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06_ヨーロッパの日本人・・今週は中田英寿と稲本潤一・・でもまず、復調レアル・マドリーと、極端な戦術サッカーのチェルシーについてもちょっとだけ・・(2006年2月5日、日曜日)

このところ、レアル(マドリー)の復調に、「やっぱり守備やボールがないところでの汗かきワークの量と質が、全体的なサッカークオリティーを決めるんだよ・・特に、レアルのような才能集団であればなおさらだ・・だからこそ、グラヴェセンの復活とか、グティーの守備コンテンツの大きな進展とかに目を向けなければ・・」なんとことを考えたり、プレミアでダントツトップに君臨するチェルシーが展開する勝負優先サッカーに対して、「まさに前中後のスリーライン分断サッカーだよな・・あれだけの才能がある選手たちが、こんなガチガチの戦術サッカーをやったら勝ち点を稼げるはずだよ・・でもそれは、サッカーのもっとも重要な魅力ファクターである自由という美しさを殺いだり、選手たちの発展の可能性を抑制したりと、やっぱり、組織と個や自由と規制の高質なバランスを志向するサッカーの発展ベクトルに逆行するよな・・もちろん、局面での個の才能ベースの魔法はあるし、彼らが主にイメージする、高い位置でのボール奪取から繰り出される直線的なスペースパスと、それを受けた前線の才能たちが繰り出す最終勝負は見所満載だけれどネ・・それにしても、チェルシーの最前線選手たちは最終勝負だけをイメージしてりゃいいんだから楽しいだろうね・・」なんていうネガティブ発想が先行するのを抑えきれなかったりなど、様々な「刺激」を自分主体で探しています。もちろんそれは、サッカーを哲学することへのモティベーションを、「J_開幕」とワールドカップへ向けて本格的にアップさせるためなんだけれどね・・。

 そんな刺激のなかでも、いま、中田英寿が置かれている状況には興味をひかれる。まあ彼のことだから、その復活プロセスに対して興味をひかれるという意味なんだけれどネ。それにしても、今節のウィガン戦の前半のプレー内容にはフラストレーションがたまりましたよ。とにかく良いカタチでボールに触れない。

 前々節では、中田の後方に、守備的ハーフ&ゲームメイカーとしてイヴァン・カンポが位置し、そこからボールが展開されていました。そして、この試合でそのタスクを任されたのは、セネガル代表のファディガ。カンポ同様、これまたなかなかのゲームメイカーぶりを発揮します。でも、彼らの場合は、中盤高めにポジショニングする味方ミッドフィールダーへショートパスを供給するというのではなく、まさに「後方からの仕掛け人」というイメージで、大きな展開パスや、そのまま最終勝負に入っていけるような仕掛けパスを繰り出すのですよ。要は、味方ミッドフィールダーを経由せず、彼らを「飛び越して」最前線や両サイドへボールを展開し、その流れに他のミッドフィールダーが絡むといったイメージが強いということ。カンポにしてもファディガにしても、彼らのそんなプレーがある程度の効果を発揮するから、周りも、そのイメージに引っ張られ、どうしても中田も、「使われるウエイト」が大きくなってしまうというわけです。

 そんな、中田が描くイメージとは異なる展開がつづいたウイガン戦だったけれど、(カンポと同様に)ファディガが前半23分に負傷退場してしまうのです。そしてそのポジションに入ったのは、オブライエン。たしかに守備面ではいいけれど、カンポやファディガのように、素晴らしいボールキープから展開パスを繰り出せるというわけではありません。そしてそのことで、ファディガのゲームメイクイメージに引っ張られていたボルトンの攻めが、急に小さく減退していってしまうのですよ。無為なロングパスで簡単にはねかえされ、ウィガンに主導権を握られてしまうボルトン。

 そんなじり貧の展開のなかで、唯一、チャンスメイクの希望を感じさせてくれたのは、中田のサイドチェンジや、彼を起点にしたコンビネーションでした。そして後半になってからの中田英寿のプレーコンテンツは、後方とのコンビネーションをしっかりとイメージするボルヘッティ(メキシコ代表)がデイヴィーズに代わって登場したこともあって、輝きを増していくのです。彼にボールが集まりはじめたことで、そこから繰り出される「シンプルプレー」が、ボルトンの攻めイメージを引っ張りはじめる。シンプルなタイミングのサイドチェンジ・・シンプルなタイミングのショートパス交換からの仕掛けのタテパス(中田が中心になったコンビネーション)・・等々。

 いまの中田には、チームメイトからの信頼(チーム内存在感)アップが課題でしょう。そのためには、とにかく、もっともっとボール絡みの実効プレーを目立たせなければなりません。その意味で、後半に彼が魅せたパフォーマンスは、いまの「悪魔のサイクル」を断ち切るのに十分なパワーを秘めていたと確信したのは私だけではなかったに違いありません。

 まあ・・とはいっても、先制ゴールを入れた後には、徐々に勢いを取り戻したウィガンに押し込まれ、どんどんと中田の存在感も減退していってしまったけれどネ・・。それ以外にも、相手に追い込まれたことで出してしまった決定的なミスパスや、このところコンビネーションの起点になれていないことで感覚が鈍っている「起点パス」が決まらなかったり、はたまたボール奪取勝負アクションが決まらなかったり(これが、退場の後には特に目立つ!)と、ちょっと「感覚的な後退」も感じられる。とにかく、いまの中田にとっては、「自信と確信レベル」を取り戻すことこそがプライオリティーミッション。そのためには、(まあ私が言うまでもないだろうけれど・・)以前のように、攻守にわたって積極的にリスクにチャレンジしていくしかありません。もちろん、クレバーに編集されたビデオを駆使したイメージトレーニングも採り入れながらネ。

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 さて、ということで稲本潤一。今節は、右の前気味ハーフが基本タスク。私は、そのことを、「監督からより多くの自由を与えられた」と理解していました。より自由にディフェンスに参加し、より自由に最終勝負シーンへ絡んでいく・・。もちろんその背景に、稲本が備える高い守備意識に対する「信頼」があることは言うまでもありません。その期待通り、前半8分には、右サイドから素早いタイミングで「ファーポストスペース」へ決定的なアーリークロスを送り込むのですよ。それが、ピタリとキャンベルに合ったことで先制ゴールのアシストになる・・。期待がふくらんだモノです。

 でも、どうも「与えられた自由」を活用し切れていない。右サイドに張り付き過ぎで、攻守にわたって「無為な様子見状態」というシーンの方が目立ってしまうのです。もちろんボールがないとろこでの忠実マーキングや、チャンスを見計らった協力プレスを狙ってはいるけれど、どうもイメージが「攻め」に引っ張られていることで、攻守ともに中途半端になってしまっている・・。守備からゲームに入っていかなければ、決して良い攻撃を展開できるはずがないというのが大原則なのに・・。案の定、攻撃でも単なる「つなぎ役」というプレーに終始するようになってしまいます(後半には、中距離シュートトライやドリブル突破チャレンジといった見所は演出したけれどネ・・)。

 わたしは、決して稲本の攻撃センスを否定しているわけじゃありません。「後方」を主戦場にしているケースでは、たまに繰り出すオーバーラップの危険レベルが、どんどん高揚していますしね。それでも、最初から「前」に置かれた場合、稲本が脳裏に描写する攻守のイメージバランスが微妙に崩れ、結局は、両方ともに中途半端になってしまうと感じられたのです。

 やはり彼のメインポジションは「センターハーフ」だよね。それは、チーム戦術によって、ゲームメイカーとか、守備的ハーフとか中盤の底(重心)とか、前気味リベロとか「ボランチ」とか呼ばれるプレイヤー。それを基本タスクに、二人目、三人目のオーバーラッパーとして、後方からスルスルッと前のスペースを使うのですよ。この試合でも、彼がもっとも目立ったのはボール奪取勝負アクションだったし、仕掛けにしても、後方からのオーバーラップやバックパスを受けた中距離シュートが効果的だったからね。特にボール奪取勝負アクションで彼が魅せつづけたクレバーな力強さ、素晴らしいタイミングのアタッキングは、まさに本格感そのものでした。

 もちろん前気味ハーフのポジションを基調にしたとしても、豊富な運動量と高い守備意識をベースにすれば、攻守の目的を達成するプレーコンテンツの実効レベルを高揚させられないハズがありません。要は、与えられた自由を存分に謳歌するということ。それもまた、稲本にとって前向きの学習機会だということです。

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 ところで、湯浅は、諸般の事情でアメリカ戦を現地観戦できなくなりました。そのこともあるのですが、日本でテレビ中継された翌日の2月12日(日曜日)に、えのきど いちろうさんとサッカー放談をすることになりました。私にとっては、冒頭で述べた、サッカーを哲学することへのモティベーションをアップする(想像力と創造力アップのための!)行動の一環というわけです。「えのきど」さんが繰り出す、哲学的な鋭いツッコミという刺激を期待しつつ、私自身もとても楽しみにしています。

 このイベントは、代々木の「ラ・ボンボネーラ」で、2月12日の日曜日、午後1500時からです(1400時入場スタート)。入場は30名に限られるということで、予約が必要だそうです。タイトルは、『湯浅さん、アメリカ行かなかったんですか? 浦和はどげんですか? 今日もバイクですか? スペシャル!』だってサ・・あははっ。




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