレックスの個人勝負などでチャンスも作り出した。私は、内容的にもまあまあだったと思っていますよ。

 でも、喉元のトゲがすっきりと取れたというわけじゃない。それは、選手たちが「ゲーム戦術」を気にし過ぎていたかもしれないという感覚に苛(さいな)まれているからです。選手は、与えられたゲーム戦術を「超越」するくらいにリスクにチャレンジしなければならないのであって、そのゲーム戦術カゲに「隠れて」しまうようではいけません。でもこの試合では、どうも、そのゲーム戦術を「アリバイ」に使っていたシーンもあったというスッキリしない感覚が残っているのです。

 例えば、スリートップの両サイドに張った佐藤寿人と山岸智。彼らのパフォーマンスについて、どうも、もっと出来るはずという不満ばかりが残るのです。彼らに与えられた、ゲーム戦術的な守備のタスク(役割)は、たぶん、ガーナ両サイドバックのオーバーラップを抑えるというものだったのでしょうね。彼らのプレーイメージから、如実にそのことが感じられましたよ。でも、(守備に入った状況で)そのガーナ両サイドが上がらない場合は、そのまま歩いて休んでいる。しっかりと考えていれば、もっと効果的に(隣接ゾーンで展開されている)ボール奪取勝負に絡んでいけたのに・・。

 もちろん攻撃では、彼らも良いシーンを演出したけれど、総体的には不満の方が先行するというのも事実。特に、山岸智の才能の高さはよく知っているつもりだから、不満タラタラだった湯浅でした。何で、もっと仕掛けていかないんだ!・・何でそこで安全パスなんて出すんだ!・・どうしてパス&ムーブで爆発しないんだ!・・どうしてもっと積極的にドリブル勝負を仕掛けていかないんだ!・・巻は、失敗なんてモノともせずにギリギリのリスキー勝負にチャレンジしているじゃないか・・等々。

 そんな不満は、中盤の遠藤保仁に対しても向けられていました。どうも「考えている」風の「無為な様子見シーン」が目立ってしまうのです。勝負アクションに入れば、攻守にわたって、本当に素晴らしくハイレベルな実効プレーを魅せてくれるのに・・。その「頻度」が少なすぎると感じていた湯浅なのですよ。彼もまた、何らかの「ゲーム戦術イメージ」に手足を縛られていた!? さて・・。

 私は、日本代表が守備的なゲームを展開したなどとは思っていません。そのことでは、会見でオシムさんが述べていたことにアグリーです。相手が、強いガーナだからね。守備と攻撃のタスクを十分に果たそうとしても、まず相手からボールを奪い返さなければならないというわけです。でも、もっと出来ただろう・・という不満は拭いきれませんでした。悪しからず・・。

 オシムさんは、こんなことも言っていましたよ。「遠藤は走ろうとしていた・・もっと走れと言えば、もっと走ったに違いない・・試合中に走っても死なない・・中村憲剛にしても遠藤保仁にしても、もっと良いプレーをするためには、もっと走らなければならない・・」。まあ、そういうことだよね。そしてもう一つ。「現代サッカーでは、攻撃も守備も両方(効果的に)こなせなければ、確実に選手寿命は短くなる・・(言葉を換えれば)様々なタスクを臨機応変にこなしていけるということ・・(その積極プレーのなかで)前進するためのヒントを探しつづける・・」。要は、攻守にわたって積極的に仕事を探しつづけるプレー姿勢が大事だということだよね。

 オシムさんは今回の会見では触れなかったけれど、鈴木啓太は、まさに(以前オシムさんが言ったように)全盛期の「マケレレ」だよね。彼が魅せつづけた、チェイス&チェック&守備の起点プレー、ボールがないところでの忠実&ハードなマーキング、クレバーなインターセプト、忠実でパワフルなカバーリング、そしてクレバーでハードな(素晴らしい実効を伴った)ボール奪取勝負・・等々。私は、存分に楽しませてもらいました。この試合での日本チームのMVPは、間違いなく鈴木啓太でした。

 もう一つ、ポジティブな分析ポイントがあります。それは、羽生や播戸といったフレッシュな選手が入ったことによって、日本代表のプレー内容がダイナミックに変容したという事実。

 彼らは、ボールがないところでダイナミックに走り回った(特に播戸が素晴らしかった!)。それによって、日本代表のゲームが格段に活性化したのですよ(選手のプレーイメージが活性化した!)。やはり、人が動かなければボールは動かないし、ゲーム内容も活性化しないということです。とにかく、走ることが大事なんですよ、「まず」走ることがネ。そんな播戸や羽生の「刺激プレー」を見ながら、このような最高の機会を与えられたにも関わらず山岸智の才能が大きく花開かなかったことに対して不満タラタラの湯浅だったのです。本当に、ちょっと残念・・。

 最後になったけれど、ヨーロッパの日本人について、オシムさんが、こんな意味深なことを言っていた。いまは国内選手を中心に鍛えている段階・・云々。要は、いつかは「融合」をイメージしているということです。オシムさんも、「寝不足になる」ほどしっかりと欧州組のプレーを観察しているということだしネ。もちろん、世界中へ強烈に放散されつづけている「オシム・メッセージ」の効果を確かめるという意味も含めて・・。
 



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